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第一章
第8話:忠誠心
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ロマンシア王国暦215年2月4日王都ガッロ公爵邸
「代理、公爵代理、国王陛下からの使者が参っておられます」
公爵の執務室で政務を執っていたロレンツォの所に、王都家令が普段の冷静を装った表情が想像もできない、焦った表情で飛び込んで来た。
「普段下の者に五月蠅く礼儀作法を注意しているくせに、公爵代理の俺に対してそんな態度を取るなど、恥を知れ恥を!」
「申し訳ございません、この通りお詫びさせていただきます」
ロレンツォは今回初めて殺気を放った。
これまでは力を隠して政務に強いだけの男を演じてきた。
武力は新規召し抱えした昔馴染みの元冒険者に任せてきた。
だがそれでは駄目だと思い知った。
ある程度の恐怖を与えないと、譜代意識を持つ家臣使用人は舐めて来る。
だから相手が大小便を漏らさない程度の殺気を向ける事にしたのだ。
歴戦の冒険者としての実力を持つロレンツォは、その気になれば相手をショック死させられだけの殺気を放つことができる。
その殺気を時と場合と相手によって使い分けるようになったので、ロレンツォを名前で呼ぶ家臣使用人は1人もいなくなっていた。
「しかしながら代理、国王陛下の使者が来られているのですぞ?」
「もう昨日侍従長を通じて宣戦布告をしてある。
今更使者など送られても会う気はない」
「しかしながら代理、王家に戦争を仕掛けるなど……」
「家令はお嬢様を自殺に追い込まれても王家に尻尾を振ると言うのか?
それほど王家が好きなら、今直ぐ出て行け。
俺はお嬢様の名誉を守るために最後まで戦う。
お嬢様よりも王家を選ぶ者は、家令が連れて出て行け」
「代理、私は公爵家に忠誠を誓っております。
ただ、分家から本家に喧嘩を売るのは如何なものかと考えているだけで……」
「そうか、だったら今直ぐ出ていくがいい。
もう喧嘩を売った後だから、戦争になるのは間違いない。
使者も戦争に関する取り決めにやってきたのだろう。
巻き添えになりたくないのなら、さっさと公爵家を辞めて出て行くんだな」
「そのような事を申されても、先祖代々公爵家に仕えてきたのです。
家族も公爵領にいますし……」
「それがどうした、俺の知った事ではない。
家族を引き連れて他の四大公爵家のどこかに行けばいいだろう。
四の五の言い訳じみた事を言っていないで、さっさと出て行かないと、王家が攻め込んできた時に死ぬことになるぞ」
「私は死ぬ事を恐れているのではなく、王家と公爵家が争う事に心を痛めているだけで……」
王都家令どれほど言い訳しようと、無意識に公爵家の前に王家を口にしている事で、その忠誠心がどちらに向いているか明らかだった。
「……私は王家と公爵家の融和の為に働かせていただきます」
ロレンツォから軽く殺気を向けられた王都家令は、逃げ出すように執務室を出ていったが、彼について多くの家臣使用人が裏口から逃げ出した。
代々王都詰めをしていた家臣使用人は、特に忠誠心が低かった。
「ロレンツォ公爵代理、王家の侍従がどうしても国王陛下の親書を手渡したいと言って、何を言っても帰ろうとしません」
不忠者達がこそこそと公爵邸を逃げ出したので、残っているのは譜代の家臣使用人の中でも忠誠心の強い者達だけだった。
他に残っているのは、今回報告に来たような、これまでは新参者と陰口を叩かれていた、ロレンツォが新規に召し抱えた者達だった。
「殺気を放って追い返さなかったのか?」
「殺気は放ったのですが、怯えてガタガタと震えながらもその場にとどまり、使者の役目を全うしようと漢気を見せています」
