結婚式の日に婚約者を勇者に奪われた間抜けな王太子です。

克全

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第一章

第4話:裏切り

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 王太子リカルドは、胸が張り裂けそうな想いで城門前に騎馬を進めていた。
 氷の手で心臓を鷲掴みされているような、鋭い痛みを常時感じていた。
 激しく打ち鳴らされるドクドクという鼓動が、自分の耳をうつ。
 嫌な脂汗が全身を流れているのに、身体中が冷えてしかたがなかった。
 馬から落ちそうなほど、全身の景色がグルグルと回っている。
 そんな王太子リカルドの左側を、無表情のベッカー宮中伯が馬を進める。
 右側には王太子近衛騎士隊の隊長が同じように馬を進めている。

「我が婚約者アセリカ嬢に問う、私との婚約を解消するというのは本当か?
 救国勇者ロイドに問う、アセリカ嬢と結婚するというのは本当か?
 二人に問う、アセリカ嬢がロイドの子供を宿しているのは本当か?
 更に二人に問う、何故私を裏切ったのだ、何時から裏切っていたのだ!?」

 王太子リカルドの魂の叫びだった。
 心から信じていた二人に裏切られるとは、予想もしていなかった。
 その衝撃はあまりにも大きかったが、まだ心からは信じていなかった。
 どうしても先触れの騎士の言葉を信じられなかった。
 直接アセリカ嬢とロイドから話を聞くまでは、信じられなかった。
 いや、信じたくなかったというのが本当だろう。
 永劫とも思える時間が過ぎて、城門上の楼閣に二人が現れた。

「そうだ、全て本当の事だ、臆病者の王太子よ。
 聖女アセリカは、一度も前線に出ない臆病者の王太子にはもったいない。
 聖女アセリカに相応しいのは、救国の勇者、このロイド様だけだ。
 ノコノコと恥をかきにここまで来たか、愚か者が!」

 最初から青かったリカルドの顔が、更に青くなった。
 きつく握りしめられた拳からは、爪が喰い込んで血が流れている。
 左右のベッカー宮中伯と近衛騎士隊隊長は、怒りのあまりギリギリと音がするほど奥歯を噛み締めていたが、殿下が動かられないあいだはと、我慢を重ねていた。
 だが、殿下が命じるのなら、死を賭して戦う覚悟だった。
 相手が救国勇者であろうと、八つ裂きにしてやる心算だった。

「これは運命なのでございます、リカルド王太子殿下。
 救国の勇者様と聖女の私が結ばれることで、この世界は救われるのです。
 私達は分かち難いほど愛し合っているのです。
 その証拠に、私は神が祝福された子供を授かったのです。
 私はリカルド殿下の事を愛した事など一度もありません。
 政略による婚約をしただけです、どうかもう私の事はお忘れください」

 勇者ロイドの裏切りと罵りには何とか耐えたリカルドだったが、アセリカ嬢の裏切りと決別宣言には耐えられなかった。 
 過去に何か過ちがあったのだとしても、許そう、許せると思っていたリカルドだったが、今まで一度も愛していなかったと言い切られ、気力が尽きた。
 リカルドは馬上で失神してしまった。
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