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前編
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「佐々木さーん!佐々木 実さーん!ニコふきふき社です!こんにちはーいらっしゃいますかー?」
うららかに晴れた土曜の昼下がり、大きな洋風建築の屋敷の前で若い男の張り上げる声がしていた。
時折入り口の扉の、ドアノッカーがカンカンと鳴らされる音も響いていた。なかなか館の主人は出て来ないようで、困ったのか紺色の帽子を被った茶髪の若い男は再びドアノッカーを叩いている。
男は紺色の作業着を身につけて、白いマスクに白い手袋をしていた。胸の作業員ネームプレートにはニコふきふき社、家事作業員と書いてあった。
「佐々木さーん!ニッコリお試しプランお申込みの佐々木さーん!いらっしゃいますかー?」
出て来ないなあ、携帯で電話をかけようかと茶髪の男が携帯を作業着のポケットから取り出した時、やっと扉の向こうで物音がしてギシギシ音を立てて扉が開いた。
「あ、こんにちは!ニコふきふき社の、小林太郎といいます!今日はよろしくお願いします!」
扉から出てきた鬱陶しい長さの黒髪の男を見て、作業着の男がにこやかに紺色の帽子を取って挨拶をした。
「家事作業員の人?ああ、うん、よろしくね。じゃあこっち、上がってよ」
黒髪の男は帽子を取った茶髪の男を一瞥して、踵を返した。黒いのは髪だけではなく、マスクも黒、シャツも黒、ワークパンツも黒と全身黒づくめの男だった。
この界隈でコウモリ男と噂されている佐々木は、非常勤講師をしている大学でも黒い服に加えて黒のコートに黒の鞄、黒いマフラーと手袋を着用しているのも目撃されていると、社内の経理の女性にあらかじめ聞いていた小林であった。
噂通り黒ずくめだ、と思いながら小林は自分の大きな作業鞄からタブレットを取り出した。
「佐々木さん、お申込みのプランは、ニッコリお試しプランでよろしかったですね?こちらの画面で、指かこのタッチペンでご署名お願いします」
小林はそう確認しながら、佐々木にタブレットとタッチペンを手渡した。
佐々木はタブレットを受け取り、タッチペンは握りながら、指で画面に自分の名前を書き出した。指紋がつくから、タッチペンの方にしてほしかったなと思いながら小林はその様子を見ていた。
「家事代行サービスだから、女性が来るのかと思ったら男が来るんだね」
「あー、そうですね、女性もいますが、今日は俺が空いてまして、来させていただきました」
家事代行サービスなどを手がけているニコふきふき社は申し込みのあった家庭に家事作業員を派遣する会社である。
会社では一つの家庭につきだいたい二人一組の家事作業員を派遣する事になっている。しかし人手が足りなかったので小林一人が派遣された。
大学生である小林は、仕送りだけでは乏しい学費と生活費の足しにアルバイトを探していて、家事が得意な人募集明るく笑顔溢れる職場です、と言う謳い文句とかなり高額な時給に惹かれニコふきふき社に登録してしまい今ここに居る。
小さい頃から兄弟の面倒を見ていたので、家事全般をやる事には慣れていたが思ったより重労働で、笑顔溢れるか?と疑問に思いながら時給に釣られて登録した事を少し後悔し始めた小林なのだった。
「ニッコリお試しプランは、一週間当社の家事代行サービスを料金半額でお試しいただけるお得なプランとなっております。一週間お試しされた後気に入って頂けましたら期間のご延長も可能となっております。そのさいご利用料金の方は正規の料金となってしまいますのでご注意下さい。担当するのはわたくし……」
「小林太郎くんだよね。さっき聞いた」
小林が名乗ろうとした時に佐々木に口を挟まれ、マニュアルなんだよ、言わせろ!と内心イラッとしてしまった小林だった。
しかし笑顔を溢れさせないといけないので必死に笑顔を作った。
「そうです、小林太郎です!もう覚えて頂けたのですね?先生!」
「先生?僕を知っているの?」
小林が笑顔で先生、と佐々木に呼びかけると、佐々木は首を傾げて小林に問い返した。
「先生、俺が通っている大学の非常勤講師をされてますよね?俺は先生の授業は取ってないから会ったことはないですが」
「あー、あそこの生徒さんなの?なるほどね、ふーん、そう」
佐々木は言葉ではなるほどと言いながら、小林の方を見ようともせず答えた。あまりその事には興味が無いらしい。
小林はタブレットを作業鞄にしまい、代わりに紺色のエプロンを取り出していた。
「では、早速ですが作業を始めさせて頂きますね」
小林はそう言うと作業着の上着を脱いで鞄にしまい、白いシャツ姿になった。
その上から紺色のエプロンを身につけた。
「さっきの作業着のままじゃ駄目なの?」
佐々木が小林の身につけたエプロンを指差して聞くと、小林は冷ややかなトーンの口調で面倒そうに答えた。
「サービスをする時は、このエプロンをつけないと家事をしている感が出ないらしいので」
会社に登録をした後悔の件は、この紺色エプロン着用ルールの事もあった。
ニコふきふき社の忌々しいマスコットキャラクターでアライグマの出来損ないのようなキャラもしっかりエプロンポケットに刺繍されている、かわいらしいと言えない事もないデザインのエプロンを小林は身につけたくなかったのだ。
「そうなんだ。色々あるんだね。じゃあ、小林くん、頼んだよ。こっちから奥の方に入れるからね」
小林が少し見回すと、天井がとにかく高く広い洋館の入り口の空間が、日本離れした雰囲気で驚いた。
それから応接間に続くであろう廊下を佐々木と二人歩いていて、こんなものどうやって一人で掃除するんだと小林が途方にくれていると、この家広いから使っている部屋だけ掃除してくれたらいいよ、と佐々木が言ったので小林は胸を撫で下ろした。
「なんでこんな大きな家で、一人で住んでいるんですか?」
小林は佐々木が大きな屋敷に住んでいるコウモリ男だと噂されているのを知っているのかなあと思いながらふと聞いてみた。
屋敷は一家心中のあった事故物件らしい、って悪趣味な噂もあったっけ。
「ここはお爺さまの持っている物件で、人に貸していたんだけど住んでいた前の家族が借金苦で一家心中したらしくて、貸り手がいなくなって僕が管理がてら住む事になったんだ」
先生、お爺さまって言い方……って、事故物件、本当だったのかと小林は思った。
「先生はそんないわく付きの家、怖くないんですか?」
「生きてる人間と住むより良いよ。慣れると結構快適なんだよ、ここ。周りに家も無いし。ご近所も遠いし。静か」
会社の経理さんが言っていたコウモリ男はどうやら資産家の一人息子らしいって噂はあながち嘘ではないのかな、と小林は思った。
さすがにプライベートな質問すぎて佐々木には聞けなかったが。
「この部屋は僕がよく居たり、僕が作業したりしている事が多いよ。ここはこまめに掃除してもらってもいいかも。でも、あんまり散らかってないけどね」
佐々木に案内されたのは廊下の奥にある少し広めの部屋だった。散らかっていない、と佐々木は言ったがどこがだよ、と小林は思った。
汚いわけではなかったが、物がたくさんあり雑然としていて、紙だの本だの何に使うか分からない棒だの、旗だの、ぬいぐるみだの、どこの器械の部品か分からないものが積まれていたり、黒いカーテンが閉められていてとにかく空気が悪く感じたので小林は黒いカーテンを開け、窓を開け放した。
窓を開けるとすぐそばに木が立っていて、元気な緑の葉が映えていて結構良い眺めだった。きれいな風も入ってくるし、しばらく窓を開けていようと小林は思った。
「ちょっと、窓閉めてよー。寒いじゃん」
佐々木は唯一きれいに片付いて見える机に置かれているノートパソコンを開き、立ち上げながら口を尖らせて小林にそう言った。
「この部屋、空気悪いですからしばらく窓開けて換気しますね」
「えー。別に空気、悪くないけどな。すぐ閉めてよね」
佐々木は納得のいかない様子で寒いのにーとまだ文句を言いながら立ち上がったノートパソコンの方に向かって何やらカタカタと文字を打ち込んでいた。
「お仕事ですか?」
あまり佐々木とは意見が合わなさそうに感じた小林だったが、依頼主とコミュニケーションをするのも仕事だと思って、佐々木がやっている事に対して興味は無かったが一応質問をしてみた。
「仕事と言うか、ライフワークだね。思いついたアイディアをここにメモして置くんだ。沢山ためておいて、企業とかにメールして見てもらうんだ。もしかして僕のアイディアに興味を持ってくれる会社があるかもしれないから」
佐々木はパソコンに向かいながら早口でまくし立てた。
アイデアの事はアイディアと発音した。
