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33話

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「オウエン殿。
 どうであろうか。
 金額は今少し交渉する事はできると思う。
 ノドン男爵家としても領地があった方が貴族としての格も上がる。
 悪い話ではないであろう?」

 私もその場にいるのですが、私はいない事になっています。
 今回はそれぞれの貴族家の家臣が下交渉しているという体裁です。
 ですが、人材不足の我が家では、領地の売買交渉など、オウエン以外に出来ることではありませんし、オウエンが私の意向を気にしないはずがありません。
 かくして私がいる場で私がいない体で交渉する事になったのです。

 ただ私が警戒しているのをシャノン公爵家も知っているので、オウエンと同じ六竜騎士で面識のある、タッカー男爵クロフォード卿に交渉を頼んだようです。
 そしてタッカー男爵は、寄り親のグラント公爵の意向を受けているのでしょう。
 グラント公爵家は王太子とアメリア嬢の件で大きく勢力を減じました。
 ボイル公爵家も没落しました。

 ここでシャノン公爵家が私に大領地を安価に売れば、ゴードン公爵家が完全に突出し、四大公爵家ではなくなってしまいます。
 出来るだけ小さな領地を、少しでも高く私に売る事で、ゴードン公爵家との差を少なくしようとしているのです。

 その気持ちは私にも分かります。
 分かりますが、忖度する気はありません。
 水に落ちた犬は叩けと言いますが、弱った貴族家から奪えるだけ奪うのが貴族家の常識ですから、できるだけ広い領地を安価に買い叩くのです。

「駄目だタッカー男爵。
 このような狭い領地を、こんな大金で買う必要はない。
 ノドン男爵家は別に領地を必要としていない。
 領地などなくても、安定した収入源がある」

 私の気持ちを察して、オウエンが強気に出てくれました。

「だがオウエン殿。
 王家が魔境の解放を中止したらどうする。
 王都近くの魔境が禁猟区にされたら、ノドン男爵家は収入源を断たれて、とても困るのではないか?
 力を落としたとは言っても、グラント公爵家とシャノン公爵家が力をあわせば、魔境を禁猟区にすることくらいはできるぞ。
 ここは両家の顔を立てて、相応の価格で領地を買うのが良策だと思うぞ」

 タッカー男爵は親切で言ってくれているのかもしれませんが、前提となる情報が古すぎますので、全く親切になっていませんし、的外れになっています。
 アーレンが薬の素材を大量に売ってくれるので、魔境が禁猟になっても全く困らず、安定して大量の薬を生産できます。
 アーレンがこうなる事を予測して、素材を販売する交渉をしてきたのなら、本当に油断ならない相手ですね。
 私達に恩を売って、何を手に入れようとしているのか。
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