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第十九話
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フェリックスは身を屈め、ミナミの話に耳を傾ける。
ミナミは枕の下から隠していた小瓶を取り出した。
中には白くて粘り気のある液体が入っていて、フェリックスは目を丸くした。
「……え、え、それ、誰の……」
瓶を指差したフェリックスは、困惑して声が震えている。
ミナミはクスッと笑って、他の人に聞こえないように小声で打ち明けた。
「これがスライムっていうんですよ。この国にないですか? スライム。これはね、それを模したものなんです」
ミナミは瓶の蓋を回し、中のものを取り出して見せた。
ベトベトして伸びがあり、独特の臭いが鼻をついた。
慣れているとはいえ、瓶に濃縮されているせいか本物よりも強烈な臭いで、フェリックスは鼻をつまんだ。
「お掃除のときに使うホウ砂、それから事務室の液体のりを、分量を色々試して配合しました。色は粉糖、臭いは栗の花です。どうです? 再現率高いでしょう?」
ミナミは自慢気に言った。
フェリックスは指先で拡げたりこねたりしながら、感心した様子で疑似精液を観察している。
「た……確かに、言われてみれば本物より弾力があるような気が……だがそっくりだ。まさに出したての精液」
「でしょう!? 」
想像以上の出来に嬉しそうにミナミは続ける。
夏休みに久しぶりにスライムが触りたくなって、興味本位で遊んでいて助かった。
パッケージの裏側の成分まで、よく読み込んでいた自分に拍手である。
「セックスする代わりにこれを毎晩それらしく表面に塗っておけば、人工受精は避けられるんじゃないかなって。身体にはよくないかも知れないから、身体の中には潤滑ゼリーぽいの入れただけだけど……ここを出て外国へ行くまで、妊娠しないように頑張らないとだからね!」
「そうだな……!」
それから、ミナミは上手いこと監視の目をかいくぐってスライムを作り続け、看守を欺くことに何度も成功した。
連日の性行為に疑問を持った者もいたというが、偽の液体の巧妙なつくりに、それが本物ではないと見破る者はいなかった。
そうしたなかで、ミナミはフェリックスに逃走経路の確保が難しいなら自分の目で視察すべきではないかと考えた。
自由に外出が許されているのは、女の子では妊娠している者だけだ。
繁殖させようと寄って来る男たちから身を守るのが難しい為だ。
けれども、一応は毎日の性行為ノルマをこなしている(ふり)わけだし、見張りがつけば外に出てもいいのではないかと、看守を通して上層部に訴えていたのだ。
学園のご飯は美味しいけど、そろそろこの国の市場なんかも見てみたくなった。
きたるXデー に備えて、保存食や値段などもチェックしておきたかった。
それがついに、一時間の条件付きで許可されたのだった。
「調子に乗らないでくれよ。買い出しのついでだから。どこかにフラッとでも行ったりしたら二度と外出許可与えねぇからな」
「分かってます!」
「フェリは荷物持ちだ。勃起したからってそこら辺で挿入すんなよ? データ取る方も大変なんだから。汗や体液が飛んで来たり」
「しないって」
フェリックスの友達らしい男は、この日の買い出し当番に無理矢理ミナミをねじ込んでくれた。
フェリックスは補講の時間だが、いつも一緒に補講を受けている女の子は今日は月のもので交尾活動はしないという。
月経が来ているというということは、公開自慰をしているのだ。
どっちにしろ休まらないし、フェリックスとヤってる方が絶対いい……
フェリックスのセフレのような彼女を思い浮かべ、つい憂鬱な気分になったミナミは首をブンブン振った。
どんな風に抱いているんだろうと、つい想像してしまった。
知らなくていいことは知らないに越したことはないのに。
「ベビーリーフとラディッシュ、それから……何か欲しいものはあるか?」
「うーん……グレープフルーツの気分ですかね?」
「……いいじゃん! よし、副菜はそれのサラダにしよう。ちょっと歩くぞ、アーケードの端っこのあの辺りだ」
三人は買い物客で賑わう市場を散策する。
様々な露天が立ち並び、威勢のいい呼び込みの声が飛び交っている。
外国風の出で立ちのミナミはたまに好奇の目で見られることはあったが、隣に屈強な男たちが並んでいるからだろうか、声をかけられることはなかった。
細身の女性が多い一方で、男性は程よく筋肉のついた者が多い印象だ。
(精のつくものでも食べてんのかな。まったく、自分たちばっかり食べてないで女の子にも美味しいもの食べさせなさいよね)
ミナミは呆れ顔で闊歩した。
揚げ物の香ばしい匂いが今日はやけに煙たかった。
顔に出てしまったのか、横でフェリックスが笑いを堪えていた。
「あった、あそこだよ」
市場の奥は少し寂れたような街並みが広がっているようで、果物屋はその境界に位置していた。
オレンジや檸檬、シトラスといった柑橘類の香りにミナミはとてもそそられたが、それよりもその奥がどうしても気になった。
前世でいえば貧民街のような雰囲気で、酒の樽が転がり、座り込んで薬物のようなものを吸っている人もいるからだ。
ミナミはそのうちの一人と目が合い、思わず立ちすくんだ。
フェリックスは彼女の異変に気づいて、強く手を握った。
「大丈夫、ここに制服で俺たちと来ているお前は孕んでいることになっている。あぁはならない、とりあえずはな……」
「とりあえず?」
ミナミにはさほど興味がなさそうに、その男は他の女性へ目をやった。
