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第一章
第1話:政略結婚
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私はオラーナ・ヘレスと申します。
こう見えてビスコー王国で随一の財力と兵力を誇るヘレス侯爵家の正妻です。
ですがそれはあくまでも形式的な話で、本当は単なる飾り物です。
王侯貴族が主催する舞踏会やパーティーには、本当に愛する妻妾は連れて行けないので、仕方なく家格が釣り合う家から正妻をもらうのです。
はっきり言えば、政略結婚ですね、愛などなくて当然です。
ですが、血統と家柄を大切にする王侯貴族だけに、絶対に守らなければいけない政略決婚の約束事があります。
跡継ぎは正妻に生ませ、尊い貴族の血と家柄を貶めない事。
これは王侯貴族なら何があっても護らならければいけない、最低限の誓約です。
ですが、私の夫ヘレス侯爵ピエール卿は、その最低限の約束すら守りません。
初夜の時には、新郎の家と新婦の家の見届役が、新婦が乙女である事と、確かに性交したことを確かめ両家に報告するのです。
私とピエールが婚約したのは、私が八歳、ピエールが十八歳の時でした。
十三歳で初陣を飾ったピエールが、大陸に鳴り響く武勇と知略で近隣諸国の軍勢に打ち勝ち、多くの領地を手に入れ、圧倒的な実力で親兄弟を押しのけてヘレス侯爵家の当主に座についたのです。
その実力に恐れおののいたビスコー王家は、ピエールと政略結婚をして、王家に謀叛を起こさないように、他国と通じて王国を滅ぼさないように、王家を見捨てて独立しないように、縁を結ぼうとしたのです。
ですが困った事に、王家には年頃王女がいませんでした。
年頃どころか一人の王女もおらず、王太子一人しか直系の子供がいないのです。
これでは修行と称して王子を人質に出す事もできません。
王家が臣下に人質を出すなど、常識外れだと申される方もおられるかもしれませんが、それ以前にピエールの武勇が常識外れなのです。
鍛え抜かれた敵国の軍勢十万に単騎で突撃し、総大将をはじめ百騎の主要な指揮官の首をとる、そんな非常識な人間相手に、常識など通じません。
そこで選ばれたのが、公爵位を得ていた王弟の娘、私です。
私が王家の養女となり、王女として正妻になるのです。
まあ、正妻などといっても八歳の童女です。
普通は正式な結婚などは成人してからの話で、婚約だけするのですが、私の場合は人質という意味合いが強かったのです。
ピエールを味方にしようとする他国に、王家とピエールの絆が強いと思わせなければいけませんから、私はヘレス侯爵家で育てられる事になりました。
私はとても哀しくて寂しくて、大泣きした記憶があります。
両親も国王も王妃も、流石に申し訳ないと思ったのでしょう。
実の娘に負けない化粧領と持参金を用意してくれましたが、それで泣き止む童女ではありませんから、随分と異様な花嫁行列だったようです。
ただ、両親も国王も王妃も、私のために最高の人材を用意してくれました。
選び抜かれた、武芸と学問の師という名目の護衛達です。
私が幼い頃から仕えてくれている侍女達は、一人残らず付いてきてくれました。
私の犠牲のお陰でしょうか、ピエールは謀叛を起こすことはありませんでしたし、他国と通じて王国を攻撃することもありませんでした。
もちろん王家を見放して独立することもありませんでした。
ただ、私に会いに来たのは、私がヘレス侯爵家に入ったその日と、結婚式の当日だけで、それ以外私に会おうとしません……
私がヘレス侯爵家に入ってから五年後、私が十三歳で、ピエールが二十三歳の時に、王家のたっての願いで結婚式が行われました。
ピエールからやんわりと、年頃になった私との婚約を解消しても構わないという申し出があり、慌てた王家が形振り構わずピエールに頭を下げ、どたばたと急いで結婚式を挙げたのです。
その時の大騒動は、教師達はもちろん侍女達の慌てぶりと共に覚えています。
いよいよピエールが王家を見捨てる、王家を滅ぼすと心配していました。
あの頃のピエールは、それこそ軍神が降臨したのかと思えるほどの戦振りでした。
結婚が決まる一年前には、ピエールに王女の輿入れを拒まれた某国の国王が、恥をかかされたと、近隣の二カ国と語らって攻め込んできたのです。
ピエールは、鍛え上げた軍を二手に分けて二カ国を迎撃させ、自分自身は少数の従者だけを従えて、十万の軍勢を率いて親征してきた某国王を狙いました。
私に言わせれば、その某国王は愚か者です、大馬鹿としか言いようがありません。
