5 / 192
2.有紀子と加奈子
3.ウブ
しおりを挟む
「有紀子君、最近一段と元気が無いですなぁ」加奈子が言った。
有紀子本人も最近元気がないということは気が付いていた。朝ご飯を食べてもチャージできず、そのまま登校途上。元気がないを通り越して暗いくらいだ。
反応の鈍さを見て、加奈子は察しがついた。
「あー、また陸君だっけ? 幼馴染みの夢のことね」
「……」
「忘れられないわけね」
「うん」
随分と長い時間に思えた。実際はそれほど長くない時間、加奈子は無表情で有紀子を見つめていた。
「……💡!」不意に何かを思い付いた加奈子が、変に明るくて大袈裟な笑みを浮かべて有紀子を見る。
「パーとさっ、恋でもしちゃえば?」
普段は出さない高い女の子声で加奈子が言う。少し可笑しくて元気が出る有紀子だったが、少し呆れた様子で答えた。
「そう簡単に……。そもそも相手がいないじゃない」
「何を言いますか。目の前にハンサムちゃんがいるではありませんか」
とても冗談めいたニンマリ顔で加奈子が笑う。
陸が引っ越していってから、時間が止まったかのように有紀子は感じていた。多くの思い出が色あせていったけれど、陸との思い出は色あせていないように感じる。実際映像記憶はほとんどないのだが、強すぎる想いが記憶を補てんして余りあるものにしていた。
陸のお嫁さんになると言ったこと、引っ越す陸に泣いて追いすがったこと、これだけが映像記憶で鮮明に残っている。延々とこれだけを繰り返して思い出していた。そのせいか現実の時間が経つのが早い。今という時間の中に自分がいないように感じる。それで9年過ぎたのだ。
「……子、……子、有紀子! もー聞いてるの? 授業終わってるよ」
とても遠くから、加奈子の声が聞こえる。有紀子は我に返って、ポツリと言った。
「え? 何? もう一度言って?」
「だから、授業は終わってるって」
「え~? そんなー‼」
加奈子は呆れ顔で隣の席に腰を下ろす。背もたれ側に胸を向けて大股を開いていた。スカートは長めで膝まであるとはいえ、パンツが見えてしまいそうな大胆な座り方が加奈子らしい。
開放的な性格だが、あまり肌を露出しない。綺麗過ぎて色気が無いように思える。ひざ下までのハイソックスを穿いているので、膝の皿が少し見える程度、清純女子といった雰囲気がある。――もちろん、大人しくしていればだけれど。
有紀子は、ため息をついた。
「なんにも手につかないよ、頭の中に陸君がいっぱいで」
「忘れればいいじゃん、モテるんだからさ。……恋してみれば?」
背もたれに両腕をついてそこにアゴを乗せ、授業前とはうって変わって低い声で加奈子が言った。そしてボリュームを下げて更に言う。
「恵まれた体をフルに使わなきゃ、……バージンじゃないんでしょ?」
すごい意味深な表情だ。有紀子は、自分が未経験であることは加奈子なら分かるはずだと思った。同時に、有紀子は顔を赤らめて視線を落とす。初体験をしろと促されているように感じたからだ。
「?」加奈子は反応を待つ。
「恵まれたってあんたの自慢か」と有紀子が呟き、そっぽを向く。加奈子は慌てた様子で、「ごめんね」と表情で謝った。
有紀子本人も最近元気がないということは気が付いていた。朝ご飯を食べてもチャージできず、そのまま登校途上。元気がないを通り越して暗いくらいだ。
反応の鈍さを見て、加奈子は察しがついた。
「あー、また陸君だっけ? 幼馴染みの夢のことね」
「……」
「忘れられないわけね」
「うん」
随分と長い時間に思えた。実際はそれほど長くない時間、加奈子は無表情で有紀子を見つめていた。
「……💡!」不意に何かを思い付いた加奈子が、変に明るくて大袈裟な笑みを浮かべて有紀子を見る。
「パーとさっ、恋でもしちゃえば?」
普段は出さない高い女の子声で加奈子が言う。少し可笑しくて元気が出る有紀子だったが、少し呆れた様子で答えた。
「そう簡単に……。そもそも相手がいないじゃない」
「何を言いますか。目の前にハンサムちゃんがいるではありませんか」
とても冗談めいたニンマリ顔で加奈子が笑う。
陸が引っ越していってから、時間が止まったかのように有紀子は感じていた。多くの思い出が色あせていったけれど、陸との思い出は色あせていないように感じる。実際映像記憶はほとんどないのだが、強すぎる想いが記憶を補てんして余りあるものにしていた。
陸のお嫁さんになると言ったこと、引っ越す陸に泣いて追いすがったこと、これだけが映像記憶で鮮明に残っている。延々とこれだけを繰り返して思い出していた。そのせいか現実の時間が経つのが早い。今という時間の中に自分がいないように感じる。それで9年過ぎたのだ。
「……子、……子、有紀子! もー聞いてるの? 授業終わってるよ」
とても遠くから、加奈子の声が聞こえる。有紀子は我に返って、ポツリと言った。
「え? 何? もう一度言って?」
「だから、授業は終わってるって」
「え~? そんなー‼」
加奈子は呆れ顔で隣の席に腰を下ろす。背もたれ側に胸を向けて大股を開いていた。スカートは長めで膝まであるとはいえ、パンツが見えてしまいそうな大胆な座り方が加奈子らしい。
開放的な性格だが、あまり肌を露出しない。綺麗過ぎて色気が無いように思える。ひざ下までのハイソックスを穿いているので、膝の皿が少し見える程度、清純女子といった雰囲気がある。――もちろん、大人しくしていればだけれど。
有紀子は、ため息をついた。
「なんにも手につかないよ、頭の中に陸君がいっぱいで」
「忘れればいいじゃん、モテるんだからさ。……恋してみれば?」
背もたれに両腕をついてそこにアゴを乗せ、授業前とはうって変わって低い声で加奈子が言った。そしてボリュームを下げて更に言う。
「恵まれた体をフルに使わなきゃ、……バージンじゃないんでしょ?」
すごい意味深な表情だ。有紀子は、自分が未経験であることは加奈子なら分かるはずだと思った。同時に、有紀子は顔を赤らめて視線を落とす。初体験をしろと促されているように感じたからだ。
「?」加奈子は反応を待つ。
「恵まれたってあんたの自慢か」と有紀子が呟き、そっぽを向く。加奈子は慌てた様子で、「ごめんね」と表情で謝った。
0
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
18年愛
俊凛美流人《とし・りびると》
恋愛
声を失った青年と、かつてその声に恋をしたはずなのに、心をなくしてしまった女性。
18年前、東京駅で出会ったふたりは、いつしかすれ違い、それぞれ別の道を選んだ。
そして時を経て再び交わるその瞬間、止まっていた運命が静かに動き出す。
失われた言葉。思い出せない記憶。
それでも、胸の奥ではずっと──あの声を待ち続けていた。
音楽、記憶、そして“声”をめぐる物語が始まる。
ここに、記憶に埋もれた愛が、もう一度“声”としてよみがえる。
54話で完結しました!
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる