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01 マシーナ魔術学院
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ぼくが彼と出会ったのは、マシーナ魔術学院の入学式でのことだった。
ぼくと同じ魔術学院の制服に身を包んだ彼は、明るい金色の髪にエメラルドグルーンの瞳で、上品な雰囲気がまるで王子さまのようだ。
入学式に出席しているのだから、ぼくと同じ年齢のはずだけど、彼は背が高くて雰囲気が大人っぽい。顔つきもしっかりしていて、13歳にしては子どもっぽく見えるぼくとは、とても同じ年には見えなかった。
ぼくは背が低いし童顔で、よく女の子にまちがわれるような顔をしている。だけどお姉ちゃんが「しんじゃったお母さんに似てる」というから、自分の顔はきらいじゃないけれど。
ぼくにはお母さんの記憶がほとんどないから、自分の顔にお母さんの面影を見ることができるから。
でももう少し、男らしい見た目でもよかったかなとは思う。それがダメなら身長がほしいかな。13歳で145cmというのは、男としては低すぎる。
ぼくはただ座っているだけだけど、入学式は問題なく進んでいった。
入学式が楽しいかといわれれば、そうでもない。だけどこれから始まる学院での生活は楽しみだった。
これから3年間。
ぼくはこの学院で、魔術を学ぶことができるんだ。
ちゃんと勉強して、修行して、正式な魔術師の称号を持って故郷に帰る。
それがぼくの、一番の目標だった。
マシーナ魔術学院。
ぼくが入学したこの学院は、ソラウ魔王国の王都にあって、大陸でも一番の魔術学院だ。
この学院で学びたいと思う魔術師志望はおおいだろうけど、ソラウ魔王国の国民じゃないなら入学するのは難しいと思う。
他国民には入学試験の難易度を上げているし、身元調査も厳しくされるという話だから。
王族とか相当な才能の持ち主なら、他国の人でも入れるのかな? ぼくはこの国の国民だから、それほど厳しい身元確認はされなかったけど。領主さまが身元保証人になってくれたし。
学院に入学できるのは、毎年男女合わせて120人だけ。少数精鋭のエリート学院ということだ。
そしてマシーナ魔術学院で学ぶ生徒のほとんどは、貴族階級の子息と子女だ。
それは、魔術は誰もが使えるわけではなく、魔術師の血統が使えることがおおいことと、ソラウ魔王国の貴族階級が魔術師によって占められているから。
ソラウ魔王国ではほとんの場合で「貴族=魔術師」だけど、ときどき例外もあって、ぼくみたいな平民が生まれつき魔術の才能を持っていて、魔術師の称号を得ることもある。
ぼくの場合は先祖に王宮魔術師を務めたこともある魔術師がいて、そのご先祖さまの「才能」が遺伝したらしい。
そう考える以外に、ぼくに魔術の才能がある説明がつかないから。
魔術を発動させるには、まず「どのような魔術を使いたいのか」によって、頭の中にそれぞれの「構成を編む」必要がある。
きちんとした「構成が編めて」いなければ、どんな簡単な魔術も「発動」させることはできない。
この魔術での「構成を編む」という第一段階で、「センス」や「才能」といったものが必要になってくる。
この「センス」や「才能」は血によって引き継がれる場合がおおく、できない人はどれだけ練習してもできないらしい。
だけどぼくは生まれつき、誰に教わることなく魔術の構成が編めた。
これはとても珍しい才能で、それだけにぼくは目立った。5歳の頃にぼくは、近隣の村々で一番の治癒魔術の使い手になっていたから。
ぼくが得意としているのは治癒魔術で、攻撃魔術は苦手かな。できないこともないけど、威力は弱い。
田舎の村だと、治癒魔術が使える人は貴重だ。田舎の村に医師や薬師がいないことは普通だから、正式な資格を持った魔術師でないとしても、治癒魔術を使える人は重宝される。
ぼくには両親がなく姉さんとふたり暮らしだったけど、ぼくが治癒魔術を使えたから生活には困らなかった。
治癒のお礼に、いろいろな物や食べ物、ときにはお金がもらえたから。
そうこうしているうちにぼくの噂は領内に広まって、やがて領主さまの知るところとなった。
