拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ

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第一部:私だけの物語

49.ずっと一緒だよ

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 年下の幼馴染の前で、私はひどく“お姉さん”を演じていた節があった。なんでも知っているフリをして、強引に手を引いて、振り回していた。
 こんな惨めな私を、クリスには見られたくなかった。誤魔化すように、必死でごしごしと手の甲で涙を拭った。

『そんなふうにしちゃ、だめだよ』

 子供の手が私の頬に伸びてくる。その指は、そっと涙を拭ってくれた。

 そのあたたかさに触れたらもう、だめだった。涙があとからあとから溢れて止まらない。

 ぎこちない手つきで、頭に手が伸びてくる。
 私がよくそうしたように、クリスは髪を撫でてくれた。

『悲しいことがあった時は、ないてもいいと思う』

『くり、す……』
 自分よりも一回りは小さな背に縋りつく。そうしていないと自分が保てなくなりそうだった。

 いきなりのことで彼も驚いたはずだ。けれど、クリスは私を振りほどくようなことはしなかった。

『明日が来るのがね、こわいんだ』

 だって、昨日までは何も変わらなかったのに。ちゃんと幸せだったのに。目を閉じてまた開けたら、世界は変わってしまった。

 未知のきらめきに溢れていた明日が途端に、ぽっかりと口を開けている闇のように見えて、踏み出すのが恐ろしくなった。

『ずっと今日のままでいられたらいいのに』

 そうすれば、こんな悲しい思いをしなくていいのに。ずっと、楽しい思い出の中にいたかった。

『それは、だめだよ』

 澄んだ青い瞳は、私の我儘を静かに、けれど強く退けた。

『僕は大人になりたいから。だから、明日が来ないといやだ』

 きゅっと、クリスは私の手を握る。

『怖いのなら、僕が幸せな明日を祈るよ』

 ああ、どうしてこんな大切なことを忘れていられたんだろう。

 いや、違う。忘れていたんじゃない。

『何年だって、何十年だって、キャロの幸せを願うから。だから、そんなこと言わないで』

 これは私の根底にあるものだから。思い出すこともないぐらい、深く結びついていたから。だからだ。

『ねえ、クリス』
『なあに』

『じゃあ、クリスはずっと、私と一緒にいてくれる?』

 もう嫌だったのだ。自分の前から誰かがいなくなってしまうのが。

『うん、いるよ』
 決して大きな力強い手ではない。それでも、確かな命綱のように私を繋ぎ止めてくれた。

『僕がずっとキャロのそばにいる。ずっと一緒だよ』

 アラン様の言った通りだ。
 ちゃんと一番近くに、私の青い鳥はいたのだ。

 私がそう願ったから。だから、彼は応えてくれた。

 また、足音がする。今度は、しっかりとしたブーツの音だ。
 そうだ。彼はいつも、私を見つけてくれる。

 呆れたような溜息の後に、クリスは言う。
「あんたはいつもそこにいるね」
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