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平成十一年 首長会議
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一年に一度、〇△県庁の大会議室で行われる首長会議、集められた市町村長は黙って名札の置いてある席に座っていた。すべての扉が閉められると大会議室は真っ暗になった。五秒ほど経っただろうか、スポットライトが一人の人物を浮かび上がらせた。満面の笑顔の柳沢吉康知事だ。毎年恒例の演出だから誰も驚かない。
「勘違いしている」
「なんだかなぁ」
とみんな呆れていた。
「我が〇△県の首長のみなさん、お忙しいにも関わらず、お集まり下さりありがとうございます。皆さんの日頃の労を労いたいのですが、会議の時間は決められていますので早速スライドの説明に入りますね」
生粋の目立ちたがり屋で会議で話す内容より自分のパフォーマンスに重きを置いていた。スクリーンに映し出されたスライドの説明にも関わらず身振り手振りが激しかった。
「ポイントはここです!」
と端っこで説明していたのにわざわざ真ん中に出てくる。その上、ポイントが一枚のスライドにつき五個以上、多すぎて何が重要か分からない。ステージをずっとうろうろして目障りだった。スライドよりも自分を見て、という欲望が知事を動き回らせた。スライドに柔らかいパステルカラーを用いていたのは、心優しい人物であることをアピールするためだった。躍動感、スピード感を持って県政に当たっていることをアピールするためにアニメーションを多用していた。柳沢知事なりに見てもらうための努力をしているのだが、それよりも毎回毎回スライドが百枚以上なので出席者はストレスを感じていた。大体、自分の生い立ちから現在までの自己紹介でスライドを十五枚用意しており、一枚一分のペースで話す。ここ数年は使いまわしているから本当にみんなうんざりしていた。人目を気にしないのか、耳が遠いのか、脳に特殊な変換機能が備わっているのか、自分の話で喜んでいると勝手に理解していた。自己紹介が終わるとやっと県政の説明に入る。とはいえ、ここ数年、内容は変わらないから少し手を加えていても誰も気づかなかった。知事が好感度を上げるため、自分の魅力を知ってもらうために大声で解説するが、出席者は何とも思わず、愛想笑いさえしなかった。赤ちゃん、子ども、高齢者の笑顔をところどころに入れられたスライドは、
くらし・環境・観光
健康・福祉
教育・文化
仕事・産業
まちづくり
新技術
などの明るい要素で塗り固められていて、柳沢知事は魅力ある県政を自分の手柄のように延々と捲し立てた。しかし、おしまいの方にちょろっとだけ説明される財政は、
「皆さんと一緒に頑張って何とかしましょう」
との発言であっという間に終わった。本来は、期待していたほど税収が得られない、国からの補助金はあてにならない、と説明すべきところだ。〇△県の財政は厳しいことは明白だった。財布の紐をきつく締めなければならないのに新しいことが大好き、公共事業大好き、イベント大好きで柳沢知事が面白いと思ったことはすぐ認可した。思い付きでやる事業やイベントはうまくいくわけがない。その度に多大な赤字を抱え、税金で補填していた。〇△県と〇△市が共同で出資したテーマパーク『はっぴーうれぴーランド』は常に閑古鳥が鳴き、県民に遠足で無理やり入場させることで入場者数を稼いでいた。ひどい時は従業員の出入りをカウントしていた。みんな気づいていたが声をあげる者はいなかった、多重債務をして危機的状況にあることを。
最後に特別なスライドが出された。そこには『平成の合併』と書いてあった。
「今年、平成十一年(一九九九年)より、たくさんの自治体を一つにし、広域化することによって財政基盤を強化し、地方分権の推進に対応することなどを目的とする合併が政府より提案されています。合併に伴い、各種の優遇措置を受ける事が出来ます。財政難に苦しむ首長の皆さん、今こそ我が〇△県をさらに豊かにしていこうではありませんか。どの市町村にも美しい自然、素晴らしい産業、誇るべき農産物、伝承したい技術があります。これを活用しない手はありません。各市町村の代表である皆さんが積極的に合併できるよう話し合いの場を設けることに私は力を惜しみません。皆さんと豊かな〇△県を築いていきましょう」
最後のスライドが終わり大会議室が明るくなっても首長たちは着席したままだった。どこも財政難で苦しんでおり周囲の様子を伺っていた。その中で足早に出ていく首長がいた。
「宮本村長、ちょっといいですか」