そして領主さまは、ぼくを魔術学院に推薦してくれて、費用も出してくれたんだ。
学院を卒業したら領地に戻り、魔術師として領主さまに仕えるという条件はあったけど、そんなのはなんの問題にもならない。
もともとぼくは自分が生まれ育った土地を離れる気はないし、領主さまはすばらしい人だから、彼女に仕えることができるのは嬉しいくらいだ。
領主さまが提示してくれた条件を快諾したぼくに、彼女は、
「よく学んで戻ってきなさい」
と、優しいお顔でいってくれた。
領主さまの推薦があるといっても入学試験はあって、学科は……どうだったんだろ? あまり自信はなかったけど、実技で、
「できる限りで、最上級の術構成を編んでください」
というものに、「ロストルリターン」の構成を編んで見せたところ、その時点で合格になった。
学科は意味があったのかな? とは思うけど、合格できたからいいや。
あとから聞いたんだけど、「ロストルリターン」……欠損復活の魔術は、学院を卒業しても使える人のほうが少ないくらいの、難しい治癒魔術なんだって。
といってもぼくの「ロストルリターン」はまだ術レベルが低いから、指の欠損くらいのケガしか治せないけど。
もっと上達すれば、腕や足や目がなくなっても復活させることができるらしい。がんばって勉強して、レベルアップさせよう。
ぼくがマシーナ魔術学院に入学して、もう一ヶ月。
学院の生活にも慣れてきた感じだ。
貴族の子どもばかりの学院だから、平民のぼくはいじめられたり、誰も話しかけてくれないかもと思ってたけど、そんなことは全然なかった。
同級生も上級生も、みんないい人たちだ。
ぼくの村があるところの領主さまはいい人なんだけど、田舎の村には貴族に偏見があるというか、いい印象を持っている人は少ない。税金を持っていかれるし。
ぼくも貴族は怖い人がおおいと思っていたし、学院生活を始めるにあたって心配もしていたんだけど、余計な心配だったと思う。
治癒魔術の授業。教室には教師と、生徒が20人ほど。
ぼくは自分の席で立ち上がり、教師が指示した術の構成を編む。
「レイリックヒール」
麻痺の消去と体力の回復を同時に行える、第三下位術。発動はさせないけど、ぼくが編んだ術の構成は教師には「視えて」いるはずだ。
この術は学院卒業レベルらしいけど、ぼくは随分前に習得している。だけど普通の生活をしていて麻痺にかかることはほぼないから、使ったことは一度しかない。
麻痺にかかるのなんて、魔獣や魔物退治をしている冒険者や兵士さんくらいだ。
ぼくは攻撃系や補助系の魔術は苦手だけど、治癒系の魔術ならそれなりのレベルに達している。学院に入るまで完全に独学だったからわかってなかったけど、どうやらそうらしい。
「よろしい。着席しなさい」
教師の許しが出たので、ぼくは着席する。
と、
「すごいな、ヘルトくんは」
ぼくの隣に座る彼から、声をかけられた。
彼……アリエル・ソライシュードくん。
入学式ときにぼくが目を奪われた、王子さまみたいな人。
ある程度魔術が使える人なら、他人の術構成は「視認」できる。その人がどのような術を発動させようとしているのか、わかるんだ。
学院にいるような人なら、それができない人はいない。そのくらいの初歩の技術。
ソライシュードくんはぼくとクラスが違うけど、治癒魔術の講義では同じ教室になる。
こうして近くで見ると、本当にきれいな人だ。
まるで王子さまみたい。
思わず見とれてしまったぼくに、
「どうかした?」
彼は首をかしげて微笑みかけてくる。
なんでだろう。ソライシュードくんは男の子なのに、ドキッとしちゃった。
「ご、ごめんソライシュードくん」
美人といえばいいのかな? 男の子だから美男子? どっちにしても彼は高貴な雰囲気を全く隠すことなく……というか溢れさせているような人で、男のぼくから見てもかっこいいんだ。
きっと、高位貴族の家の人なんだと思う。
「アリエルでいいよ。ヘルトくん。ソライシュードって長いだろ?」
確かに、ちょっといいにくい。
「うん、ありがとう、アリエルくん」
「だから、アリエルでいいよ。同級生なんだし、これから一緒に学んでいく仲間だろ?」
そこまでいってもらえるなら、そうさせてもらおうかな。
「ぼくもリップでいいよ。アリエル」
そういったぼくに、彼が右手を差し出す。
