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8話

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「申し訳ありません、巫女様。
 アレッサンドロを取り逃がしてしまいました」

「気にする必要はありません。
 ハミルトン王国にも忠誠心のある者はいるでしょう。
 彼らが命懸けで盾となったのなら、失敗もしかたありません。
 ですが民を殺してはいませんね?
 それだけは絶対に許しませんよ!」

「それはお任せください。
 徹底いたしました」

 謝っていたクリスティアンが、その点だけは自信をもって言い切ってくれました。
 さて、アレッサンドロを殺す事はできませんでしたが、ハミルトン王国軍を壊滅状態に追い込む事ができました。
 それに全ての家臣領民を見捨て盾にしたアレッサンドロはもちろん、王家自体の信望と威信が地に落ちました。

 捕虜にした者達も、貴族士族専業兵は人質にしましたが、徴兵されていた領民兵は解放しました。
 彼らは従軍中のアレッサンドロの悪行を広めてくれると約束してくれました。
 噂が広まれば、更にアレッサンドロと王家の信望と威信は低下するでしょう。
 いえ、叛意が広まるかもしれません。

 私が直接アレッサンドロを殺し、ハミルトン王家を滅ぼしたい気持ちもあります。
 同時に弾圧していた領民に、嬲り殺しにされればいいという気持ちもあります。
 正直どちらにするか迷いがあります。
 水龍様が手助けを約束してくださいましたから、慌てる必要はありません。

「ピエトロ、鹵獲した兵糧で捕虜は養えるのですか?」

「その点は大丈夫でございます。
 アレッサンドロが必要以上に貴族領から徴発していましたから、十分な量の兵糧と物資を確保できました」

「それでは貴族領の民が餓えてしまうではありませんか!
 兵糧の一部を持たせてやりなさい」

「その辺はお任せください。
 我が領に移民したいと言う者は受け入れる事にしました。
 従軍していた諸侯軍の全員が、家族ともども希望したとしても、一年は食糧が不足する事はありません」

「本当に大丈夫ですか?
 噂が広まったら、領地に残っている民も押し寄せてくるのではありませんか?」

 私の疑念を聞いて、ピエトロだけでなく、マヌエルとクリスティアンまで顔色を変えています。
 その可能性を考えていなかったのですね。
 ハミルトン王国の圧政は酷いものですから、カーライル家が移民を受け入れると知れば、全ての民が押し寄せる、とまでは言いませんが、領地から逃げ出せる貧民の全てが逃げてくる事でしょう。

「しかたありませんね。
 敵軍を撃退できましたから、開拓に力を入れましょう。
 捕虜の方々にも働いてもらいます
 水龍様の姿を見た後ですから、逃げ出そうとする者はいないでしょう」
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