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第一章「裏切られたガンプ」
第一話:魔法剣士ガンプ、勇者パーティーを追放される
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「ガンプ、君を勇者パーティーから追放する」
中年の魔法剣士ガンプは、一回りも歳が若い女勇者セイラに殴り倒されて呻いた。
「ぐっ……な、何を言って」
「こうされてもわからないのかな、ガンプ。君はもう用済みだってこと」
不意打ちされて倒れたところを、手足まで縛られてしまった。
強かに殴られたこめかみの激痛に、頭がくらくらする。
なんで自分がこんな仕打ちを受けなきゃいけないのか、意味が分からない。
せっかく四大魔将の最後の一人吸血貴族アシュランを倒し、後は魔王城を攻めて魔王を倒すだけとなったこのときにパーティーの要であるこの俺をどうして……。
ガンプがそう呻いたところを、今度は女騎士ヴァルキリアに踏みつけられた。
「何がパーティーの要だ、卑怯な戦い方ばかりしやがって!」
「ゲホッ! 何を言ってるんだヴァルキリア!」
強大な魔族相手と戦うのに、卑怯も何もないではないか。
吸血貴族アシュランが長々と演説してるところに弱体化魔法をぶちこんで怒らせた挙句罠にはめて、厄介すぎるエナジードレインを使わせずに遠隔攻撃で殺した事を言っているのだろう。
「なんでお前は正々堂々と戦えないんだ!」
女騎士ヴァルキリアの口癖は、いつも正々堂々と戦え!だ。
戦法の考え方の違いで揉めるのはいつものことだが、これは冗談になってない!
「いいから、この縄を解けよ」
そう聞いて、ヴァルキリアは酷薄に笑った。
「まだわからないのか。お前はここで死ぬんだよ」
「なんだと!」
「もちろん、名誉の戦死ということにしてやるから安心しろ」
「バカな! 名誉の戦死なんてクソ喰らえだ! おいプリシラ助けてくれ!」
激しい戦いのあとだというのに、楚々とした佇まいで風にキラキラと煌く銀髪を揺らしている聖女は、慈愛の微笑みを浮かべたままで言う。
「いたましいお姿ですねガンプ様。助けて差し上げたいのはやまやまですが……逃げられないように、これは預かっておきました」
笑ったままの聖女が手にしているのは、ガンプが奥の手としてる転移の魔石だ。
それがあれば、縛られていて転がされていても緊急避難することができるからまだ余裕がある、はずだった。
「プリシラ! お前いつの間にそれを!」
そう先ほど、清楚なはずのプリシラが、いつになく超のつくほどの巨乳を押し付けて誘惑してきたと思ったら、ポケットからすられていたのか。
聖女がこそ泥のような真似をしやがって!
いや、仲間だから油断したなんて言い訳をガンプは自分に許さない。
聖女の魅惑の巨乳に感覚を奪われて、いいようにしてやられた自分の愚かさが嫌になる。
「私は、いやらしい視線で私たちを見るあなたが心底嫌いでした。水浴びを覗きに来たこともありましたよね」
「それは、偶然の事故だって言ってるだろ!」
それに対して聖女は吐き捨てるように言う。
「何度もそんな偶然があってたまりますか! 水浴びはまだしも、トイレを見られたことだけは許せません!」
顔を真っ赤にして怒るプリシラ。
さすがに偶然という言い訳は通用しないかと、ガンプは観念して謝る。
「わ、悪かった。それは謝るから許してくれ」
「もちろん、謝罪を受け取りましょう。お別れの時に言い争ってもしょうがありません。あなたのいたましい最期が、せめて心安らかであることを神に祈りましょう」
せいせいと言った様子で、プリシラは両手を組んで紺碧の瞳を閉じた。
