10 / 11
第9話王太子フェリクス視点
しおりを挟む
ヴェネッツェ王国は滅びかけている。
いや、滅んだと言うべきだろう。
生き残っているのは、奈落ダンジョンに逃げ込んだ者だけで、地上には誰一人生きている人間がいない、地獄のような状況なのだから。
全てはハワーデン公爵家のせいだと言えるほど恥知らずならば、俺も罪悪感を感じなくてすんだのだろう。
確かに俺は愚か者だ。
頭が悪い事は、今回の件で嫌というほど思い知った。
権力を持つバカが自分を賢いと思い込んだら、国が滅ぶという事を、国を滅ぼしてから初めて実感した。
「殿下!
第四層で魔獣が暴れまわっております。
援軍をお願い致します」
「近衛騎士団ついてこい」
近衛騎士団など名ばかりだ。
今では奈落ダンジョンに入った当初の百分の一ていどしかいない。
最初から近衛騎士だった者は片手以下の四人しか残っていない。
他の者は、生き残った一般騎士団や冒険者から編入した者達だ。
装備は死んていった近衛騎士の物を流用しているが、傷や汚れでボロボロだ。
「聖女様だ!
聖女様が奇跡を施してくださったぞ!」
エイル神の聖女ローザ。
俺の愚かさと、貴族どもの愚劣さによって殺されかけて、奈落ダンジョンに捨てられた女。
彼女が不幸な民に奇跡を施すたびに、生き残った民達の怨嗟の視線が、この国を地獄に変えた俺や貴族達に突き刺さる。
心優しい父王陛下は、その視線に耐えかねて正気を手放してしまわれた。
俺と違って気高い心を残していた貴族士族の勇士は、誇りを取り戻すために無理に無理を重ねて、最前線で民を護って死んでいった。
愚劣な貴族士族が、ダンジョンの中でさえ、民を犠牲にして豊かな生活を続けようとしたが、白銀の巨大な狼に連れ攫われた。
今頃どうしているのか分からないが、楽には死ねなかっただろう。
もしかしたら、今も拷問され続けているかもしれない。
あの時俺に向けられた狼の視線は、そう思わせるだけの軽蔑が含まれていた。
虫けらを見るような、汚物を見るような視線だった。
「おおお、どうか、どうか、どうか聖女様。
子供達をお救いください。
私の命を捧げます。
ですから、子供達だけはお助け下さい」
光のない全くの暗闇で、斃した魔獣の肉を生で食べるしかない、この生き地獄の生活で、民達の間に広がった救いの噂。
罪のない子供達だけは、聖女様が助けてくださるという噂。
最初は、救いの全くない絶望の中で、心の弱い庶民の間で広がった、根も葉もない噂がだと思っていた。
だが、実際に子供達だけが消えていなくなっている。
父母のいる者は、父母も一緒に消えてはいるのだが、彼らが救われたのか魔獣に喰われたのかは誰にも分からない。
それは、子供達も同じだ。
聖女に助けられたのか、魔獣に喰われたのか、真実は誰にも分からない。
ただ、民は聖女が救ってくださると信じるほかに、この地獄の生活に耐える手段がないのだろう。
だが、それは俺も同じだ。
民を救うという言い訳がなければ、とうに死んでいただろう。
己の愚かさを恥じて、死ぬ以外の道はなかっただろう。
いや、滅んだと言うべきだろう。
生き残っているのは、奈落ダンジョンに逃げ込んだ者だけで、地上には誰一人生きている人間がいない、地獄のような状況なのだから。
全てはハワーデン公爵家のせいだと言えるほど恥知らずならば、俺も罪悪感を感じなくてすんだのだろう。
確かに俺は愚か者だ。
頭が悪い事は、今回の件で嫌というほど思い知った。
権力を持つバカが自分を賢いと思い込んだら、国が滅ぶという事を、国を滅ぼしてから初めて実感した。
「殿下!
第四層で魔獣が暴れまわっております。
援軍をお願い致します」
「近衛騎士団ついてこい」
近衛騎士団など名ばかりだ。
今では奈落ダンジョンに入った当初の百分の一ていどしかいない。
最初から近衛騎士だった者は片手以下の四人しか残っていない。
他の者は、生き残った一般騎士団や冒険者から編入した者達だ。
装備は死んていった近衛騎士の物を流用しているが、傷や汚れでボロボロだ。
「聖女様だ!
