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大納言対外政策
娘
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「父上、参りました」
「美幸か、入れ」
「失礼いたします」
「ここに座れ」
「駕籠など寄こしていったい何事でございますか」
「不測の事態が起こった」
「父上が不足の事態と申されるなど、いったい何事が起ったと申されるのですか」
「落ち着いて聞くのだぞ」
「はい」
「大納言様が、そなたを所望された」
「はぁ」
「大納言様がそなたを側室に所望されたのだ」
「父上は、その申し出を受けたと申されるのですか」
「最初は断ったのだ」
「でも、受けたのですね」
「大納言様のたっての御所望だ」
「嫌です」
「断れることではない」
「いえ、御断りします。父上や兄上の立身の犠牲になる心算はありません」
「儂や意知の為ではない」
「父上は私に、剣で身を立てるためだと言って、大奥入りを勧められたではありませんか」
「その通りだ」
「それがどうです。結局は立身の為に、娘を大納言様に差し出すのではありませんか」
「美幸。上様が所望されているのではない。大納言様が所望されているのだ」
「どこが違うのです」
「大納言様は、美幸の武芸に惚れられたのだ」
「はぁ」
「大納言様に大奥にいる美幸を知る機会などない。美幸が儂の娘だと言う事を知っている者など限られている」
「父上がお勧めしたわけだはないのですか」
「儂は美幸が望む、剣で身を立てられるように、別式女として大奥に入れたのだ」
「だったら何故です」
「今日の試合だ」
「あ」
「御前試合で美幸を見初められたのだ」
「しかし、私は、化粧一つしておりませんでした」
「だから申しているではないか。大納言様は美幸の武芸に惚れ込まれたのだ」
「しかし、ですが、そんな事は信じられません」
「信じるも何も、儂も美幸が自分の娘だと明かして、一度は御断りしたのだ」
「父上が御断りして下さったのに、それでも望まれたと言われるのですか」
「そうだ。上意とまでは申されなかったが、これまで何度側室を御勧めしても拒まれた大納言様が、美幸なら側室に迎えてもよいと申されたのだ」
「しかし、父上」
「なあ、美幸」
「はい」
「卑怯な言い方だとは十分理解しているが、敢えて言おう」
「何でございますか」
「美幸が剣で大納言様に見初められたことが世に知られれば、女剣士を目指す者も増えるし、女剣士の立場もよくなるのではないか」
「本当に卑怯ですね」
「だが、事実だ」
「私がどうしても嫌だと言ったら、どうされるのですか」
「儂も意知も、御役を辞するしかあるまい」
「私が断ったくらいで、御役目を辞する必要があるのですか」
「これまで儂は、上様の御血筋を絶えさせないためにも、将軍家と幕府を世継ぎ争いで混乱させないためにも、側室を迎えて子を設けて下さいと申してきた」
「・・・・・」
「それを、自分の娘を所望されたら断るなど、上様の御血筋を絶えさせようとしている。将軍家と幕府の世継ぎ争いを願っていると言う事になる」
「そんな」
「そんなではない」
「それが本当なら、上様と大納言様は狭量です」
「無礼者。狭量はそなただ」
「私が狭量だと言うのですか」
「そうじゃ。美幸が大納言様の側室になれば、女剣士の地位が上がるのは明々白々なのに、己一人に固執して、世の女剣客の事を考えておらん」
「そんな」
「それに、大納言様と美幸の間に御世継ぎが産まれたら、二代三代と尚武の将軍家が続くことになるのだぞ。それがこの国にとってどれほど代えがたい事か、美幸は分かっておるのか」
「・・・・・」
「オロシャがこの国を狙っておる時に、尚武の将軍家が望まれておるのだ」
「オロシャでございますか」
「今からこの国が置かれていることを話す。だが幕府の政の重大事を話したからには、大納言様の側室になってもらうぞ」
「私も武芸者です。幕府の大事と言われては、後には引けません。御話を聞いて、女剣士が大納言様の側室に必要と得心できるなら、大納言様の下に参りましょう」
「美幸か、入れ」
「失礼いたします」
「ここに座れ」
「駕籠など寄こしていったい何事でございますか」
「不測の事態が起こった」
「父上が不足の事態と申されるなど、いったい何事が起ったと申されるのですか」
「落ち着いて聞くのだぞ」
「はい」
「大納言様が、そなたを所望された」
「はぁ」
「大納言様がそなたを側室に所望されたのだ」
「父上は、その申し出を受けたと申されるのですか」
「最初は断ったのだ」
「でも、受けたのですね」
「大納言様のたっての御所望だ」
「嫌です」
「断れることではない」
「いえ、御断りします。父上や兄上の立身の犠牲になる心算はありません」
「儂や意知の為ではない」
「父上は私に、剣で身を立てるためだと言って、大奥入りを勧められたではありませんか」
「その通りだ」
「それがどうです。結局は立身の為に、娘を大納言様に差し出すのではありませんか」
「美幸。上様が所望されているのではない。大納言様が所望されているのだ」
「どこが違うのです」
「大納言様は、美幸の武芸に惚れられたのだ」
「はぁ」
「大納言様に大奥にいる美幸を知る機会などない。美幸が儂の娘だと言う事を知っている者など限られている」
「父上がお勧めしたわけだはないのですか」
「儂は美幸が望む、剣で身を立てられるように、別式女として大奥に入れたのだ」
「だったら何故です」
「今日の試合だ」
「あ」
「御前試合で美幸を見初められたのだ」
「しかし、私は、化粧一つしておりませんでした」
「だから申しているではないか。大納言様は美幸の武芸に惚れ込まれたのだ」
「しかし、ですが、そんな事は信じられません」
「信じるも何も、儂も美幸が自分の娘だと明かして、一度は御断りしたのだ」
「父上が御断りして下さったのに、それでも望まれたと言われるのですか」
「そうだ。上意とまでは申されなかったが、これまで何度側室を御勧めしても拒まれた大納言様が、美幸なら側室に迎えてもよいと申されたのだ」
「しかし、父上」
「なあ、美幸」
「はい」
「卑怯な言い方だとは十分理解しているが、敢えて言おう」
「何でございますか」
「美幸が剣で大納言様に見初められたことが世に知られれば、女剣士を目指す者も増えるし、女剣士の立場もよくなるのではないか」
「本当に卑怯ですね」
「だが、事実だ」
「私がどうしても嫌だと言ったら、どうされるのですか」
「儂も意知も、御役を辞するしかあるまい」
「私が断ったくらいで、御役目を辞する必要があるのですか」
「これまで儂は、上様の御血筋を絶えさせないためにも、将軍家と幕府を世継ぎ争いで混乱させないためにも、側室を迎えて子を設けて下さいと申してきた」
「・・・・・」
「それを、自分の娘を所望されたら断るなど、上様の御血筋を絶えさせようとしている。将軍家と幕府の世継ぎ争いを願っていると言う事になる」
「そんな」
「そんなではない」
「それが本当なら、上様と大納言様は狭量です」
「無礼者。狭量はそなただ」
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「そんな」
「それに、大納言様と美幸の間に御世継ぎが産まれたら、二代三代と尚武の将軍家が続くことになるのだぞ。それがこの国にとってどれほど代えがたい事か、美幸は分かっておるのか」
「・・・・・」
「オロシャがこの国を狙っておる時に、尚武の将軍家が望まれておるのだ」
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「今からこの国が置かれていることを話す。だが幕府の政の重大事を話したからには、大納言様の側室になってもらうぞ」
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