こいつら冗談じゃない、本気で俺を殺す気だとガンプはゾッとする。
話は終わったかと、女勇者セイラは言う。
「勇者パーティーでも最弱の、中途半端な魔法剣士である君だ。魔法道具を奪って転がしておけば、魔界の奥の強大なモンスターが片付けてくれるよね」
自分の手は汚さない、セイラの卑劣なやり方に驚く。
「お前らは俺を卑怯だと言うが、お前らだってよっぽどじゃねえか!」
「それはガンプ、僕は師匠である君に色々と教えてもらったものね」
「そうだろ。戦い方からなにから、基本から手ほどきしてやったのはこの俺だ!」
魔法も、剣も、中途半端の凡才であった若き日のガンプは苦悩した。
そして、苦悩の末に自分に才能がないなら、才能ある若い人材を育てればいいと思い立って女勇者たちを育ててきたのだ。
三人とも可愛い美少女であるのはガンプの趣味も若干入っているが、ともかく魔王を討伐できるパーティーに育てたガンプの功績は誰にも否定できない。
多大な犠牲を払って、できる限りの努力はしてきたのだ。
ガンプは、安全にレベルアップするために卑怯な手をたくさん使った。
魔物や魔族が相手とは言え、あまりに卑怯なやり口だと周りからバカにされたり散々になじられることもあったがそれでも構わなかった。
女勇者セイラ・アルマ 十五歳。
深い青色の短髪で凍てつくような青い瞳のボクっ娘。
ほとんどまったいらな貧乳は玉に瑕だが、村娘だった女の子がガンプの教育のおかげで今や世界を救う、『深青の勇者』だ。
女騎士ヴァルキリア・スペルビア 十七歳。
赤髪紅玉の女騎士。
父親が騎士団長で、いちいちガンプのやり方に文句をつけてくるのはうっとおしいが、その美しい容姿とDカップの胸は素晴らしい。
槍術の天才を見抜いたガンプの勧めで、若くして槍聖の称号まで得て『紅炎の槍聖』と恐れられている。
聖女プリシラ・アンティキティラ 十六歳。
慈愛に溢れる銀髪碧眼の聖女。
超巨乳Hカップが素晴らしい。
基本的には優しいが潔癖で、ガンプのセクハラにいつも怒っている。
ガンプがその神聖魔法の才能を見抜いて冒険に誘わなければ、引っ込み思案なプリシラは『白銀の聖女』と呼ばれるほど活躍できなかったかもしれない。
三人が三人とも、ガンプが育てた本当の天才だった。
ここまでやってきたことは正しかった。そう確信していたのに……。
そんな三人が、縛られたガンプを冷たい瞳で見下ろしている。
重苦しい空気の中で、女勇者であるセイラが言う。
「ガンプ、心底君を嫌い抜いているヴァルキリアやプリシラと違って、僕は師匠の君に感謝してる。だから、冥土の土産に教えてあげるよ」
「感謝だと、ふざけるな! これが恩義のある人間にやることか、今すぐこの縄を解け!」
「まあ聞きなよ。君を切り捨てる決定をしたのは王宮なんだよ」
「なんだとなんで王宮が……」
「正確には、姫とその周辺かな。いやあ、嫌われたもんだね。姫は君を切り捨てるのに大賛成してたよ」
「まさか……エリザベート姫は、生まれの卑しい俺にも優しくしてくれていた!」
「そりゃあ、対面もあるから表目上はそう取り繕うさ。なにせ僕らは、国の英雄である勇者パーティーなんだからね」
「俺は、信じない……」
「君は、さんざん姫にセクハラをしてただろう。なんであれで好かれると思うのさ」
そういって女勇者は苦笑した。
「俺はセクハラなんてしてない! そりゃ、スキンシップはちょっとしたけど、姫だって嫌がってなかったし!」
呆れ果てたという調子で、だから君は女性に嫌われるんだと女勇者は低く笑って言った。
「もしかしたら師匠は、勇者パーティーとして魔王討伐の英雄になれば姫と結婚できるとでも思っていたのかな?」
「それは……」
