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平成十二年 運動会
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五月の風は爽やかで気持ちがいい。雲一つない青空、運動会をするのには絶好の日だ。お父さんお母さんはもちろんのこと、おじいちゃんやおばあちゃんも来るので先生もお友達も張り切っている、みんな一生懸命だ。僕はお友達の活躍は嬉しいけど、本心から運動会を楽しむことはできなかった。僕はクラスで一番背が低いから整列するときは一番前だ。『前ならえ』をするときはみんなは両手をまっすぐ伸ばすのに、僕は腰に手を当てなきゃならないんだ。開会式では校長先生や教頭先生の他、来賓の方々はいかにも偉そうな高齢者、いっぱいいて恥ずかしいんだ。それに競技もつまんないんだ。足が遅いからかけっこは練習の時からビリ、足がもつれてこけないようにするのが精一杯だ。選抜リレーで選ばれることなんか絶対ないんだろうな。練習の時、
「ちびっ、遅っ!」
と友達の田沼君は僕に嫌味を言ってきた、それもみんなに聞こえるような大きな声で。先生は注意するけど、みんなくすくす笑っている。そうだよ、僕は遅いよ。僕は駄目な子なんだ、味噌っ滓さ。
開会式が終わると先生や高学年の生徒たちは準備を進める。調子のいい音楽が流れ始めた。人気のアニメ『ピカピカポポン』の主題歌だ。お友達はワクワクしている。
「緊張する」
「どうしよう、こけちゃったら」
みんな笑顔で話すけど、僕にとって緊張とこけるは深刻な問題だ。放送部のアナウンスが響く。
「一年生は入場門に集まってください」
一年生の僕の最初の種目はかけっこだ、ドキドキが止まらない。こんな大勢の人に見られるなんて、それもビリだから目立っちゃう、やだなぁ。しんちゃんなら一緒に走ってくれるのになぁ。
女の子から走る。ピストルの音が鳴り響き、みんな一生懸命走り出す。女の子が終わった。あぁ、僕の順番がやってきた。僕と練習で一緒に走って一等賞を取った子はとても楽しそうだ、キラキラしている。その子の後について僕はふらふらとスタートラインに着いた。
「パァーン」
ピストルの音とともに僕はスタート、なんとか走り切ったけどビリだったよ、やっぱりさ。他のみんなは一位、二位、三位の旗のもとに行く。僕はそのまま退場門へ直行だ。退場門はカメラを抱えた大人でいっぱいだ。僕は顔をあげられない。涙が出そう。見学している人の中から、
「可愛い」
「ちっちゃい」
って声がたくさん聞こえてきた。その上、カメラのシャッター音も聞こえてきた。恥ずかしい。なんで僕を撮るんだよ。退場門の奥にお父さんはいた。お父さんはひときわ背が高い、後ろの方にいても分かる。お父さんはニコニコ笑っている。ごめんね、僕、遅いんだ。お父さん、笑ってる、ガッツポーズしているよ、あぁ良かった。
やっとお昼休み、お昼を食べにお父さんのところに向かった。お父さんはちゃっかりさくらちゃんの陣取った場所にお邪魔していた。さくらちゃんは幼稚園のときから一緒のおませな女の子、僕のクラスメートでもあり、保護者でもある。僕もお父さんも世間に疎く鈍臭いから見るに見兼ねたさくらちゃんとさくらちゃんのお母さんが誘ってくれた。お父さんはさくらちゃんのかけっこ一等賞を称えながらお昼ご飯を楽しんでいた。お外で食べるのは美味しいな、しんちゃんとお庭で一緒に食べたおにぎり、西瓜、トマト、何もかもおいしかったな。
「初めまして、中島さんですよね」
お父さんの後ろにはいじめっ子の田沼君にそっくりの大人がいた。
「いきなりすみません。私は田沼と申します。入学式であなたを見かけて一度お話したいなと思っていたんですよ」
お父さんは何も言わず頭を下げる。お父さんは田沼君の方を見ない、手に持った紙コップを見ている。僕はどうしていいか分からないからさくらちゃんを見ると、さくらちゃんは露骨に嫌そうな顔をしていた。田沼君が僕を時々いじめるのが気に食わないんだ。
「中島君のお父さん、この唐揚げ、食べてよ。お母さんの唐揚げは日本一美味しいんだよ」
「ありがとう、さくらちゃん」
お父さんは取り分け皿をさくらちゃんに差し出した。おませなさくらちゃん、顔がポッと赤くなってはにかんだ。子どもながら言うのもなんだが僕のお父さんはかっこいい。この席の周りのお友達のお母さんたちがお父さんをチラチラ見ている。
「初めましてと言いましたが、私は中島さんをどこかで見たような気がしましてね」
田沼君のお父さんの言葉にお父さんは何の反応もしない。
「中島君のお父さん、このプチトマト食べてよ。昨日、お母さんとお買い物に行って買ったの。黄色いトマトがあったから買ったの。ねぇ、食べて、食べて」
