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第二章

第46話:幕間7

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「いやぁあ、美味い、よかった、美味い、これでやっと食欲が満たされるよ」

 槍の勇者本多勇星は満面の笑みを浮かべながらクジラメンチカツに喰らいついた。
 いや、本多勇星だけでなく他の3人も美味しそうに食べている。
 給仕役の侍女や侍従もホッとしている。
 北方の異世界人が届けてくれた各種香草塩と食材、更にレシピのお陰で極端に細かった勇者達の食欲が人並み以上になったからだ。

 勇者達は先祖代々長野県に住んでいた。
 長野県が信州と呼ばれていた江戸時代よりも前から住んでいた。
 だから古い時代の料理が若い勇者達にも受け継がれていた。
 魚の場合は淡水魚や海から馬で運べる塩干物を使った料理もあった。
 その中にはクジラを使った料理もあったので、クジラを食べる事に対して抵抗がなかったのがよかった。

「よかった、みなみのメンチカツとハンバーグはちゃんとキノコ抜きだわ」

 治癒の勇者霧隠みなみが、ハンバーグを食べながらうれしそうに言う。
 彼女は血生臭いうえに、薄い塩味しかしなかった肉料理に食欲を失くしていたのだが、北方から運ばれてきたクジラ肉は完璧に血抜きされていて血生臭くなかった。
 しかも名前の分からない香草が加えられていて、とても風味がよかった。
 さらに味に飽きないように、味変用の香草塩が多種類食卓に並んでいるのだ。

「異世界に来たんだから、この機会に好き嫌い治せよ」

 本多勇星が冗談半分に霧隠みなみの偏食を指摘すると、霧隠みなみも冗談半分にふくれっ面をしてみせた。
 異世界に来て心から冗談を言えたのは今日が初めてだった。
 正義感と責任感から魔物と戦い続けていたが、徐々に心身が消耗していた。
 基礎レベルや武術レベルは劇的に向上していたが、食事が合わない事は、4人が想像もしていなかった、心身に対する負担があったのだ。

「みなみは嫌よ。
 やっと美味しい食材が手に入るようになったのに、嫌いなモノなんか食べないわ」

 そう言いながら霧隠みなみはクジラの鍋焼に手を伸ばした。
 それを見ている3人も負けじと鍋焼に手を伸ばす。
 別に誰も取ったりしないのだが、本当に久しぶりに美味しく懐かしい料理が食べられたので、つい食欲が表にでてしまっていたのだ。
 幼い頃から厳しく行儀作法を仕付けられた4人にはとても珍しい事だった。

「食材のお礼をしなければいけないけれど、本当に味噌なんかでいいのかしら」
 
 魔術の勇者矢沢ゆりが少し不安げに口にした。
 新たに覚えたこの世界の常識から考えて、余りにも貴重で高価な食材とポーションを大量にもらったお礼が、味噌だけなのが不安だったのだ。

「こんな貴重なモノを手に入れられる猫屋敷さんが、わざわざ指定して味噌が欲しいと言っているのだから、もしかしたらこの世界で味噌を作るのはとても難しいのかもしれないぞ」

 剣の勇者真田一朗が真剣な表情で答えるが、クジラのすじ肉と根菜を柔らかくなるまで煮込み、最後に葱を加えて臭みをなくした料理に手を伸ばしながらなので、台無しだった。

「四の五の言わずに試してみればいいさ。
 王都周辺の魔物はほぼ討伐が終わっているんだ。
 地方に遠征に行く前に、爺さん婆さんに教わった通りに作ってみればいいさ」

 本多勇星が、厚切りにしてからゆくり塩抜きしたサエズリのステーキにフォークを刺しながら言い切った。

「そうね、それに味噌だけで悪いと思うなら、納豆も作って贈ればいいんじゃない」

 猫屋敷の事を知らない矢沢ゆりが、とんでもない事を言ってしまった。
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