実際ちょっと思っていたから、否定できない。
「まさか、将来は姫と結婚して次期国王になるとか考えてないよね?」
「クソッ、言うな……」
「アハハッ、三十五歳のおっさんが不釣り合いにも程があるでしょ。まあそこはどうでもいいけど、本当の問題は君の卑怯な戦い方にある」
「卑怯だと……俺の卓越した補助魔法と高度な作戦があったから、これまで被害を出さずに戦ってこれたんだろうが!」
「それをずっと見てきた王宮や神殿の上層部はそう思ってないってことさ。僕たちの冒険は、魔導球によって王宮にビジョンとして確認されていることは知ってるよね」
「もちろんだ」
ダンジョンに入るときなど、活動の際には魔導球を浮かせてデータを送信するようにしている。
そうすることで、ちゃんと戦っているという証明にもなるからこそ、王宮から補助金などのバックアップももらえるのだ。
そして、撮られた映像は、王宮でチェックして編集を施したのちに国民にも無料で放送されている。
ちょっとした酒場や広場にはモニターが置かれており、勇者パーティーの戦いは人気のある娯楽として国民に楽しまれている。
一種の宣伝工作といえる。
国民が、勇者パーティーを国の英雄として称えるのも当然のことだった。
「まさか、映像のせいか」
「そうだよ。君の戦い方は救国の英雄としてふさわしくない。そう王宮に判断されたんだ」
あとおっさんだし、顔もブサイクだからねと笑う。
ガンプは、容姿をバカにされたことに少しムカッとしたが、それよりもゾッとする。
「体面だと……そんなくだらないことのために、俺を切り捨てようってのか!」
「そういうことだよ。僕たちだって、水浴びやトイレを覗かれたくらいで殺そうなんて思わないよ。王国が、君に死んで欲しがってるんだ」
王国自体が敵かよと、ガンプは打ちのめされた思いだった。
そんな姿を、女勇者セイラは哀れみに満ちた瞳で見つめて黙っている。
「待てよ、ベテランでありパーティーの司令塔である俺がいなきゃ魔王討伐は達成できないぞ!」
勇者パーティーでは一番弱いガンプだが、行動計画を立てているのは自分だという自負があった。
「そうだね、新たにパーティーの補充はしなきゃいけないかな」
「俺以外の誰を入れるって言うんだ」
「エリザベート姫に来てもらおうと思っている」
「ま、待て! 確かに姫は、閃光魔法の才能に長けて導師級の実力を認められているが、危険がともなう魔王討伐に加えるなど無茶苦茶だ!」
万が一、死にでもしたらどうするんだ。
「ああ、心配しなくていいよ姫は飾りみたいなもので、実際は護衛する近衛騎士団が戦うんだから」
「王国最強の近衛騎士団を動かすというのか」
騎士団と聞いて、父親が騎士団長をしている女騎士ヴァルキリアは自慢げに言う。
「我が父が育てた近衛騎士団は精鋭揃いだ。お前みたいな弱っちい魔法剣士とは比べるべくもない!」
「作戦はどうする!」
当然のことだと、女騎士ヴァルキリアは嘲笑って叫ぶ。
「正々堂々と真っ向から魔王と戦い勝利するに決まっているだろう!」
「このバカ騎士め!」
魔王城攻略に、国軍の最強戦力を使って力押しなんて仕掛けたら凄まじい消耗戦になってしまう。
過酷な環境の魔界での遠征やダンジョン探索に、お上品な騎士団は向いていない。
国軍があるのに、魔王討伐に少数精鋭の勇者パーティーがゲリラ戦を行っているのは、戦術上の意味があるのだ。
「だめだ、考え直せ! この戦いで近衛騎士団を使い潰したら、取り返しがつかないことになるぞ」
「だから、そこはもう君の考えることじゃないんだよ師匠……」
「待て! そんなことをしたらこの国は滅ぶぞぉおお!」
「じゃあね、ガンプ。永久にサヨナラだ」
