Kaddish

緒方宗谷

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ドイツ人の渇望したもの

4ー2

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 私は日本人であったから、彼らの中で生活をしながらも一歩退いた所から見ることが出来た。ベルリンで吸う空気は瘴気を帯びていたが、日本人を毒する事は出来ないのだろう。
 ただ、逆に、ドイツにいるからこそ分かる日本の過ちもあった。国際連盟において、日本は、明らかに過剰な要求をしていた。
 戦争以前、ドイツの台頭に大きな不安を抱えていた大英帝国は、大陸に関する事に対して日本に最大限の譲歩をして、なんとか常任理事国の意見を取りまとめようとしていたにも関わらず、日本は自分の主張が満たされていないとして、国際連盟を脱退してしまったのだ。
 当時、既にドイツの異民族に対する迫害は始まっており、ドイツに住む日本の政府関係者や軍人は、ドイツの異常さに気が付いていただろう。だが、それは日本に伝わる事は無かった。
 外国に住んでいるからこそ、私は大日本帝国の滅亡を予見できるのだ。確かに我が帝国はアジア最強かもしれない。蟻と象程の国力差があるロシア帝国を打ち破ったかもしれない。
 しかし、今目の前に立ちはだかるのは、クジラほども大きいアメリカ合衆国だ。
 日露戦争時は、イギリスが後ろ盾になってくれた。最新鋭の軍艦を購入した日本が国に持ち帰るまでの航路を、ずっと英国戦艦が付き添ってくれさえもした。膨大な戦費を貸してもくれた。
 だからこそ、日本海海戦を完全な勝利で飾る事が出来たのだ。今回は、唯一の頼みの綱であった日英同盟も失い、アメリカと交渉するための後ろ盾を有していない。
 アジアの盟主を自負している我が国ではあるが、開国してまだ間もないし、2600年という歴史の中で、日本は常に世界史を覆う蚊帳の外であり続けた。
 確かに、中華の冊封体制に完全に組み込まれず独立を保ち続けていたかもしれない。だがそれは、日本海という天然の要塞に守られていたからに他ならない。日本が行った対外戦争は、白村江の戦いと、蒙古襲来、秀吉が行った朝鮮への出兵だけだ。
 白村江の戦いは、当時朝鮮にあって滅んだ同盟国の百済王からの要請で、時の天皇が出兵を決意した。朝鮮半島に上陸した連合軍は敵国を打ち破ったが、優勢だったのは陸戦だけであった。陸から半島を攻め上がって行こうとする主張と、海からかつての首都へ攻め込もうとする主張が対立したのだ。日本と百済連合軍にとって首都奪還が悲願中の悲願だ。
 結果として、日本は枯葉の様に心もとない小舟で構成される水軍を率いて、巨大な木造船を保有する唐に戦いを挑むに至る。散々たる結果だ。日本の水軍は、ほぼ壊滅してしまった。
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