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9話

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「王太子殿下!
 王太子殿下はおられますか?!
 偽聖女め!
 王太子殿下を解放しろ!」

 また王太子の手の者がやってきました。
 借家に戻って直ぐに、王宮に残っていた王太子の手先が借家にやってきたのです。
 王太子が戻らないのを心配したのでしょう。
 今はまだこの場所を国王に知られるわけにはいきません。
 しかたなく叩きのめして、先の人質と一緒に転がしておきました。
 厳重に縄で縛って借家に寝転がしていますから、何心配もありません。

 問題は三日間の間、人質にした王太子たちの世話をどうするかです。
 彼らをトイレに行かせないと、借家が大変なことになってしまいます。
 それに私も寝なければいけません。
 そこで仕方なく、封印していた魅了の力を使う事にしました。
 聖女の私には、人を惹きつける力があるのです。

 ですが、そんな力を使って、人を思うままに操りたくはないのです。
 普段は絶対に使わないようにしています。
 自分を律し、魅了の力が漏れないようにしています。
 それでも、どうしても人を惹きつけ、好意を持たれてしまいます。
 
 今回はその封を自ら破ります。
 父上たちが、国を捨て騎士の地位を捨てなければならなかった意趣返しの意味もありますから、王太子以下の騎士全員を魅了してやりました。
 彼らは私の奴隷も同然です。
 普段は自ら縄で縛られ、命じられるままトイレを済ませ、また自ら縄に縛られて借家の部屋で寝ているのです。

 父上と約束した三日を無事に過ごすことができました。
 もう王太子の手の者がやってくることはありません。
 王太子と近衛騎士たちに、三日後に戻ると書いた手紙を書かせたのです。
 魅了した一番弱そうな者に持たせ、王宮に戻したのです。
 
「イザベラ、国王陛下にこの手紙を届けてください。
 聖女からの嘆願書だと言って、直接お渡ししてください。
 これと同じものを、隣国五カ国にも送っています。
 握る潰す事はできないと、受付の者に伝えてください」

「承りました。
 聖女様付きの修道女として、必ず成し遂げてみせます」

 父上の弟子五人が、イザベラを教会から呼び出してくれました。
 イザベラの後をつけていた教会の手の者は、弟子たちが叩きのめしてくれました。
 腐れ大司祭にまで介入されてはたまりません。
 ダブリン公爵家のジェイコブまでやってきたら、収集がつかなくなるかもしれませんから、ここは慎重にやらなければいけないのです。

「聖女エリアナ殿はここにおられるのか?
 私は国王陛下の侍従長を務めるアイザックと申します。
 手紙は私も読ませていただきました。
 聖女のご希望を聞かせていただきたい」
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