こうして脱出用のアイテムを奪われて縛られたガンプは、育ててきた勇者パーティーに裏切られ、一人で魔界の奥に取り残されたのだった。
中年の魔法剣士ガンプは、一回りも歳が若い女勇者セイラに殴り倒されて呻いた。
「ぐっ……な、何を言って」
「こうされてもわからないのかな、ガンプ。君はもう用済みだってこと」
不意打ちされて倒れたところを、手足まで縛られてしまった。
強かに殴られたこめかみの激痛に、頭がくらくらする。
なんで自分がこんな仕打ちを受けなきゃいけないのか、意味が分からない。
せっかく四大魔将の最後の一人吸血貴族アシュランを倒し、後は魔王城を攻めて魔王を倒すだけとなったこのときにパーティーの要であるこの俺をどうして……。
ガンプがそう呻いたところを、今度は女騎士ヴァルキリアに踏みつけられた。
「何がパーティーの要だ、卑怯な戦い方ばかりしやがって!」
「ゲホッ! 何を言ってるんだヴァルキリア!」
強大な魔族相手と戦うのに、卑怯も何もないではないか。
吸血貴族アシュランが長々と演説してるところに弱体化魔法をぶちこんで怒らせた挙句罠にはめて、厄介すぎるエナジードレインを使わせずに遠隔攻撃で殺した事を言っているのだろう。
「なんでお前は正々堂々と戦えないんだ!」
女騎士ヴァルキリアの口癖は、いつも正々堂々と戦え!だ。
戦法の考え方の違いで揉めるのはいつものことだが、これは冗談になってない!
「いいから、この縄を解けよ」
そう聞いて、ヴァルキリアは酷薄に笑った。
「まだわからないのか。お前はここで死ぬんだよ」
「なんだと!」
「もちろん、名誉の戦死ということにしてやるから安心しろ」
「バカな! 名誉の戦死なんてクソ喰らえだ! おいプリシラ助けてくれ!」
激しい戦いのあとだというのに、楚々とした佇まいで風にキラキラと煌く銀髪を揺らしている聖女は、慈愛の微笑みを浮かべたままで言う。
「いたましいお姿ですねガンプ様。助けて差し上げたいのはやまやまですが……逃げられないように、これは預かっておきました」
笑ったままの聖女が手にしているのは、ガンプが奥の手としてる転移の魔石だ。
それがあれば、縛られていて転がされていても緊急避難することができるからまだ余裕がある、はずだった。
「プリシラ! お前いつの間にそれを!」
そう先ほど、清楚なはずのプリシラが、いつになく超のつくほどの巨乳を押し付けて誘惑してきたと思ったら、ポケットからすられていたのか。
聖女がこそ泥のような真似をしやがって!
いや、仲間だから油断したなんて言い訳をガンプは自分に許さない。
聖女の魅惑の巨乳に感覚を奪われて、いいようにしてやられた自分の愚かさが嫌になる。
「私は、いやらしい視線で私たちを見るあなたが心底嫌いでした。水浴びを覗きに来たこともありましたよね」
「それは、偶然の事故だって言ってるだろ!」
それに対して聖女は吐き捨てるように言う。
「何度もそんな偶然があってたまりますか! 水浴びはまだしも、トイレを見られたことだけは許せません!」
顔を真っ赤にして怒るプリシラ。
さすがに偶然という言い訳は通用しないかと、ガンプは観念して謝る。
「わ、悪かった。それは謝るから許してくれ」
「もちろん、謝罪を受け取りましょう。お別れの時に言い争ってもしょうがありません。あなたのいたましい最期が、せめて心安らかであることを神に祈りましょう」
せいせいと言った様子で、プリシラは両手を組んで紺碧の瞳を閉じた。
こいつら冗談じゃない、本気で俺を殺す気だとガンプはゾッとする。
話は終わったかと、女勇者セイラは言う。
「勇者パーティーでも最弱の、中途半端な魔法剣士である君だ。魔法道具を奪って転がしておけば、魔界の奥の強大なモンスターが片付けてくれるよね」
