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第一章
第24話:大失敗
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この世界にも猫がいるから、サクラが特別な存在だという訳ではない。
だが、この北方にはサクラ以外の猫がいなかったのだ。
俺はその事を知らなかった。
それが全ての失敗で、このような状況を産むことになった。
「いやはや、ネコヤシキ殿がこれほど奥ゆかしい方だとは思ってもいませんでした。
表立ってのお世話や支援が照れるのなら、そう正直に言って下さればいいのです。
言って下されば私も妻も子供達も、そう言う前提でネコヤシキ殿が孤児院に係われるように考えましたものを」
あんな小さな子供達に口止めしても無駄なのは分かっていた。
だから俺は幻覚魔術で猫の姿になっていた。
それに、猫の姿を見せる事なく、隠れたまま巨大ハンバーグを渡せた。
だが、サクラは堂々と姿を見せていた。
茶トラの猫が親分を連れて肉を差し入れしてくれたと子供達が話したのだろう。
その話は、朝にはパーカー準男爵に伝わっていたという事だ。
パーカー準男爵はとても働き者のようだ。
俺が朝食の準備をしている時間、まだ日が昇ってそれほど経っていないのに、馬を駆けさせてお礼とこれからの話しをしに、館にまでやってきた。
そう、これからの話までするのだ。
パーカー準男爵は俺に孤児院を手伝わせようとしているのだ。
「私の病の事は国王陛下から伝えられているはずですが」
「ええ、その事は十分分かっています。
ですが昨日の事を考えると、姿を隠してなら子供達のお世話ができるのでしょう。
それに、こちらが頼んでもいないのにやってくれたという事は、決して子供嫌いという訳でもない。
だったら、昨日のように姿を隠して子供達を慰めてやっていただきたい。
親兄弟を亡くして孤児院に送られてくる子供達は、昼の間は我慢できても、夜暗くなると寂しくなって泣き出してしまい、哀しみが孤児院中に広がってしまうのです。
そんな子供達を夜に来て慰めてやって欲しいのです
ネコヤシキ殿も夜の方が姿を隠せて都合がいいのではありませんか」
俺は約束などできないと断る心算だつた。
約束は俺の心には重荷になってしまう。
サクラに頼まれて、不定期に行くのなら心に負担にはならない。
だが、子供達を慰めるという役を与えられると、責任が生まれる。
その責任に俺の弱い心が耐えられるとは思えなかったのだ。
「ニャーーーン、ニャーーーン、ニャーーーン、ニャーーーン」
だが「行きたいの」とサクラに何度もお願いされては断る事などでいない。
そのお願いの中に、少しでも早く長男坊の俺を1人前にしたいという親心を感じてしまったら、なおさら断れない。
「分かりました、夜に姿を見せないという条件で引き受けましょう。
それと、毎日必ず行くとは約束できませんよ。
それに、俺にできるのは食べ物を与える事くらいですよ。
家族と同じだけの愛情までは与えられませんよ」
「それで十分です」
だが、この北方にはサクラ以外の猫がいなかったのだ。
俺はその事を知らなかった。
それが全ての失敗で、このような状況を産むことになった。
「いやはや、ネコヤシキ殿がこれほど奥ゆかしい方だとは思ってもいませんでした。
表立ってのお世話や支援が照れるのなら、そう正直に言って下さればいいのです。
言って下されば私も妻も子供達も、そう言う前提でネコヤシキ殿が孤児院に係われるように考えましたものを」
あんな小さな子供達に口止めしても無駄なのは分かっていた。
だから俺は幻覚魔術で猫の姿になっていた。
それに、猫の姿を見せる事なく、隠れたまま巨大ハンバーグを渡せた。
だが、サクラは堂々と姿を見せていた。
茶トラの猫が親分を連れて肉を差し入れしてくれたと子供達が話したのだろう。
その話は、朝にはパーカー準男爵に伝わっていたという事だ。
パーカー準男爵はとても働き者のようだ。
俺が朝食の準備をしている時間、まだ日が昇ってそれほど経っていないのに、馬を駆けさせてお礼とこれからの話しをしに、館にまでやってきた。
そう、これからの話までするのだ。
パーカー準男爵は俺に孤児院を手伝わせようとしているのだ。
「私の病の事は国王陛下から伝えられているはずですが」
「ええ、その事は十分分かっています。
ですが昨日の事を考えると、姿を隠してなら子供達のお世話ができるのでしょう。
それに、こちらが頼んでもいないのにやってくれたという事は、決して子供嫌いという訳でもない。
だったら、昨日のように姿を隠して子供達を慰めてやっていただきたい。
親兄弟を亡くして孤児院に送られてくる子供達は、昼の間は我慢できても、夜暗くなると寂しくなって泣き出してしまい、哀しみが孤児院中に広がってしまうのです。
そんな子供達を夜に来て慰めてやって欲しいのです
ネコヤシキ殿も夜の方が姿を隠せて都合がいいのではありませんか」
俺は約束などできないと断る心算だつた。
約束は俺の心には重荷になってしまう。
サクラに頼まれて、不定期に行くのなら心に負担にはならない。
だが、子供達を慰めるという役を与えられると、責任が生まれる。
その責任に俺の弱い心が耐えられるとは思えなかったのだ。
「ニャーーーン、ニャーーーン、ニャーーーン、ニャーーーン」
だが「行きたいの」とサクラに何度もお願いされては断る事などでいない。
そのお願いの中に、少しでも早く長男坊の俺を1人前にしたいという親心を感じてしまったら、なおさら断れない。
「分かりました、夜に姿を見せないという条件で引き受けましょう。
それと、毎日必ず行くとは約束できませんよ。
それに、俺にできるのは食べ物を与える事くらいですよ。
家族と同じだけの愛情までは与えられませんよ」
「それで十分です」
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