すでにピエールは、単騎で十万の軍勢に突撃し、敵の総大将以下百騎を討ち取っているのですから、親征すれば狙われるのは当たり前です。
当然某国王はピエールに捕まり人質になりました。
ピエールは計算高い所もあって、簡単に捕らえられるのに、恐怖感を植え込む為に、散々に追い回して某国王の心を粉々に砕いたようです。
貧乏くじをを引いたのは、隠し玉としてヘレス侯爵領に侵攻してきた国ですね。
わずか一人で某国王を人質にしたピエールが、鬼のような勢いで戻って来たので、戦う事なく五万の軍が潰走してしまいました。
ピエールはそれで許しはしませんでした。
領地の端の村々が焼き払われてしまっていたので、それに激怒したようです。
まあ、村民はピエールの放っていた密偵の知らせで逃げ延びたそうですが、民が無事だったから許すとはなりませんよね。
ピエールは、今回も小数の従者を連れて、隣国の王都まで侵攻し、王都の城門を人力とは思えない剛力で破壊しました。
それこそ王宮の奥深くまで独力で入り込んだというのですから、人間業とは思えないですよね。
隣国の王が感じた恐怖が、手に取るように分かります。
ピエールに迫られた隣国王は、玉座で大小便を垂れ流して放心していたようです。
隣国で降伏条件を纏めたピエールですが、その間に毒殺を図った者、闇討ちを図った者、側にいて巻き込まれた者、千人以上を返り討ちにしたそうです。
返り血で真っ赤になったピエールに迫られた王太子は、王太子の座を退いて、今も教会で神に祈っているそうですから、よほど怖かったのでしょう。
噂では王太子も大小便を垂れ流していたそうですから、我慢の苦手なお腹の弱い王家なのかもしれませんね。
侯爵家では隣国王家の事をおもらし王家と呼んでいます。
ここまでお話すれば、侯爵軍が迎撃に向かった二カ国の運命もお分かりですよね。
彼らは進んで戦う気がなかったようで、侯爵軍とにらみ合っていました。
戦いは他の者にやらせて、自分達は損害を受けることなく利だけを得ようとしていたのですが、その強欲が彼らの命を助けたともいえます。
もし侯爵軍に少しでも死傷者が出ていたら、ピエールはその人数分の王族をぶち殺していたでしょうから。
二カ国の軍勢は、ピエール勝利の噂を聞いて勝手に潰走したそうです。
風になびく柳の木を幽霊だと思って怖がるのと同じように、夜の闇からピエールが襲いかかってくる悪夢に恐怖して、全てを置いて逃げ出したそうです。
味方を踏みつぶし、味方を敵と勘違いして同士討ちをはじめ、対峙していた侯爵軍が呆れかえるほど、情けなく無残な敗走だったそうです。
両国の国王も重臣も、ピエールが国内に入ってくるのが恐ろしかったようで、急ぎ休戦協定を結ぶ全権代表を送り出してきました。
当然ですが、全面的に相手が悪いので、休戦条件は厳しくなります。
他の貴族なら、広大な領地の割譲を要求するところでしょう。
王家から行儀見習いという名目で、王女を人質に差し出させる事も可能です。
正面から戦った某国王と、王都まで攻め込まれた隣国の情報を聞けば、断る事など不可能です。
ですが、ピエールは領地にも人質にも興味をしめしません。
受け取るのは基本賠償金だけですが、粘り強く交渉すれば、未開地か魔境を割譲することで、多少は賠償金の減額に応じます。
私の想像にすぎませんが、ピエールは戦場の人で、統治は嫌いなのでしょう。
領民の生活や命に責任を持つのを重いと感じているのかもしれません。
ほとんどの領主が領民の事など虫けら同然に扱っているのに、変わった方です。
もし勝った戦争全てで貪欲に領地を要求していたら、今頃大帝国を建国できていた事でしょう。
ですがその分、ピエールの受け取る賠償金は莫大です。
対象の国や貴族も、国境を接している相手ばかりではありません。
敵国と同盟していた国境を接していない相手からも、賠償金をとるのです。
一度だけ、国境を接していないと強気に交渉した国がありましたが、今回と同じように少数の従者を連れたピエールに攻め込まれ、国王が人質にされて侯爵領に連れ去られることになり、結局莫大な賠償金を支払う事になりました。
それを思い出せば、ピエールに喧嘩を売ろうとする者が理解できません。
そう冷静に考えれば、形振り構わず私を人質に差し出した、両親と国王と王妃の気持ちも理解できます。
当事者の私には沢山言いたい事があります、両親も国王も王妃も先見の明があったと言えるかもしれませんが、文句くらいは言わせてもらいます。
莫大な賠償金から、私にも信じられないほどの生活費を分けてくださいますが、それも家臣任せで、一度も会いに来てくれないのです!
