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第三部:物語のその先
4.私の運命の人
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「おれとしては、そういうことなのであんたもさっさと慣れて」
顔はいいけれどちょっとばかし口が悪いことだけが欠点だった幼馴染が、晴れて婚約者になった途端これである。
あれから、アラン様は私との婚約を取り下げた。
けれど、あることを条件に我がスタインズ家への援助を継続することは約束してくれた。
「えっと、えっと」
その条件は、私自身が結婚相手を選ぶことだった。
おかげで、私はこうしてクリスと一緒にいることができる。
もしかして、そうすることで私を守っていてくれたのかな、とも思ったりもする。
ちなみに今はラザフォード家とも取引があるのだとクリスがこの世の終わりのような顔をして教えてくれた。
さて、クリスはもはやつっこみどころが何もない、本物の貴公子になってしまった。
こうなると、私も他のご令嬢となんら変わりない。赤くなった頬を隠したくて俯いていることしかできなかった。
「そ、そういえばさっき、何を描いていたの?」
話題を変えたくてそう言ったら、青い目は先ほどまで向かっていたスケッチブックを睨みつけた。
「ああ、これか」
そんな難しい顔をして、彼は何を描いていたのだろう。
「どうかしたの?」
今度は私が、そう問いかける番だった。
「いや、出来に満足できないだけ」
どうやら自分が描いた絵がお気に召さなかったらしい。きっと上手だと思うのに。
「ちょっと見せてよ」
私が覗き込むと、クリスはすごい勢いで体を捩ってスケッチブックを隠してしまう。
「これは、だめだ」
「え、どうして」
「あんたの絵だから」
そのまま明後日の方向を向いて、ぽつりと零す。
「私の絵……」
ずっと風景を描いていると思っていたのに、そんな。
というかこれだけの絶景を前にして、私を描くこともないだろうに。
「え、だったら余計に私に見せてくれたらいいのに!」
勝手にモデルにされたのなら、それぐらいのことを言う権利は私にもあるだろう。
「いいけど、もう少し上手になってからね」
この返答には覚えがある。いつかのクリスもそう返してきた。
「それっていつ?」
「さあ。おれがおじいさんになるぐらいまでには何とかなると思うけど」
勘弁してほしい。こっちはクリスより四つも年上なのだ。
「その時の私の年も考えてほしいな。普通におばあさんじゃない」
「しょうがないだろ。何回描いても現物に敵わないんだ。おれのせいじゃない」
口が立つ上に素直になってしまえば、相手はもう無敵である。勝てる気がしない。
「もう! クリスのいじわる」
「おれがいじわるなのは別に今に始まったことじゃないけどね」
スケッチブックを置いて、クリスが立ち上がる。
すらりとした長身が私の前に立つ。その手が顎を掬っていって、見つめ合わされる。
「じっとしてキャロ」
首を傾げた私に、クリスはにこりと笑って言う。
「動いたらモデルにならないだろ」
確かめる様に、長い指が私の頬を撫でる。
青い瞳が不思議な光を宿して輝く。頭の先からつま先まで見定める様に、熱を孕んだ目が滑っていく。
「大丈夫。おばあさんになってもきっと、キャロはかわいい」
その目を見れば分かった。彼が今心に宿している、ささやかな企みが。
なんだろう。全部嬉しいのに、どこか悔しくもある。してやられてばかりでは、いたくない。
私も立ち上がって銀色の頭を見上げる。それは少し高いところにあるけれど、届かないほどではない。
その広い肩に手を置く。
「キャロ……?」
そして、これから先にすることを考えて、私はたまらなく愉快な気持ちになる。戸惑いを浮かべる青に、微笑笑みかけてみる。
だって、私の方が先に好きだったんだから。
背伸びをして、私はクリスの頬にキスをした。
顔はいいけれどちょっとばかし口が悪いことだけが欠点だった幼馴染が、晴れて婚約者になった途端これである。
あれから、アラン様は私との婚約を取り下げた。
けれど、あることを条件に我がスタインズ家への援助を継続することは約束してくれた。
「えっと、えっと」
その条件は、私自身が結婚相手を選ぶことだった。
おかげで、私はこうしてクリスと一緒にいることができる。
もしかして、そうすることで私を守っていてくれたのかな、とも思ったりもする。
ちなみに今はラザフォード家とも取引があるのだとクリスがこの世の終わりのような顔をして教えてくれた。
さて、クリスはもはやつっこみどころが何もない、本物の貴公子になってしまった。
こうなると、私も他のご令嬢となんら変わりない。赤くなった頬を隠したくて俯いていることしかできなかった。
「そ、そういえばさっき、何を描いていたの?」
話題を変えたくてそう言ったら、青い目は先ほどまで向かっていたスケッチブックを睨みつけた。
「ああ、これか」
そんな難しい顔をして、彼は何を描いていたのだろう。
「どうかしたの?」
今度は私が、そう問いかける番だった。
「いや、出来に満足できないだけ」
どうやら自分が描いた絵がお気に召さなかったらしい。きっと上手だと思うのに。
「ちょっと見せてよ」
私が覗き込むと、クリスはすごい勢いで体を捩ってスケッチブックを隠してしまう。
「これは、だめだ」
「え、どうして」
「あんたの絵だから」
そのまま明後日の方向を向いて、ぽつりと零す。
「私の絵……」
ずっと風景を描いていると思っていたのに、そんな。
というかこれだけの絶景を前にして、私を描くこともないだろうに。
「え、だったら余計に私に見せてくれたらいいのに!」
勝手にモデルにされたのなら、それぐらいのことを言う権利は私にもあるだろう。
「いいけど、もう少し上手になってからね」
この返答には覚えがある。いつかのクリスもそう返してきた。
「それっていつ?」
「さあ。おれがおじいさんになるぐらいまでには何とかなると思うけど」
勘弁してほしい。こっちはクリスより四つも年上なのだ。
「その時の私の年も考えてほしいな。普通におばあさんじゃない」
「しょうがないだろ。何回描いても現物に敵わないんだ。おれのせいじゃない」
口が立つ上に素直になってしまえば、相手はもう無敵である。勝てる気がしない。
「もう! クリスのいじわる」
「おれがいじわるなのは別に今に始まったことじゃないけどね」
スケッチブックを置いて、クリスが立ち上がる。
すらりとした長身が私の前に立つ。その手が顎を掬っていって、見つめ合わされる。
「じっとしてキャロ」
首を傾げた私に、クリスはにこりと笑って言う。
「動いたらモデルにならないだろ」
確かめる様に、長い指が私の頬を撫でる。
青い瞳が不思議な光を宿して輝く。頭の先からつま先まで見定める様に、熱を孕んだ目が滑っていく。
「大丈夫。おばあさんになってもきっと、キャロはかわいい」
その目を見れば分かった。彼が今心に宿している、ささやかな企みが。
なんだろう。全部嬉しいのに、どこか悔しくもある。してやられてばかりでは、いたくない。
私も立ち上がって銀色の頭を見上げる。それは少し高いところにあるけれど、届かないほどではない。
その広い肩に手を置く。
「キャロ……?」
そして、これから先にすることを考えて、私はたまらなく愉快な気持ちになる。戸惑いを浮かべる青に、微笑笑みかけてみる。
だって、私の方が先に好きだったんだから。
背伸びをして、私はクリスの頬にキスをした。
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