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第二章
第45話:コロ
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幽体離脱して見送る俺の前を、多数の幌馬車と荷車が進んでいく。
もう直ぐ北方は雪と氷で完全に閉ざされてしまう。
何かを送ってもらう事も、こちらから送る事もできなくなる。
これまでなら、北方の民が生きていくために必要な物資を手に入れることができる、今年最後の機会だったろう。
だが今は違う。
今はむしろ南方の人々が、食料と塩が欲しくて交易隊を送ってくる。
王家王国は、重大な戦略物資となる上級回復ポーションを手に入れたくて、委託販売形式で大量に持ち帰ろうとしていた。
輸出すれば莫大な富が手に入るのだが、輸出した上級回復ポーションを使って隣国が侵略戦争をしかけてきたら、とんだ笑い話になってしまう。
王家王国は莫大な富を生む上級回復ポーションを手に入れたモノの、どれくらい輸出に回せるのか頭を悩ませていた。
だが俺達北方に住む人間には、政治政略など身近な問題ではない。
食料と燃料を確保して死と隣り合わせの冬をどう乗り越えるかが全てだ。
まあ、俺は心穏やかに暮らせればそれでいい。
問題は、俺の周りに食いしん坊のアリステアがつきまとうようになっていた事。
アリステアが、色々と協力している礼に新しいメニューを教えろと言うのだ。
完全快復薬を完成させる目途もついたので、料理でひと息つくのもいいだろう。
製薬を進める過程で懐かしい食材を創り出せたから、俺も作ってみたい料理があるからな。
「うっ、うっ、うっ、うっ、この美味そうな香りがたまらん。
味だけでなく臭いでまで我を誘惑しやがる。
もう食べてよいであろう、ネコヤシキ殿」
「もう少し煮込んだ方が美味しいんですが、まあいいでしょう。
でも全部食べてはダメですよ。
2日3日と煮込んだ方が美味しくなるんですからね」
「うっ、うっ、うっ、全部食べてはいけないのか。
本当は全部食べてしまいたいのだが、美味しくなると言うのならしかたがない。
半分だけにしておこう。
食べたらない分は、民にクジラメンチカツを揚げてもらおう」
いったいどれだけ食べれば気がすむんだ、この大食い古代氷竜は。
100人前用の巨大土鍋を何杯平らげれば満足するんだ。
1杯でも十分なように、粘土を掘り出して火炎魔術で焼き上げて、1000度以上で熱しても大丈夫な耐熱土鍋を100個も作って使っているのだぞ。
まあ、でもしかたがないか。
俺も腹がはち切れそうになるくらい食べたいからな。
「くっ、くっ、くっ、くっ。
超巨大イカと超巨大タコが、隠し包丁を入れることでこれほど柔らかくなって、味も浸み込みやすくなるとは思わなかった」
鍋を前にしたアリステアが、涎を流さんばかりに話しかけてくる。
確かに伝説のクラーケンかと思うくらい超巨大なタコとイカだ。
普通に考えれば食べるには硬過ぎて味も浸み込まないように思われる。
だがそこは料理の技術で補うことができた。
それに、両方とも単独で食べる訳ではない。
鍋物は多くの具材を組み合わせて美味しくするのだ。
今までの北方だったら、カブを薄い塩で煮ただけの食事だっただろう。
それも満腹を感じるほど食べられなかっただろう。
だが今の北方では、美味しい出汁がとれるキノコと魚介類の方がカブよりも多い。
しかも食べたければクジラやサメの肉と脂を加えることができる。
だが俺が加えたいのはひと手間かけた加工食材だ。
俺が加えたのはクジラの本皮と皮下脂肪を炒り揚げて脂を搾った後のコロだ。
大根煮、ヌタ和え、ひじき煮、季節野菜との炒め煮などのどんな料理に加えても美味しくなるが、俺がどうしても食べたいのはおでんに入れたコロだ。
