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十四話
侯爵邸の庭先で、私は呆然とたたずんだ。
「またやっちゃった……」
子どもひとり躾られないなんて情けなくて、目尻に熱いものが込み上げる。
「リュシアン! もう、何やってるの。ここは遊んんでいい場所じゃないんだよ!」
私は彼の指を強引に閉じた。しかし、執事の目はまだリュシアンと彼の指差した方へ釘付けだった。
「……ん?」
目を凝らして、生垣をよーく見た。
切ったはずのカトレアの枝の切り口から、新しい芽が顔を出している。
「きゃーあ!」
リュシアンが声を上げるのと同時に瞬く間に成長し、新たなつぼみがどんどん育っていた。
「な、なにこれ……!?」
切り口が嘘のように、枝が伸び花が咲く。
ポップコーンが弾けるように、次から次へと赤い色で彩られていく。
「あなた、こんなこともできるの!?」
我が子ながら、知らない人間と接しているようだ。百センチに満たない小さな身体に、どんなに魔力を秘めているのだろう。得体が知れない彼の力に、私は言葉を失った。
「これは驚きました……」
そばで見ていた執事も、口をポカンと開けている。
「いや、えーと、これは……」
魔法以外に、何か言い訳できるものがあるだろうか。頭をフル回転したが、咄嗟には思いつかない。その間にもみるみるうちに花は咲き、元の状態よりも実りをつけ、生け垣はカトレアの花で満開になった。
「きゃはっ! きゃはは!」
リュシアンはいつも通り自画自賛して拍手している。
「これは見事に花を咲かせましたね。当主様がご覧になったらさぞお喜びになるでしょう」
「すみません……」
なんとお詫びしたら良いか分からない。
綺麗に咲かせたから良いけれども、庭師が美しく手入れしているものなのに。私は下を向いたまま一点を見つめた。
「いいえ。頭を上げてください」
「でも……」
「当主様はとてもお心の広い方でございます。花を摘んだ、咲かせたくらいで腹を立てるような方ではありません」
執事は微笑んで、当主がいる一階の角部屋に視線を向けた。
「当主様はご高齢になられ、このところは食事やお手洗い以外のほとんどの時間をあの部屋で過ごしています。おそらく、今のカトレアの開花もご覧になっていたでしょう。外出が難しい当主様にとって、久しぶりに非日常を味わえて喜んでいることと思います」
「そう……ですか……」
私は安心して肩の力が抜けた。
執事は私を見下ろし、薄い老眼鏡の奥を光らせ、咳払いした。
「ただ、どうしても償いたいと仰るなら、ひとつお尋ねしたいことがございます」
「……え?」
「償いの代わりに、どうか教えていただけませんか」
老執事はゆっくりと歩き、リュシアンの顔を覗き込んだ。
「可愛いお嬢さん。いえ、坊ちゃまかな。君の父親は、フェリクス侯爵の御子息ではないかな」
「フェリクス……?」
イヴァンは何という名字だったか。
そういえばそんな名だったような気もするが、侯爵ということは貴族だ。彼が貴族なんて聞いたことが無い。
執事にリュシアンの出生の秘密を漏らして良いものか迷ったが、当主の寛大な心遣いに感謝しているし、ここで意見を翻して許さないと言われたらどうしようもない。私は素直に頷いた。
「そうか、そうか」
「でも、あの……」
イヴァンが子どもを望んだ訳ではない。彼には否が一切ない。
「お嬢さんが秘密を話してくれたから、私もひとつ教えなければならないね」
執事は長い白髭を触りながら、ゆっくりと語りだした。
「私がお慕いする当主、フェリクス侯爵は子どもに恵まれなかった。結婚して数年、三十路にもならぬ間に奥さまも早逝してね。後妻を娶ることもせず、しばらくこの家で私と二人で暮らしていたんだよ」
「……?」
「坊ちゃまがやってきたのはその頃だった」
執事は私の腕の中でウトウトし始めたリュシアンに優しい眼差しを向ける。