聖女様が奇跡を施してくださったぞ!」
エイル神の聖女ローザ。
俺の愚かさと、貴族どもの愚劣さによって殺されかけて、奈落ダンジョンに捨てられた女。
彼女が不幸な民に奇跡を施すたびに、生き残った民達の怨嗟の視線が、この国を地獄に変えた俺や貴族達に突き刺さる。
心優しい父王陛下は、その視線に耐えかねて正気を手放してしまわれた。
俺と違って気高い心を残していた貴族士族の勇士は、誇りを取り戻すために無理に無理を重ねて、最前線で民を護って死んでいった。
愚劣な貴族士族が、ダンジョンの中でさえ、民を犠牲にして豊かな生活を続けようとしたが、白銀の巨大な狼に連れ攫われた。
今頃どうしているのか分からないが、楽には死ねなかっただろう。
もしかしたら、今も拷問され続けているかもしれない。
あの時俺に向けられた狼の視線は、そう思わせるだけの軽蔑が含まれていた。
虫けらを見るような、汚物を見るような視線だった。
「おおお、どうか、どうか、どうか聖女様。
子供達をお救いください。
私の命を捧げます。
ですから、子供達だけはお助け下さい」
光のない全くの暗闇で、斃した魔獣の肉を生で食べるしかない、この生き地獄の生活で、民達の間に広がった救いの噂。
罪のない子供達だけは、聖女様が助けてくださるという噂。
最初は、救いの全くない絶望の中で、心の弱い庶民の間で広がった、根も葉もない噂がだと思っていた。
だが、実際に子供達だけが消えていなくなっている。
父母のいる者は、父母も一緒に消えてはいるのだが、彼らが救われたのか魔獣に喰われたのかは誰にも分からない。
それは、子供達も同じだ。
聖女に助けられたのか、魔獣に喰われたのか、真実は誰にも分からない。
ただ、民は聖女が救ってくださると信じるほかに、この地獄の生活に耐える手段がないのだろう。
だが、それは俺も同じだ。
民を救うという言い訳がなければ、とうに死んでいただろう。
己の愚かさを恥じて、死ぬ以外の道はなかっただろう。
1
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
転生したら没落寸前だったので、お弁当屋さんになろうと思います。
皐月めい
恋愛
「婚約を破棄してほしい」
そう言われた瞬間、前世の記憶を思い出した私。
前世社畜だった私は伯爵令嬢に生まれ変わったラッキーガール……と思いきや。
父が亡くなり、母は倒れて、我が伯爵家にはとんでもない借金が残され、一年後には爵位も取り消し、七年婚約していた婚約者から婚約まで破棄された。最悪だよ。
使用人は解雇し、平民になる準備を始めようとしたのだけれど。
え、塊肉を切るところから料理が始まるとか正気ですか……?
その上デリバリーとテイクアウトがない世界で生きていける自信がないんだけど……この国のズボラはどうしてるの……?
あ、お弁当屋さんを作ればいいんだ!
能天気な転生令嬢が、自分の騎士とお弁当屋さんを立ち上げて幸せになるまでの話です。
料理スキルしか取り柄がない令嬢ですが、冷徹騎士団長の胃袋を掴んだら国一番の寵姫になってしまいました
さら
恋愛
婚約破棄された伯爵令嬢クラリッサ。
裁縫も舞踏も楽器も壊滅的、唯一の取り柄は――料理だけ。
「貴族の娘が台所仕事など恥だ」と笑われ、家からも見放され、辺境の冷徹騎士団長のもとへ“料理番”として嫁入りすることに。
恐れられる団長レオンハルトは無表情で冷徹。けれど、彼の皿はいつも空っぽで……?
温かいシチューで兵の心を癒し、香草の香りで団長の孤独を溶かす。気づけば彼の灰色の瞳は、わたしだけを見つめていた。
――料理しかできないはずの私が、いつの間にか「国一番の寵姫」と呼ばれている!?
胃袋から始まるシンデレラストーリー、ここに開幕!
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
王宮メイドは今日も夫を「観察」する
kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」
王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。
ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。
だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……?
※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる