コウジとアミ

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迷子

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 僕はアミに気を使って「ハンバーガー」と言い、ハンバーガーを食べたが、それだけでは足りなかった。

 「浩二くん、絶対足りてないでしょ、分かるよ見れば。いいんだよ、遠慮しなくて」アミの優しさに涙が出そうになった。

 すると僕の口が無意識に動いた。

 「アミちゃん、何で俺にこんなに優しくしてくれるの…?」「え…、何でって…」アミはそこから黙ってしまった。僕はアミの様子を見て思わずはっとしてしまった。

 「俺、何言ってんだよ…。困らせるつもりなんてなかったのに…」アミは僕に背を向けたまま動かなかった。

 「あ、いや、違うんだよ…。そんなつもりじゃ…」アミは背中を向けたままだ。

 僕は困ってしまい、その場に立ち尽くした。すると、アミがお手洗いへ向かった。その時に何か僕に言ったようだが、アミの言葉を聞く余裕がなかった。僕もお手洗いに向かい、個室へ入り、鍵を閉めた。
  
 「何であんなこと言っちゃったんだよ…。アミちゃん、全然こっち向いてくれないし…。どうしたらいいんだろ…」何とかしたかったが何も案が浮かんでこなかった。

 10分後、個室を出た。手を洗い、トイレ前のソファがある場所に出た。

 アミが見当たらなかった。

 「アミちゃん、どこ行ったのかな…。早く誤解を解かないと…」

 僕はアミを探し始めた。ショッピングモールは3階まである。そのうえ広い。見つけるのは簡単ではない。

 1時間以上探したが、アミの姿は見えなかった。

 「どこ行ったんだろ…。僕を置いて帰っちゃったのかな…。でも、アミちゃんがそんなことするわけ…。いやでも、さっきのことで…」あれこれ考え込んでしまった。そんなこと考えている場合じゃないのに。

 「もう帰ろうかな…」そう思い、僕は出口へ向かった。

 自動ドアをくぐった。

 すると、後ろから誰かが走ってくる気配がした。

 「誰だろ…」

 僕は振り向いた。

 ショートカットの女性。

 アミだった。

 こちらへ走ってくる…。泣きそうな目で…。

 「いた…!もう…探したんだから!」そう言い、僕を強く抱きしめた。

 「ダメでしょ、勝手にいなくなっちゃ…。『トイレの前で待ってて』って言ったのに…」

 僕は『トイレの前で待ってて』という言葉を聞いていなかった。いや、聞こえていなかった。その時は聞く余裕がなかったから。

 「ごめんね…。アミちゃん、心配かけて…」アミはそれに対して何も言わなかった。いや、言える状況じゃなかったのかもしれない。アミの体が震えていた。そして、僕の服の肩の部分が濡れていた。僕はアミの姿を見つめることしかできなかった。

 周りから見たら「迷子になった弟」と「弟を探していた姉」に見えたかもしれない。

 無意識に出た僕の問いに言葉を詰まらせたのは「弟のような存在だから」という言葉を僕に言いたくなかったから。僕が子ども扱いされるのを嫌がると思って。

 アミから見れば僕はまだまだ子どもだったのだろう…。

 しばらくして、顔を上げ、1つため息をついてアミが話した。

 「無事でよかったよ…。何かあったらどうしようと思って心配してたんだから」「ほんと、ごめんね…。まだまだ子どもだよね俺…」「私からしたら全然子どもだよ。すぐどっか行っちゃうんだもん」アミは少し笑みを見せていた。

 気付くと2時を過ぎていた。歩き回って余計にお腹が空いてしまった。僕は思わず、自分のお腹を見た。

 「お腹空いたんでしょ、歩き回ったから。私も歩き回ってお腹空いちゃった。何か食べてこ」「うん!」「何がいい?」「ハン…、じゃない。ステーキ!」「いいよー!たくさん食べな!」

 店に入り、向かい合わせに座った。何故か緊張してしまった。先ほどのことがあったからかは僕にも分からなかった。

 料理が到着した。「いただきます!」僕はステーキを頬張った。肉がとてもジューシーで肉汁が口一杯に広がった。

 「美味しい?」「美味しい!」

 アミは食べてる合間に僕の姿ををやさしい表情で見つめていた。僕はその度に照れてしまった。

 食べ終わり、アミが口を開いた。

 「浩二くんは学校に好きな子いるの?」「まあ、好きというか何というか…」「えっ、気になる!教えてよ」「うんとね…」

 僕はアミに恋愛相談に乗ってもらった。

 「そうなんだ、その子、浩二くんに気があるんじゃない?」「どうなんだろ…」「告白しないの?」「そんな勇気あると思う?」「…。ない!」「ひどい!」「ごめん、ごめん」

 お互いの笑いの絶えない会話が続いた。

 僕達はショッピングモールを出て、電車に乗った。電車に乗っている時も会話が絶えなかった。

 そして、アミが降りる駅に着いた。

 「じゃあね、浩二くん。またお手紙頂戴ね。待ってるから!」「うん!絶対出すよ!」「ありがとう!じゃあね」「うん!」

 アミは駅を降り、手を振って見送ってくれた。笑顔だったがどこか寂しそうだった。

 そして数分後、自宅の最寄り駅に着いた。

 「ただいま」「おかえり。どこ行ってたの?」「食事に行ってた」「もしかして彼女とデート?」「えっ!ちっ、違うって!」「デートか…。羨ましい」「ほんとに違うんだってば!」

 ファンとアーティストという関係を一瞬だけ忘れてアミと向き合えた1日だった。
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