「えらいなぁ、さくらちゃんは。お母さんと一緒にお使いに行ったんだ」
お父さんは笑いながらプチトマトを取り分けてもらった。さくらちゃんは強いなぁ。一生頭があがんないや。
「どうやらお邪魔なようで」
立ち尽くす田沼君のお父さんはさくらちゃんに負けた。僕はほっとした。しかし、去り際にこう言った。
「これからも末永くよろしくお願いします」
僕はぶるっとしたんだ、田沼君のお父さんの薄気味悪い笑いに。
「ちびっ、遅っ!」
と友達の田沼君は僕に嫌味を言ってきた、それもみんなに聞こえるような大きな声で。先生は注意するけど、みんなくすくす笑っている。そうだよ、僕は遅いよ。僕は駄目な子なんだ、味噌っ滓さ。
開会式が終わると先生や高学年の生徒たちは準備を進める。調子のいい音楽が流れ始めた。人気のアニメ『ピカピカポポン』の主題歌だ。お友達はワクワクしている。
「緊張する」
「どうしよう、こけちゃったら」
みんな笑顔で話すけど、僕にとって緊張とこけるは深刻な問題だ。放送部のアナウンスが響く。
「一年生は入場門に集まってください」
一年生の僕の最初の種目はかけっこだ、ドキドキが止まらない。こんな大勢の人に見られるなんて、それもビリだから目立っちゃう、やだなぁ。しんちゃんなら一緒に走ってくれるのになぁ。
女の子から走る。ピストルの音が鳴り響き、みんな一生懸命走り出す。女の子が終わった。あぁ、僕の順番がやってきた。僕と練習で一緒に走って一等賞を取った子はとても楽しそうだ、キラキラしている。その子の後について僕はふらふらとスタートラインに着いた。
「パァーン」
ピストルの音とともに僕はスタート、なんとか走り切ったけどビリだったよ、やっぱりさ。他のみんなは一位、二位、三位の旗のもとに行く。僕はそのまま退場門へ直行だ。退場門はカメラを抱えた大人でいっぱいだ。僕は顔をあげられない。涙が出そう。見学している人の中から、
「可愛い」
「ちっちゃい」
って声がたくさん聞こえてきた。その上、カメラのシャッター音も聞こえてきた。恥ずかしい。なんで僕を撮るんだよ。退場門の奥にお父さんはいた。お父さんはひときわ背が高い、後ろの方にいても分かる。お父さんはニコニコ笑っている。ごめんね、僕、遅いんだ。お父さん、笑ってる、ガッツポーズしているよ、あぁ良かった。
やっとお昼休み、お昼を食べにお父さんのところに向かった。お父さんはちゃっかりさくらちゃんの陣取った場所にお邪魔していた。さくらちゃんは幼稚園のときから一緒のおませな女の子、僕のクラスメートでもあり、保護者でもある。僕もお父さんも世間に疎く鈍臭いから見るに見兼ねたさくらちゃんとさくらちゃんのお母さんが誘ってくれた。お父さんはさくらちゃんのかけっこ一等賞を称えながらお昼ご飯を楽しんでいた。お外で食べるのは美味しいな、しんちゃんとお庭で一緒に食べたおにぎり、西瓜、トマト、何もかもおいしかったな。
「初めまして、中島さんですよね」
お父さんの後ろにはいじめっ子の田沼君にそっくりの大人がいた。
「いきなりすみません。私は田沼と申します。入学式であなたを見かけて一度お話したいなと思っていたんですよ」
お父さんは何も言わず頭を下げる。お父さんは田沼君の方を見ない、手に持った紙コップを見ている。僕はどうしていいか分からないからさくらちゃんを見ると、さくらちゃんは露骨に嫌そうな顔をしていた。田沼君が僕を時々いじめるのが気に食わないんだ。
「中島君のお父さん、この唐揚げ、食べてよ。お母さんの唐揚げは日本一美味しいんだよ」
「ありがとう、さくらちゃん」
お父さんは取り分け皿をさくらちゃんに差し出した。おませなさくらちゃん、顔がポッと赤くなってはにかんだ。子どもながら言うのもなんだが僕のお父さんはかっこいい。この席の周りのお友達のお母さんたちがお父さんをチラチラ見ている。
「初めましてと言いましたが、私は中島さんをどこかで見たような気がしましてね」
田沼君のお父さんの言葉にお父さんは何の反応もしない。
「中島君のお父さん、このプチトマト食べてよ。昨日、お母さんとお買い物に行って買ったの。黄色いトマトがあったから買ったの。ねぇ、食べて、食べて」
「えらいなぁ、さくらちゃんは。お母さんと一緒にお使いに行ったんだ」
お父さんは笑いながらプチトマトを取り分けてもらった。さくらちゃんは強いなぁ。一生頭があがんないや。
「どうやらお邪魔なようで」
立ち尽くす田沼君のお父さんはさくらちゃんに負けた。僕はほっとした。しかし、去り際にこう言った。
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僕はぶるっとしたんだ、田沼君のお父さんの薄気味悪い笑いに。
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