この時のために手間をかけてタコとイカに隠し包丁を入れたし、豆腐や厚揚げも創り出したのだ。
異世界で最高のおでんを食べるのだ。
もう直ぐ北方は雪と氷で完全に閉ざされてしまう。
何かを送ってもらう事も、こちらから送る事もできなくなる。
これまでなら、北方の民が生きていくために必要な物資を手に入れることができる、今年最後の機会だったろう。
だが今は違う。
今はむしろ南方の人々が、食料と塩が欲しくて交易隊を送ってくる。
王家王国は、重大な戦略物資となる上級回復ポーションを手に入れたくて、委託販売形式で大量に持ち帰ろうとしていた。
輸出すれば莫大な富が手に入るのだが、輸出した上級回復ポーションを使って隣国が侵略戦争をしかけてきたら、とんだ笑い話になってしまう。
王家王国は莫大な富を生む上級回復ポーションを手に入れたモノの、どれくらい輸出に回せるのか頭を悩ませていた。
だが俺達北方に住む人間には、政治政略など身近な問題ではない。
食料と燃料を確保して死と隣り合わせの冬をどう乗り越えるかが全てだ。
まあ、俺は心穏やかに暮らせればそれでいい。
問題は、俺の周りに食いしん坊のアリステアがつきまとうようになっていた事。
アリステアが、色々と協力している礼に新しいメニューを教えろと言うのだ。
完全快復薬を完成させる目途もついたので、料理でひと息つくのもいいだろう。
製薬を進める過程で懐かしい食材を創り出せたから、俺も作ってみたい料理があるからな。
「うっ、うっ、うっ、うっ、この美味そうな香りがたまらん。
味だけでなく臭いでまで我を誘惑しやがる。
もう食べてよいであろう、ネコヤシキ殿」
「もう少し煮込んだ方が美味しいんですが、まあいいでしょう。
でも全部食べてはダメですよ。
2日3日と煮込んだ方が美味しくなるんですからね」
「うっ、うっ、うっ、全部食べてはいけないのか。
本当は全部食べてしまいたいのだが、美味しくなると言うのならしかたがない。
半分だけにしておこう。
食べたらない分は、民にクジラメンチカツを揚げてもらおう」
いったいどれだけ食べれば気がすむんだ、この大食い古代氷竜は。
100人前用の巨大土鍋を何杯平らげれば満足するんだ。
1杯でも十分なように、粘土を掘り出して火炎魔術で焼き上げて、1000度以上で熱しても大丈夫な耐熱土鍋を100個も作って使っているのだぞ。
まあ、でもしかたがないか。
俺も腹がはち切れそうになるくらい食べたいからな。
「くっ、くっ、くっ、くっ。
超巨大イカと超巨大タコが、隠し包丁を入れることでこれほど柔らかくなって、味も浸み込みやすくなるとは思わなかった」
鍋を前にしたアリステアが、涎を流さんばかりに話しかけてくる。
確かに伝説のクラーケンかと思うくらい超巨大なタコとイカだ。
普通に考えれば食べるには硬過ぎて味も浸み込まないように思われる。
だがそこは料理の技術で補うことができた。
それに、両方とも単独で食べる訳ではない。
鍋物は多くの具材を組み合わせて美味しくするのだ。
今までの北方だったら、カブを薄い塩で煮ただけの食事だっただろう。
それも満腹を感じるほど食べられなかっただろう。
だが今の北方では、美味しい出汁がとれるキノコと魚介類の方がカブよりも多い。
しかも食べたければクジラやサメの肉と脂を加えることができる。
だが俺が加えたいのはひと手間かけた加工食材だ。
俺が加えたのはクジラの本皮と皮下脂肪を炒り揚げて脂を搾った後のコロだ。
大根煮、ヌタ和え、ひじき煮、季節野菜との炒め煮などのどんな料理に加えても美味しくなるが、俺がどうしても食べたいのはおでんに入れたコロだ。
この時のために手間をかけてタコとイカに隠し包丁を入れたし、豆腐や厚揚げも創り出したのだ。
異世界で最高のおでんを食べるのだ。
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