政略結婚のルールは守ってください。
前置きの話が長くなってしまいましたが、そんなピエールに婚約解消の話をされたら、それこそ縁を切って独立する心算なのかと、両親と国王と王妃が恐怖するのもしかたがない事だと理解しています。
だから、年齢的に少々早くて、私の身体に負担がかかると分かっていても、結婚式を早めたのでしょう。
私も色々教わっていましたから、覚悟を決めていました。
もしかしたら、結婚式をすっぽかすかもしれないと恐怖しましたが、そこまでは非常識ではなく、ちゃんと横に並んで結婚式を挙げてくれました。
挙げてはくれましたが、初夜の日に寝室に来てくれませんでした!
ヘレス侯爵家と王家、それに両親が心配して送ってきてくれた三人の初夜立会人は、朝まで待ちぼうけにさせられました。
私は大恥をかかされたのです!
それ以来五年間、ピエールは一度も私に前に現れません。
三人の立会人は、ずっと私の側にいます。
何時ピエールが訪れて、私と関係を持っても証明できるように、一瞬も私の側から離れないのです。
私がどれほど説得しても、家にも戻らないのですから、何か含むところがあると疑って当然でしょう。
恐らく、ピエールが愛人と宜しくやっていると聞いた私が、怒って意趣返しに愛人を作るのを恐れているのです。
皆がピエールとの縁が切れるのを恐れているのです。
ですが、もう、私の我慢も限界です!
政略結婚のルールすら守らない相手に、私だけがルールを守る義理はありません。
こうなったら復讐あるのみです!
こう見えてビスコー王国で随一の財力と兵力を誇るヘレス侯爵家の正妻です。
ですがそれはあくまでも形式的な話で、本当は単なる飾り物です。
王侯貴族が主催する舞踏会やパーティーには、本当に愛する妻妾は連れて行けないので、仕方なく家格が釣り合う家から正妻をもらうのです。
はっきり言えば、政略結婚ですね、愛などなくて当然です。
ですが、血統と家柄を大切にする王侯貴族だけに、絶対に守らなければいけない政略決婚の約束事があります。
跡継ぎは正妻に生ませ、尊い貴族の血と家柄を貶めない事。
これは王侯貴族なら何があっても護らならければいけない、最低限の誓約です。
ですが、私の夫ヘレス侯爵ピエール卿は、その最低限の約束すら守りません。
初夜の時には、新郎の家と新婦の家の見届役が、新婦が乙女である事と、確かに性交したことを確かめ両家に報告するのです。
私とピエールが婚約したのは、私が八歳、ピエールが十八歳の時でした。
十三歳で初陣を飾ったピエールが、大陸に鳴り響く武勇と知略で近隣諸国の軍勢に打ち勝ち、多くの領地を手に入れ、圧倒的な実力で親兄弟を押しのけてヘレス侯爵家の当主に座についたのです。
その実力に恐れおののいたビスコー王家は、ピエールと政略結婚をして、王家に謀叛を起こさないように、他国と通じて王国を滅ぼさないように、王家を見捨てて独立しないように、縁を結ぼうとしたのです。
ですが困った事に、王家には年頃王女がいませんでした。
年頃どころか一人の王女もおらず、王太子一人しか直系の子供がいないのです。
これでは修行と称して王子を人質に出す事もできません。
王家が臣下に人質を出すなど、常識外れだと申される方もおられるかもしれませんが、それ以前にピエールの武勇が常識外れなのです。
鍛え抜かれた敵国の軍勢十万に単騎で突撃し、総大将をはじめ百騎の主要な指揮官の首をとる、そんな非常識な人間相手に、常識など通じません。
そこで選ばれたのが、公爵位を得ていた王弟の娘、私です。
私が王家の養女となり、王女として正妻になるのです。
まあ、正妻などといっても八歳の童女です。
普通は正式な結婚などは成人してからの話で、婚約だけするのですが、私の場合は人質という意味合いが強かったのです。
ピエールを味方にしようとする他国に、王家とピエールの絆が強いと思わせなければいけませんから、私はヘレス侯爵家で育てられる事になりました。
私はとても哀しくて寂しくて、大泣きした記憶があります。