自分の手は汚さない、セイラの卑劣なやり方に驚く。
「お前らは俺を卑怯だと言うが、お前らだってよっぽどじゃねえか!」
「それはガンプ、僕は師匠である君に色々と教えてもらったものね」
「そうだろ。戦い方からなにから、基本から手ほどきしてやったのはこの俺だ!」
魔法も、剣も、中途半端の凡才であった若き日のガンプは苦悩した。
そして、苦悩の末に自分に才能がないなら、才能ある若い人材を育てればいいと思い立って女勇者たちを育ててきたのだ。
三人とも可愛い美少女であるのはガンプの趣味も若干入っているが、ともかく魔王を討伐できるパーティーに育てたガンプの功績は誰にも否定できない。
多大な犠牲を払って、できる限りの努力はしてきたのだ。
ガンプは、安全にレベルアップするために卑怯な手をたくさん使った。
魔物や魔族が相手とは言え、あまりに卑怯なやり口だと周りからバカにされたり散々になじられることもあったがそれでも構わなかった。
女勇者セイラ・アルマ 十五歳。
深い青色の短髪で凍てつくような青い瞳のボクっ娘。
ほとんどまったいらな貧乳は玉に瑕だが、村娘だった女の子がガンプの教育のおかげで今や世界を救う、『深青の勇者』だ。
女騎士ヴァルキリア・スペルビア 十七歳。
赤髪紅玉の女騎士。
父親が騎士団長で、いちいちガンプのやり方に文句をつけてくるのはうっとおしいが、その美しい容姿とDカップの胸は素晴らしい。
槍術の天才を見抜いたガンプの勧めで、若くして槍聖の称号まで得て『紅炎の槍聖』と恐れられている。
聖女プリシラ・アンティキティラ 十六歳。
慈愛に溢れる銀髪碧眼の聖女。
超巨乳Hカップが素晴らしい。
基本的には優しいが潔癖で、ガンプのセクハラにいつも怒っている。
ガンプがその神聖魔法の才能を見抜いて冒険に誘わなければ、引っ込み思案なプリシラは『白銀の聖女』と呼ばれるほど活躍できなかったかもしれない。
三人が三人とも、ガンプが育てた本当の天才だった。
ここまでやってきたことは正しかった。そう確信していたのに……。
そんな三人が、縛られたガンプを冷たい瞳で見下ろしている。
重苦しい空気の中で、女勇者であるセイラが言う。
「ガンプ、心底君を嫌い抜いているヴァルキリアやプリシラと違って、僕は師匠の君に感謝してる。だから、冥土の土産に教えてあげるよ」
「感謝だと、ふざけるな! これが恩義のある人間にやることか、今すぐこの縄を解け!」
「まあ聞きなよ。君を切り捨てる決定をしたのは王宮なんだよ」
「なんだとなんで王宮が……」
「正確には、姫とその周辺かな。いやあ、嫌われたもんだね。姫は君を切り捨てるのに大賛成してたよ」
「まさか……エリザベート姫は、生まれの卑しい俺にも優しくしてくれていた!」
「そりゃあ、対面もあるから表目上はそう取り繕うさ。なにせ僕らは、国の英雄である勇者パーティーなんだからね」
「俺は、信じない……」
「君は、さんざん姫にセクハラをしてただろう。なんであれで好かれると思うのさ」
そういって女勇者は苦笑した。
「俺はセクハラなんてしてない! そりゃ、スキンシップはちょっとしたけど、姫だって嫌がってなかったし!」
呆れ果てたという調子で、だから君は女性に嫌われるんだと女勇者は低く笑って言った。
「もしかしたら師匠は、勇者パーティーとして魔王討伐の英雄になれば姫と結婚できるとでも思っていたのかな?」
「それは……」
実際ちょっと思っていたから、否定できない。
「まさか、将来は姫と結婚して次期国王になるとか考えてないよね?」
「クソッ、言うな……」
「アハハッ、三十五歳のおっさんが不釣り合いにも程があるでしょ。まあそこはどうでもいいけど、本当の問題は君の卑怯な戦い方にある」
