大好きな許嫁の弟と結婚することになりました

藤原ライラ

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十八、お前の望み

 彩恵の兄が亡くなったと聞いた時、何も考えなかったわけではない。けれど、それ以上何かを探ろうとすることを翔の頭は全力で拒否した。見たくないものに蓋をして、過ごしていた。

 兄に離れに呼ばれた時、それは確信に変わった。

「お前、彩恵のことが好きなんだろう?」
 にたりと、尊が口角を上げる。翔はこの兄とあまり顔が似ていない。

「なんですか、急に」

 夏だというのに、暑さを全く感じなかった。冷や汗が背筋を伝っていく。なにか恐ろしいことが起きる気がする。

「だから、やるよ。お前に」
「どういうことですか」

「恵一がいなくなったからね。彩恵は家を継がなきゃいけない。俺はほらでも、長男だから」

 ここまで言えば分かるだろうと、尊は顎をしゃくってみせる。思わず、翔は後ずさりをした。砂壁にすぐ背が当たって、ぺたりと不快にシャツが貼りつく。

 込み上げてきた吐き気に口元を押さえる。胃液で喉が焼かれたように熱い。恐ろしいことは、既に起きていた。

「何を、したんですか」

 尊は昔から、人心掌握に異常に長けていた。兄の言うことなら二つ返事で何でもする輩が山のようにいることを、一番近くで育った自分はよく知っている。だから、大体のことは想像がつく。

「さあ、なんだろうね」

 けれど、こんなおぞましいがあって、たまるか。
 人を人とも思っていない。この男にとって、自分以外の人間は全て便利な駒の一つでしかない。
 彩恵はあんなにも、あなたを慕っているのに。それに、

「あいしてるって、言ったじゃないですか」

 隣の部屋から聞こえた兄の声は確かにそう言ったのに。

「ああ、やっぱり聞いていたんだ」

 すっと、尊の目が眇められる。氷のような視線に動けなくなる。そこで、自分が最悪の手を打ってしまったのだと理解した。

「盗み聞きなんて最低の下衆げすがすることだよ」

 兄が、翔の方へと歩を進めてくる。

「ねえ、翔。愛とはなんだろうね」

 目の前に立たれれば、いつの間に追い越していたのだろう、兄よりも自分の方が背が高かった。

「お前が、彩恵の声を聞きながら股間を膨らませていたことを愛と呼ぶのかな? それとも別の何かかな?」

 それでも、言い返すこと一つできない。体ばかり大きくなったけれど、翔はまだ小さな子供のままのよう。

「なあ、興奮しただろう? 抱きたいだろう? 嬉しいんだろう?」

 ああ、まただ。
 あのブリキの人形と、ワンピースを着た彩恵の姿がぴったりと重なった。ぐるりと片方だけの目がこちらを向いて、翔を捉える。

「俺はやさしいからね。いいよ、俺のお古・・でいいならあげる」

 伸びてきた手はよしよしと頭を撫でる。

「だってそれがお前の望みじゃないか。嘘を吐いちゃいけないよ」
 否定をすることが、できなかった。
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