「企業が興味を持ってくれなくても、クラウドファンディングと言う手もあるし。やり方知らないけど」
知らないのかよ、と小林は内心でツッコミを入れた。
「へえ、じゃあ、今書いていると言う事は、何かアイデアを思いついたんですか?」
「うん、うん、そう!結構良さげなやつを思いついたんだよ」
小林に聞かれた佐々木は文字を打つ手を止めて、振り返って嬉しそうに言った。
その目は微笑んでおり、聞きたい?と小林に問いかけていた。小林は凄くどうでもよかったが、これも仕事と思ってどんなのですか?と佐々木に仕方なく聞いてあげた。
「どんなのって、言われてもねえ。君に軽々しく言ってもいいもの?君、僕のアイディア、聞いても黙っている事出来る?横流しされても困るんだけど」
小林がせっかく気を使って聞いてあげたのに、佐々木は椅子に座ったまま、両手をぶらぶらさせてジト目でこう言い放った。
それから頭を掻き困ったなと言う感じで上を見上げる佐々木を見て、あ、そうですかと小林は作業鞄を抱え佐々木の部屋を後にしようとした。
それを見てちょ、ちょ、ちょと佐々木は慌てて手脚をバタバタさせていた。
「何ですか、先生?」
「ちょっと、聞いたのならちゃんと最後まで聞いていきなさいよ」
あー、面倒くさいなあこの人と小林は思った。でも、佐々木の話を聞かないと他の作業に移れそうにない。小林は腹をくくった。
「先生の話、ちゃんと聞いても口外しませんから。聞きたいなあ。先生、どんな事思いついたのかなあ」
小林がほぼ無表情で棒読みぎみにそう言うと、佐々木はパッと表情が明るくなった。
「しょうがないなぁ。少しだけだよ。スリッパあるでしょ。台所で履いたり、廊下で履いたり、公民館で履いたり。色んな所で履くよね、スリッパ」
「はい」
「見て、見て。この画面」
佐々木は少し興奮した様子で自分の目の前にあるノートパソコンの画面を見るように小林にうながした。
小林が嫌々それを覗き込むと、変な楕円形の、ぞうりのような物体が描かれている画像が表示されていた。
「何ですかこれ」
「スリッパ、新しいアイディアのアイテムだよ」
佐々木はマウスをカチカチ押し、画面を切り替え新しい画像を表示させた。
似たようなぞうりが表示されていたが、新しい画像には銀色のような鉛色で色が塗られていた。
「このスリッパ、裏が鏡になっているんだよ」
佐々木は得意げに鼻をならした。
「台所でシンクに向かって作業したり、料理を作っているとするよね。ふいに後ろから、あやしい人物に襲われるかもしれない。
そういう時に足を上げて履いているスリッパの裏にある鏡を見れば、そのあやしい姿が鏡にうつって、いち早くそれに気付く事ができ身を守る事が出来るんだ」
「そんな後ろから襲われる可能性がある人が、悠長に台所で料理していたりしますかね?デマエイーツとかを利用するんじゃないですか?」
「確かにそれは一理ある。でもデマエイーツの配達員が、あやしい人物で後ろから襲われるかもしれない。自炊は身を守る手段でもあるんだ」
だから何で襲われる前提なんだよと小林は思った。
「裏が鏡になっているって、そんなので履いて歩けるんですかね」
そう小林が言うと、佐々木は真顔になった。
「歩けるんですか?じゃない、歩くんだよ。危機管理意識が高い人はそれをやってのけると思う」
佐々木はマウスで作業する手を止め、のぞいている小林を鋭い視線を放ちながら見上げていた。
ダメだこりゃ、と小林は思った。
「あ、この黄色いのは何です?」
佐々木の話が終わりそうもなかったので、小林は適当に画面のはしに写っていた黄色い物体を指差して話題を変えてみた。
「いい目をしているね、これはレモンだよ。でも、食べたらりんごの味がするんだ。新しいレモンの品種のアイディアだよ」
「食べたらりんごの味?なぜ?」
「レモン、食べたらすっぱいじゃん」
佐々木は、そんな事も分からないの?とやれやれと肩をすくめていたので、こんな人に質問した自分がバカだったと小林は後悔していた。
「レモンの酸味が強くて嫌なら、普通にりんごを買えばいいんじゃないですか?
りんご味のレモンをわざわざ開発しなくても。りんご味のレモンってもうなんかありそうですけどね」
「りんごは赤で、レモンは黄だろ?鮮やかな黄色。赤より、こっちの黄色の方が見ていてワクワクしない?
味はりんごがいいけど、ビジュアルはレモンの方がいいんだ。僕は好きだよ、レモンの黄色。君はどう?」
ここまで、小林は佐々木がウィットに富んだジョークのつもりでこれらの事を言っているのかと思っていた。
しかし佐々木の顔を見ると黒いマスクで隠れてはいたが、目が真剣な光を放ち続けていたので、マジなんだこの人と恐れおののいていた。
ここで、俺は情熱的でかっこいいりんごの赤色の方が好きですね、なんて答えたものなら佐々木に何をされるか分からない。小林は無難な答えを出しておくことにした。
「俺も、レモンの黄色がいいですね」
小林はそう言いながら部屋のガラクタをまとめ始めていた。
「君もそうなの?へえ、気が合うね」
佐々木の鋭かったまなざしが柔らかいまなざしに変わったので、小林はゾクっと身をふるわせた。
「先生、黄色が好きなんですね。てっきり黒しか好きじゃないのかと?」
「黒?どうして?僕は黄色も好きだけど、ピンク色も好きだよ。ほら、これ」
佐々木はパソコンのマウスの下の、今はあまり見なくなったペッタリとしたビニール地のマウスパッドを指で叩いた。
ぶたのキャラクターの形をしていて、色は確かにピンクだった。
「これも」
机に置いてあるペンも手に取り、小林に見せた。これもピンク色をしていた。
「ほんとだ、ピンク。この部屋では黒色はカーテンくらいですか?」
そういや窓を開けていたと、小林は黒のカーテンを見ながら窓を閉めていた。
「さっきから黒、黒と言っているけどその僕が黒が好き、と言うのはどこから来たの?」
と、黒いマスクをしている口から佐々木は小林に問いかけた。
小林は、まさか黒ずくめの格好と怪しい屋敷に居ることからコウモリ男と噂されているとは言いづらいので、格好だけに言及することにした。
「先生、全身黒い格好をしているから、黒色が好きなのかなと」
「ああ、これ?」
佐々木は自分の体を一通り見てから、黒いマスクに手をかけた。
「確かに、身につけるものは黒が多いかもなあ」
「そうでしょう」
こんな洋館に住んでいるし、吸血鬼の末裔なんじゃないか、黒で日光を遮っているんじゃないか、身体についた血が見えないように黒を身に付けているんだ、
とか数々のロマンの憶測を会社の経理さんとしていた小林は、何かヒントが得られるんじゃないかと身を乗り出す。
「特に意識して黒にしたいってわけじゃないなあ。色に悩んだら結局無難な黒を選んでる、みたいな。痩せて見えそうだし、黒は強い色だし、自分を守ってくれそうには思うけど」
充分痩せ型ですらりとした体型の佐々木だったが、自分の腕や肩を触りながらそう答えた。
「吸血鬼の末裔じゃないんですか!?」
「は?何それ」
佐々木が全身黒ずくめなのは、特に深い意味がなかったようだ。ロマンの憶測が無駄に終わり、コウモリ男への幻想が消えていく小林なのだった。
◇◆
小林はせっせと家事に励んだが、屋敷はかなり広く、なかなか作業がはかどらないまま夕食の時間を迎えた。
合間の時間に買い出しに出かけ、なんとか食事を用意することができた。
しかしボーッとしていたのか、前回派遣された家庭がクソガキの居る家庭だったからか、食事メニューをお子様用に設定したままで作ってしまった事に気付いた。
オムライスに、サラダに、ミネストローネ。そこに市販のプリンをつけた。
大人に用意するメニューじゃないな、明日からどうしよう。
小林が明日の夕食のメニューを悩みながら食卓に料理を並べていると、佐々木が台所にやってきた。
「あ、作ってくれたんだ、お疲れ……あれ?」
食卓に並べられた料理が二人分なのを見て、佐々木は驚きの声を上げた。
「小林くんも一緒に食べるの?」
「先生、事前にネットアンケートで夕食時、家事作業員も同席するにチェックを入れていましたよね?」
「えー?入れていたっけ、僕?」
「知りませんよ、そう記録に残っているから俺の分も用意しただけです」
「ま、いっか。じゃあ座って」
二人で食卓につき、佐々木は用意された食事を見渡し少し眉をひそめた。
「ごめん、言っておいたら良かったかな。僕、グリーンピースと鶏肉は食べないから、チキンライスは無しね。この上にのっている卵だけもらうね。
あと野菜嫌いだから、このホワイトアスパラガスだけ食べるね。この野菜スープ?ごちゃごちゃ入っているのは要らないや。スープだけ飲むね。うん、結構美味しい」