「卑怯だと……俺の卓越した補助魔法と高度な作戦があったから、これまで被害を出さずに戦ってこれたんだろうが!」
「それをずっと見てきた王宮や神殿の上層部はそう思ってないってことさ。僕たちの冒険は、魔導球によって王宮にビジョンとして確認されていることは知ってるよね」
「もちろんだ」
ダンジョンに入るときなど、活動の際には魔導球を浮かせてデータを送信するようにしている。
そうすることで、ちゃんと戦っているという証明にもなるからこそ、王宮から補助金などのバックアップももらえるのだ。
そして、撮られた映像は、王宮でチェックして編集を施したのちに国民にも無料で放送されている。
ちょっとした酒場や広場にはモニターが置かれており、勇者パーティーの戦いは人気のある娯楽として国民に楽しまれている。
一種の宣伝工作といえる。
国民が、勇者パーティーを国の英雄として称えるのも当然のことだった。
「まさか、映像のせいか」
「そうだよ。君の戦い方は救国の英雄としてふさわしくない。そう王宮に判断されたんだ」
あとおっさんだし、顔もブサイクだからねと笑う。
ガンプは、容姿をバカにされたことに少しムカッとしたが、それよりもゾッとする。
「体面だと……そんなくだらないことのために、俺を切り捨てようってのか!」
「そういうことだよ。僕たちだって、水浴びやトイレを覗かれたくらいで殺そうなんて思わないよ。王国が、君に死んで欲しがってるんだ」
王国自体が敵かよと、ガンプは打ちのめされた思いだった。
そんな姿を、女勇者セイラは哀れみに満ちた瞳で見つめて黙っている。
「待てよ、ベテランでありパーティーの司令塔である俺がいなきゃ魔王討伐は達成できないぞ!」
勇者パーティーでは一番弱いガンプだが、行動計画を立てているのは自分だという自負があった。
「そうだね、新たにパーティーの補充はしなきゃいけないかな」
「俺以外の誰を入れるって言うんだ」
「エリザベート姫に来てもらおうと思っている」
「ま、待て! 確かに姫は、閃光魔法の才能に長けて導師級の実力を認められているが、危険がともなう魔王討伐に加えるなど無茶苦茶だ!」
万が一、死にでもしたらどうするんだ。
「ああ、心配しなくていいよ姫は飾りみたいなもので、実際は護衛する近衛騎士団が戦うんだから」
「王国最強の近衛騎士団を動かすというのか」
騎士団と聞いて、父親が騎士団長をしている女騎士ヴァルキリアは自慢げに言う。
「我が父が育てた近衛騎士団は精鋭揃いだ。お前みたいな弱っちい魔法剣士とは比べるべくもない!」
「作戦はどうする!」
当然のことだと、女騎士ヴァルキリアは嘲笑って叫ぶ。
「正々堂々と真っ向から魔王と戦い勝利するに決まっているだろう!」
「このバカ騎士め!」
魔王城攻略に、国軍の最強戦力を使って力押しなんて仕掛けたら凄まじい消耗戦になってしまう。
過酷な環境の魔界での遠征やダンジョン探索に、お上品な騎士団は向いていない。
国軍があるのに、魔王討伐に少数精鋭の勇者パーティーがゲリラ戦を行っているのは、戦術上の意味があるのだ。
「だめだ、考え直せ! この戦いで近衛騎士団を使い潰したら、取り返しがつかないことになるぞ」
「だから、そこはもう君の考えることじゃないんだよ師匠……」
「待て! そんなことをしたらこの国は滅ぶぞぉおお!」
「じゃあね、ガンプ。永久にサヨナラだ」
こうして脱出用のアイテムを奪われて縛られたガンプは、育ててきた勇者パーティーに裏切られ、一人で魔界の奥に取り残されたのだった。
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