FRIENDS

緒方宗谷

文字の大きさ
437 / 858
二年生の一学期

第百四十二話 追想

 小皿を使ってみんなが味見をする。
「案外美味いじゃん」
 春樹が舌を巻くとみんなも味を褒めたので、奈緒は自慢げになって「おかわりいかが?」、と鍋をお玉でかき混ぜた。
 おばあちゃんが用意した茶色い木のお椀に注がれた成瀬家のスープを啜りながら、春樹がほっと一息つく。
「ここ数日、なに食べても美味かったな。特に煮込み系。カレーに巻狩鍋に奈緒特製成瀬家スープ。とくに巻狩り鍋は絶品だった」
「当然です。まめぶ汁には負けませんよ」
「まべぶって?」みんなが首を傾げる。
「あの、甘いんだかしょっぱいんだかよく分からなくて有名なお汁ですよ」
 奈緒がみんなに向かって叫ぶように言った。
「今日の朝、七時十五分に見たじゃない。知らないなんて、じぇじぇじぇだよ」
 奈緒とおばあちゃんは、歴戦を駆け抜けてきた戦友であるかのようにお互いを見つめて微笑みあう。
 お椀を空にしたみんなが、それぞれの荷物をまとめて玄関に集まって靴を履く中、最初に立ち上がった春樹が、みんなの頭を見渡しながらニットジャケットのポケットに両手を入れる。
「帰りに朝市寄って行くだろ。来た時は飲食関係しか気にしなかったけど、野菜や食器の店もあったし、ちょっと見て行こうぜ」
 みんなの様子を眺めていたおばあちゃんが頬を柔和に綻ばせて、南の黒いフードと裾を直してやるというおせっかいを焼きながら、孫が奈緒のよだれをティッシュで拭ってやるさまを見やる。
「有料だけど夜市もあるらしいよ、夏には。聞いた話だと音楽イベントもなにかするらしいから、暇があったらおいでなさいな。ここにはなにもないですけれども、ないからこそ満たされるなにかがあるのでしょうね。だからこそ、なにかを見出して移住してくる方や訪れる方がいるんでしょう。東京では、欲しいものはなんでも手に入るのだろうけれど、それと引き換えに差し出している心の大切な部分もたくさんあるから、失った形のない、言葉にもできない魂のかけらが多くなりすぎて小さくすり減ってしまったのなら、こんなおばあちゃんが用意する田舎料理でもよければもてなしますよ。だからいつでもおいで。歓迎しますからね」
「「「はい、ぜひに」」」
 磊落に笑うおばあちゃんを見て、みんなは見惚れた様子だった。
 家庭菜園側から歩道に出ると、みんなは微かに身を震わせる。温かな陽射しとは裏腹に、肌を撫でる空気はひんやりとしていた。

感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清
ライト文芸
主人公・宮本剛は、都内で働くごく普通の営業系サラリーマン。いわゆる社畜。  タワーマンションの聖地・豊洲にあるオフィスへ通勤しながらも、自分の給料では絶対に買えない高級マンションたちを見上げながら、夢のない毎日を送っていた。  しかしある日、会社の近所で苦しそうにうずくまる女子高生・常磐理瀬と出会う。理瀬は女子高生ながら仮想通貨への投資で『億り人』となった天才少女だった。  剛の何百倍もの資産を持ち、しかし心はまだ未完成な女子高生である理瀬と、日に日に心が枯れてゆくと感じるアラサー社畜剛が織りなす、ちぐはぐなラブコメディ。

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

俺は陰キャだったはずなのに……なぜか学園内でモテ期が到来した件

こうたろ
青春
友人も恋人も居ないボッチ学生だった山田拓海が何故かモテだしてしまう。 ・学園一の美人で、男女問わず憧れの的。 ・陸上部のエースで、明るく活発なスポーツ女子。 ・物静かで儚げな美術部員。 ・アメリカから来た金髪碧眼でハイテンションな留学生。 ・幼稚園から中学まで毎朝一緒に登校していた幼馴染。 拓海の生活はどうなるのか!?

春から一緒に暮らすことになったいとこたちは露出癖があるせいで僕に色々と見せてくる

釧路太郎
キャラ文芸
僕には露出狂のいとこが三人いる。 他の人にはわからないように僕だけに下着をチラ見せしてくるのだが、他の人はその秘密を誰も知らない。 そんな三人のいとこたちとの共同生活が始まるのだが、僕は何事もなく生活していくことが出来るのか。 三姉妹の長女前田沙緒莉は大学一年生。次女の前田陽香は高校一年生。三女の前田真弓は中学一年生。 新生活に向けたスタートは始まったばかりなのだ。   この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」にも投稿しています。

両隣の幼馴染が交代で家に来る

みらいつりびと
恋愛
両親がタイへ行く。 父親が3月上旬に上司から命じられた。4月1日からバンコクで勤務する。 うちの父と母はいわゆるおしどり夫婦というやつで、離れては生きていけない……。 ひとり暮らしの高校2年生森川冬樹の世話をするため、両隣の美しい幼馴染浅香空と天乃灯が1日交代で通ってくる。 冬樹は夢のような春休み期間を過ごし、空と灯は火花を散らす。 幼馴染三角関係ラブストーリー。全47回。

黒に染まった華を摘む

馬場 蓮実
青春
夏の終わりに転校してきたのは、忘れられない初恋の相手だった——。 高須明希は、人生で“二番目”に好きになった相手——河西栞に密かに想いを寄せている。 「夏休み明けの初日。この席替えで、彼女との距離を縮めたい。話すきっかけがほしい——」 そんな願いを胸に登校したその朝、クラスに一人の転校生がやってくる。 彼女の名は、立石麻美。 昔の面影を残しながらも、まるで別人のような気配をまとう彼女は——明希にとって、忘れられない“初恋の人”だった。 この再会が、静かだった日常に波紋を広げていく。 その日の放課後。 明希は、"性の衝動"に溺れる自身の姿を、麻美に見られてしまう——。 塞がっていた何かが、ゆっくりと崩れはじめる。 そして鬱屈した青春は、想像もしていなかった熱と痛みを帯びて動き出す。 すべてに触れたとき、 明希は何を守り、何を選ぶのか。 光と影が交錯する、“遅れてきた”ひと夏の物語。

【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません

竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──

【短編集】こども病院の日常

moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。 18歳以下の子供が通う病院、 診療科はたくさんあります。 内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc… ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。 恋愛要素などは一切ありません。 密着病院24時!的な感じです。 人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。 ※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。 歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。