小林は唖然としてしまった。子供のいる家庭なら、あらかじめ嫌いなものや食べられないものなどを聞いておくのだが、いい歳した大人の佐々木がこんな好き嫌いのある偏食持ちだとは思ってもみなかった。
「あ、プリンはもらうね。固いプリンが好きだけどね、これは柔らかいね。いまいち」
佐々木はプリンを食べながら渋い顔をしていた。
「先生、食物アレルギーがあったのですか?すみません」
「ううん、ないよ。嫌いなだけ」
小林は、佐々木が残した食事を目を点にして眺めていた。
佐々木の食べさしを食べるのは気分が良くなかったが、作ったものを捨てたくなかったので、小林は全部食べてしまった。
自分の分も食べ、腹がいっぱいで小林は目を白黒とさせた。
「さすが大学生、よく食べるねー」
佐々木は食後のコーヒーを飲みながら、白黒としている小林を見て微笑んだ。
アンタのせいだろが、という言葉をコーヒーと一緒に飲み込んだ小林だった。
「先生、明日からどうしますか?同席のチェックが間違いなら、俺用意した後帰りますが」
「どうしよう。面倒だからいいや、同じで。小林くん、食べて帰ったら」
「そうですか、じゃあチェック、と。あ、俺の分は食費、ちゃんと料金から引かれるんで安心して下さい。俺の給料の方から引く事になるんで」
「それも面倒だし、こっちに請求でいいよ、小林くん」
え、マジで、ラッキー、食費浮くじゃん。と小林は内心喜んだ。
癪にさわる佐々木と食事をするのは苦痛だが、無料となれば話は別だ。できるだけ生活費は浮かさなければ。
「そうだ、先生。先生は苦手な食べ物が多いようですし、食べられるものを書いて俺のスマホのメッセージアプリの方に送っておいて下さいね」
もうメニューで迷うのは嫌だった小林はあらかじめ佐々木にそう伝えた。
帰る前、食べた後の食器の後片付けをする際に一応小林がスマホをチェックすると、画面の通知欄に『佐々木実』という名前が表示されていた。アプリを開くと、そこには『いちご』とだけ書いてあった。
小林はスマホを掴んだまま、早足で佐々木の部屋に向かい、ノートパソコンに向かっていた佐々木の机に紙とペンをばん!と音を立てておいた。
「先生、食べられる『食事』をここに書いて下さい、今すぐに!」
小林がそう睨みをきかせて言うと、佐々木は渋々置かれた紙にペンで『わらびもち』と書いたので、小林はまたしばらく食事について悩むことになった。
わらびもち、と書かれた紙を呆然と見ていた小林に、佐々木は声をかけた。
「気付いた?僕、結構字がきれいでしょう?もっと、見る?」
小林が佐々木の字をうっとりとして見ているのだと勘違いしたのか、
佐々木は小林から紙を奪い取り、わらびもちの下に小林太郎と小林の名をペンで走り書きした。
「ほらほら、見て。どう?」
明日の食事メニューどうしよう、とそればかり考えていた小林は虚ろな目でわらびもち小林太郎と書かれた紙を見ていたが、
字自体は佐々木の言う通りかなり上手く美しい達筆であった。
「うまいですね、字」
「でしょ?もっとかいてあげようか」
佐々木が小林からまた紙を奪おうと手を伸ばした時、小林はかなり顔が近い状態で佐々木と目を合わすことになった。
あれ、先生、意外に顔が整っている。
今まで佐々木の顔をちゃんと見ることがなかったが、食事の後で佐々木はマスクを付けてなく、近い距離で見ると想像したより遥かに美形と言える佐々木の顔に驚いて小林は目をそらした。
顔のレベル値、俺は負けたかもと小林は思った。
「何、ちょっと、紙貸してよ、書くんだから」
「はいはい、字、上手いです。もう十分ですから。……あの、顔、近づけないで」
「何~!感じ悪いんだけど~!」
小林は佐々木に自分が緊張していることを知られたくなくて、佐々木から距離を取った。
「あー、先生、もういいですか?俺、後片付けしてから帰るんで」
「これだけ、ちょっと」
佐々木はそう言って立ち上がり、小林に近付いて小林の背中に手を回した。
佐々木は小林の紺色のエプロンから見えるシャツの折れ曲がったところをまっすぐに直していたようだった。
「おれてた。直したよ」
佐々木は小林に笑いかけた。小林はどうもと言って顔を上げずに佐々木の部屋を出て後ろ手にドアを閉めた。
◇◆
次の日も朝早くに屋敷に来て居る小林である。
この屋敷の庭もだだっ広いなあとため息をつきながら、庭の雑草を引っこ抜いていた小林はふと妙な声が聞こえるのを感じた。
顔を上げると、頭上に屋敷の大きな窓があり、黒いカーテンがひらひらと見えていた。
あ、先生の部屋か。先生、窓開けているんだ。
そう思って見上げていると、やはり妙な声が聞こえる。キーエ、トーウ。
いやだなあ、何だろ。気にしない、気にしない。
小林は頭を振り、庭の雑草抜きを再開した。
雑草抜きを終え、広い廊下の拭き掃除を開始した時、やっぱりキーエトーウと妙な声は続けて聞こえていた。
嫌だ、先生の部屋の前通りたくないな、そう思いながらも廊下奥の佐々木の部屋の前まで来てしまった小林は、ついドアが半開きになっていたのでチラと部屋の様子を見てしまう。
すると、佐々木が何やら妙な小さい箱のような器械の前で、あの庭で聞こえたキーエという声を張り上げている。腕にいくつかコードをテープのようなもので固定していて、そのコードは小さい箱につながっている。
何か見てはいけないものを見てしまった、そう思いそっと部屋のドアを閉めようとすると、佐々木に声をかけられた。
「小林くん、おはよう!早いね」
佐々木に声をかけられた小林はぎゅと目を瞑った。もう逃げられないと思い、何をしているんですか?と小林は問いかけた。
「人間の筋肉、あるでしょ。筋肉っていろんな状態で変化するらしいからデータを取っているんだけどさ、今日は人間の気合いの声で筋肉にどれくらいの変化があるかっていうのを取っているんだ」
佐々木はそう言いながら、コードの繋がれた小さい箱についているガラス板を覗き見たり、赤いボタンを触ったりしている。
「あっ!小林くん、君も気合の声を出してみてくれないか?データはできるだけ多く取りたいし」
「それはニッコリお試しプランには含まれていませんので失礼します」
「えー、ケチ!」
かまっていると一向に仕事が進まないので、小林は能面のような表情でそう言い放ち部屋を出て廊下の掃除を再開した。
相変わらず奇声が聞こえていたが、小林はせっせと廊下の照明を拭いていた。
ふと、奇声が止んでいることに気付いた。
小林はあれと思ったが、気にしない気にしないと掃除を再開する。
廊下は広すぎて、やってもやっても終わらない。先生が言う通り、使っている部屋だけ掃除するかなあと思い始めた時、
「小林くーん……」
部屋から奇声ではなく、小林を呼ぶ声がしてきたのだった。
慌てて小林が佐々木の部屋のドアを開けると、
あのさっきの小さい箱の前で、佐々木の腕がコードでぐるぐる巻きになっていて、たすけて~と佐々木がもがいていた。
小林は佐々木の腕からコードを外してあげていた。
「なにか、コード絡まっちゃってさ~えへへ、ありがとう」
はにかむ佐々木に、えへへじゃねえよと小林は眉間に皺を寄せた。
コードを外し終えたので、また廊下に戻っていた小林だったが、しばらくすると、また佐々木が小林を呼ぶ声が聞こえた。
「小林くん、小林くん」
またかと小林は天を仰ぎ、持っていた化学ぞうきんを床に置いて、エプロンで手を拭き何ですかと佐々木の部屋に入った。
「小林くん、あのね、この箱なんだと思う?」
佐々木はさっきから奇声を上げている際にずっとコードに繋げていた小さい箱を指差して、目を丸くしていた。
小林は全力でどうでもよかったが、さあ、何でしょうと言ってあげた。
「この箱、結構重いんだけど、さっき行っていた筋肉の数値が測れる装置なんだって。海外の通販サイトで見かけて取り寄せたんだ。
でも、さっきからやってるでしょ?僕。その数値が出ている画面ってのが見当たらないんだよ、この箱」
佐々木はその小さい箱を見渡し、コンコンと箱の上部を叩いていた。
「そうですね、液晶画面みたいなのが、見当たらないですね。どこで数値を見るのかわからない」
「うん、僕も分からなくて、問い合わせてみようかと思うんだ」
うーんと唸りながら小さい箱の上を見たり、横を見たり佐々木はしている。
「海外のサイトって言ってましたよね。なんか、変なもの買わされたんじゃないですか?」
「えー、そんな事ないもん」
小林に指摘をされ、口を膨らませ不服そうな顔をしながら佐々木は海外サイトを見るためか、ノートパソコンを立ち上げていた。
小林がそれを見て部屋を立ち去ろうとすると、また佐々木が小林くんと声をかけてきた。
「何ですか、俺、仕事しているんですけど?!」
小林はややイラついた調子で返事をした。早く仕事に戻りたい。この人なんでこんなに話しかけてくるんだろう?
