黒薔薇の棘、折れる時

こだま。

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復讐の種

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 禁足地の森は、昼でも暗い。空を覆う古木の枝が絡み合い、陽射しは細い筋となって地面に落ちる。エドワードが先導し、アリスは一歩遅れて続く。二人の足音だけが、湿った苔を踏んで響いた。

「もうすぐ、結界の境目だ」

 エドワードが低く告げる。
 指先で空中に古代文字を描くと、薄紫の膜が一瞬だけ透けて見えた。

――アルデンハイト家が三百年かけて張った封印。  アリスが息を呑む。

「ここから先は……人の気配が、途切れてる」

 森の声が告げているのだろう。  結界を抜けた瞬間、風が変わった。腐った鉄と、甘ったるい血の匂い。黒い聖地の息吹。  中央には黒い岩の祭壇があった。その傍らに、リリアが立っている。銀の髪は乱れ、白い聖女の衣は血と泥にまみれていた。左肩のあたりで、黒い欠片が不気味に脈打っている。  

「待ったわよ、黒薔薇の悪鬼」

 リリアは笑った。

「もうすぐ、神体は完全に私のものよ」  

 祭壇の周囲に、黒いローブの十数人が円陣を組んでいる。全員、顔を覆うフードの下から、赤い光が漏れていた。

――欠片の共鳴者。

 リリアと同じように、体内に黒い聖地の破片を埋め込まれた者。 エドワードは一歩前へ踏み出す。

「王族の私生児、か。第三王子はこの中にいるんだろう?」

   リリアの笑みが凍る。

「……どこまで知ってるの?」

「全部だ」

エドワードは懐から、古びた羊皮紙を掲げた。

――王宮秘匿文書。

 第三王子が国外留学ではなく、黒い聖地の研究に没頭していた記録。母親の死も事故ではなく、黒い神体の欠片を埋める実験の失敗。 

 「聖女の仮面は、もう剥がれてるな」 

  ニタリと笑うエドワードと対峙するリリアの瞳が、狂気に染まる。

「ここが、貴方の終焉の地よ、喜びなさい!」

  黒いローブたちが一斉に手を掲げる。空気が歪み、闇の魔術が渦を巻く。泥のような渦の方へ、 アリスが素早く動いた。そして、彼女の左手に持つ古い矢じりのペンダントが白く光る。

――右手首の白い薔薇の刻印。 

「森よ、目を覚ませ」 

 地面が割れ、無数の根が黒いローブのものたちを縛り上げる。悲鳴が響く。
 アリスは祭壇へ一直線に向う。焦るリリアがアリスを罵る。

「平民の分際で、私の邪魔はさせないわっ――!」 

「リリア! そこをどきなさい!!!」

 祭壇を守るように立つリリアをはねのけ、アリスは右手を添える。左手に持つ矢じりの白い光が右手から放出され、黒い岩を光で満たしていく。 古代の巫覡が退魔に使った弓矢の矢じり、黒曜石の矢じりの力をめいいっぱいに放出する。

「私は、白い聖地の血脈の者。そして、あなたが奪った欠片を浄化する者」 

 リリアの右肩の欠片が、悲鳴を上げるように輝き、亀裂が入る。 エドワードは、失われた旧世界の古代の符を手に、

「黒は、俺が抑える」  

 黒いローブの者たちに陣の描かれた符を飛ばす。黒い魔術と白い魔術が、祭壇の上で渦を巻く。

――陰陽の魔術が回転をはじめ、 リリアが絶叫する。

「やめて――私達の王座が――! お父様、助けて!!」

 リリアの欠片が、完全に砕け散る。彼女は膝をつき、負の魔力の宿る神体の欠片を身体に入れた影響受けて、激しく吐血し、「聖女」の力は、霧のように霧散した。

「まだ終わらない。これからが本番だ……」

  エドワードが祭壇の奥を凝視する。神体が目覚めた。禍々しい焔があがる祭壇で、黒いローブの一行に紛れていた第三王子らしい人物が依り代となり、ゆっくりと立ち上がる。

「まさか……、殿下もご自身に欠片を……?」

――目覚めて、欠片と同期した神体の力をもつ者の姿は、古代の災厄そのもの。  エドワードとアリスは、顔を見合わせる。

「これが、旧世界を滅ぼした悪魔か……」

「……でも、一人で戦うのではないから」

 二人は、並んで悪神と向き合う。決戦の夜は、これからだ。


…***…***…***…


補足:左はエネルギーを供給、右は放出すると言う話から
放出側に欠片や刻印を、左に矢じりや神体を配置しました
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