「当主様は、孤児院から小さな子どもを連れて来てしまった。ねずみ色の髪でね、身体は小さかったが賢い子だった。何でもすぐに理解して覚えてしまった」
執事の言う人物には覚えがある。
「……私の知っているイヴァンです」
執事は静かに頷くと、リュシアンをそっと撫でた。
「小さな頃の自分によく似ている、と言ってね。一番手のかかる子を養子に迎えてしまったのさ」
白い手袋をはめた執事の指が、リュシアンの小さな手に触れた。
「おおっ!?」
瞬間、黄緑色の火花が散り、執事は思わず仰け反った。
「あぁっ! この子、また……!」
「ふふふ。いいんだよ。警戒心が強いのは悪いことじゃない」
今のは静電気じゃない。
リュシアンはまた、無意識のうちに魔法を放っていたのだ。
「……驚かれないのですか?」
普通の人なら腰を抜かすところだが、執事は穏やかな口調のままである。
「なぁに。これくらい差し支えないよ」
執事は少し痺れる右手を反対側の手で抑え、目を細めた。
「うちに迎えた坊っちゃんの魔力は、この子よりも弱かった。当主様は魔法に憧れがあってよく調べていたようですから、早くに気づけたと言っていましたけどね。ここに来るまで誰も魔法だとは気づいていなかったみたいだね」
イヴァンは本当に魔法が使えるらしく、私は信じられずに執事に尋ねた。
「魔法って、呪文を唱えて自分で操るものじゃないんですか?」
「おや。君はイヴァンくんの魔法を見たことがないのかい?」
魔法学の授業でも詠唱が必須だと習ったのだ。だから、まだ言葉を話せないリュシアンは魔法が暴走してしまうのだと、腑に落ちていたのに。
「恋仲なのにかい?」
「そ、それとこれとは話が別です!」
今にして思うと、彼のことをろくに知らなかった。踏み込んだところまで話していれば、彼は私に打ち明けてくれていただろうか。
「坊っちゃんはご自身でも、どうやって魔法を起こしているか分からなかったんだ。だから気がつけば彼の周りでは発火してボヤ騒ぎが起こったり、ランプが突然消えたり、雨が降ったりね。いつも渦中の中にいるものだから、気味悪がられていたんだよ。そうですよね、当主様」
執事が角部屋へ目を向けると、フェリクス侯爵は気づいて私たちに手を振った。侯爵はベッドに横になったまま、人の良さそうな顔で笑みをたたえていた。イヴァンと同じ灰色の髪をしている。
私は記憶のイヴァンの姿を思い浮かべた。
私の知る彼は、無口で、真面目で、ほとんど声を荒げない。
「イヴァンが問題児扱い……」
「魔法使いなんて今では希少種だからね。対処法も試行錯誤だったんだよ。一瞬で鎮められることもあれば、ますます炎上したりね」
執事の言葉を聞いて、私は学園中等部に在学しているニコル第二王子を思い出した。私とは年齢が離れているから実際に交流したことはないが、ちょっとした問題児という噂だった。私は王子をいたずら好きでヤンチャな性格なのだと思っていたが、自分で制御出来ないのなら、なかなか難しい問題である。
王子は立場上、歯向かって来られる者が限られているがイヴァンは違う。言い返したりしないイヴァンのことだから、心ない言葉を投げかけられてきっと苦労したのだろう。
「こんなに苦しめている魔法とは何なのですか? なぜ、習得と同時に操ることができないのでしょう」
魔法使いは膨大な力で他を圧倒することができる。でも、代償として大変な子ども時代を過ごさなければいけなんてあんまりだ。
「子ども時代は人生の礎です。疎かにしていいはずがありません……」
唇を噛んだ私を、執事は温かい眼差しで見つめた。
「ふふ。お子さんが大きくなったら教えてあげて欲しいね」
「何がですか?」
「魔法制御の方法だよ」
執事は廊下にある、肖像画を指差した。
若い頃の執事と侯爵、それに灰色の髪、黒い瞳をしたおそらくイヴァンと思われる少年が描かれている。
「これは坊っちゃんの本当の姿。坊っちゃんはとっても視力が良くてね。本当は遠い村も細かい粒子も見えるんだ」
「え……?」