両親も国王も王妃も、流石に申し訳ないと思ったのでしょう。
実の娘に負けない化粧領と持参金を用意してくれましたが、それで泣き止む童女ではありませんから、随分と異様な花嫁行列だったようです。
ただ、両親も国王も王妃も、私のために最高の人材を用意してくれました。
選び抜かれた、武芸と学問の師という名目の護衛達です。
私が幼い頃から仕えてくれている侍女達は、一人残らず付いてきてくれました。
私の犠牲のお陰でしょうか、ピエールは謀叛を起こすことはありませんでしたし、他国と通じて王国を攻撃することもありませんでした。
もちろん王家を見放して独立することもありませんでした。
ただ、私に会いに来たのは、私がヘレス侯爵家に入ったその日と、結婚式の当日だけで、それ以外私に会おうとしません……
私がヘレス侯爵家に入ってから五年後、私が十三歳で、ピエールが二十三歳の時に、王家のたっての願いで結婚式が行われました。
ピエールからやんわりと、年頃になった私との婚約を解消しても構わないという申し出があり、慌てた王家が形振り構わずピエールに頭を下げ、どたばたと急いで結婚式を挙げたのです。
その時の大騒動は、教師達はもちろん侍女達の慌てぶりと共に覚えています。
いよいよピエールが王家を見捨てる、王家を滅ぼすと心配していました。
あの頃のピエールは、それこそ軍神が降臨したのかと思えるほどの戦振りでした。
結婚が決まる一年前には、ピエールに王女の輿入れを拒まれた某国の国王が、恥をかかされたと、近隣の二カ国と語らって攻め込んできたのです。
ピエールは、鍛え上げた軍を二手に分けて二カ国を迎撃させ、自分自身は少数の従者だけを従えて、十万の軍勢を率いて親征してきた某国王を狙いました。
私に言わせれば、その某国王は愚か者です、大馬鹿としか言いようがありません。
すでにピエールは、単騎で十万の軍勢に突撃し、敵の総大将以下百騎を討ち取っているのですから、親征すれば狙われるのは当たり前です。
当然某国王はピエールに捕まり人質になりました。
ピエールは計算高い所もあって、簡単に捕らえられるのに、恐怖感を植え込む為に、散々に追い回して某国王の心を粉々に砕いたようです。
貧乏くじをを引いたのは、隠し玉としてヘレス侯爵領に侵攻してきた国ですね。
わずか一人で某国王を人質にしたピエールが、鬼のような勢いで戻って来たので、戦う事なく五万の軍が潰走してしまいました。
ピエールはそれで許しはしませんでした。
領地の端の村々が焼き払われてしまっていたので、それに激怒したようです。
まあ、村民はピエールの放っていた密偵の知らせで逃げ延びたそうですが、民が無事だったから許すとはなりませんよね。
ピエールは、今回も小数の従者を連れて、隣国の王都まで侵攻し、王都の城門を人力とは思えない剛力で破壊しました。
それこそ王宮の奥深くまで独力で入り込んだというのですから、人間業とは思えないですよね。
隣国の王が感じた恐怖が、手に取るように分かります。
ピエールに迫られた隣国王は、玉座で大小便を垂れ流して放心していたようです。
隣国で降伏条件を纏めたピエールですが、その間に毒殺を図った者、闇討ちを図った者、側にいて巻き込まれた者、千人以上を返り討ちにしたそうです。
返り血で真っ赤になったピエールに迫られた王太子は、王太子の座を退いて、今も教会で神に祈っているそうですから、よほど怖かったのでしょう。
噂では王太子も大小便を垂れ流していたそうですから、我慢の苦手なお腹の弱い王家なのかもしれませんね。
侯爵家では隣国王家の事をおもらし王家と呼んでいます。
ここまでお話すれば、侯爵軍が迎撃に向かった二カ国の運命もお分かりですよね。
彼らは進んで戦う気がなかったようで、侯爵軍とにらみ合っていました。
戦いは他の者にやらせて、自分達は損害を受けることなく利だけを得ようとしていたのですが、その強欲が彼らの命を助けたともいえます。
もし侯爵軍に少しでも死傷者が出ていたら、ピエールはその人数分の王族をぶち殺していたでしょうから。