「何でこの人、俺が仕事をしているのに、こんなに話しかけてくるんだろう。やっぱり、こんなところに一人で住んでいてさみしいのかなって思っているだろう、君?」
ギク。佐々木が急に真顔になって、小林の思っていることを口にしてきたので、小林は背中を緊張させ身をこわばらせた。
「声帯って、使わないと衰えてきてあまり良くないらしいんだ。だから、僕はさみしくて君に話しかけたいわけじゃない。声帯を使って、言葉を発したいだけなんだ。この違いが分かる?」
ハア、分からないけど、分かりますって言っておくか、面倒臭い。
佐々木はノートパソコンの画面を見ながら、時折チラと小林の方を見た。小林は早く仕事に戻りたくて、適当に返事しておくことにした。
「はい、わかります。先生はさみしいわけではなくて喉を使いたいだけですよね、分かります」
「うんうん、分かってたらいいよ」
佐々木は机の前で腕を組み、うんうんと大袈裟にうなづいていた。それからまたノートパソコンの方を見ていたが、なぜか動かなくなった。
再び部屋を立ち去ろうとしていた小林だったが、動かなくなった佐々木が気になりつい声をかけてしまったのだった。
「先生、どうかしましたか?」
「来ないんだ」
「え、何がですか?」
小林はそう聞きながら、部屋のすみに蜘蛛の巣を見つけ、そばにあった棒を手に取ってくるくると回し蜘蛛の巣を絡め取っていた。
「あ、その棒、背中のコリをほぐすのに使っているのに」
小林は聞こえないフリをして、棒をくるくると回す。
「あの器械を買ったサイトに問い合わせしようとメールソフトを開いたのね。で、やっぱり今日もお返事が来ない」
「お返事って?海外サイトの方じゃなくて他に何かあるんですか?」
「企業からの返信だよ。僕のアイディアを送っているって言っていたよね、それ」
「あー、なんかやってましたね」
「まあ、返信なんて、返ってきた事ないけどね」
そう言って佐々木は笑っていたけれど、少し寂しそうな笑顔に小林には見えた。
「僕のアイディアなんて、価値が無いのかな。誰も聞いてくれない」
「価値を決めるのは先生じゃなくて向こうでしょ」
小林は家具を拭きながら、そこらに散らばっている紙をまとめて持っていた袋にポイポイと放り込んでいた。捨てていいのかは分からない。
そして紺色のエプロンのポケットから自分のスマホを取り出し、時間を確認した。
「僕だって知っている、もう31だから。こんなのが相手にされない事くらい。でも、奇をてらってでも、誰も見たことがないものを作ってみたい」
「誰も見たことがないもの?」
「うん」
佐々木は相槌を打って、ノートパソコンに向き合いキーボードを打ち始めた。ようやく訳のわからない筋肉器械を売りつけた会社へ問い合わせのメールを書くことにしたようだ。
「先生、31歳なんですか?へえ」
「悪かったね、若く見えて」
若く見えますね、って言ってあげようとした小林は先に佐々木にそう言われて、自分で言うかと心の中で舌打ちをした。
「君は、えーと、大学生だから……」
「20ですけど」
「ハタチ?! 11も違うんだ。僕と同年代に見えるよ、君。老けてるねー。あはは、老けてる」
あははと、佐々木は小林を見て笑っている。
何も、二回も言わなくても。自分が少し老けていることは自覚していたが、改めて言われると少し傷ついた小林であった。むしゃくしゃして、そばの棚に無造作に置かれていた写真をかき集めてゴミ袋に次々と入れ始めた。それを見て、思い出のー植物園がーとか言いながら慌てて佐々木がゴミ袋から写真を回収していた。
「10~20出して、返事が来なかったくらいなんですか」
そう言いながら小林はまだ近くにあった旗などをゴミ袋に突っ込んでいた。佐々木は、この国の旗は要るとまたゴミ袋から旗を出していた。
「そういうのは50、100、200と出してはじめて返事が来るものじゃないんですか」
「に……200?」
「アポ取って、直談判とか、クラウドファンディングとか、まあ思いついたことなんでもやってみたらいいんじゃないでしょうかね」
「200……」
小林は佐々木が要ると言って机に戻した旗を要らないと判断してまたゴミ袋にポイと入れた。
佐々木は一点を見つめて何やら呟いていた。
「200か、ヨーシ」
やるぞーと突然両腕を上下させ、佐々木は椅子を引いてノートパソコンに向かいなにやら凄い勢いでカタカタとやっていた。
小林は自分で適当に言ったものの、佐々木を焚き付けてしまい、これは先生のターゲットにすごく迷惑なことをしたのではと思い始めたが、もうこの火は消せないとその思いを飲み込んだのだった。
◇◆
相変わらずあの妙な小さい箱を叩きながら箱の上や下を覗いたり、ノートパソコンでカタカタやっている佐々木のいる部屋に再びやってきた小林は、
紺色のエプロンをはずして、紺色の作業着まで脱いで、普通のグレーのジャケットを羽織っている。そして、ちょっと行ってきます、と佐々木に声をかけていた。
「大学行ってきます。すぐ帰ってくるんで、作業着ここ置いていいですか?」
「いってらっしゃい。あ、そうそう、帰りにメロン牛乳を買ってきて。四本、いや五本かな?明日も飲むし」
メロン牛乳、メロンの香りがするメロンフレーバーが溶け込んだ、甘い牛乳だ。あんな甘そうなのを、五本?小林は上を向いて、ウエと言い、飲んでもいないのに胸焼けがする気分になった。
小林太郎が通っている大学は今の時期春休み期間中だった。小林は少し大学の図書館に用があったので、その日大学へと訪れたのだがやはり春休みだからか人は少なかった。
一部サークルらしき学生の集まりを見かけたくらいで、あまり人とすれ違わないので友人知人に会わなくて反対に楽かもと、足早に図書館から去った。
大学の入り口近くの並木道に差し掛かり、風があるとまだ肌寒く感じるなあと思いながら樹の中を歩いていると、向こうから学生らしき男がやって来た。その男は薄手のニットを着用していて、その色は綺麗な若草色だった。
そのニットを見た時、あ、そうだメロン牛乳を買って帰らなきゃと小林は思い出していた。
「おーい、小林か?」
若草色のニットの男とすれ違う時、男はまじまじと小林を見て声をかけて来た。
「やっぱり小林だ!よお!」
小林に近付いた男は口元のマスクを少しずらして笑顔になったので、小林もよおと、とりあえず返事をしておいたが、こいつ、誰だっけ、と一向に目の前の男の名前が思い出せないのだった。
その男は背が高く、髪型は柔らかいニュアンスパーマがかかっていて赤毛のようなカラーのウルフカットの男だった。
顔はマスクで隠れていたが、イケメンらしき雰囲気だった。うっすらとどこかの飲み会で見たような覚えがあるのだが、やっぱり思い出せない。
あまりにも思い出せないので、メッセージアプリのグループで同じグループに入っているくらいの認識の知人なのかもしれない。
「小林最近見なかったなあ!お前、あのコウモリ男の家にバイトしに行っているだろ?」
知人レベルの男に、家事作業員のアルバイトのことを指摘されて、小林はドキッとした。なんで知っているんだろう。
「ニコふきふき社、俺も登録しているんだよ。コウモリ男のあの屋敷、俺、明日派遣されるんだけど、名前見たらチームに小林の名前があって、これ俺の知ってる小林かなって?やっぱり小林だったね」
「コウモリ男、いや佐々木先生の家に、明日お前来るの?!」
小林が驚いて聞くと、若草ニット男は笑った。
「ああ、コウモリ男、佐々木だったね。確かに佐々木実って書いてあったから、あそこだよ。行くよ。よろしく。お前はまだ担当なんだろ?」
「土曜まで」
「佐々木なー。確か授業受けた事あるわ。オンラインが多かったけどさ」
「先生の、受けた事あるの?!どうだった?」
小林は先生がどんな授業をするのか少し興味が出て、若草ニット男の言葉に期待をした。
「へ?佐々木の授業?別に普通だよ。黒ずくめなのはちょっとギョッとしたけど、話は普通だったと思う。あんまり印象に残ってないなあ」
普通と言われ、小林は拍子抜けした。佐々木は大学でも変なことを言っているんじゃないかと思っていたから、ごく普通の授業をしていることは意外だった。
「佐々木に会ったら、言っておいてよ。高橋ってのが行きます、って」
あ、コイツ、高橋って言うんだと、そこでやっと小林は若草ニット男の名前を知ったのだった。
◇◆
次の日、台所で佐々木が朝食かで飲んだであろうマグカップなどを小林が洗っていると、佐々木が降りてきたようで台所に入ってきた。
佐々木は冷蔵庫を開けて、昨日小林が買って入れておいたメロン牛乳を取り出し、コップに注いだ。佐々木は昨日もメロン牛乳を飲んでいた。
今日も飲んでる、と小林は顔をしかめた。
「先生、メロン牛乳飲み過ぎじゃないですか?」
「今日はまだ一杯目だよ~」
佐々木はそばのテーブルにメロン牛乳のコップを置き、椅子に座ってピンク色のペンをクルクルと指で回していた。
「昨日、言い忘れていたんですけど、今日、高橋って言うヘルプの作業員が来ます」
「新しい人が来るの?」
「はい」
佐々木はメロン牛乳をぐいと飲み、持っていたピンク色のペンを速く指で回して、ピタとそれを止めた。
