バージョン.A —高校生救世主の異世界革命譚—

アラヤマ田

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第2話  転移して早々、異世界デート

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 「って、言ってもなぁ…」
 始まらなかった。
 タケルは掌の数枚の硬貨を見つめる。
 「貰った硬貨の使い方もわからないし、第一こういうタイプの祭り初めてだからなぁ…困ったなぁ…」
 今の彼は硬貨を握り締めたまま、寝巻き姿で人混みの中立ち尽くしている、ただの怪しげな人物だった。
 はぁ、と吐息を漏らし、辺りを見回す。
 ぞろぞろと行き交う、人の群れ。一人一人の顔を見て、そのバラエティの豊かさに驚く。ここでは想像以上に多種多様な種族や人間が人の波に溶け込み、自然に共生している。
 「……ホントに異世界に来てしまったんだな、俺……」
 自分に言い聞かせるようにそう呟くタケル。
 「ちょっと、そこの人」
  肩を指先でつつかれる感触。顔を向けると、赤い髪をした少女がこちらを覗き込んでいた。
 「……おぉ」
 すごい美少女だ。
 髪の色合い、顔のパーツ、そのどれをとっても、彼女はまるで二次元や創作上のキャラクターのそれだった。
 「あなた、何かしたの?」
 「…え?は?何だって?」
 突拍子もないことを突然言われて、困惑するサトル。え?俺が何したかって?
 「……ホラ、衛兵があなたを見ているわ」
 「え」
 彼女が指さした先には、雑沓の中で立ち止まる二人の兵隊らしき人がいた。赤いジャケットに、円柱型の黒帽子を被った、威厳ある見た目の彼ら。
 二人は何かを話し合いながら、こちらをずっと見つめている。
 「……あれは確実に俺を見てるな」
 珍しい顔の人間が珍しい服装で人混みの中突っ立っている。確かに今の自分はどうみても怪しい。
 「(俺、捕まるのか?来て早々?)」
 少し不安な面持ちになる。
 「ねぇ、何かしたの?」
 そんなサトルの心配をよそに無邪気な態度の少女。
 「いや…?してないよ」
 「ホント?」
 「あぁ、本当だ」
 「……そっか。それなら大丈夫ね。……ね!それよりあなた、旅の人?」
 「ん…?あ、あぁ!俺は旅人だ」 
 そうだった。俺は旅人(という体だっ)だ。
 「やっぱり!」
 それを聞くなり、途端に目を輝かせてこちらを見つめる少女。
 「ね!私が相手して一緒にいてあげる!そうだ、お祭りを案内してあげるわ!そしたらあなたも衛兵に目をつけられないわ!」
 「ん?そうなの?」
 「きっとそうよ!ね?」
 「……そっか」
 少し考える仕草をするサトル。
 これは願ってもないチャンスだった。何も知らない旅人のていで彼女に付き従っておこう。そしたらきっとどうにかなる。
 「私の名前はアヴィ!あなたは?」
 「俺はサトルっていうんだ」
 「珍しい名前!やっぱり、あなた異国の人なのね!えへへ、私、旅人さんには憧れるんだ!ね!早くお祭り回りましょ!」
 「え、ちょ…」
 矢継ぎ早に話をすると、早速アヴィはサトルの腕を強引に引っ張り、人混みを掻き分けて進み始めた。
 「(……異世界来て早々、美少女とデート!?…俺はラッキーなのか…!?)」



 「ホラ、コレ!このお肉街の名物なの!最高よ!食べてみて!」
 二人は一つの出店の前で立ち止まる。店の中には皮を綺麗に剥がされた、艶やかな色の鳥たちが逆さで吊るされ、香ばしい匂いをあたりに散らす。
 「え…俺、お金がないんだが」
 サトルが遠慮しているとアヴィは迷わず答えた。
 「じゃ、私が買ってあげる!おばさん、ディソニスの鶏肉2つちょうだい!」
 「はいよ」
 お金を受け取った恰幅の良い女店主はそういうと、吊るされた鶏の肉を器用に千切り、二つ分を同じ大きさに仕立てて大きめの葉で巻いてアヴィに手渡した。
 「ホラ、サトルの分!」
 「あ……ありがとう」
 指先に鶏肉の熱い感触。
 「(そういえば飯を食っていないんだったな)」
 久しびりのご馳走。一口目を強く齧り付く。
 「……美味い」
 「ね?でしょ!」
 とても新鮮な味だった。食べたことのない、未知の味。あまり手の加えられていない野性味のある味わいが、口の中でいっぱいに広がる。
 「次は…そうだ!ね!あれ行こう!」
 「あ、う、うん…!」
 指差す先にはまた別の出店。店頭には木の実が盛り付けられた皿が並んでいた。
 「お、いらっしゃい!」
 「おじさん、ラテラの実ください!」 
 彼女が指さしたのは皿にいっぱいに盛られた青い木の実。もちろん、見たことのない木の実だった。
 「ラテラの実か?」これは加工なしだがいいのか?
 「うん、いいの!大丈夫だから!」
 「そうかそうか!なら、はいよ!お二人は恋人さんかね?フゥ~、熱いね!もうサービスしちゃうよ!」
 なんだこの世話焼きおじさん。
 「いやそういうのじゃ…」
 「ホント!?おじさん、ありがとう!」
 サトルの話を遮り、嬉しそうに食いつくアヴィ。
 「……これ食べれるの?」
 「ええ、もちろんよ。それに、これは冥力を回復するのにとても効果があるのよ?常識じゃない」
 「メイリョク?」
 「ホラ、はい」
 タケルの言葉を聞く間もなく、紙に包まれたいっぱいの木の実をアヴィは手渡した。
 「(早速異世界用語が出てきたな……深く掘り下げると怪しまれるし、ここは黙って渡されたもの食べておこう…)」
 一粒食べる。確かに美味い。ほの甘く、口当たりがとても良い。
 ……ん?なんだろうこの感覚は。
 サトルは、体の奥底で何かが流れる心地が、それも徐々に勢いを増すような感覚につままれた。
 「…これが、そのメイリョクってやつか?」
 「サトル!次はあそこ行くよ!」
 「ちょっ」
 不思議な面持ちのサトルに構うことなく、腕を引っ張り進む忙しないアヴィ。
 「(ちょっと…!腕になんか当たってるんですけど…!)」
 二人はサトルはたくさんの出店を回る。
 パン、肉、惣菜、魚…食材を取り扱う店ばかりだったが、そのどれもが未知のもので、サトルの心はその度に満たされた。
 「(こんな美少女と、お祭りデート…!?しかも異世界で…!?ハハ、なんて最高なシチュエーションなんだ…!!)」
 満面の笑みで、アヴィが話しかける。
 「サトル!楽しいね!」 
 「ああ……本当に……!」
 サトルは思った。
 「(いいぞ……!俺の異世界ライフ……!とっても幸先がいいぞ……!)」
 サトルはとても愉快な気持ちだった。
 ……この先、何が待っているとも知らずに。
 二人は楽しそうに、賑わう人混みの中へと消えていった。 
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