二カ国の軍勢は、ピエール勝利の噂を聞いて勝手に潰走したそうです。
風になびく柳の木を幽霊だと思って怖がるのと同じように、夜の闇からピエールが襲いかかってくる悪夢に恐怖して、全てを置いて逃げ出したそうです。
味方を踏みつぶし、味方を敵と勘違いして同士討ちをはじめ、対峙していた侯爵軍が呆れかえるほど、情けなく無残な敗走だったそうです。
両国の国王も重臣も、ピエールが国内に入ってくるのが恐ろしかったようで、急ぎ休戦協定を結ぶ全権代表を送り出してきました。
当然ですが、全面的に相手が悪いので、休戦条件は厳しくなります。
他の貴族なら、広大な領地の割譲を要求するところでしょう。
王家から行儀見習いという名目で、王女を人質に差し出させる事も可能です。
正面から戦った某国王と、王都まで攻め込まれた隣国の情報を聞けば、断る事など不可能です。
ですが、ピエールは領地にも人質にも興味をしめしません。
受け取るのは基本賠償金だけですが、粘り強く交渉すれば、未開地か魔境を割譲することで、多少は賠償金の減額に応じます。
私の想像にすぎませんが、ピエールは戦場の人で、統治は嫌いなのでしょう。
領民の生活や命に責任を持つのを重いと感じているのかもしれません。
ほとんどの領主が領民の事など虫けら同然に扱っているのに、変わった方です。
もし勝った戦争全てで貪欲に領地を要求していたら、今頃大帝国を建国できていた事でしょう。
ですがその分、ピエールの受け取る賠償金は莫大です。
対象の国や貴族も、国境を接している相手ばかりではありません。
敵国と同盟していた国境を接していない相手からも、賠償金をとるのです。
一度だけ、国境を接していないと強気に交渉した国がありましたが、今回と同じように少数の従者を連れたピエールに攻め込まれ、国王が人質にされて侯爵領に連れ去られることになり、結局莫大な賠償金を支払う事になりました。
それを思い出せば、ピエールに喧嘩を売ろうとする者が理解できません。
そう冷静に考えれば、形振り構わず私を人質に差し出した、両親と国王と王妃の気持ちも理解できます。
当事者の私には沢山言いたい事があります、両親も国王も王妃も先見の明があったと言えるかもしれませんが、文句くらいは言わせてもらいます。
莫大な賠償金から、私にも信じられないほどの生活費を分けてくださいますが、それも家臣任せで、一度も会いに来てくれないのです!
政略結婚のルールは守ってください。
前置きの話が長くなってしまいましたが、そんなピエールに婚約解消の話をされたら、それこそ縁を切って独立する心算なのかと、両親と国王と王妃が恐怖するのもしかたがない事だと理解しています。
だから、年齢的に少々早くて、私の身体に負担がかかると分かっていても、結婚式を早めたのでしょう。
私も色々教わっていましたから、覚悟を決めていました。
もしかしたら、結婚式をすっぽかすかもしれないと恐怖しましたが、そこまでは非常識ではなく、ちゃんと横に並んで結婚式を挙げてくれました。
挙げてはくれましたが、初夜の日に寝室に来てくれませんでした!
ヘレス侯爵家と王家、それに両親が心配して送ってきてくれた三人の初夜立会人は、朝まで待ちぼうけにさせられました。
私は大恥をかかされたのです!
それ以来五年間、ピエールは一度も私に前に現れません。
三人の立会人は、ずっと私の側にいます。
何時ピエールが訪れて、私と関係を持っても証明できるように、一瞬も私の側から離れないのです。
私がどれほど説得しても、家にも戻らないのですから、何か含むところがあると疑って当然でしょう。
恐らく、ピエールが愛人と宜しくやっていると聞いた私が、怒って意趣返しに愛人を作るのを恐れているのです。
皆がピエールとの縁が切れるのを恐れているのです。
ですが、もう、私の我慢も限界です!
政略結婚のルールすら守らない相手に、私だけがルールを守る義理はありません。
こうなったら復讐あるのみです!
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