「これさーこのペン、フリクションボールペンなんだけど」
フリクションボールペン、書いた文字をこするとその温度差でインクが透明化して見えなくなるという消せるボールペンで、たちまち定番化したペンである。
「ありますね、消せるペン」
佐々木はまた指でくるくるペンを回し始めた。
「これの反対で、二百年も四百年も千年も消えないボールペンインク、あったらいいな。一生消えないんだ。一生だぞ。消えない烙印を押されるんだ」
また何か思い付いたのかこの人と、小林はため息をつきながら洗った食器を拭いて食器棚に片付けた。
「あんまりボールペンのインクって消えないんじゃないですかね、なんか意味あるんですかね。壁画にでも書くつもりですか?」
佐々木は小林の問いかけには答えず、メロン牛乳をあおって、椅子から勢いよく立ち上がった。
「よしよし、企画書書くぞ」
「先生の部屋のノートパソコンの電源ついているんでしょう。そっちで書いてくださいよ。このペンじゃなくて」
小林は立ち上がった佐々木の後ろから手を伸ばし、ピンク色のペンを佐々木から取り上げた。
分かってるよ、と佐々木が小林からペンを取り返そうとした時、小林の紺色のエプロンポケットからブー、とスマホの鳴る音がした。
小林がポケットからスマホを取り出し画面を見ると、高橋からの連絡だったので電話を取った。どこからこの家に入るの、と言う内容だった。
うららかに晴れた土曜の昼下がり、大きな洋風建築の屋敷の前で若い男の張り上げる声がしていた。
時折入り口の扉の、ドアノッカーがカンカンと鳴らされる音も響いていた。なかなか館の主人は出て来ないようで、困ったのか紺色の帽子を被った茶髪の若い男は再びドアノッカーを叩いている。
男は紺色の作業着を身につけて、白いマスクに白い手袋をしていた。胸の作業員ネームプレートにはニコふきふき社、家事作業員と書いてあった。
「佐々木さーん!ニッコリお試しプランお申込みの佐々木さーん!いらっしゃいますかー?」
出て来ないなあ、携帯で電話をかけようかと茶髪の男が携帯を作業着のポケットから取り出した時、やっと扉の向こうで物音がしてギシギシ音を立てて扉が開いた。
「あ、こんにちは!ニコふきふき社の、小林太郎といいます!今日はよろしくお願いします!」
扉から出てきた鬱陶しい長さの黒髪の男を見て、作業着の男がにこやかに紺色の帽子を取って挨拶をした。
「家事作業員の人?ああ、うん、よろしくね。じゃあこっち、上がってよ」
黒髪の男は帽子を取った茶髪の男を一瞥して、踵を返した。黒いのは髪だけではなく、マスクも黒、シャツも黒、ワークパンツも黒と全身黒づくめの男だった。
この界隈でコウモリ男と噂されている佐々木は、非常勤講師をしている大学でも黒い服に加えて黒のコートに黒の鞄、黒いマフラーと手袋を着用しているのも目撃されていると、社内の経理の女性にあらかじめ聞いていた小林であった。
噂通り黒ずくめだ、と思いながら小林は自分の大きな作業鞄からタブレットを取り出した。
「佐々木さん、お申込みのプランは、ニッコリお試しプランでよろしかったですね?こちらの画面で、指かこのタッチペンでご署名お願いします」
小林はそう確認しながら、佐々木にタブレットとタッチペンを手渡した。
佐々木はタブレットを受け取り、タッチペンは握りながら、指で画面に自分の名前を書き出した。指紋がつくから、タッチペンの方にしてほしかったなと思いながら小林はその様子を見ていた。
「家事代行サービスだから、女性が来るのかと思ったら男が来るんだね」
「あー、そうですね、女性もいますが、今日は俺が空いてまして、来させていただきました」
家事代行サービスなどを手がけているニコふきふき社は申し込みのあった家庭に家事作業員を派遣する会社である。
会社では一つの家庭につきだいたい二人一組の家事作業員を派遣する事になっている。しかし人手が足りなかったので小林一人が派遣された。
大学生である小林は、仕送りだけでは乏しい学費と生活費の足しにアルバイトを探していて、家事が得意な人募集明るく笑顔溢れる職場です、と言う謳い文句とかなり高額な時給に惹かれニコふきふき社に登録してしまい今ここに居る。
小さい頃から兄弟の面倒を見ていたので、家事全般をやる事には慣れていたが思ったより重労働で、笑顔溢れるか?と疑問に思いながら時給に釣られて登録した事を少し後悔し始めた小林なのだった。
「ニッコリお試しプランは、一週間当社の家事代行サービスを料金半額でお試しいただけるお得なプランとなっております。一週間お試しされた後気に入って頂けましたら期間のご延長も可能となっております。そのさいご利用料金の方は正規の料金となってしまいますのでご注意下さい。担当するのはわたくし……」
「小林太郎くんだよね。さっき聞いた」
小林が名乗ろうとした時に佐々木に口を挟まれ、マニュアルなんだよ、言わせろ!と内心イラッとしてしまった小林だった。
しかし笑顔を溢れさせないといけないので必死に笑顔を作った。
「そうです、小林太郎です!もう覚えて頂けたのですね?先生!」
「先生?僕を知っているの?」
小林が笑顔で先生、と佐々木に呼びかけると、佐々木は首を傾げて小林に問い返した。
「先生、俺が通っている大学の非常勤講師をされてますよね?俺は先生の授業は取ってないから会ったことはないですが」
「あー、あそこの生徒さんなの?なるほどね、ふーん、そう」
佐々木は言葉ではなるほどと言いながら、小林の方を見ようともせず答えた。あまりその事には興味が無いらしい。
小林はタブレットを作業鞄にしまい、代わりに紺色のエプロンを取り出していた。
「では、早速ですが作業を始めさせて頂きますね」
小林はそう言うと作業着の上着を脱いで鞄にしまい、白いシャツ姿になった。
その上から紺色のエプロンを身につけた。
「さっきの作業着のままじゃ駄目なの?」
佐々木が小林の身につけたエプロンを指差して聞くと、小林は冷ややかなトーンの口調で面倒そうに答えた。
「サービスをする時は、このエプロンをつけないと家事をしている感が出ないらしいので」
会社に登録をした後悔の件は、この紺色エプロン着用ルールの事もあった。
ニコふきふき社の忌々しいマスコットキャラクターでアライグマの出来損ないのようなキャラもしっかりエプロンポケットに刺繍されている、かわいらしいと言えない事もないデザインのエプロンを小林は身につけたくなかったのだ。
「そうなんだ。色々あるんだね。じゃあ、小林くん、頼んだよ。こっちから奥の方に入れるからね」
小林が少し見回すと、天井がとにかく高く広い洋館の入り口の空間が、日本離れした雰囲気で驚いた。
それから応接間に続くであろう廊下を佐々木と二人歩いていて、こんなものどうやって一人で掃除するんだと小林が途方にくれていると、この家広いから使っている部屋だけ掃除してくれたらいいよ、と佐々木が言ったので小林は胸を撫で下ろした。
「なんでこんな大きな家で、一人で住んでいるんですか?」
小林は佐々木が大きな屋敷に住んでいるコウモリ男だと噂されているのを知っているのかなあと思いながらふと聞いてみた。
屋敷は一家心中のあった事故物件らしい、って悪趣味な噂もあったっけ。
「ここはお爺さまの持っている物件で、人に貸していたんだけど住んでいた前の家族が借金苦で一家心中したらしくて、貸り手がいなくなって僕が管理がてら住む事になったんだ」
先生、お爺さまって言い方……って、事故物件、本当だったのかと小林は思った。
「先生はそんないわく付きの家、怖くないんですか?」
「生きてる人間と住むより良いよ。慣れると結構快適なんだよ、ここ。周りに家も無いし。ご近所も遠いし。静か」
会社の経理さんが言っていたコウモリ男はどうやら資産家の一人息子らしいって噂はあながち嘘ではないのかな、と小林は思った。
さすがにプライベートな質問すぎて佐々木には聞けなかったが。
「この部屋は僕がよく居たり、僕が作業したりしている事が多いよ。ここはこまめに掃除してもらってもいいかも。でも、あんまり散らかってないけどね」
佐々木に案内されたのは廊下の奥にある少し広めの部屋だった。散らかっていない、と佐々木は言ったがどこがだよ、と小林は思った。
汚いわけではなかったが、物がたくさんあり雑然としていて、紙だの本だの何に使うか分からない棒だの、旗だの、ぬいぐるみだの、どこの器械の部品か分からないものが積まれていたり、黒いカーテンが閉められていてとにかく空気が悪く感じたので小林は黒いカーテンを開け、窓を開け放した。
窓を開けるとすぐそばに木が立っていて、元気な緑の葉が映えていて結構良い眺めだった。きれいな風も入ってくるし、しばらく窓を開けていようと小林は思った。
「ちょっと、窓閉めてよー。寒いじゃん」
佐々木は唯一きれいに片付いて見える机に置かれているノートパソコンを開き、立ち上げながら口を尖らせて小林にそう言った。
「この部屋、空気悪いですからしばらく窓開けて換気しますね」
「えー。別に空気、悪くないけどな。すぐ閉めてよね」
