7 / 8
07 ぼく、本気になっちゃうよ?
しおりを挟む
どうしてアリエルがいなくなってしまったのか、ぼくにはわからなかった。
でもココロのどこかで、「これでよかった」とも感じていた。
アリエルがいなくなって、ぼくはそれまで以上に魔術の勉強と修行に打ち込んだ。
本当に、それだけに。
魔術の質を高めるために、髪を伸ばす方法がある。
合う合わないは人それぞれだけど、ぼくはアリエルがいなくなってから髪を伸ばし始めた。
ぼくには合っていたようで、髪を伸ばすにつれてぼくの魔術の技術は上がり、外見は女性っぽさを増していった。
1年が過ぎ、そして2年。
成長してもぼくの容貌は、女性らしさを失わなかった。
身長とともに手足が伸び、むしろもっと女性らしくなったかもしれない。
そして、三年間を魔術学院で学んだぼくは、学院を首席で卒業した。
アリエルのことを考えると、それでもたりないような気がしたけど。
アリエルと別れて、もう2年になるんだな。
そんなに経ったなんて信じられない。
あのときの、一度だけアリエルに埋まった感触は、ついさっきのことのように思い出せる。
アリエルは、この国の王子さまだ。
なにをしているのかは調べればわかっただろうけど、ぼくは知ろうとしなかった。
ぼくに、そんな権利はない。アリエル王子さまで、ぼくはただの魔術師なんだから。
アリエルがいなくなって以降、ぼくはあまり他人とは関わらなかった。
自分のためだけに時間を使いたかったから。
だから学院を去るぼくに、誰も話しかけてこないだろう。
あたりにはたくさんの人がいるけれども、その誰もぼくの門出を祝福しには来ないだろう。
そう思っていた。
なのに、学院の門の前……。
「どう……して?」
それが誰なのかは、考えるまでもなかった。
彼は背が高くなっていたけど見た目はあまり変わっていなかったし、ぼくは街の姿絵屋で「エルヴィン王子」の姿絵をガラス越しに何度も眺めていたから。
彼と会えなかった間、彼よりもぼくのほうが様変わりしている。
髪と身長が伸びて、男性に見られることのほうが少ないくらい、ぼくは女性的なシルエットになっていた。
「わからないのか?」
彼の言葉に、ぼくは首を横にふる。
本当に、わからない。
困惑するぼくに、彼……アリエルが歩み寄ってくる。
本当に、アリエルだ。
ぼくがアリエルを見間違うはずがない。
どうして、ここにいるの?
ぼくの目の前にたたずむアリエル。彼は見下ろし、ぼくは見上げる。
彼の緑の瞳に、ぼくが入り込んでいる。
ぼくの唇がなにかを生み出そうとするけど、震えるだけでなにも音にはできない。
「リップ」
アリエルがぼくの名を呼ぶ。
あの頃よりも、少し大人びた声で。
アリエル。
ぼくも彼の名を呼ぼうとしたけれど、やっぱり声はならなかった。
アリエルの右手が、ぼくの左手をすくうように持ちあげる。
伝わってくる彼の温もりに、心臓が締めつけられた。
ぼくの左手をとったまま彼が片膝を折って跪き、そして。
ちゅっ
ぼくの左手の甲に唇を落とした。
この国の王族がひざまずいて誰かの左手にキスをするのは、その人に求婚するときだけ。
そのくらい、ぼくだって知ってる。
「なっ、なに……してるの?」
みんな見てる。周りには、たくさん人がいるんだよ!?
「すまないリップ。どうしても正室としてお前を迎えることは叶わなかった。だが側室としてなら、第一はまだいないが第二夫人としてならお前を迎えることができる」
正室? 側室? 第二夫人……?
「ア、アリエル……なにいってるの?」
「過去に例があったのが助かった。だから」
「な、なんなのこれ!?」
めちゃくちゃ人が集まってくる!?
「リップ、おれと結婚してくれないか。おれの妻として、ずっと隣にいてほしい」
そして彼は、もう一度ぼくの左手に接吻した。
あー……もうっ!
「バ、バカだよ、アリエルは……」
「でも、お前を幸せにできるバカだ」
彼が立ち上がり、腕を広げる。
ぼくの居場所を、あけてくれる。
かっこよくなったね。
前よりずっとステキだよ。
「美人になったな、リップ。前は可愛かったけど、今は……本当にきれいだ」
照れた顔で微笑むアリエル。
「そんなこというと、ぼく、本気になっちゃうよ?」
このセリフ、前にもいったことなかったっけ?
「お前を本気にさせるために、頑張ってきたんだ」
ぼくは彼の胸に飛び込む。
大きくて、懐かしくて、幸せな場所。
たぶんみんなわかってないだろう。でも、歓声があがる。
ただ騒ぎたいだけ。
なにも、わかってないくせに。
ぼくはその歓声の中、アリエルに向けて、
「わかってるよね?」
まぶたを閉じて唇を差し出す。
彼は言葉もなくぼくの唇を奪い、辺りには大きな歓声が響いた。
[End]
でもココロのどこかで、「これでよかった」とも感じていた。
アリエルがいなくなって、ぼくはそれまで以上に魔術の勉強と修行に打ち込んだ。
本当に、それだけに。
魔術の質を高めるために、髪を伸ばす方法がある。
合う合わないは人それぞれだけど、ぼくはアリエルがいなくなってから髪を伸ばし始めた。
ぼくには合っていたようで、髪を伸ばすにつれてぼくの魔術の技術は上がり、外見は女性っぽさを増していった。
1年が過ぎ、そして2年。
成長してもぼくの容貌は、女性らしさを失わなかった。
身長とともに手足が伸び、むしろもっと女性らしくなったかもしれない。
そして、三年間を魔術学院で学んだぼくは、学院を首席で卒業した。
アリエルのことを考えると、それでもたりないような気がしたけど。
アリエルと別れて、もう2年になるんだな。
そんなに経ったなんて信じられない。
あのときの、一度だけアリエルに埋まった感触は、ついさっきのことのように思い出せる。
アリエルは、この国の王子さまだ。
なにをしているのかは調べればわかっただろうけど、ぼくは知ろうとしなかった。
ぼくに、そんな権利はない。アリエル王子さまで、ぼくはただの魔術師なんだから。
アリエルがいなくなって以降、ぼくはあまり他人とは関わらなかった。
自分のためだけに時間を使いたかったから。
だから学院を去るぼくに、誰も話しかけてこないだろう。
あたりにはたくさんの人がいるけれども、その誰もぼくの門出を祝福しには来ないだろう。
そう思っていた。
なのに、学院の門の前……。
「どう……して?」
それが誰なのかは、考えるまでもなかった。
彼は背が高くなっていたけど見た目はあまり変わっていなかったし、ぼくは街の姿絵屋で「エルヴィン王子」の姿絵をガラス越しに何度も眺めていたから。
彼と会えなかった間、彼よりもぼくのほうが様変わりしている。
髪と身長が伸びて、男性に見られることのほうが少ないくらい、ぼくは女性的なシルエットになっていた。
「わからないのか?」
彼の言葉に、ぼくは首を横にふる。
本当に、わからない。
困惑するぼくに、彼……アリエルが歩み寄ってくる。
本当に、アリエルだ。
ぼくがアリエルを見間違うはずがない。
どうして、ここにいるの?
ぼくの目の前にたたずむアリエル。彼は見下ろし、ぼくは見上げる。
彼の緑の瞳に、ぼくが入り込んでいる。
ぼくの唇がなにかを生み出そうとするけど、震えるだけでなにも音にはできない。
「リップ」
アリエルがぼくの名を呼ぶ。
あの頃よりも、少し大人びた声で。
アリエル。
ぼくも彼の名を呼ぼうとしたけれど、やっぱり声はならなかった。
アリエルの右手が、ぼくの左手をすくうように持ちあげる。
伝わってくる彼の温もりに、心臓が締めつけられた。
ぼくの左手をとったまま彼が片膝を折って跪き、そして。
ちゅっ
ぼくの左手の甲に唇を落とした。
この国の王族がひざまずいて誰かの左手にキスをするのは、その人に求婚するときだけ。
そのくらい、ぼくだって知ってる。
「なっ、なに……してるの?」
みんな見てる。周りには、たくさん人がいるんだよ!?
「すまないリップ。どうしても正室としてお前を迎えることは叶わなかった。だが側室としてなら、第一はまだいないが第二夫人としてならお前を迎えることができる」
正室? 側室? 第二夫人……?
「ア、アリエル……なにいってるの?」
「過去に例があったのが助かった。だから」
「な、なんなのこれ!?」
めちゃくちゃ人が集まってくる!?
「リップ、おれと結婚してくれないか。おれの妻として、ずっと隣にいてほしい」
そして彼は、もう一度ぼくの左手に接吻した。
あー……もうっ!
「バ、バカだよ、アリエルは……」
「でも、お前を幸せにできるバカだ」
彼が立ち上がり、腕を広げる。
ぼくの居場所を、あけてくれる。
かっこよくなったね。
前よりずっとステキだよ。
「美人になったな、リップ。前は可愛かったけど、今は……本当にきれいだ」
照れた顔で微笑むアリエル。
「そんなこというと、ぼく、本気になっちゃうよ?」
このセリフ、前にもいったことなかったっけ?
「お前を本気にさせるために、頑張ってきたんだ」
ぼくは彼の胸に飛び込む。
大きくて、懐かしくて、幸せな場所。
たぶんみんなわかってないだろう。でも、歓声があがる。
ただ騒ぎたいだけ。
なにも、わかってないくせに。
ぼくはその歓声の中、アリエルに向けて、
「わかってるよね?」
まぶたを閉じて唇を差し出す。
彼は言葉もなくぼくの唇を奪い、辺りには大きな歓声が響いた。
[End]
0
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。
しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです…
本当の花嫁じゃないとばれたら大変!
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる