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第3章
第57話:チーズケーキ
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俺はシャルマン公爵領でもスライム従魔クランの勧誘を行った。
王都から領都までの間も募集はしていたが、急な話しだったから応募者は1人もいなかった。
だが帰路には数人くらいは応募者があると思う。
領都で少し長居する心算だから、もしかしたら領都に来てくれるかもしれない。
そんな期待を抱きながら、公爵家の内政をチェックした。
父が決して無能な人間ではない事がよく分かった。
志向による偏りはあるが、財政バランスは堅実に黒字にしてあった。
軍事面に予算が多く向けられているのは、国境線の防衛を任されている以上当然の事で、王家に対する謀叛の準備だと言い掛かりをつける事はできない。
だがそれをいい事に、過剰な戦力を抱えて王家に圧力をかけて、俺やジャスワンをカチュア王太女殿下の婚約者に押し込んだのは悪質だと思う。
「リドワーン様、そんなに仕事に熱中されては嫌でございます。
仕事を放り出してくださいとは言いませんが、少しは私の相手もしてください」
「申し訳ありません、カチュア殿下、では休憩にしてお茶の時間としましょう」
「まあ、うれしいですわ、直ぐにお茶の用意をしてください」
カチュア王太女殿下が流れるようによどみなく側近に命令される。
俺は前世の記憶の影響で家臣に命令するのが苦手なのだが、生まれ持っての王族は嫌味なく命令が下せるので羨ましい。
別に他人を支配下に置いて喜ぶ趣味はないのだが、先祖代々侍従や侍女として仕えている家臣には、ちゃんと貴人の世話をさせてあげないと役目がなくなるのだ。
俺はともかく、子供の代にはまた役目を果たさなければいけないので、俺の代でも技術や能力が衰えないように彼らを使う義務があるのだ。
「今日はアレックス様の大好きなチーズケーキにしたのですよ」
カチュア王太女殿下がうれしそうに話しかけてくる。
この世界にもチーズケーキの原型のようなモノはあった。
単純に挽いた小麦とチーズと蜂蜜を混ぜ合わせて焼くものだ。
少し手の込んだことをする場合は、チーズを滑らかになるまで丁寧に潰すという、貧しく忙しい農民や職人にはできない手間が加わる。
貴族の中に、珍しく美味しい料理を作って自分の財力と権力を示そうという者が現われ、チーズと小麦粉と卵を混ぜ合わせて温かい炉床でゆっくり焼く、チーズスコーンのようなモノを料理人に考えさせた。
徐々に創作料理の競争が始まり、チーズと蜂蜜を混ぜ込んだ生地を層状にも重ね、焼いてから蜂蜜でコーティングするという、デザートに相応しいモノを考えだす料理人まで現れたそうだ。
本来なら徐々に進化するはずのチーズケーキの進化を、俺が一気に早めた。
チーズを細かく切ってから3時間牛乳に浸して柔らかくして、しかも歯応えが残る硬めのチーズを別に加えて、卵黄、蜂蜜、サフラン、塩を混ぜてチーズ生地を作る。
甘味を強くするには砂糖の方がいいのかもしれないが、大魔境で手に入れやすいのは蜂蜜や蟻蜜だったので、手に入る中で1番甘味と風味のいい蜂蜜を使う。
それをパイ生地で作った深さ5センチの器に入れて、焦げ付かないように注意深くゆっくりと焼き上げるのだ。
最初は俺がカチュア王太女殿下に作って差し上げたのだが、多くの侍女や侍従、護衛や料理人に2度としないでくれと哀願されてしまった。
しかたなく料理人に教えて作らせる事になったのだ。
「これは美味しそうだ、ありがとうございます、カチュア殿下」
「いえ、こちらこそありがとうございます、リドワーン様。
リドワーン様のお陰で毎日美味しい菓子が食べられます」
王都から領都までの間も募集はしていたが、急な話しだったから応募者は1人もいなかった。
だが帰路には数人くらいは応募者があると思う。
領都で少し長居する心算だから、もしかしたら領都に来てくれるかもしれない。
そんな期待を抱きながら、公爵家の内政をチェックした。
父が決して無能な人間ではない事がよく分かった。
志向による偏りはあるが、財政バランスは堅実に黒字にしてあった。
軍事面に予算が多く向けられているのは、国境線の防衛を任されている以上当然の事で、王家に対する謀叛の準備だと言い掛かりをつける事はできない。
だがそれをいい事に、過剰な戦力を抱えて王家に圧力をかけて、俺やジャスワンをカチュア王太女殿下の婚約者に押し込んだのは悪質だと思う。
「リドワーン様、そんなに仕事に熱中されては嫌でございます。
仕事を放り出してくださいとは言いませんが、少しは私の相手もしてください」
「申し訳ありません、カチュア殿下、では休憩にしてお茶の時間としましょう」
「まあ、うれしいですわ、直ぐにお茶の用意をしてください」
カチュア王太女殿下が流れるようによどみなく側近に命令される。
俺は前世の記憶の影響で家臣に命令するのが苦手なのだが、生まれ持っての王族は嫌味なく命令が下せるので羨ましい。
別に他人を支配下に置いて喜ぶ趣味はないのだが、先祖代々侍従や侍女として仕えている家臣には、ちゃんと貴人の世話をさせてあげないと役目がなくなるのだ。
俺はともかく、子供の代にはまた役目を果たさなければいけないので、俺の代でも技術や能力が衰えないように彼らを使う義務があるのだ。
「今日はアレックス様の大好きなチーズケーキにしたのですよ」
カチュア王太女殿下がうれしそうに話しかけてくる。
この世界にもチーズケーキの原型のようなモノはあった。
単純に挽いた小麦とチーズと蜂蜜を混ぜ合わせて焼くものだ。
少し手の込んだことをする場合は、チーズを滑らかになるまで丁寧に潰すという、貧しく忙しい農民や職人にはできない手間が加わる。
貴族の中に、珍しく美味しい料理を作って自分の財力と権力を示そうという者が現われ、チーズと小麦粉と卵を混ぜ合わせて温かい炉床でゆっくり焼く、チーズスコーンのようなモノを料理人に考えさせた。
徐々に創作料理の競争が始まり、チーズと蜂蜜を混ぜ込んだ生地を層状にも重ね、焼いてから蜂蜜でコーティングするという、デザートに相応しいモノを考えだす料理人まで現れたそうだ。
本来なら徐々に進化するはずのチーズケーキの進化を、俺が一気に早めた。
チーズを細かく切ってから3時間牛乳に浸して柔らかくして、しかも歯応えが残る硬めのチーズを別に加えて、卵黄、蜂蜜、サフラン、塩を混ぜてチーズ生地を作る。
甘味を強くするには砂糖の方がいいのかもしれないが、大魔境で手に入れやすいのは蜂蜜や蟻蜜だったので、手に入る中で1番甘味と風味のいい蜂蜜を使う。
それをパイ生地で作った深さ5センチの器に入れて、焦げ付かないように注意深くゆっくりと焼き上げるのだ。
最初は俺がカチュア王太女殿下に作って差し上げたのだが、多くの侍女や侍従、護衛や料理人に2度としないでくれと哀願されてしまった。
しかたなく料理人に教えて作らせる事になったのだ。
「これは美味しそうだ、ありがとうございます、カチュア殿下」
「いえ、こちらこそありがとうございます、リドワーン様。
リドワーン様のお陰で毎日美味しい菓子が食べられます」
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