佐々木は納得のいかない様子で寒いのにーとまだ文句を言いながら立ち上がったノートパソコンの方に向かって何やらカタカタと文字を打ち込んでいた。
「お仕事ですか?」
あまり佐々木とは意見が合わなさそうに感じた小林だったが、依頼主とコミュニケーションをするのも仕事だと思って、佐々木がやっている事に対して興味は無かったが一応質問をしてみた。
「仕事と言うか、ライフワークだね。思いついたアイディアをここにメモして置くんだ。沢山ためておいて、企業とかにメールして見てもらうんだ。もしかして僕のアイディアに興味を持ってくれる会社があるかもしれないから」
佐々木はパソコンに向かいながら早口でまくし立てた。
アイデアの事はアイディアと発音した。
「企業が興味を持ってくれなくても、クラウドファンディングと言う手もあるし。やり方知らないけど」
知らないのかよ、と小林は内心でツッコミを入れた。
「へえ、じゃあ、今書いていると言う事は、何かアイデアを思いついたんですか?」
「うん、うん、そう!結構良さげなやつを思いついたんだよ」
小林に聞かれた佐々木は文字を打つ手を止めて、振り返って嬉しそうに言った。
その目は微笑んでおり、聞きたい?と小林に問いかけていた。小林は凄くどうでもよかったが、これも仕事と思ってどんなのですか?と佐々木に仕方なく聞いてあげた。
「どんなのって、言われてもねえ。君に軽々しく言ってもいいもの?君、僕のアイディア、聞いても黙っている事出来る?横流しされても困るんだけど」
小林がせっかく気を使って聞いてあげたのに、佐々木は椅子に座ったまま、両手をぶらぶらさせてジト目でこう言い放った。
それから頭を掻き困ったなと言う感じで上を見上げる佐々木を見て、あ、そうですかと小林は作業鞄を抱え佐々木の部屋を後にしようとした。
それを見てちょ、ちょ、ちょと佐々木は慌てて手脚をバタバタさせていた。
「何ですか、先生?」
「ちょっと、聞いたのならちゃんと最後まで聞いていきなさいよ」
あー、面倒くさいなあこの人と小林は思った。でも、佐々木の話を聞かないと他の作業に移れそうにない。小林は腹をくくった。
「先生の話、ちゃんと聞いても口外しませんから。聞きたいなあ。先生、どんな事思いついたのかなあ」
小林がほぼ無表情で棒読みぎみにそう言うと、佐々木はパッと表情が明るくなった。
「しょうがないなぁ。少しだけだよ。スリッパあるでしょ。台所で履いたり、廊下で履いたり、公民館で履いたり。色んな所で履くよね、スリッパ」
「はい」
「見て、見て。この画面」
佐々木は少し興奮した様子で自分の目の前にあるノートパソコンの画面を見るように小林にうながした。
小林が嫌々それを覗き込むと、変な楕円形の、ぞうりのような物体が描かれている画像が表示されていた。
「何ですかこれ」
「スリッパ、新しいアイディアのアイテムだよ」
佐々木はマウスをカチカチ押し、画面を切り替え新しい画像を表示させた。
似たようなぞうりが表示されていたが、新しい画像には銀色のような鉛色で色が塗られていた。
「このスリッパ、裏が鏡になっているんだよ」
佐々木は得意げに鼻をならした。
「台所でシンクに向かって作業したり、料理を作っているとするよね。ふいに後ろから、あやしい人物に襲われるかもしれない。
そういう時に足を上げて履いているスリッパの裏にある鏡を見れば、そのあやしい姿が鏡にうつって、いち早くそれに気付く事ができ身を守る事が出来るんだ」
「そんな後ろから襲われる可能性がある人が、悠長に台所で料理していたりしますかね?デマエイーツとかを利用するんじゃないですか?」
「確かにそれは一理ある。でもデマエイーツの配達員が、あやしい人物で後ろから襲われるかもしれない。自炊は身を守る手段でもあるんだ」
だから何で襲われる前提なんだよと小林は思った。
「裏が鏡になっているって、そんなので履いて歩けるんですかね」
そう小林が言うと、佐々木は真顔になった。
「歩けるんですか?じゃない、歩くんだよ。危機管理意識が高い人はそれをやってのけると思う」
佐々木はマウスで作業する手を止め、のぞいている小林を鋭い視線を放ちながら見上げていた。
ダメだこりゃ、と小林は思った。
「あ、この黄色いのは何です?」
佐々木の話が終わりそうもなかったので、小林は適当に画面のはしに写っていた黄色い物体を指差して話題を変えてみた。
「いい目をしているね、これはレモンだよ。でも、食べたらりんごの味がするんだ。新しいレモンの品種のアイディアだよ」
「食べたらりんごの味?なぜ?」
「レモン、食べたらすっぱいじゃん」
佐々木は、そんな事も分からないの?とやれやれと肩をすくめていたので、こんな人に質問した自分がバカだったと小林は後悔していた。
「レモンの酸味が強くて嫌なら、普通にりんごを買えばいいんじゃないですか?
りんご味のレモンをわざわざ開発しなくても。りんご味のレモンってもうなんかありそうですけどね」
「りんごは赤で、レモンは黄だろ?鮮やかな黄色。赤より、こっちの黄色の方が見ていてワクワクしない?
味はりんごがいいけど、ビジュアルはレモンの方がいいんだ。僕は好きだよ、レモンの黄色。君はどう?」
ここまで、小林は佐々木がウィットに富んだジョークのつもりでこれらの事を言っているのかと思っていた。
しかし佐々木の顔を見ると黒いマスクで隠れてはいたが、目が真剣な光を放ち続けていたので、マジなんだこの人と恐れおののいていた。
ここで、俺は情熱的でかっこいいりんごの赤色の方が好きですね、なんて答えたものなら佐々木に何をされるか分からない。小林は無難な答えを出しておくことにした。
「俺も、レモンの黄色がいいですね」
小林はそう言いながら部屋のガラクタをまとめ始めていた。
「君もそうなの?へえ、気が合うね」
佐々木の鋭かったまなざしが柔らかいまなざしに変わったので、小林はゾクっと身をふるわせた。
「先生、黄色が好きなんですね。てっきり黒しか好きじゃないのかと?」
「黒?どうして?僕は黄色も好きだけど、ピンク色も好きだよ。ほら、これ」
佐々木はパソコンのマウスの下の、今はあまり見なくなったペッタリとしたビニール地のマウスパッドを指で叩いた。
ぶたのキャラクターの形をしていて、色は確かにピンクだった。
「これも」
机に置いてあるペンも手に取り、小林に見せた。これもピンク色をしていた。
「ほんとだ、ピンク。この部屋では黒色はカーテンくらいですか?」
そういや窓を開けていたと、小林は黒のカーテンを見ながら窓を閉めていた。
「さっきから黒、黒と言っているけどその僕が黒が好き、と言うのはどこから来たの?」
と、黒いマスクをしている口から佐々木は小林に問いかけた。
小林は、まさか黒ずくめの格好と怪しい屋敷に居ることからコウモリ男と噂されているとは言いづらいので、格好だけに言及することにした。
「先生、全身黒い格好をしているから、黒色が好きなのかなと」
「ああ、これ?」
佐々木は自分の体を一通り見てから、黒いマスクに手をかけた。
「確かに、身につけるものは黒が多いかもなあ」
「そうでしょう」
こんな洋館に住んでいるし、吸血鬼の末裔なんじゃないか、黒で日光を遮っているんじゃないか、身体についた血が見えないように黒を身に付けているんだ、
とか数々のロマンの憶測を会社の経理さんとしていた小林は、何かヒントが得られるんじゃないかと身を乗り出す。
「特に意識して黒にしたいってわけじゃないなあ。色に悩んだら結局無難な黒を選んでる、みたいな。痩せて見えそうだし、黒は強い色だし、自分を守ってくれそうには思うけど」
充分痩せ型ですらりとした体型の佐々木だったが、自分の腕や肩を触りながらそう答えた。
「吸血鬼の末裔じゃないんですか!?」
「は?何それ」
佐々木が全身黒ずくめなのは、特に深い意味がなかったようだ。ロマンの憶測が無駄に終わり、コウモリ男への幻想が消えていく小林なのだった。
◇◆
小林はせっせと家事に励んだが、屋敷はかなり広く、なかなか作業がはかどらないまま夕食の時間を迎えた。
合間の時間に買い出しに出かけ、なんとか食事を用意することができた。
しかしボーッとしていたのか、前回派遣された家庭がクソガキの居る家庭だったからか、食事メニューをお子様用に設定したままで作ってしまった事に気付いた。
オムライスに、サラダに、ミネストローネ。そこに市販のプリンをつけた。
大人に用意するメニューじゃないな、明日からどうしよう。
小林が明日の夕食のメニューを悩みながら食卓に料理を並べていると、佐々木が台所にやってきた。
「あ、作ってくれたんだ、お疲れ……あれ?」
食卓に並べられた料理が二人分なのを見て、佐々木は驚きの声を上げた。
「小林くんも一緒に食べるの?」
「先生、事前にネットアンケートで夕食時、家事作業員も同席するにチェックを入れていましたよね?」
「えー?入れていたっけ、僕?」
「知りませんよ、そう記録に残っているから俺の分も用意しただけです」
「ま、いっか。じゃあ座って」
二人で食卓につき、佐々木は用意された食事を見渡し少し眉をひそめた。