ロレンツォに取立てられた新規召し抱えの家臣は、冒険者上がりの武官で、血筋で取立てられた実力の伴わない騎士や徒士とは比べ物にならない。
その気になれば相手を動けなくするくらいの殺気は放てる。
「そこまで覚悟を決めた使者を追い返しては、お嬢様の名誉を傷つけてしまうかもしれないな」
ロレンツォが最優先に考えるのは常にマリアお嬢様の事だった。
お嬢様が安心して目覚められる状態にする事は当然だが、それに加えてお嬢様の名声を高める事も考えていた。
「ロレンツォ公爵代理閣下、こちらの侍従長が許し難い無礼を働いたにもかかわらず、面会を許可してくださった事、心からお礼申し上げます」
ロレンツォの側近に案内されてきた王家の使者は、とても礼儀正しかった。
昨日の侍従長の態度とは違い、ロレンツォを公爵代理として認める最大限の敬意を払い、王家の使者として役目を全うしようとした。
「こちらこそ過分な挨拶を賜り、感謝いたします」
ロレンツォの立場はとても微妙だった。
生れは公爵家でも末端に近い傍流だが、今では養子として迎えられている。
王侯貴族の作法で言えば、侯爵待遇が相当だろう。
だが、現公爵が領地に居て、実質公爵としての役目を果たしているから、公爵として遇する事も間違いとは言い切れない。
使者はそこを利用して、公爵に対する礼を尽くし、国王陛下から託された役目を全うしようとしていた。
「ロレンツォ公爵代理閣下、陛下はこの度の事件をとても憂慮されておられます。
国王の立場から、多くの者の前で頭を下げる訳にはいかないですが、自身の言動が間違っていた事も認められておられます。
他の者の前では公式に謝れませんが、公式なお見舞いする形で公爵邸を訪問され、皆にマリア嬢に詫びたと思わせるとの事でございます。
その証として、昨日無礼を働いた侍従長を罷免し、王国を追放する決定をなされました」
「国王陛下の立場が色々と難しい事は理解しています。
なかなか公式に謝罪する事ができない事も理解しましょう。
ですが、マリアお嬢様がまた害される可能性が残る事だけは許せません。
私も軽い気持ちで王家との開戦を口にした訳ではありません。
マリアお嬢様の安全が確実に保証されない限り、歴史に謀叛人の悪名を残し、この手を血で染める事になっても、断じて王家を滅ぼします。
その覚悟を陛下にお伝えください」
「代理、公爵代理、国王陛下からの使者が参っておられます」
公爵の執務室で政務を執っていたロレンツォの所に、王都家令が普段の冷静を装った表情が想像もできない、焦った表情で飛び込んで来た。
「普段下の者に五月蠅く礼儀作法を注意しているくせに、公爵代理の俺に対してそんな態度を取るなど、恥を知れ恥を!」
「申し訳ございません、この通りお詫びさせていただきます」
ロレンツォは今回初めて殺気を放った。
これまでは力を隠して政務に強いだけの男を演じてきた。
武力は新規召し抱えした昔馴染みの元冒険者に任せてきた。
だがそれでは駄目だと思い知った。
ある程度の恐怖を与えないと、譜代意識を持つ家臣使用人は舐めて来る。
だから相手が大小便を漏らさない程度の殺気を向ける事にしたのだ。
歴戦の冒険者としての実力を持つロレンツォは、その気になれば相手をショック死させられだけの殺気を放つことができる。
その殺気を時と場合と相手によって使い分けるようになったので、ロレンツォを名前で呼ぶ家臣使用人は1人もいなくなっていた。
「しかしながら代理、国王陛下の使者が来られているのですぞ?」
「もう昨日侍従長を通じて宣戦布告をしてある。
今更使者など送られても会う気はない」
「しかしながら代理、王家に戦争を仕掛けるなど……」
「家令はお嬢様を自殺に追い込まれても王家に尻尾を振ると言うのか?
それほど王家が好きなら、今直ぐ出て行け。
俺はお嬢様の名誉を守るために最後まで戦う。
お嬢様よりも王家を選ぶ者は、家令が連れて出て行け」
「代理、私は公爵家に忠誠を誓っております。
ただ、分家から本家に喧嘩を売るのは如何なものかと考えているだけで……」
「そうか、だったら今直ぐ出ていくがいい。
もう喧嘩を売った後だから、戦争になるのは間違いない。
使者も戦争に関する取り決めにやってきたのだろう。
巻き添えになりたくないのなら、さっさと公爵家を辞めて出て行くんだな」
「そのような事を申されても、先祖代々公爵家に仕えてきたのです。
家族も公爵領にいますし……」
「それがどうした、俺の知った事ではない。
家族を引き連れて他の四大公爵家のどこかに行けばいいだろう。
四の五の言い訳じみた事を言っていないで、さっさと出て行かないと、王家が攻め込んできた時に死ぬことになるぞ」
「私は死ぬ事を恐れているのではなく、王家と公爵家が争う事に心を痛めているだけで……」
王都家令どれほど言い訳しようと、無意識に公爵家の前に王家を口にしている事で、その忠誠心がどちらに向いているか明らかだった。
「……私は王家と公爵家の融和の為に働かせていただきます」
ロレンツォから軽く殺気を向けられた王都家令は、逃げ出すように執務室を出ていったが、彼について多くの家臣使用人が裏口から逃げ出した。
代々王都詰めをしていた家臣使用人は、特に忠誠心が低かった。
「ロレンツォ公爵代理、王家の侍従がどうしても国王陛下の親書を手渡したいと言って、何を言っても帰ろうとしません」
不忠者達がこそこそと公爵邸を逃げ出したので、残っているのは譜代の家臣使用人の中でも忠誠心の強い者達だけだった。
他に残っているのは、今回報告に来たような、これまでは新参者と陰口を叩かれていた、ロレンツォが新規に召し抱えた者達だった。
「殺気を放って追い返さなかったのか?」
「殺気は放ったのですが、怯えてガタガタと震えながらもその場にとどまり、使者の役目を全うしようと漢気を見せています」
ロレンツォに取立てられた新規召し抱えの家臣は、冒険者上がりの武官で、血筋で取立てられた実力の伴わない騎士や徒士とは比べ物にならない。
その気になれば相手を動けなくするくらいの殺気は放てる。
「そこまで覚悟を決めた使者を追い返しては、お嬢様の名誉を傷つけてしまうかもしれないな」
ロレンツォが最優先に考えるのは常にマリアお嬢様の事だった。
お嬢様が安心して目覚められる状態にする事は当然だが、それに加えてお嬢様の名声を高める事も考えていた。
「ロレンツォ公爵代理閣下、こちらの侍従長が許し難い無礼を働いたにもかかわらず、面会を許可してくださった事、心からお礼申し上げます」
ロレンツォの側近に案内されてきた王家の使者は、とても礼儀正しかった。
昨日の侍従長の態度とは違い、ロレンツォを公爵代理として認める最大限の敬意を払い、王家の使者として役目を全うしようとした。
「こちらこそ過分な挨拶を賜り、感謝いたします」
ロレンツォの立場はとても微妙だった。
生れは公爵家でも末端に近い傍流だが、今では養子として迎えられている。
王侯貴族の作法で言えば、侯爵待遇が相当だろう。
だが、現公爵が領地に居て、実質公爵としての役目を果たしているから、公爵として遇する事も間違いとは言い切れない。
使者はそこを利用して、公爵に対する礼を尽くし、国王陛下から託された役目を全うしようとしていた。
「ロレンツォ公爵代理閣下、陛下はこの度の事件をとても憂慮されておられます。
国王の立場から、多くの者の前で頭を下げる訳にはいかないですが、自身の言動が間違っていた事も認められておられます。
他の者の前では公式に謝れませんが、公式なお見舞いする形で公爵邸を訪問され、皆にマリア嬢に詫びたと思わせるとの事でございます。
その証として、昨日無礼を働いた侍従長を罷免し、王国を追放する決定をなされました」
「国王陛下の立場が色々と難しい事は理解しています。
なかなか公式に謝罪する事ができない事も理解しましょう。
ですが、マリアお嬢様がまた害される可能性が残る事だけは許せません。
私も軽い気持ちで王家との開戦を口にした訳ではありません。
マリアお嬢様の安全が確実に保証されない限り、歴史に謀叛人の悪名を残し、この手を血で染める事になっても、断じて王家を滅ぼします。
その覚悟を陛下にお伝えください」
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