「坊っちゃん、常に分厚い眼鏡をかけていただろう。あれは逆矯正。見えないことで魔力を抑え、喋らないことで不意な暴発を防ぎ、日常生活を送るには不便がないようにしていたんだよ」
私は目が点になった。
「逆……?」
イヴァンは元いじめられっ子だ。
原因は分厚い眼鏡と、ボソボソ喋る話し方のせい。
「かけなくても良いものをかけて、からかわれてたってことですか?」
なんということだろう。
生まれ持った魔力制御のために、自分の心を犠牲にしていたんだ。
クラスメイトだけではない。私だって、イヴァンの気に障るようなこと無意識に言ったかも知れない。このままでは顔向けできない。
「……イヴァンは今どこへ?」
「こちらに視察に来られた公爵様とお会いしています。もうすぐ戻られるかと」
「そうですか……」
そもそも、絶対に子ども《だけ》が欲しいという要望を叶えてくれそうな相手に彼を選んだのは、地味な無口な眼鏡キャラだからだ。
本当は我慢してるだけなのに、よこしまな理由で私なんかに抱かれて申し訳なくて頭がぐるぐるしてくる。
おそらくは口を開けばいつ魔法が暴発するか分からない状態だから、NOとも言えなかったのだ。
リュシアンはまだ、何が琴線に触れてスイッチが入るか分からない。イヴァンも同じだったのだろう。
「私、イヴァンのこと探してきます! 今謝らないと後悔するような気がするんです!」
「お嬢さん!」
私は踵を返すと、侯爵家の門をくぐった。
「待ちなさい、話はまだ途中……」
彼は「地味眼鏡」と呼ばれて、愛想笑いしてたわけじゃなかったのだ。言い返す言葉は浮かんでも、口に出すことができなかったのだ。きっととても悔しかったはず。
時間が経ってしまったけれど、心の内を吐露してくれるだろうか。今なら心の傷を癒せるだろうか。
「……きゃあっ!」
「おっ……と」
急いでいたからか、前をよく見ていなかったのだろう。侯爵家を出てすぐドンッと何かにぶつかって、身体が後ろによろめいた。
「す、すみません……」
「……ローズ!」
顔を上げた先にいたのは、イヴァンではなかった。
騎士団に所属し、私に何度も結婚を迫る男・アンドレであった。
「またやっちゃった……」
子どもひとり躾られないなんて情けなくて、目尻に熱いものが込み上げる。
「リュシアン! もう、何やってるの。ここは遊んんでいい場所じゃないんだよ!」
私は彼の指を強引に閉じた。しかし、執事の目はまだリュシアンと彼の指差した方へ釘付けだった。
「……ん?」
目を凝らして、生垣をよーく見た。
切ったはずのカトレアの枝の切り口から、新しい芽が顔を出している。
「きゃーあ!」
リュシアンが声を上げるのと同時に瞬く間に成長し、新たなつぼみがどんどん育っていた。
「な、なにこれ……!?」
切り口が嘘のように、枝が伸び花が咲く。
ポップコーンが弾けるように、次から次へと赤い色で彩られていく。
「あなた、こんなこともできるの!?」
我が子ながら、知らない人間と接しているようだ。百センチに満たない小さな身体に、どんなに魔力を秘めているのだろう。得体が知れない彼の力に、私は言葉を失った。
「これは驚きました……」
そばで見ていた執事も、口をポカンと開けている。
「いや、えーと、これは……」
魔法以外に、何か言い訳できるものがあるだろうか。頭をフル回転したが、咄嗟には思いつかない。その間にもみるみるうちに花は咲き、元の状態よりも実りをつけ、生け垣はカトレアの花で満開になった。
「きゃはっ! きゃはは!」
リュシアンはいつも通り自画自賛して拍手している。
「これは見事に花を咲かせましたね。当主様がご覧になったらさぞお喜びになるでしょう」
「すみません……」
なんとお詫びしたら良いか分からない。
綺麗に咲かせたから良いけれども、庭師が美しく手入れしているものなのに。私は下を向いたまま一点を見つめた。
「いいえ。頭を上げてください」
「でも……」
「当主様はとてもお心の広い方でございます。花を摘んだ、咲かせたくらいで腹を立てるような方ではありません」
執事は微笑んで、当主がいる一階の角部屋に視線を向けた。
「当主様はご高齢になられ、このところは食事やお手洗い以外のほとんどの時間をあの部屋で過ごしています。おそらく、今のカトレアの開花もご覧になっていたでしょう。外出が難しい当主様にとって、久しぶりに非日常を味わえて喜んでいることと思います」
「そう……ですか……」
私は安心して肩の力が抜けた。
執事は私を見下ろし、薄い老眼鏡の奥を光らせ、咳払いした。
「ただ、どうしても償いたいと仰るなら、ひとつお尋ねしたいことがございます」
「……え?」
「償いの代わりに、どうか教えていただけませんか」
老執事はゆっくりと歩き、リュシアンの顔を覗き込んだ。
「可愛いお嬢さん。いえ、坊ちゃまかな。君の父親は、フェリクス侯爵の御子息ではないかな」
「フェリクス……?」
イヴァンは何という名字だったか。
そういえばそんな名だったような気もするが、侯爵ということは貴族だ。彼が貴族なんて聞いたことが無い。
執事にリュシアンの出生の秘密を漏らして良いものか迷ったが、当主の寛大な心遣いに感謝しているし、ここで意見を翻して許さないと言われたらどうしようもない。私は素直に頷いた。
「そうか、そうか」
「でも、あの……」
イヴァンが子どもを望んだ訳ではない。彼には否が一切ない。
「お嬢さんが秘密を話してくれたから、私もひとつ教えなければならないね」
執事は長い白髭を触りながら、ゆっくりと語りだした。
「私がお慕いする当主、フェリクス侯爵は子どもに恵まれなかった。結婚して数年、三十路にもならぬ間に奥さまも早逝してね。後妻を娶ることもせず、しばらくこの家で私と二人で暮らしていたんだよ」
「……?」
「坊ちゃまがやってきたのはその頃だった」
執事は私の腕の中でウトウトし始めたリュシアンに優しい眼差しを向ける。
「当主様は、孤児院から小さな子どもを連れて来てしまった。ねずみ色の髪でね、身体は小さかったが賢い子だった。何でもすぐに理解して覚えてしまった」
執事の言う人物には覚えがある。
「……私の知っているイヴァンです」
執事は静かに頷くと、リュシアンをそっと撫でた。
「小さな頃の自分によく似ている、と言ってね。一番手のかかる子を養子に迎えてしまったのさ」
白い手袋をはめた執事の指が、リュシアンの小さな手に触れた。
「おおっ!?」
瞬間、黄緑色の火花が散り、執事は思わず仰け反った。
「あぁっ! この子、また……!」
「ふふふ。いいんだよ。警戒心が強いのは悪いことじゃない」
今のは静電気じゃない。
リュシアンはまた、無意識のうちに魔法を放っていたのだ。
「……驚かれないのですか?」
普通の人なら腰を抜かすところだが、執事は穏やかな口調のままである。
「なぁに。これくらい差し支えないよ」
執事は少し痺れる右手を反対側の手で抑え、目を細めた。
「うちに迎えた坊っちゃんの魔力は、この子よりも弱かった。当主様は魔法に憧れがあってよく調べていたようですから、早くに気づけたと言っていましたけどね。ここに来るまで誰も魔法だとは気づいていなかったみたいだね」
イヴァンは本当に魔法が使えるらしく、私は信じられずに執事に尋ねた。
「魔法って、呪文を唱えて自分で操るものじゃないんですか?」
「おや。君はイヴァンくんの魔法を見たことがないのかい?」
魔法学の授業でも詠唱が必須だと習ったのだ。だから、まだ言葉を話せないリュシアンは魔法が暴走してしまうのだと、腑に落ちていたのに。
「恋仲なのにかい?」
「そ、それとこれとは話が別です!」
今にして思うと、彼のことをろくに知らなかった。踏み込んだところまで話していれば、彼は私に打ち明けてくれていただろうか。
「坊っちゃんはご自身でも、どうやって魔法を起こしているか分からなかったんだ。だから気がつけば彼の周りでは発火してボヤ騒ぎが起こったり、ランプが突然消えたり、雨が降ったりね。いつも渦中の中にいるものだから、気味悪がられていたんだよ。そうですよね、当主様」