「ごめん、言っておいたら良かったかな。僕、グリーンピースと鶏肉は食べないから、チキンライスは無しね。この上にのっている卵だけもらうね。
あと野菜嫌いだから、このホワイトアスパラガスだけ食べるね。この野菜スープ?ごちゃごちゃ入っているのは要らないや。スープだけ飲むね。うん、結構美味しい」
小林は唖然としてしまった。子供のいる家庭なら、あらかじめ嫌いなものや食べられないものなどを聞いておくのだが、いい歳した大人の佐々木がこんな好き嫌いのある偏食持ちだとは思ってもみなかった。
「あ、プリンはもらうね。固いプリンが好きだけどね、これは柔らかいね。いまいち」
佐々木はプリンを食べながら渋い顔をしていた。
「先生、食物アレルギーがあったのですか?すみません」
「ううん、ないよ。嫌いなだけ」
小林は、佐々木が残した食事を目を点にして眺めていた。
佐々木の食べさしを食べるのは気分が良くなかったが、作ったものを捨てたくなかったので、小林は全部食べてしまった。
自分の分も食べ、腹がいっぱいで小林は目を白黒とさせた。
「さすが大学生、よく食べるねー」
佐々木は食後のコーヒーを飲みながら、白黒としている小林を見て微笑んだ。
アンタのせいだろが、という言葉をコーヒーと一緒に飲み込んだ小林だった。
「先生、明日からどうしますか?同席のチェックが間違いなら、俺用意した後帰りますが」
「どうしよう。面倒だからいいや、同じで。小林くん、食べて帰ったら」
「そうですか、じゃあチェック、と。あ、俺の分は食費、ちゃんと料金から引かれるんで安心して下さい。俺の給料の方から引く事になるんで」
「それも面倒だし、こっちに請求でいいよ、小林くん」
え、マジで、ラッキー、食費浮くじゃん。と小林は内心喜んだ。
癪にさわる佐々木と食事をするのは苦痛だが、無料となれば話は別だ。できるだけ生活費は浮かさなければ。
「そうだ、先生。先生は苦手な食べ物が多いようですし、食べられるものを書いて俺のスマホのメッセージアプリの方に送っておいて下さいね」
もうメニューで迷うのは嫌だった小林はあらかじめ佐々木にそう伝えた。
帰る前、食べた後の食器の後片付けをする際に一応小林がスマホをチェックすると、画面の通知欄に『佐々木実』という名前が表示されていた。アプリを開くと、そこには『いちご』とだけ書いてあった。
小林はスマホを掴んだまま、早足で佐々木の部屋に向かい、ノートパソコンに向かっていた佐々木の机に紙とペンをばん!と音を立てておいた。
「先生、食べられる『食事』をここに書いて下さい、今すぐに!」
小林がそう睨みをきかせて言うと、佐々木は渋々置かれた紙にペンで『わらびもち』と書いたので、小林はまたしばらく食事について悩むことになった。
わらびもち、と書かれた紙を呆然と見ていた小林に、佐々木は声をかけた。
「気付いた?僕、結構字がきれいでしょう?もっと、見る?」
小林が佐々木の字をうっとりとして見ているのだと勘違いしたのか、
佐々木は小林から紙を奪い取り、わらびもちの下に小林太郎と小林の名をペンで走り書きした。
「ほらほら、見て。どう?」
明日の食事メニューどうしよう、とそればかり考えていた小林は虚ろな目でわらびもち小林太郎と書かれた紙を見ていたが、
字自体は佐々木の言う通りかなり上手く美しい達筆であった。
「うまいですね、字」
「でしょ?もっとかいてあげようか」
佐々木が小林からまた紙を奪おうと手を伸ばした時、小林はかなり顔が近い状態で佐々木と目を合わすことになった。
あれ、先生、意外に顔が整っている。
今まで佐々木の顔をちゃんと見ることがなかったが、食事の後で佐々木はマスクを付けてなく、近い距離で見ると想像したより遥かに美形と言える佐々木の顔に驚いて小林は目をそらした。
顔のレベル値、俺は負けたかもと小林は思った。
「何、ちょっと、紙貸してよ、書くんだから」
「はいはい、字、上手いです。もう十分ですから。……あの、顔、近づけないで」
「何~!感じ悪いんだけど~!」
小林は佐々木に自分が緊張していることを知られたくなくて、佐々木から距離を取った。
「あー、先生、もういいですか?俺、後片付けしてから帰るんで」
「これだけ、ちょっと」
佐々木はそう言って立ち上がり、小林に近付いて小林の背中に手を回した。
佐々木は小林の紺色のエプロンから見えるシャツの折れ曲がったところをまっすぐに直していたようだった。
「おれてた。直したよ」
佐々木は小林に笑いかけた。小林はどうもと言って顔を上げずに佐々木の部屋を出て後ろ手にドアを閉めた。
◇◆
次の日も朝早くに屋敷に来て居る小林である。
この屋敷の庭もだだっ広いなあとため息をつきながら、庭の雑草を引っこ抜いていた小林はふと妙な声が聞こえるのを感じた。
顔を上げると、頭上に屋敷の大きな窓があり、黒いカーテンがひらひらと見えていた。
あ、先生の部屋か。先生、窓開けているんだ。
そう思って見上げていると、やはり妙な声が聞こえる。キーエ、トーウ。
いやだなあ、何だろ。気にしない、気にしない。
小林は頭を振り、庭の雑草抜きを再開した。
雑草抜きを終え、広い廊下の拭き掃除を開始した時、やっぱりキーエトーウと妙な声は続けて聞こえていた。
嫌だ、先生の部屋の前通りたくないな、そう思いながらも廊下奥の佐々木の部屋の前まで来てしまった小林は、ついドアが半開きになっていたのでチラと部屋の様子を見てしまう。
すると、佐々木が何やら妙な小さい箱のような器械の前で、あの庭で聞こえたキーエという声を張り上げている。腕にいくつかコードをテープのようなもので固定していて、そのコードは小さい箱につながっている。
何か見てはいけないものを見てしまった、そう思いそっと部屋のドアを閉めようとすると、佐々木に声をかけられた。
「小林くん、おはよう!早いね」
佐々木に声をかけられた小林はぎゅと目を瞑った。もう逃げられないと思い、何をしているんですか?と小林は問いかけた。
「人間の筋肉、あるでしょ。筋肉っていろんな状態で変化するらしいからデータを取っているんだけどさ、今日は人間の気合いの声で筋肉にどれくらいの変化があるかっていうのを取っているんだ」
佐々木はそう言いながら、コードの繋がれた小さい箱についているガラス板を覗き見たり、赤いボタンを触ったりしている。
「あっ!小林くん、君も気合の声を出してみてくれないか?データはできるだけ多く取りたいし」
「それはニッコリお試しプランには含まれていませんので失礼します」
「えー、ケチ!」
かまっていると一向に仕事が進まないので、小林は能面のような表情でそう言い放ち部屋を出て廊下の掃除を再開した。
相変わらず奇声が聞こえていたが、小林はせっせと廊下の照明を拭いていた。
ふと、奇声が止んでいることに気付いた。
小林はあれと思ったが、気にしない気にしないと掃除を再開する。
廊下は広すぎて、やってもやっても終わらない。先生が言う通り、使っている部屋だけ掃除するかなあと思い始めた時、
「小林くーん……」
部屋から奇声ではなく、小林を呼ぶ声がしてきたのだった。
慌てて小林が佐々木の部屋のドアを開けると、
あのさっきの小さい箱の前で、佐々木の腕がコードでぐるぐる巻きになっていて、たすけて~と佐々木がもがいていた。
小林は佐々木の腕からコードを外してあげていた。
「なにか、コード絡まっちゃってさ~えへへ、ありがとう」
はにかむ佐々木に、えへへじゃねえよと小林は眉間に皺を寄せた。
コードを外し終えたので、また廊下に戻っていた小林だったが、しばらくすると、また佐々木が小林を呼ぶ声が聞こえた。
「小林くん、小林くん」
またかと小林は天を仰ぎ、持っていた化学ぞうきんを床に置いて、エプロンで手を拭き何ですかと佐々木の部屋に入った。
「小林くん、あのね、この箱なんだと思う?」
佐々木はさっきから奇声を上げている際にずっとコードに繋げていた小さい箱を指差して、目を丸くしていた。
小林は全力でどうでもよかったが、さあ、何でしょうと言ってあげた。
「この箱、結構重いんだけど、さっき行っていた筋肉の数値が測れる装置なんだって。海外の通販サイトで見かけて取り寄せたんだ。
でも、さっきからやってるでしょ?僕。その数値が出ている画面ってのが見当たらないんだよ、この箱」
佐々木はその小さい箱を見渡し、コンコンと箱の上部を叩いていた。
「そうですね、液晶画面みたいなのが、見当たらないですね。どこで数値を見るのかわからない」
「うん、僕も分からなくて、問い合わせてみようかと思うんだ」
うーんと唸りながら小さい箱の上を見たり、横を見たり佐々木はしている。
「海外のサイトって言ってましたよね。なんか、変なもの買わされたんじゃないですか?」
「えー、そんな事ないもん」
小林に指摘をされ、口を膨らませ不服そうな顔をしながら佐々木は海外サイトを見るためか、ノートパソコンを立ち上げていた。
小林がそれを見て部屋を立ち去ろうとすると、また佐々木が小林くんと声をかけてきた。
「何ですか、俺、仕事しているんですけど?!」
小林はややイラついた調子で返事をした。早く仕事に戻りたい。この人なんでこんなに話しかけてくるんだろう?
「何でこの人、俺が仕事をしているのに、こんなに話しかけてくるんだろう。やっぱり、こんなところに一人で住んでいてさみしいのかなって思っているだろう、君?」
ギク。佐々木が急に真顔になって、小林の思っていることを口にしてきたので、小林は背中を緊張させ身をこわばらせた。
「声帯って、使わないと衰えてきてあまり良くないらしいんだ。だから、僕はさみしくて君に話しかけたいわけじゃない。声帯を使って、言葉を発したいだけなんだ。この違いが分かる?」
ハア、分からないけど、分かりますって言っておくか、面倒臭い。
佐々木はノートパソコンの画面を見ながら、時折チラと小林の方を見た。小林は早く仕事に戻りたくて、適当に返事しておくことにした。
「はい、わかります。先生はさみしいわけではなくて喉を使いたいだけですよね、分かります」
「うんうん、分かってたらいいよ」
佐々木は机の前で腕を組み、うんうんと大袈裟にうなづいていた。それからまたノートパソコンの方を見ていたが、なぜか動かなくなった。
再び部屋を立ち去ろうとしていた小林だったが、動かなくなった佐々木が気になりつい声をかけてしまったのだった。
「先生、どうかしましたか?」
「来ないんだ」
「え、何がですか?」
小林はそう聞きながら、部屋のすみに蜘蛛の巣を見つけ、そばにあった棒を手に取ってくるくると回し蜘蛛の巣を絡め取っていた。
「あ、その棒、背中のコリをほぐすのに使っているのに」
小林は聞こえないフリをして、棒をくるくると回す。
「あの器械を買ったサイトに問い合わせしようとメールソフトを開いたのね。で、やっぱり今日もお返事が来ない」
「お返事って?海外サイトの方じゃなくて他に何かあるんですか?」
「企業からの返信だよ。僕のアイディアを送っているって言っていたよね、それ」
「あー、なんかやってましたね」
「まあ、返信なんて、返ってきた事ないけどね」
そう言って佐々木は笑っていたけれど、少し寂しそうな笑顔に小林には見えた。
「僕のアイディアなんて、価値が無いのかな。誰も聞いてくれない」
「価値を決めるのは先生じゃなくて向こうでしょ」
小林は家具を拭きながら、そこらに散らばっている紙をまとめて持っていた袋にポイポイと放り込んでいた。捨てていいのかは分からない。
そして紺色のエプロンのポケットから自分のスマホを取り出し、時間を確認した。
「僕だって知っている、もう31だから。こんなのが相手にされない事くらい。でも、奇をてらってでも、誰も見たことがないものを作ってみたい」
「誰も見たことがないもの?」
「うん」
佐々木は相槌を打って、ノートパソコンに向き合いキーボードを打ち始めた。ようやく訳のわからない筋肉器械を売りつけた会社へ問い合わせのメールを書くことにしたようだ。
「先生、31歳なんですか?へえ」
「悪かったね、若く見えて」
若く見えますね、って言ってあげようとした小林は先に佐々木にそう言われて、自分で言うかと心の中で舌打ちをした。
「君は、えーと、大学生だから……」
「20ですけど」
「ハタチ?! 11も違うんだ。僕と同年代に見えるよ、君。老けてるねー。あはは、老けてる」
あははと、佐々木は小林を見て笑っている。
何も、二回も言わなくても。自分が少し老けていることは自覚していたが、改めて言われると少し傷ついた小林であった。むしゃくしゃして、そばの棚に無造作に置かれていた写真をかき集めてゴミ袋に次々と入れ始めた。それを見て、思い出のー植物園がーとか言いながら慌てて佐々木がゴミ袋から写真を回収していた。
「10~20出して、返事が来なかったくらいなんですか」
そう言いながら小林はまだ近くにあった旗などをゴミ袋に突っ込んでいた。佐々木は、この国の旗は要るとまたゴミ袋から旗を出していた。
「そういうのは50、100、200と出してはじめて返事が来るものじゃないんですか」
「に……200?」
「アポ取って、直談判とか、クラウドファンディングとか、まあ思いついたことなんでもやってみたらいいんじゃないでしょうかね」
「200……」
小林は佐々木が要ると言って机に戻した旗を要らないと判断してまたゴミ袋にポイと入れた。
佐々木は一点を見つめて何やら呟いていた。
「200か、ヨーシ」
やるぞーと突然両腕を上下させ、佐々木は椅子を引いてノートパソコンに向かいなにやら凄い勢いでカタカタとやっていた。
小林は自分で適当に言ったものの、佐々木を焚き付けてしまい、これは先生のターゲットにすごく迷惑なことをしたのではと思い始めたが、もうこの火は消せないとその思いを飲み込んだのだった。
◇◆
相変わらずあの妙な小さい箱を叩きながら箱の上や下を覗いたり、ノートパソコンでカタカタやっている佐々木のいる部屋に再びやってきた小林は、
紺色のエプロンをはずして、紺色の作業着まで脱いで、普通のグレーのジャケットを羽織っている。そして、ちょっと行ってきます、と佐々木に声をかけていた。
「大学行ってきます。すぐ帰ってくるんで、作業着ここ置いていいですか?」
「いってらっしゃい。あ、そうそう、帰りにメロン牛乳を買ってきて。四本、いや五本かな?明日も飲むし」
メロン牛乳、メロンの香りがするメロンフレーバーが溶け込んだ、甘い牛乳だ。あんな甘そうなのを、五本?小林は上を向いて、ウエと言い、飲んでもいないのに胸焼けがする気分になった。
小林太郎が通っている大学は今の時期春休み期間中だった。小林は少し大学の図書館に用があったので、その日大学へと訪れたのだがやはり春休みだからか人は少なかった。
一部サークルらしき学生の集まりを見かけたくらいで、あまり人とすれ違わないので友人知人に会わなくて反対に楽かもと、足早に図書館から去った。
大学の入り口近くの並木道に差し掛かり、風があるとまだ肌寒く感じるなあと思いながら樹の中を歩いていると、向こうから学生らしき男がやって来た。その男は薄手のニットを着用していて、その色は綺麗な若草色だった。
そのニットを見た時、あ、そうだメロン牛乳を買って帰らなきゃと小林は思い出していた。
「おーい、小林か?」
若草色のニットの男とすれ違う時、男はまじまじと小林を見て声をかけて来た。
「やっぱり小林だ!よお!」
小林に近付いた男は口元のマスクを少しずらして笑顔になったので、小林もよおと、とりあえず返事をしておいたが、こいつ、誰だっけ、と一向に目の前の男の名前が思い出せないのだった。
その男は背が高く、髪型は柔らかいニュアンスパーマがかかっていて赤毛のようなカラーのウルフカットの男だった。
顔はマスクで隠れていたが、イケメンらしき雰囲気だった。うっすらとどこかの飲み会で見たような覚えがあるのだが、やっぱり思い出せない。
あまりにも思い出せないので、メッセージアプリのグループで同じグループに入っているくらいの認識の知人なのかもしれない。
「小林最近見なかったなあ!お前、あのコウモリ男の家にバイトしに行っているだろ?」
知人レベルの男に、家事作業員のアルバイトのことを指摘されて、小林はドキッとした。なんで知っているんだろう。
「ニコふきふき社、俺も登録しているんだよ。コウモリ男のあの屋敷、俺、明日派遣されるんだけど、名前見たらチームに小林の名前があって、これ俺の知ってる小林かなって?やっぱり小林だったね」
「コウモリ男、いや佐々木先生の家に、明日お前来るの?!」
小林が驚いて聞くと、若草ニット男は笑った。
「ああ、コウモリ男、佐々木だったね。確かに佐々木実って書いてあったから、あそこだよ。行くよ。よろしく。お前はまだ担当なんだろ?」
「土曜まで」
「佐々木なー。確か授業受けた事あるわ。オンラインが多かったけどさ」
「先生の、受けた事あるの?!どうだった?」
小林は先生がどんな授業をするのか少し興味が出て、若草ニット男の言葉に期待をした。
「へ?佐々木の授業?別に普通だよ。黒ずくめなのはちょっとギョッとしたけど、話は普通だったと思う。あんまり印象に残ってないなあ」
普通と言われ、小林は拍子抜けした。佐々木は大学でも変なことを言っているんじゃないかと思っていたから、ごく普通の授業をしていることは意外だった。
「佐々木に会ったら、言っておいてよ。高橋ってのが行きます、って」
あ、コイツ、高橋って言うんだと、そこでやっと小林は若草ニット男の名前を知ったのだった。
◇◆
次の日、台所で佐々木が朝食かで飲んだであろうマグカップなどを小林が洗っていると、佐々木が降りてきたようで台所に入ってきた。
佐々木は冷蔵庫を開けて、昨日小林が買って入れておいたメロン牛乳を取り出し、コップに注いだ。佐々木は昨日もメロン牛乳を飲んでいた。
今日も飲んでる、と小林は顔をしかめた。
「先生、メロン牛乳飲み過ぎじゃないですか?」
「今日はまだ一杯目だよ~」
佐々木はそばのテーブルにメロン牛乳のコップを置き、椅子に座ってピンク色のペンをクルクルと指で回していた。
「昨日、言い忘れていたんですけど、今日、高橋って言うヘルプの作業員が来ます」
「新しい人が来るの?」
「はい」
佐々木はメロン牛乳をぐいと飲み、持っていたピンク色のペンを速く指で回して、ピタとそれを止めた。
「これさーこのペン、フリクションボールペンなんだけど」
フリクションボールペン、書いた文字をこするとその温度差でインクが透明化して見えなくなるという消せるボールペンで、たちまち定番化したペンである。
「ありますね、消せるペン」
佐々木はまた指でくるくるペンを回し始めた。
「これの反対で、二百年も四百年も千年も消えないボールペンインク、あったらいいな。一生消えないんだ。一生だぞ。消えない烙印を押されるんだ」
また何か思い付いたのかこの人と、小林はため息をつきながら洗った食器を拭いて食器棚に片付けた。
「あんまりボールペンのインクって消えないんじゃないですかね、なんか意味あるんですかね。壁画にでも書くつもりですか?」
佐々木は小林の問いかけには答えず、メロン牛乳をあおって、椅子から勢いよく立ち上がった。
「よしよし、企画書書くぞ」
「先生の部屋のノートパソコンの電源ついているんでしょう。そっちで書いてくださいよ。このペンじゃなくて」
小林は立ち上がった佐々木の後ろから手を伸ばし、ピンク色のペンを佐々木から取り上げた。
分かってるよ、と佐々木が小林からペンを取り返そうとした時、小林の紺色のエプロンポケットからブー、とスマホの鳴る音がした。
小林がポケットからスマホを取り出し画面を見ると、高橋からの連絡だったので電話を取った。どこからこの家に入るの、と言う内容だった。
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