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十九、全部僕のせい
翔のせいで、彩恵は大切な兄を失った。
翔のせいで、彩恵は好いた人と添い遂げられない。
「兄さんっ!」
手にしたいと思ったわけじゃない。兄さんの隣でいい。彩恵に笑っていて欲しかった。幸せになって欲しかった。本当に、そう思っていたのに。
「あれ、断るの。いいのかい?」
兄は、ほとんど叫ぶような自分の声を遮った。おかしくてたまらないとばかりに、尊が首を傾げる。
「お前が断れば、うちが払った結納金が全部借金になる。大変だろうね、あの額を返すのは。瀧沢の家は破産するかもしれないね。お前、彩恵が路頭に迷うのを見たいの? 随分といい趣味をしているじゃないか」
「違う、そんなこと、僕は、僕はっ!」
膝から崩れ落ちる様に力が抜けた。もうどうやっても、逃れられない。これでは完璧な詰みだ。
「なあ、翔」
これが最後通牒だというように、肩にぽんと手を置かれた。
「瀧沢にはお前が弔問に行くんだ。全部きちんと説明するんだよ」
その重苦しさに肺まで潰されたようになる。うまく息が吸えなくて、ひゅうっと喉が情けない音で鳴った。
「吹けば飛んでような塵芥の分際で、幸せになりたいだなんて烏滸がましいんだよ。ちゃんと、頑張ろうなあ」
他人を踏みつけて、足蹴にして、それでも己の欲しいものを願った。
愚かで浅ましいこの僕が、今も確かに息をしたいと望んでいる。
「そうだ。お前にもう一つ、良いことを教えておこう」
這うような低い声で、兄は話し始める。
「彩恵はね、口ではいやだと言いながら奥をめちゃくちゃに突かれるのが好きなんだ。ちゃーんと俺が開発しておいたからね」
声を立てて、尊は笑った。
聞きたくない。こんな汚らわしい話、聞きたくない。けれど、またあられもない彼女の姿が頭に浮かんできてしまう。
兄は一体何度、彩恵とまぐわったのだろう。
「お前は知らないだろうけど、少しぐらいひどくしてやった方が喜ぶんだよ。せいぜい好きなだけ、堪能すればいい」
兄の手が額に触れる。わざと伸ばしている前髪を上げられたら、もう遮るものはない。
「ひっ、はっ、もう、やめっ、やめてく」
ただ強制的に見つめ合わされる。
翔の耳元に口を寄せて、兄は満足げに囁いた。
「ああ、やっぱり、お前はいい顔をする。俺はずうっと、その顔が見たかったんだ」
そう言い残して、尊は部屋から出て行った。一人残された翔は、へたり込んだまま頭を抱えて唸るような声を上げた。
「ぁぁああああああっ!」
何もかも、全部、僕のせいだ。
翔のせいで、彩恵は好いた人と添い遂げられない。
「兄さんっ!」
手にしたいと思ったわけじゃない。兄さんの隣でいい。彩恵に笑っていて欲しかった。幸せになって欲しかった。本当に、そう思っていたのに。
「あれ、断るの。いいのかい?」
兄は、ほとんど叫ぶような自分の声を遮った。おかしくてたまらないとばかりに、尊が首を傾げる。
「お前が断れば、うちが払った結納金が全部借金になる。大変だろうね、あの額を返すのは。瀧沢の家は破産するかもしれないね。お前、彩恵が路頭に迷うのを見たいの? 随分といい趣味をしているじゃないか」
「違う、そんなこと、僕は、僕はっ!」
膝から崩れ落ちる様に力が抜けた。もうどうやっても、逃れられない。これでは完璧な詰みだ。
「なあ、翔」
これが最後通牒だというように、肩にぽんと手を置かれた。
「瀧沢にはお前が弔問に行くんだ。全部きちんと説明するんだよ」
その重苦しさに肺まで潰されたようになる。うまく息が吸えなくて、ひゅうっと喉が情けない音で鳴った。
「吹けば飛んでような塵芥の分際で、幸せになりたいだなんて烏滸がましいんだよ。ちゃんと、頑張ろうなあ」
他人を踏みつけて、足蹴にして、それでも己の欲しいものを願った。
愚かで浅ましいこの僕が、今も確かに息をしたいと望んでいる。
「そうだ。お前にもう一つ、良いことを教えておこう」
這うような低い声で、兄は話し始める。
「彩恵はね、口ではいやだと言いながら奥をめちゃくちゃに突かれるのが好きなんだ。ちゃーんと俺が開発しておいたからね」
声を立てて、尊は笑った。
聞きたくない。こんな汚らわしい話、聞きたくない。けれど、またあられもない彼女の姿が頭に浮かんできてしまう。
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「お前は知らないだろうけど、少しぐらいひどくしてやった方が喜ぶんだよ。せいぜい好きなだけ、堪能すればいい」
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「ああ、やっぱり、お前はいい顔をする。俺はずうっと、その顔が見たかったんだ」
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「ぁぁああああああっ!」
何もかも、全部、僕のせいだ。
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