追いかけてきたのは〇△市の酒井正克市長だった。
「先ほどの合併の話、なかなか魅力的ですよね」
〇△市に隣接する山田村村長・宮本恒一郎は何も言わない。
「優遇措置により山田村が豊かになりますよ。いい話じゃありませんか?」
脂ぎってギラギラした顔の酒井知事に宮本村長は動じない。
「山田村には手つかずの素晴らしい自然がありますよね。観光をアピールするにはもってこいでしょう」
「いえ、結構です」
「まぁ、そう言わずに。人の立ち入りを禁止して長いですよね。今では見られなくなった珍しい植物もあることでしょう。もはや秘境と言えますよ。ご先祖がさぞかし優秀だったのでしょう、美しい町並みが残っている。こんな魅力的な観光資源は〇△県を見渡しても他にない。私は力を惜しみませんので、合併を機会に山田村を観光化してもっと豊かにしてはいかがですか?」
「すみません、これから他の打ち合わせがありますので」
宮本村長は一瞥すると足早に非常階段を下りていった。
「相変わらずですねぇ、山田村の宮本村長は」
酒井市長の横には柳沢知事の秘書・柳生宗則がいた。細身とはいえ肩幅が広くブランドの紺色のスーツが良く似合っている。筋の通った鼻、鋭い目つきは知性の塊で策略家を思わせた。
「ここは十階なのに階段で降りるとは・・・、呆れるわ」
酒井市長は不満を露わにした。山田村を合併・吸収したいのにいつも逃げられている。今回もあっという間に逃げられて苛々している。政府の合併に伴う優遇措置を受けたいのだが、周囲の市町村は〇△市の財政に不安なため足取りが揃わない。そして、最も豊かな山田村がそっぽを向いている。しかめっ面の酒井市長の横で秘書・柳生は冷静だ。
「全くですね。強か、剛健、見習いたいものですな」
「どこが、つまらん堅物だ。夢が無い。今も昔も変わっておらん」
年を取ると自分の思い通りにいかないと感情を抑えられないんだな、若くして〇△県知事の秘書になった奇才・柳生は酒井市長を冷めた目で見ていた。宮本村長を褒めるのが気に食わなかったのか酒井市長は声を荒げる。
「山田村は昔から反抗的だ。自分たちの村は自分たちの手で、と頑なに自治を貫いている。スーパーもない。コンビニもない。病院だって一つしかない。それも古びた診療所だ。院長は死にかけの爺だ。図書館もなければ市民ホール、体育施設もない。見渡す限り田んぼと畑、日暮れとともに村は終わる。夜は真っ暗でオバケが出そうだ。住人の平均年収も〇△県で最低だ。なにも良いところはない」
不満を立て続けに捲し立てる酒井市長が言葉を止めた途端、秘書・柳生は山田村の話を続ける。
「税収も少ないのに、悔しいほど財政が健全ですね。歳入に関しては村の運営に必要な資金を調達するために発行する地方債が無い。繰越金が多い。歳出に関しては住民の一定水準の生活と安定した社会生活を保障するのに必要な民生費が極めて少ない。これは住人が病院に行くことが少なく健康であることを意味している。施設も少ないから維持費も少ない。何もかもコンパクト、潔いほどだ」
柳生は感服する。
「その上、出生率も一.六と高い。学力テストも我が県で常にトップだ。交通事故はないし、犯罪もない。山田村は昔から非常に健全だ。私たちも見習わなければなりません」
それを聞いた酒井市長は不機嫌だ。
「我が〇△市と合併し、国の援助を受け、投資して経済を回せば財政は健全になる」
「そうですか。開園すればするほど借金が増える『はっぴーうれぴーランド』の補填に充てるんですかね?」
柳生は嫌味たっぷりだ。次の県知事を狙う柳生は山田村に興味があった。調べてればみるほど他の自治体とは違っていた。借金がない、金持ちの地方自治体は全国に複数ある。裕福なのは発電所や企業によるところが大きい。ところが山田村は何の産業もない。税収だって極めて少ない。住人の平均年収も最低レベルだ。エンターティメントと言えるものは全くない。そんな魅力が無い村だから選挙もなく常に無投票で村長と議員が決まる。村長は決まって地元の名士・宮本家の長男だ。辺鄙な村だから話題にならないが、このような宮本一族による長期に渡る自治は他に見られない。何かある、何か絡繰りがある。
山田村の公式ホームページは仕方なく開設していているようで情報が極めて少ない。妊娠・出産、入学・転校、結婚、お悔やみなど暮らしに関するものしかない。市町村の魅力をアピールするのに躍起になっている他の自治体のホームページに比べ愛想も素っ気もない。よそ者は来るなということか。その極めつけは役場に観光課、産業課がない。外部からの金を入れようとする気がないのか。
「山田村にある雷山山系は手つかずの自然が残っておる。ぜひとも我が市の観光の目玉にしたいものだ」
