拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

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番外編:花の女神と祝福の庭

2.どうでもよくはない

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「クリスの服は、選ばないの?」

「おれの?」
 クリスがきょとんとする。首を傾げたらふわりと銀色の髪が揺れる。

「そんなもの選んでどうするの」
「どうする、っていうのは、ないんだけど」

 男の人の服を選んだことなんてない。自分にセンスがそこまであるとも思えない。クリスと違って今まで楽しみにしていたということもない。けれど、

「私もクリスの服選んでみたいな、って」

「そっか……」
 クリスが長めの前髪をかき上げて、そっぽを向く。

「嫌かな」
「いや、そういうわけじゃなくて、そうだな」

 言いあぐねたように、こつこつと彼のブーツの爪先が床を叩いた。

「おれとしてはあんたのドレスが大事だから、おれの服なんてなんでもいいというか。あんたのドレスから決めるのが常識だろ、多分」

「なんでもよくは、ないよ」
 ジャケットの裾を掴んだら、青い目がはっとした。

 この幼馴染はすこぶる顔がいいし口も立つ。大抵の場合、私は口喧嘩で歯が立たない。

「婚約式のドレスは普通の夜会のドレスとは違うんでしょ? だったらクリスの服も、そうだよ」

 しかしながら、こちらはこれでも四つ年上だし付き合いも長い。

「二人で一緒に出るんだもん。私のが特別で、クリスのがどうでもいいってことはないよ」

「それは、そうだけどさ」
 私が言ったことなら即座に反論してみせるクリスでも、自分でこねた理屈ならそうでもない。なんだか気恥ずかしそうに頬をかいた。

「あら、いいじゃない。クリスはいつも黒とか紺とか無難なものしか着ないものね。せっかくなら面白そうなものも試着させてみましょう」

 エステル様がぱっと手を合わせて少女のように高らかに言う。
 これで、援護射撃は完璧。

「面白そうなものってなんですか、母上。おれは玩具じゃないんですよ」
 怜悧な顔が途端に不機嫌そうになる。

「タキシードも色んな種類があるんですか?」

 静かに控えるローランさんに目を遣れば、にっこりと微笑んで彼女は応えてくれる。

「はい。様々なものを取り揃えております。ご用意しましょうか?」

「お願いします」

 玩具というのなら、私はいつも着せ替え人形さながらに試着をさせられているのだ。
 楽しくないわけではないけれど、なかなかに重労働ではある。クリスも少しくらい体験してみるべきだ。

「それじゃあクリス。着替えよっか」

 頭一つは高いところにあるその目に、私も微笑み返してみる。
 少しの間そうしていたら、長身は観念したように一つ息を吐いた。

「わかったよ。着ればいいんだろ、着れば」
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