執事が角部屋へ目を向けると、フェリクス侯爵は気づいて私たちに手を振った。侯爵はベッドに横になったまま、人の良さそうな顔で笑みをたたえていた。イヴァンと同じ灰色の髪をしている。
私は記憶のイヴァンの姿を思い浮かべた。
私の知る彼は、無口で、真面目で、ほとんど声を荒げない。
「イヴァンが問題児扱い……」
「魔法使いなんて今では希少種だからね。対処法も試行錯誤だったんだよ。一瞬で鎮められることもあれば、ますます炎上したりね」
執事の言葉を聞いて、私は学園中等部に在学しているニコル第二王子を思い出した。私とは年齢が離れているから実際に交流したことはないが、ちょっとした問題児という噂だった。私は王子をいたずら好きでヤンチャな性格なのだと思っていたが、自分で制御出来ないのなら、なかなか難しい問題である。
王子は立場上、歯向かって来られる者が限られているがイヴァンは違う。言い返したりしないイヴァンのことだから、心ない言葉を投げかけられてきっと苦労したのだろう。
「こんなに苦しめている魔法とは何なのですか? なぜ、習得と同時に操ることができないのでしょう」
魔法使いは膨大な力で他を圧倒することができる。でも、代償として大変な子ども時代を過ごさなければいけなんてあんまりだ。
「子ども時代は人生の礎です。疎かにしていいはずがありません……」
唇を噛んだ私を、執事は温かい眼差しで見つめた。
「ふふ。お子さんが大きくなったら教えてあげて欲しいね」
「何がですか?」
「魔法制御の方法だよ」
執事は廊下にある、肖像画を指差した。
若い頃の執事と侯爵、それに灰色の髪、黒い瞳をしたおそらくイヴァンと思われる少年が描かれている。
「これは坊っちゃんの本当の姿。坊っちゃんはとっても視力が良くてね。本当は遠い村も細かい粒子も見えるんだ」
「え……?」
「坊っちゃん、常に分厚い眼鏡をかけていただろう。あれは逆矯正。見えないことで魔力を抑え、喋らないことで不意な暴発を防ぎ、日常生活を送るには不便がないようにしていたんだよ」
私は目が点になった。
「逆……?」
イヴァンは元いじめられっ子だ。
原因は分厚い眼鏡と、ボソボソ喋る話し方のせい。
「かけなくても良いものをかけて、からかわれてたってことですか?」
なんということだろう。
生まれ持った魔力制御のために、自分の心を犠牲にしていたんだ。
クラスメイトだけではない。私だって、イヴァンの気に障るようなこと無意識に言ったかも知れない。このままでは顔向けできない。
「……イヴァンは今どこへ?」
「こちらに視察に来られた公爵様とお会いしています。もうすぐ戻られるかと」
「そうですか……」
そもそも、絶対に子ども《だけ》が欲しいという要望を叶えてくれそうな相手に彼を選んだのは、地味な無口な眼鏡キャラだからだ。
本当は我慢してるだけなのに、よこしまな理由で私なんかに抱かれて申し訳なくて頭がぐるぐるしてくる。
おそらくは口を開けばいつ魔法が暴発するか分からない状態だから、NOとも言えなかったのだ。
リュシアンはまだ、何が琴線に触れてスイッチが入るか分からない。イヴァンも同じだったのだろう。
「私、イヴァンのこと探してきます! 今謝らないと後悔するような気がするんです!」
「お嬢さん!」
私は踵を返すと、侯爵家の門をくぐった。
「待ちなさい、話はまだ途中……」
彼は「地味眼鏡」と呼ばれて、愛想笑いしてたわけじゃなかったのだ。言い返す言葉は浮かんでも、口に出すことができなかったのだ。きっととても悔しかったはず。
時間が経ってしまったけれど、心の内を吐露してくれるだろうか。今なら心の傷を癒せるだろうか。
「……きゃあっ!」
「おっ……と」
急いでいたからか、前をよく見ていなかったのだろう。侯爵家を出てすぐドンッと何かにぶつかって、身体が後ろによろめいた。
「す、すみません……」
「……ローズ!」
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