酒井市長は呟く。柳生も雷山山系は気になっていた。平成五年(一九九三年)には白神山地と屋久島、平成七年(一九九五年)には白川郷・五箇山の合掌造り集落が世界遺産に登録された。『世界遺産』は悪くない、魅力的な響きだ。自分が〇△県知事の時に登録できるよう仕向けたい。
「しかし、あそこは私有地なんだよな。それもあの堅物の宮本村長のだ。手強い・・・」
酒井市長は溜息を付く。以前から宮本村長に打診しているのだが常に拒否されている。
「雷山を整備して観光産業で儲けようと提案しても、『結構です』と全く受け付けない。ほんと頑固爺!」
酒井市長、あなたのほうが頑固爺、と柳生は心の中で呟いた。
「そろそろ知事のところに戻ります」
と柳生は酒井市長から離れた。大会議室に戻ると財政難に苦しむ自治体の首長たちが合併の話をしていた。どこもここも使い過ぎなんだよ、柳生は冷たい目線を投げかけた。
「私のプレゼンテーションはどうだったかね?」
満面の笑みで柳沢知事は柳生に問うた。スポットライトのせいでテカテカに顔が光っている。強欲でぎろりと光る目と濃い眉が暑苦しい。
「練習の時より明解でした。首長たちも聞き入っていましたよ」
柳生にとって作り笑いをすることは何の苦もなかった。こいつを叩き落さねばならない、油断させておかないと。とにかく今は耐えねば。そのためには〇△県の目玉になるものを作らなければ。雷山山系の自然遺産、悪くない。
「勘違いしている」
「なんだかなぁ」
とみんな呆れていた。
「我が〇△県の首長のみなさん、お忙しいにも関わらず、お集まり下さりありがとうございます。皆さんの日頃の労を労いたいのですが、会議の時間は決められていますので早速スライドの説明に入りますね」
生粋の目立ちたがり屋で会議で話す内容より自分のパフォーマンスに重きを置いていた。スクリーンに映し出されたスライドの説明にも関わらず身振り手振りが激しかった。
「ポイントはここです!」
と端っこで説明していたのにわざわざ真ん中に出てくる。その上、ポイントが一枚のスライドにつき五個以上、多すぎて何が重要か分からない。ステージをずっとうろうろして目障りだった。スライドよりも自分を見て、という欲望が知事を動き回らせた。スライドに柔らかいパステルカラーを用いていたのは、心優しい人物であることをアピールするためだった。躍動感、スピード感を持って県政に当たっていることをアピールするためにアニメーションを多用していた。柳沢知事なりに見てもらうための努力をしているのだが、それよりも毎回毎回スライドが百枚以上なので出席者はストレスを感じていた。大体、自分の生い立ちから現在までの自己紹介でスライドを十五枚用意しており、一枚一分のペースで話す。ここ数年は使いまわしているから本当にみんなうんざりしていた。人目を気にしないのか、耳が遠いのか、脳に特殊な変換機能が備わっているのか、自分の話で喜んでいると勝手に理解していた。自己紹介が終わるとやっと県政の説明に入る。とはいえ、ここ数年、内容は変わらないから少し手を加えていても誰も気づかなかった。知事が好感度を上げるため、自分の魅力を知ってもらうために大声で解説するが、出席者は何とも思わず、愛想笑いさえしなかった。赤ちゃん、子ども、高齢者の笑顔をところどころに入れられたスライドは、
くらし・環境・観光
健康・福祉
教育・文化
仕事・産業
まちづくり
新技術
などの明るい要素で塗り固められていて、柳沢知事は魅力ある県政を自分の手柄のように延々と捲し立てた。しかし、おしまいの方にちょろっとだけ説明される財政は、
「皆さんと一緒に頑張って何とかしましょう」
との発言であっという間に終わった。本来は、期待していたほど税収が得られない、国からの補助金はあてにならない、と説明すべきところだ。〇△県の財政は厳しいことは明白だった。財布の紐をきつく締めなければならないのに新しいことが大好き、公共事業大好き、イベント大好きで柳沢知事が面白いと思ったことはすぐ認可した。思い付きでやる事業やイベントはうまくいくわけがない。その度に多大な赤字を抱え、税金で補填していた。〇△県と〇△市が共同で出資したテーマパーク『はっぴーうれぴーランド』は常に閑古鳥が鳴き、県民に遠足で無理やり入場させることで入場者数を稼いでいた。ひどい時は従業員の出入りをカウントしていた。みんな気づいていたが声をあげる者はいなかった、多重債務をして危機的状況にあることを。
最後に特別なスライドが出された。そこには『平成の合併』と書いてあった。