その手を握るぼくは、自然と笑顔になっていた。
ぼくと同じ魔術学院の制服に身を包んだ彼は、明るい金色の髪にエメラルドグルーンの瞳で、上品な雰囲気がまるで王子さまのようだ。
入学式に出席しているのだから、ぼくと同じ年齢のはずだけど、彼は背が高くて雰囲気が大人っぽい。顔つきもしっかりしていて、13歳にしては子どもっぽく見えるぼくとは、とても同じ年には見えなかった。
ぼくは背が低いし童顔で、よく女の子にまちがわれるような顔をしている。だけどお姉ちゃんが「しんじゃったお母さんに似てる」というから、自分の顔はきらいじゃないけれど。
ぼくにはお母さんの記憶がほとんどないから、自分の顔にお母さんの面影を見ることができるから。
でももう少し、男らしい見た目でもよかったかなとは思う。それがダメなら身長がほしいかな。13歳で145cmというのは、男としては低すぎる。
ぼくはただ座っているだけだけど、入学式は問題なく進んでいった。
入学式が楽しいかといわれれば、そうでもない。だけどこれから始まる学院での生活は楽しみだった。
これから3年間。
ぼくはこの学院で、魔術を学ぶことができるんだ。
ちゃんと勉強して、修行して、正式な魔術師の称号を持って故郷に帰る。
それがぼくの、一番の目標だった。
マシーナ魔術学院。
ぼくが入学したこの学院は、ソラウ魔王国の王都にあって、大陸でも一番の魔術学院だ。
この学院で学びたいと思う魔術師志望はおおいだろうけど、ソラウ魔王国の国民じゃないなら入学するのは難しいと思う。
他国民には入学試験の難易度を上げているし、身元調査も厳しくされるという話だから。
王族とか相当な才能の持ち主なら、他国の人でも入れるのかな? ぼくはこの国の国民だから、それほど厳しい身元確認はされなかったけど。領主さまが身元保証人になってくれたし。
学院に入学できるのは、毎年男女合わせて120人だけ。少数精鋭のエリート学院ということだ。
そしてマシーナ魔術学院で学ぶ生徒のほとんどは、貴族階級の子息と子女だ。
それは、魔術は誰もが使えるわけではなく、魔術師の血統が使えることがおおいことと、ソラウ魔王国の貴族階級が魔術師によって占められているから。
ソラウ魔王国ではほとんの場合で「貴族=魔術師」だけど、ときどき例外もあって、ぼくみたいな平民が生まれつき魔術の才能を持っていて、魔術師の称号を得ることもある。
ぼくの場合は先祖に王宮魔術師を務めたこともある魔術師がいて、そのご先祖さまの「才能」が遺伝したらしい。
そう考える以外に、ぼくに魔術の才能がある説明がつかないから。
魔術を発動させるには、まず「どのような魔術を使いたいのか」によって、頭の中にそれぞれの「構成を編む」必要がある。
きちんとした「構成が編めて」いなければ、どんな簡単な魔術も「発動」させることはできない。
この魔術での「構成を編む」という第一段階で、「センス」や「才能」といったものが必要になってくる。
この「センス」や「才能」は血によって引き継がれる場合がおおく、できない人はどれだけ練習してもできないらしい。
だけどぼくは生まれつき、誰に教わることなく魔術の構成が編めた。
これはとても珍しい才能で、それだけにぼくは目立った。5歳の頃にぼくは、近隣の村々で一番の治癒魔術の使い手になっていたから。
ぼくが得意としているのは治癒魔術で、攻撃魔術は苦手かな。できないこともないけど、威力は弱い。
田舎の村だと、治癒魔術が使える人は貴重だ。田舎の村に医師や薬師がいないことは普通だから、正式な資格を持った魔術師でないとしても、治癒魔術を使える人は重宝される。
ぼくには両親がなく姉さんとふたり暮らしだったけど、ぼくが治癒魔術を使えたから生活には困らなかった。
治癒のお礼に、いろいろな物や食べ物、ときにはお金がもらえたから。
そうこうしているうちにぼくの噂は領内に広まって、やがて領主さまの知るところとなった。
そして領主さまは、ぼくを魔術学院に推薦してくれて、費用も出してくれたんだ。
学院を卒業したら領地に戻り、魔術師として領主さまに仕えるという条件はあったけど、そんなのはなんの問題にもならない。
もともとぼくは自分が生まれ育った土地を離れる気はないし、領主さまはすばらしい人だから、彼女に仕えることができるのは嬉しいくらいだ。
領主さまが提示してくれた条件を快諾したぼくに、彼女は、
「よく学んで戻ってきなさい」
と、優しいお顔でいってくれた。
領主さまの推薦があるといっても入学試験はあって、学科は……どうだったんだろ? あまり自信はなかったけど、実技で、
「できる限りで、最上級の術構成を編んでください」
というものに、「ロストルリターン」の構成を編んで見せたところ、その時点で合格になった。
学科は意味があったのかな? とは思うけど、合格できたからいいや。
あとから聞いたんだけど、「ロストルリターン」……欠損復活の魔術は、学院を卒業しても使える人のほうが少ないくらいの、難しい治癒魔術なんだって。
といってもぼくの「ロストルリターン」はまだ術レベルが低いから、指の欠損くらいのケガしか治せないけど。
もっと上達すれば、腕や足や目がなくなっても復活させることができるらしい。がんばって勉強して、レベルアップさせよう。
ぼくがマシーナ魔術学院に入学して、もう一ヶ月。
学院の生活にも慣れてきた感じだ。
貴族の子どもばかりの学院だから、平民のぼくはいじめられたり、誰も話しかけてくれないかもと思ってたけど、そんなことは全然なかった。
同級生も上級生も、みんないい人たちだ。
ぼくの村があるところの領主さまはいい人なんだけど、田舎の村には貴族に偏見があるというか、いい印象を持っている人は少ない。税金を持っていかれるし。
ぼくも貴族は怖い人がおおいと思っていたし、学院生活を始めるにあたって心配もしていたんだけど、余計な心配だったと思う。
治癒魔術の授業。教室には教師と、生徒が20人ほど。
ぼくは自分の席で立ち上がり、教師が指示した術の構成を編む。
「レイリックヒール」
麻痺の消去と体力の回復を同時に行える、第三下位術。発動はさせないけど、ぼくが編んだ術の構成は教師には「視えて」いるはずだ。
この術は学院卒業レベルらしいけど、ぼくは随分前に習得している。だけど普通の生活をしていて麻痺にかかることはほぼないから、使ったことは一度しかない。
麻痺にかかるのなんて、魔獣や魔物退治をしている冒険者や兵士さんくらいだ。
ぼくは攻撃系や補助系の魔術は苦手だけど、治癒系の魔術ならそれなりのレベルに達している。学院に入るまで完全に独学だったからわかってなかったけど、どうやらそうらしい。
「よろしい。着席しなさい」
教師の許しが出たので、ぼくは着席する。
と、
「すごいな、ヘルトくんは」
ぼくの隣に座る彼から、声をかけられた。
彼……アリエル・ソライシュードくん。
入学式ときにぼくが目を奪われた、王子さまみたいな人。
ある程度魔術が使える人なら、他人の術構成は「視認」できる。その人がどのような術を発動させようとしているのか、わかるんだ。
学院にいるような人なら、それができない人はいない。そのくらいの初歩の技術。
ソライシュードくんはぼくとクラスが違うけど、治癒魔術の講義では同じ教室になる。
こうして近くで見ると、本当にきれいな人だ。
まるで王子さまみたい。
思わず見とれてしまったぼくに、
「どうかした?」
彼は首をかしげて微笑みかけてくる。
なんでだろう。ソライシュードくんは男の子なのに、ドキッとしちゃった。
「ご、ごめんソライシュードくん」
美人といえばいいのかな? 男の子だから美男子? どっちにしても彼は高貴な雰囲気を全く隠すことなく……というか溢れさせているような人で、男のぼくから見てもかっこいいんだ。
きっと、高位貴族の家の人なんだと思う。
「アリエルでいいよ。ヘルトくん。ソライシュードって長いだろ?」
確かに、ちょっといいにくい。
「うん、ありがとう、アリエルくん」
「だから、アリエルでいいよ。同級生なんだし、これから一緒に学んでいく仲間だろ?」
そこまでいってもらえるなら、そうさせてもらおうかな。
「ぼくもリップでいいよ。アリエル」
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その手を握るぼくは、自然と笑顔になっていた。
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