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02 アリエル・ソライシュード
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アリエルと友達になって、ぼくは彼とたくさんの時間を共有するようになった。
彼は王子さまのような見た目に似合った、裕福な家の人だった。
魔術学院の生徒が暮らす寮にはランクがあって、ぼくが暮らしているのは最下級……といってもほとんどの生徒がそうなんだけど、ごく普通の個人部屋だ。
広くはないけど、寝て勉強するには困らない。そんな感じの部屋。
でもアリエルが暮らしているのは最上級の寮室で、リビングや広い寝室、それに召使が控える部屋まである。彼に召使まではいないから、その部屋は物置になっているけど。
休日の午後。
ぼくはアリエルの部屋のリビングで、彼が所有する図鑑を見せてもらいながら、彼の説明を聞いていた。
図鑑はとても高価な本で、ぼくも目にしたのは数えるほどしかない。
「すごいね。アリエルはなんでも知ってるんだね」
彼の話は魔術だけなく、政治や経済や生物といった、ぼくの知らない分野のものがたくさんあった。
「そんなことないよ。ただおれの家には、本がたくさんあったからね」
本か……高いんだよな。今見ている図鑑なんか、ぼくが一生かかっても手に入らないほど高価だ。
学院には本がたくさんあるけど、ぼくが学びたい治癒魔術の本は全部読んでしまった。
それに正直いうと、治癒魔術にかんしてぼくはすでに学院卒業レベルに達していて、あまり参考になる書物はない。
もっと高度なことを学びたいけど、それにはすごくお金がかかる。それに今のぼくに必要なのは、知識よりも実戦だ。
といっても、それは治癒魔術に限ってのことで、ぼくが学ぶべきことはまだまだたくさんあるんだけど。
「ぼく治癒魔術専門っていうか、それに特化してるから、治癒魔術以外はあまり興味がないんだよね」
ぼくの言葉にアリエルは、
「興味がないこともちゃんと勉強しないと、卒業できないよ?」
当たり前のことを笑いながらいう。
「わかってるよ。だからこうして、アリエルに教えてもらってるんでしょ」
ぼくも彼に笑顔を返した。
友達とふたりだけの、穏やかな時間。
ぼくは故郷で同年代の子はいなかったから、友達といえる友達はアリエルが初めてだ。
友達との時間って、こんなに楽しいものだったんだな。
村の子どもたちの面倒を見るのも楽しいといえば楽しかったけど、そういう楽しさとはまったく違う。
なんというか、幸せな感じの楽しさだ。
「だったら、治癒魔術はリップが教えてくれるんだろ? リップが使える最上級の治癒魔術、見せてくれないか」
「いいよ」
ぼくは推薦試験のときに披露したのと同じ、ロストルリターンの構成を編んで見せる。
「これは第五上位術のロストルリターンだよ。今のぼくが使える、最上級の治癒魔術」
アリエル、驚いた顔してる。なんだか、嬉しくて恥ずかしい気分だ。
「第五上位術って、先生レベルじゃないか。すごいなリップ」
ぼくは術を発動させることなく、構成を消去する。
「でも攻撃魔術はぜんぜんだけどね、まだ第一中位術も全部使えないよ」
第一中位術は初歩の初歩だから、苦手な系統といっても使えないのはヤバい。
「それはさすがに、ヤバいんじゃないか?」
本当に、そうなんだ。
「ヤバいよ。このままだと居残りだ」
「でも特化型の人は、それだけしかできないというしな」
この後ぼくはアリエルに攻撃魔術のレクチャーをしてもらって、一番簡単な雷系攻撃魔術の感覚をなんとかつかむことができた。
アリエルと時間を共有していくうちに、ぼくはあることに気がついた。
アリエルは、ぼく以外の友達を作ろうとしない。彼は誰に対しても人当たりがいいし親切な人なんだけど、ただ……なんというか他人と深くつき合わないみたいなところがあって、友達といえる友達はぼくだけのように思えた。
それにアリエルは、あまり成績にこだわっていない。平均点が取れればそれでいいみたいな感じだ。むしろぼくのほうが必死になって勉強しているし、修行しているし、成績も彼より上なんだ。
友人関係のことはアリエルのプライベートな部分だから踏みこみにくいけど、成績のことは聞くことができた。
すると、
「おれは、魔術師になるわけじゃないからね」
との返答。
「そうなの?」
「おれの家がある程度裕福なのも、位が高そうなのもわかる?」
「わかるよ。寮の部屋もすごいし、本がたくさんある家なんて、お金持ちの貴族さまくらいだ」
アリエルは見た目から、高貴なおぼっちゃまって感じだしね。
「うん、そうなんだ。だから魔術を学んでいるのは、その……貴族のたしなみ? みたいなもので、おれは多分、将来的には領地の運営とかそういう仕事につくと思うんだ」
「それって、領主さまになるってこと!?」
領主さまか、それはすごいな。
「たぶんね。じゃないのなら、軍に所属することになるかな? 予定ではここを卒業したら、軍の士官学校に行くことなってるから」
将来は領主さまか軍の士官? それはまた……ぼくとはずいぶん違う。
貴族も大変なんだな。
「リップは、卒業したらどうするの」
卒業って、まだまだ先の話だけど。
「地元に帰って治癒魔術師をするよ。ぼくがここに通うお金を出してくれてる領主さまが、それを望んでるから」
「そうか、腕のいい治癒魔術師は貴重だからな」
アリエルは納得したように頷いて、
「そういえばリップは、どこの出身?」
「南の端っこ、チルラ領だよ。そこにある小さな村の生まれ」
ぼくの説明に、なんだか考えるような顔をするアリエル。
「チルラ領……確か、フォリシャ伯爵の領地だよね」
「うん、そうだよ。ぼくがここに通えるのも、伯爵さまの……領主さまのおかげなんだ」
なんだろう? アリエルは真面目な顔をして考えこむ。
ぼくは……、
(かっこいいな、アリエル)
アリエルの顔に見惚れてしまった。
ぼくにじっと見られてか、
「どうかした?」
彼は視線が気になったようだ。
「ううん……なでもない」
最近、ぼくは変だ。
アリエルの近くにいたり、アリエルのことを考えたりすると、心臓が苦しくなる。
だけど考えるのをやめられないし、距離をとるなんてもっとムリ。
この感情はたぶん、「恋」っていうんだろう。
最初は男の子どうしだから違うと思ってたけど、違わないんだ。
ぼくはアリエルに恋をしている。
認めたくないけど、認めるしかないところにまで来ちゃってる。
朝も、昼も、夜も。
気がついたらぼくは、アリエルのことを考えている。彼の笑顔を思い出している。
だから認めたんだ。
ぼくはアリエルに「恋」をしているって。
困らせたくないから、彼にはなにもいわないけど。
でもココロの中でだけ、想いを寄せるくらいは許してほしい。
アリエル。きみを想って苦しくなる心臓の痛みに浸るくらいは、許してほしいんだ。
「なに笑ってるの? リップ。おれ、顔になにかついてる?」
ぼく、笑ってた……?
「アリエル、きみはかっこいいね。うやらましいよ」
「そうか? 二番目の兄上はもっとすごいぞ。気持ち悪いくらいの美男子だ」
「そうなの? でもぼくは気持ち悪いくらいの美男子より、普通にかっこいいアリエルのほうが好きだよ」
自然と、「好き」といっちゃってた。
気がついて、恥ずかしさで顔が熱くなっていく。
「ご、ごめん好きなんて……気持ち悪いのはぼくのほうだね」
慌てて訂正したけど、アリエルどうして? どうしてきみまで、恥ずかしそうな顔しているの……?
彼は王子さまのような見た目に似合った、裕福な家の人だった。
魔術学院の生徒が暮らす寮にはランクがあって、ぼくが暮らしているのは最下級……といってもほとんどの生徒がそうなんだけど、ごく普通の個人部屋だ。
広くはないけど、寝て勉強するには困らない。そんな感じの部屋。
でもアリエルが暮らしているのは最上級の寮室で、リビングや広い寝室、それに召使が控える部屋まである。彼に召使まではいないから、その部屋は物置になっているけど。
休日の午後。
ぼくはアリエルの部屋のリビングで、彼が所有する図鑑を見せてもらいながら、彼の説明を聞いていた。
図鑑はとても高価な本で、ぼくも目にしたのは数えるほどしかない。
「すごいね。アリエルはなんでも知ってるんだね」
彼の話は魔術だけなく、政治や経済や生物といった、ぼくの知らない分野のものがたくさんあった。
「そんなことないよ。ただおれの家には、本がたくさんあったからね」
本か……高いんだよな。今見ている図鑑なんか、ぼくが一生かかっても手に入らないほど高価だ。
学院には本がたくさんあるけど、ぼくが学びたい治癒魔術の本は全部読んでしまった。
それに正直いうと、治癒魔術にかんしてぼくはすでに学院卒業レベルに達していて、あまり参考になる書物はない。
もっと高度なことを学びたいけど、それにはすごくお金がかかる。それに今のぼくに必要なのは、知識よりも実戦だ。
といっても、それは治癒魔術に限ってのことで、ぼくが学ぶべきことはまだまだたくさんあるんだけど。
「ぼく治癒魔術専門っていうか、それに特化してるから、治癒魔術以外はあまり興味がないんだよね」
ぼくの言葉にアリエルは、
「興味がないこともちゃんと勉強しないと、卒業できないよ?」
当たり前のことを笑いながらいう。
「わかってるよ。だからこうして、アリエルに教えてもらってるんでしょ」
ぼくも彼に笑顔を返した。
友達とふたりだけの、穏やかな時間。
ぼくは故郷で同年代の子はいなかったから、友達といえる友達はアリエルが初めてだ。
友達との時間って、こんなに楽しいものだったんだな。
村の子どもたちの面倒を見るのも楽しいといえば楽しかったけど、そういう楽しさとはまったく違う。
