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第一章
第5話:快復
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ベッカー宮中伯と近衛騎士隊長は、下劣下等なロイドを射殺すつもりでいた。
ベッカー宮中伯がロイドの右目を射抜き、近衛騎士隊長がロイドの左目を射抜く約束が、二人の間でできていたのだが、諦めるしかなかった。
リカルド王太子殿下が馬上で気を失ってしまったのだ。
腐れ外道に天誅を下す事はいつでもできるが、リカルドの命が失われてしまっては取り返しがつかないので、急いで介抱して城門前から下がった。
「アッハッハッハ、臆病者め、戦わずに逃げ帰るか!」
ロイドが楼閣から撤退するリカルド達を大声で嘲笑った。
「いいかよく聞け、腐れ外道の恩知らずロイド、尻軽の雌犬アセリカ。
これでフィフス王家とフィエン家は仇敵となった!
我が命ある限り、地の果てまで追いかけて、フィエン家につながる者は皆殺しにしてくれる。
その事、ベッカー宮中伯バーツはこの場で神に誓うぞ!」
ベッカー宮中伯バーツに、リカルド配下の全騎士が賛同の歓声を上げた。
そして次々と同じように神に復仇を誓った。
最初は勇者と聖女の結婚に喜び、更に神に祝福された聖なる子が、聖女に宿っている事に大喜びしていたフィエン独立領の民だったが、徐々に不安になっていた。
勇者・聖女・聖なる子を殺すと神に誓っている者達に、いっこうに天罰が下る様子がないのだ。
「全軍撤退、この地には粟一粒も残すな、刈り取れる麦は全て刈り取れ。
勇者達が出てきたら構わず火を放て!」
昏倒したリカルド王太子が目覚めないので、全軍の指揮をベッカー宮中伯バーツ卿が執っていたが、二人の騎士団長は素直にその指揮に従っていた。
それだけの実績を、ベッカー宮中伯は魔王軍との戦いで示していた。
その事が、リカルド王太子なら絶対にやらせなかった、悪辣な戦術を全騎士が認めることにつながった。
フィエン領の食糧を奪ったり焼き払ったりするような、民が困る戦術は、リカルド王太子が正気だったら絶対にやらせなかった。
リカルド王太子軍は、リカルドがフィエンの民のために用意した、膨大な支援物資と共に王都に戻っていった。
昏倒したまま意識が戻らないリカルド王太子の事を、全騎士が心から案じながら。
「心配をかけたね、ありがとう、ジェーン」
十日間意識が戻らなかったリカルド王太子が、目覚めて最初に言ったのは、王都に戻ってから三日三晩、ずっと不眠不休で看病してくれていた、妹のジェーン王女に対する礼だった。
そしてそう口にしたリカルドの顔には、苦笑が浮かんでいた。
だが、その眼には絶望も諦観もなかった。
むしろ煉獄の鎖から解き放たれたような、喜びの気配を浮かべていた。
ベッカー宮中伯がロイドの右目を射抜き、近衛騎士隊長がロイドの左目を射抜く約束が、二人の間でできていたのだが、諦めるしかなかった。
リカルド王太子殿下が馬上で気を失ってしまったのだ。
腐れ外道に天誅を下す事はいつでもできるが、リカルドの命が失われてしまっては取り返しがつかないので、急いで介抱して城門前から下がった。
「アッハッハッハ、臆病者め、戦わずに逃げ帰るか!」
ロイドが楼閣から撤退するリカルド達を大声で嘲笑った。
「いいかよく聞け、腐れ外道の恩知らずロイド、尻軽の雌犬アセリカ。
これでフィフス王家とフィエン家は仇敵となった!
我が命ある限り、地の果てまで追いかけて、フィエン家につながる者は皆殺しにしてくれる。
その事、ベッカー宮中伯バーツはこの場で神に誓うぞ!」
ベッカー宮中伯バーツに、リカルド配下の全騎士が賛同の歓声を上げた。
そして次々と同じように神に復仇を誓った。
最初は勇者と聖女の結婚に喜び、更に神に祝福された聖なる子が、聖女に宿っている事に大喜びしていたフィエン独立領の民だったが、徐々に不安になっていた。
勇者・聖女・聖なる子を殺すと神に誓っている者達に、いっこうに天罰が下る様子がないのだ。
「全軍撤退、この地には粟一粒も残すな、刈り取れる麦は全て刈り取れ。
勇者達が出てきたら構わず火を放て!」
昏倒したリカルド王太子が目覚めないので、全軍の指揮をベッカー宮中伯バーツ卿が執っていたが、二人の騎士団長は素直にその指揮に従っていた。
それだけの実績を、ベッカー宮中伯は魔王軍との戦いで示していた。
その事が、リカルド王太子なら絶対にやらせなかった、悪辣な戦術を全騎士が認めることにつながった。
フィエン領の食糧を奪ったり焼き払ったりするような、民が困る戦術は、リカルド王太子が正気だったら絶対にやらせなかった。
リカルド王太子軍は、リカルドがフィエンの民のために用意した、膨大な支援物資と共に王都に戻っていった。
昏倒したまま意識が戻らないリカルド王太子の事を、全騎士が心から案じながら。
「心配をかけたね、ありがとう、ジェーン」
十日間意識が戻らなかったリカルド王太子が、目覚めて最初に言ったのは、王都に戻ってから三日三晩、ずっと不眠不休で看病してくれていた、妹のジェーン王女に対する礼だった。
そしてそう口にしたリカルドの顔には、苦笑が浮かんでいた。
だが、その眼には絶望も諦観もなかった。
むしろ煉獄の鎖から解き放たれたような、喜びの気配を浮かべていた。
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