柳生友矩と徳川家光

克全

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第二章:出世

第30話:御恩と奉公

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1626年4月9日:江戸城中奥:柳生左門友矩13歳

「又右衛門、蜂須賀と細川の言葉に嘘偽りはないのだな?」

「はい、嘘偽りなど何一つございません。
 その証拠に、我が流派の弟子を剣術指南役に迎え入れるそうです。
 剣術指南役を領内に迎え入れるという事は、上様に何一つ隠し立てしないと誓っているのでございます。
 何かあれば上様の下知に従う覚悟でございましょう」

「父上の命令よりも余の命令に従うというのだな?!」

「天下の将軍は上様でございます。
 大御所様は隠居された身でございます。
 三百諸侯に下知されるのは上様でございます」

「建前はよい、本当に戦になった時の事を聞いているのだ!」

「上様から総目付の役目を頂いたのです。
 まず手始めに蜂須賀家と細川家を上様の味方に取り込みました。
 これからも同じように、大御所様ではなく上様に従い者を増やして見せます」

「分かった、ならばこの度の件で連座に問うのは止めよう。
 だが能見松平家と小笠原家は別だ。
 父上に対する忠誠心の強い能見松平家と小笠原家は皆殺しにする!」

「大御所様から許すようにお言葉があると思いますが?」

「関係ない。
 又右衛門が言ったではないか。
 将軍は余である。
 隠居した父上の指図は受けない。
 母上の尻に敷かれて頭の上がらない父上の言う事など聞けるか!
 全ての元凶は母上なのだぞ!」

 上様が激怒されるのは当然の事だ。
 事ここに至っても、大御台所様は自分の罪を認められない。
 松平重忠達が自分の名を騙って勝手にやった事だと言い張っている。

 見え透いた嘘である事は明らかだ。
 それなのに、大御所様はその言葉を信じると断言してしまった。
 この状態で大御台所様を処分するのは難しい。

 強引に兵を送る事はできるが、その時は大御所様も兵を動かされるだろう。
 今はまだ上様の命よりも大御所様の命を聞く大名旗本の方が多い。
 強硬手段に出るのは、もっと力をつけてからだ。

「分かっております。
 上様が手出しできないのをいいことに、これからも策謀を続けるでしょう。
 ですがそれは、駿河大納言様がおられるからです。
 駿河大納言様がおられなくなれば、上様を殺してもどうにもなりません。
 御三家の誰かに将軍位が奪われるだけです」

「ふむ、忠長を殺すのか。
 余がやったと分かっては面倒だぞ。
 誰にも知られることなく、密かに殺すことができるのか?」

「必ずやれると申し上げる事はできません。
 駿河大納言様はもちろん、大御所様も大御台所様も警戒されているでしょう。
 それでも、諦めずに狙い続けるしかありません」

「ふむ、狙い続けるしかないか、いい言葉だ。
 大切な人を狙われる恐怖と怒りを、父上と母上にも味合わせねばならない。
 分かった、失敗しても構わないから、余がやったと露見しない事を最優先で忠長を狙い続けろ」

「はっ、夜も眠れなくなるくらい襲い続けてご覧に入れます。
 それと、他にもお認めいただきたい策があるのです」

「ほう、他にも策があると申すのか?」

「はい、上様を苦しめ続ける大御台所様を、逆に苦しめる策でございます。
 大御所様も苦しむ事になりますが、自業自得でございましょう」

「母上が苦しんで父上が自業自得、どういう策なのだ?」

「大御所様の隠し子を表に出すのでございます。
 大御台所様は怒り狂って大御所様を責められる事でしょう。
 上様がその弟君をお認めになれば、その怒りと苦しみは更に高まります」

「あの父上が母上に内緒で子供を作っていただと?」

「はい、上様に総目付の役目を頂き、色々と調べているうちに出て参りました。
 大御所様が隠し子を押し付けたせいで、保科肥後守殿は養子としていた弟の正貞殿を廃嫡にしております。
 このような非道を大御所様は行っておられたのです。
 それを正す事こそ、大名旗本達の忠義を得る一番の方法でございます」

「なるほど、又右衛門も申す事はもっともだ。
 父上から実権を奪うには大名旗本も支持が必要だな。
 その方法として父上と母上の汚点を天下に晒すのか。
 実に愉快じゃ、よくこの短期間にそのような秘密を探り当てた、でかしたぞ」
 早速準備に取り掛かれ!」

「はい、直ぐに。
 ただもう一つ御許可頂きたい策がございます」

「なんだ、もったいぶらずに話せ」

「実は……」
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