なんというか、幸せな感じの楽しさだ。
「だったら、治癒魔術はリップが教えてくれるんだろ? リップが使える最上級の治癒魔術、見せてくれないか」
「いいよ」
ぼくは推薦試験のときに披露したのと同じ、ロストルリターンの構成を編んで見せる。
「これは第五上位術のロストルリターンだよ。今のぼくが使える、最上級の治癒魔術」
アリエル、驚いた顔してる。なんだか、嬉しくて恥ずかしい気分だ。
「第五上位術って、先生レベルじゃないか。すごいなリップ」
ぼくは術を発動させることなく、構成を消去する。
「でも攻撃魔術はぜんぜんだけどね、まだ第一中位術も全部使えないよ」
第一中位術は初歩の初歩だから、苦手な系統といっても使えないのはヤバい。
「それはさすがに、ヤバいんじゃないか?」
本当に、そうなんだ。
「ヤバいよ。このままだと居残りだ」
「でも特化型の人は、それだけしかできないというしな」
この後ぼくはアリエルに攻撃魔術のレクチャーをしてもらって、一番簡単な雷系攻撃魔術の感覚をなんとかつかむことができた。
アリエルと時間を共有していくうちに、ぼくはあることに気がついた。
アリエルは、ぼく以外の友達を作ろうとしない。彼は誰に対しても人当たりがいいし親切な人なんだけど、ただ……なんというか他人と深くつき合わないみたいなところがあって、友達といえる友達はぼくだけのように思えた。
それにアリエルは、あまり成績にこだわっていない。平均点が取れればそれでいいみたいな感じだ。むしろぼくのほうが必死になって勉強しているし、修行しているし、成績も彼より上なんだ。
友人関係のことはアリエルのプライベートな部分だから踏みこみにくいけど、成績のことは聞くことができた。
すると、
「おれは、魔術師になるわけじゃないからね」
との返答。
「そうなの?」
「おれの家がある程度裕福なのも、位が高そうなのもわかる?」
「わかるよ。寮の部屋もすごいし、本がたくさんある家なんて、お金持ちの貴族さまくらいだ」
アリエルは見た目から、高貴なおぼっちゃまって感じだしね。
「うん、そうなんだ。だから魔術を学んでいるのは、その……貴族のたしなみ? みたいなもので、おれは多分、将来的には領地の運営とかそういう仕事につくと思うんだ」
「それって、領主さまになるってこと!?」
領主さまか、それはすごいな。
「たぶんね。じゃないのなら、軍に所属することになるかな? 予定ではここを卒業したら、軍の士官学校に行くことなってるから」
将来は領主さまか軍の士官? それはまた……ぼくとはずいぶん違う。
貴族も大変なんだな。
「リップは、卒業したらどうするの」
卒業って、まだまだ先の話だけど。
「地元に帰って治癒魔術師をするよ。ぼくがここに通うお金を出してくれてる領主さまが、それを望んでるから」
「そうか、腕のいい治癒魔術師は貴重だからな」
アリエルは納得したように頷いて、
「そういえばリップは、どこの出身?」
「南の端っこ、チルラ領だよ。そこにある小さな村の生まれ」
ぼくの説明に、なんだか考えるような顔をするアリエル。
「チルラ領……確か、フォリシャ伯爵の領地だよね」
「うん、そうだよ。ぼくがここに通えるのも、伯爵さまの……領主さまのおかげなんだ」
なんだろう? アリエルは真面目な顔をして考えこむ。
ぼくは……、
(かっこいいな、アリエル)
アリエルの顔に見惚れてしまった。
ぼくにじっと見られてか、
「どうかした?」
彼は視線が気になったようだ。
「ううん……なでもない」
最近、ぼくは変だ。
アリエルの近くにいたり、アリエルのことを考えたりすると、心臓が苦しくなる。
だけど考えるのをやめられないし、距離をとるなんてもっとムリ。
この感情はたぶん、「恋」っていうんだろう。
最初は男の子どうしだから違うと思ってたけど、違わないんだ。
ぼくはアリエルに恋をしている。
認めたくないけど、認めるしかないところにまで来ちゃってる。
朝も、昼も、夜も。
気がついたらぼくは、アリエルのことを考えている。彼の笑顔を思い出している。
だから認めたんだ。
ぼくはアリエルに「恋」をしているって。
困らせたくないから、彼にはなにもいわないけど。
でもココロの中でだけ、想いを寄せるくらいは許してほしい。
アリエル。きみを想って苦しくなる心臓の痛みに浸るくらいは、許してほしいんだ。
「なに笑ってるの? リップ。おれ、顔になにかついてる?」
ぼく、笑ってた……?
「アリエル、きみはかっこいいね。うやらましいよ」
「そうか? 二番目の兄上はもっとすごいぞ。気持ち悪いくらいの美男子だ」
「そうなの? でもぼくは気持ち悪いくらいの美男子より、普通にかっこいいアリエルのほうが好きだよ」
自然と、「好き」といっちゃってた。
気がついて、恥ずかしさで顔が熱くなっていく。
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