大好きな許嫁の弟と結婚することになりました

藤原ライラ

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八、視線

 目が覚めると、布団の上に寝かされていた。

「っあ、あれ」

 うまく声が出せない。立ち上がろうとしたのに、ぺたりと座り込んでしまう。足に力が入らなかった。体はきちんと拭き清められて、彩恵はちゃんとワンピースを着ている。

 とろりと、奥から放たれた精が零れてくる。さっきまで何をしていたのかを思い返して、頬が熱くなる。

「目が覚めたんだね」

 おはようと、尊が頭を撫でてくれる。揶揄うように、赤くなった顔をつつく。

「尊さん」
 この人に抱かれて、わたしはその後意識を手放していたらしい。

「無茶をさせてすまなかったね。君があんまりにも、可愛らしくて」
 囁く声は、甘くやさしいもの。蕩かすような響きに、彩恵はそっとその胸に身を寄せた。

 ああ、よかった。いつもの、尊さんだ。

 縁側に面した障子が開いていた。西日が差し込んで畳の上に落ちる。ここの縁側からは、庭を通して玄関までが一直線によく見える。

 どれぐらいの間眠っていたのだろう。帰らなければ、家族が心配してしまう。今日は黒木の家にそこまで長居をするつもりではなかった。

「あの、わたし」
「うん、送って行くよ。うちの者に車を出させるから」

 膝裏に手が回されて、抱き上げられる。彩恵が持ってきた鞄も全て、彼が持ってくれている。
 尊にこんなことをさせてはいけない。それに、

「重たく、ないですか」

 どうしていいか分からずに、自分で自分をぎゅっと抱き締める。起きたばかりだからだろうか、まだふわふわと思考がまとまらない。

「全然。軽すぎるぐらいだ。ああ、手は首に回していて」

 言われるがままに首に手を回せば、ぴたりと、体が密着した。とくとくと、規則正しい心臓の鼓動を感じる。ただ包み込まれる体温に身を任せる。

 一瞬、頭の後ろに突き刺さるような視線を感じた。

 誰か、いるの。
 振り返ってみたけれど、そこには誰の影もない。

「彩恵、どうかしたの」
「いえ、なんでも」

「そう。では、行こうか」

 まるで物語の中のお姫様のように、尊は自分を丁重に扱ってくれる。彩恵は一度も床に足をつけることなく、黒木家を後にした。
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