遠くからではよく顔が見えなかったが、長く髪を伸ばした女性の前には列をなして男たちが並んでいた。
「足首、それと太股の内側を見てみろ」
ミナミは枕の下から隠していた小瓶を取り出した。
中には白くて粘り気のある液体が入っていて、フェリックスは目を丸くした。
「……え、え、それ、誰の……」
瓶を指差したフェリックスは、困惑して声が震えている。
ミナミはクスッと笑って、他の人に聞こえないように小声で打ち明けた。
「これがスライムっていうんですよ。この国にないですか? スライム。これはね、それを模したものなんです」
ミナミは瓶の蓋を回し、中のものを取り出して見せた。
ベトベトして伸びがあり、独特の臭いが鼻をついた。
慣れているとはいえ、瓶に濃縮されているせいか本物よりも強烈な臭いで、フェリックスは鼻をつまんだ。
「お掃除のときに使うホウ砂、それから事務室の液体のりを、分量を色々試して配合しました。色は粉糖、臭いは栗の花です。どうです? 再現率高いでしょう?」
ミナミは自慢気に言った。
フェリックスは指先で拡げたりこねたりしながら、感心した様子で疑似精液を観察している。
「た……確かに、言われてみれば本物より弾力があるような気が……だがそっくりだ。まさに出したての精液」
「でしょう!? 」
想像以上の出来に嬉しそうにミナミは続ける。
夏休みに久しぶりにスライムが触りたくなって、興味本位で遊んでいて助かった。
パッケージの裏側の成分まで、よく読み込んでいた自分に拍手である。
「セックスする代わりにこれを毎晩それらしく表面に塗っておけば、人工受精は避けられるんじゃないかなって。身体にはよくないかも知れないから、身体の中には潤滑ゼリーぽいの入れただけだけど……ここを出て外国へ行くまで、妊娠しないように頑張らないとだからね!」
「そうだな……!」
それから、ミナミは上手いこと監視の目をかいくぐってスライムを作り続け、看守を欺くことに何度も成功した。
連日の性行為に疑問を持った者もいたというが、偽の液体の巧妙なつくりに、それが本物ではないと見破る者はいなかった。
そうしたなかで、ミナミはフェリックスに逃走経路の確保が難しいなら自分の目で視察すべきではないかと考えた。
自由に外出が許されているのは、女の子では妊娠している者だけだ。
繁殖させようと寄って来る男たちから身を守るのが難しい為だ。
けれども、一応は毎日の性行為ノルマをこなしている(ふり)わけだし、見張りがつけば外に出てもいいのではないかと、看守を通して上層部に訴えていたのだ。
学園のご飯は美味しいけど、そろそろこの国の市場なんかも見てみたくなった。
きたるXデー に備えて、保存食や値段などもチェックしておきたかった。
それがついに、一時間の条件付きで許可されたのだった。
「調子に乗らないでくれよ。買い出しのついでだから。どこかにフラッとでも行ったりしたら二度と外出許可与えねぇからな」
「分かってます!」
「フェリは荷物持ちだ。勃起したからってそこら辺で挿入すんなよ? データ取る方も大変なんだから。汗や体液が飛んで来たり」
「しないって」
フェリックスの友達らしい男は、この日の買い出し当番に無理矢理ミナミをねじ込んでくれた。
フェリックスは補講の時間だが、いつも一緒に補講を受けている女の子は今日は月のもので交尾活動はしないという。
月経が来ているというということは、公開自慰をしているのだ。
どっちにしろ休まらないし、フェリックスとヤってる方が絶対いい……
フェリックスのセフレのような彼女を思い浮かべ、つい憂鬱な気分になったミナミは首をブンブン振った。
どんな風に抱いているんだろうと、つい想像してしまった。
知らなくていいことは知らないに越したことはないのに。
「ベビーリーフとラディッシュ、それから……何か欲しいものはあるか?」
「うーん……グレープフルーツの気分ですかね?」
「……いいじゃん! よし、副菜はそれのサラダにしよう。ちょっと歩くぞ、アーケードの端っこのあの辺りだ」
三人は買い物客で賑わう市場を散策する。
様々な露天が立ち並び、威勢のいい呼び込みの声が飛び交っている。
外国風の出で立ちのミナミはたまに好奇の目で見られることはあったが、隣に屈強な男たちが並んでいるからだろうか、声をかけられることはなかった。
細身の女性が多い一方で、男性は程よく筋肉のついた者が多い印象だ。
(精のつくものでも食べてんのかな。まったく、自分たちばっかり食べてないで女の子にも美味しいもの食べさせなさいよね)
ミナミは呆れ顔で闊歩した。
揚げ物の香ばしい匂いが今日はやけに煙たかった。
顔に出てしまったのか、横でフェリックスが笑いを堪えていた。
「あった、あそこだよ」
市場の奥は少し寂れたような街並みが広がっているようで、果物屋はその境界に位置していた。
オレンジや檸檬、シトラスといった柑橘類の香りにミナミはとてもそそられたが、それよりもその奥がどうしても気になった。
前世でいえば貧民街のような雰囲気で、酒の樽が転がり、座り込んで薬物のようなものを吸っている人もいるからだ。
ミナミはそのうちの一人と目が合い、思わず立ちすくんだ。
フェリックスは彼女の異変に気づいて、強く手を握った。
「大丈夫、ここに制服で俺たちと来ているお前は孕んでいることになっている。あぁはならない、とりあえずはな……」
「とりあえず?」
ミナミにはさほど興味がなさそうに、その男は他の女性へ目をやった。
遠くからではよく顔が見えなかったが、長く髪を伸ばした女性の前には列をなして男たちが並んでいた。
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