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第15章 ベンチのドラゴン

第88話 古代魔道具のおもちゃ

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 ミニアは近頃、近接魔法学に入り浸っていた。
 今日もティをベンチに置いて練習に励んでいる。
 連れていってもらっても意味がないと俺は思っているからまあ良いが。
 感覚共有させていた意識を戻し魔法開発に割いていると、ティの隣に誰かが座った。
 誰だ。
 ティに意識を戻すとライナルドだった。
 またお前か。
 愚痴ぐらい聞いてやるよ。
 言ってみな。
 考えが通じたのかライナルドがぽつぽつ喋り始める。

「なんだ。俺の何がいけない。なぜ一番になれないんだ。お前のご主人は今度、講師の試験を受けるんだってな。自信があるらしい。友達と遊び歩いているのがむかつく。今日だって受ける必要のない近接魔法学に行ったのを見た。俺はあいつに勝てないのか」

 ミニアも努力しているよ。
 剣だって毎日振っているし、俺の所に来て魔法の知識を貪欲に吸収している。
 そりゃ、毎日セラリーナ達とお喋りはしているけど、息抜きも必要だろう。
 お前の悪いところは余裕のなさなんじゃないか。
 ミニアを通じて話すとややこしい事になりそうだから、伝える事はできないけどもさ。
 少しは力抜けよ。
 今、いい匂いを出してやるから。

「おっ、少年。ちょうどいい所にいるのだ」

 来たのはキャラナじゃないか。
 蓋の閉まった瓶を抱えていた。

「何か用ですか」
「この蓋がね。強敵なのだよ。何ともならんのだよ」
「開ければ良いって事ですか」
「そうそう、任した」

 そう言って瓶をライナルドに渡した。

「むむむむ。本気でやって良いですか」

 ライナルドは軽く力を入れたみたいだが瓶の蓋は緩まない。

「すぱっとやって」
「どゃりぁー。ミニアの馬鹿野郎」

 メキメキっと音がしてバキンと割れる音が。
 見ると瓶の首が砕けて蓋も砕けていた。

「す、す、すいません」

 平謝りするライナルド。
 こいつ、もの凄い握力だな。

「いいよ。開けば良いんだ。問題なし」

 そう言ってキャラナは手を握り親指を突き出した。

「そうは行きません。弁償させて下さい。これで足りますか」

 そう言ってライナルドは金貨一枚を出した。

「これじゃ貰いすぎだよ。じゃ、少年にはこの古代魔道具をあげよう」
「これ何ですか」

 キャラナがポケットから出した魔道具はハンドグリップの形をしていて、ライナルドは受け取った魔道具を眺めつつ尋ねた。

「強く握るとナイフが飛び出る魔道具だよ。試してみたけど木にも刺さらなかった。完全におもちゃだね」
「せっかくだから、頂きます」

 ライナルドは樹に向って魔道具を使った。
 轟音と共にナイフが飛び出し、樹を貫通して庭石に突き刺さった。

「これ、凄い威力じゃないですか。こんなの頂けません」
「もうあげた物だし。たぶん少年だからあの威力が出たんじゃないかな」
「一生の宝にします」
「それにぶっちゃけると。それ銅貨十枚」
「でも宝です」
「納得してるならいいけどさ」

 そう言ってからキャラナは去って行った。

「俺の役に立たない特技がこんな事になるなんて」

 この世界の人間って自然と筋力強化の魔法を使っているんだよな。
 もしかしてライナルドはそれが握力に偏っているのかも。
 タイプとしては戦士系だけど、能力は握力特化。
 不憫な奴だ。
 この古代魔道具が突破口になると良いがな。
 だが、ミニアの勝ちは俺が譲らん。

「なんか、スライム君が幸運の女神に思えてきたよ。君に会うと良い事が起こる。この間も良い事があった」

 おいおい、へんな事を言い出すなよ。
 ティって女なのか。
 そもそも、スライムに性別ってあるのか。
 変な事を考えてしまった。

「今から一戦交えてくる。ついて来てくれないか」

 もしかしてミニアにその物騒な物を向けるつもりじゃないだろうな。
 ライナルドの肩を食えとティに伝言魔法を送る。
 ティは差し出された手をつたって肩に登った。
 俺は動くなと伝言した。
 ティの食べる動作が止まる。

「そうか一緒に行ってくれるのか」

 ミニアが心配だからな。
 ミニアの所に行くなら警告しないとな。

 ずんずんと迷いなくライナルドは歩く。
 おいそっちは校舎じゃないぞ。
 いったいどこへ行くんだ。
 この道は。
 ひょっとして、従魔小屋か。
 ああ、フェンリルにリベンジするのか。

 俺の推測は当り、例の小屋に入った。
 何時もとライナルドの気迫が違うのに気がついたのだろう。
 フェンリルは唸り少し怯んだ様子をみせる。

「勝負だ」

 その声と共にフェンリルがブレスを吐く。
 ライナルドは片手を突き出し古代魔道具を握って力を込めた。
 轟音と共にナイフが飛び出し、ブレスを切り裂いた。
 そして、フェンリルの額に当る。
 フェンリルは死に至らなかったものの気絶したらしい。

「勝った。勝ったぞ。俺はこの握力で天下を取るんだ」

 取れたら良いね。天下。
 フェンリルの子供にやっと勝てるぐらいじゃ、まだまだだな。
 フェンリルは身を振るわせると立ち上がると、尻尾をふりふりライナルドの前にゆっくりと歩き始めた。
 そして、檻の金属棒の前にちょこんと座り込んだ。

「よし、よし」

 ライナルドは檻の中に手を入れフェンリルを撫で始めた。

「飼ってはやれないんだ。その代り今度来る時はお前の好きそうな餌を持って来るよ」

 友達が出来てよかったな、ライナルド。
 俺は友達になってやれないからな。
 ティはどうだか分からないが。
 早くベンチに戻してくれよ。
 ミニアが戻ってきた時にティが居ないと心配する。
 一応、伝言魔法を送っておくか。
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