「今年、平成十一年(一九九九年)より、たくさんの自治体を一つにし、広域化することによって財政基盤を強化し、地方分権の推進に対応することなどを目的とする合併が政府より提案されています。合併に伴い、各種の優遇措置を受ける事が出来ます。財政難に苦しむ首長の皆さん、今こそ我が〇△県をさらに豊かにしていこうではありませんか。どの市町村にも美しい自然、素晴らしい産業、誇るべき農産物、伝承したい技術があります。これを活用しない手はありません。各市町村の代表である皆さんが積極的に合併できるよう話し合いの場を設けることに私は力を惜しみません。皆さんと豊かな〇△県を築いていきましょう」
最後のスライドが終わり大会議室が明るくなっても首長たちは着席したままだった。どこも財政難で苦しんでおり周囲の様子を伺っていた。その中で足早に出ていく首長がいた。
「宮本村長、ちょっといいですか」
追いかけてきたのは〇△市の酒井正克市長だった。
「先ほどの合併の話、なかなか魅力的ですよね」
〇△市に隣接する山田村村長・宮本恒一郎は何も言わない。
「優遇措置により山田村が豊かになりますよ。いい話じゃありませんか?」
脂ぎってギラギラした顔の酒井知事に宮本村長は動じない。
「山田村には手つかずの素晴らしい自然がありますよね。観光をアピールするにはもってこいでしょう」
「いえ、結構です」
「まぁ、そう言わずに。人の立ち入りを禁止して長いですよね。今では見られなくなった珍しい植物もあることでしょう。もはや秘境と言えますよ。ご先祖がさぞかし優秀だったのでしょう、美しい町並みが残っている。こんな魅力的な観光資源は〇△県を見渡しても他にない。私は力を惜しみませんので、合併を機会に山田村を観光化してもっと豊かにしてはいかがですか?」
「すみません、これから他の打ち合わせがありますので」
宮本村長は一瞥すると足早に非常階段を下りていった。
「相変わらずですねぇ、山田村の宮本村長は」
酒井市長の横には柳沢知事の秘書・柳生宗則がいた。細身とはいえ肩幅が広くブランドの紺色のスーツが良く似合っている。筋の通った鼻、鋭い目つきは知性の塊で策略家を思わせた。
「ここは十階なのに階段で降りるとは・・・、呆れるわ」
酒井市長は不満を露わにした。山田村を合併・吸収したいのにいつも逃げられている。今回もあっという間に逃げられて苛々している。政府の合併に伴う優遇措置を受けたいのだが、周囲の市町村は〇△市の財政に不安なため足取りが揃わない。そして、最も豊かな山田村がそっぽを向いている。しかめっ面の酒井市長の横で秘書・柳生は冷静だ。
「全くですね。強か、剛健、見習いたいものですな」
「どこが、つまらん堅物だ。夢が無い。今も昔も変わっておらん」
年を取ると自分の思い通りにいかないと感情を抑えられないんだな、若くして〇△県知事の秘書になった奇才・柳生は酒井市長を冷めた目で見ていた。宮本村長を褒めるのが気に食わなかったのか酒井市長は声を荒げる。
「山田村は昔から反抗的だ。自分たちの村は自分たちの手で、と頑なに自治を貫いている。スーパーもない。コンビニもない。病院だって一つしかない。それも古びた診療所だ。院長は死にかけの爺だ。図書館もなければ市民ホール、体育施設もない。見渡す限り田んぼと畑、日暮れとともに村は終わる。夜は真っ暗でオバケが出そうだ。住人の平均年収も〇△県で最低だ。なにも良いところはない」
不満を立て続けに捲し立てる酒井市長が言葉を止めた途端、秘書・柳生は山田村の話を続ける。
「税収も少ないのに、悔しいほど財政が健全ですね。歳入に関しては村の運営に必要な資金を調達するために発行する地方債が無い。繰越金が多い。歳出に関しては住民の一定水準の生活と安定した社会生活を保障するのに必要な民生費が極めて少ない。これは住人が病院に行くことが少なく健康であることを意味している。施設も少ないから維持費も少ない。何もかもコンパクト、潔いほどだ」
柳生は感服する。
「その上、出生率も一.六と高い。学力テストも我が県で常にトップだ。交通事故はないし、犯罪もない。山田村は昔から非常に健全だ。私たちも見習わなければなりません」
それを聞いた酒井市長は不機嫌だ。
「我が〇△市と合併し、国の援助を受け、投資して経済を回せば財政は健全になる」
「そうですか。開園すればするほど借金が増える『はっぴーうれぴーランド』の補填に充てるんですかね?」
柳生は嫌味たっぷりだ。次の県知事を狙う柳生は山田村に興味があった。調べてればみるほど他の自治体とは違っていた。借金がない、金持ちの地方自治体は全国に複数ある。裕福なのは発電所や企業によるところが大きい。ところが山田村は何の産業もない。税収だって極めて少ない。住人の平均年収も最低レベルだ。エンターティメントと言えるものは全くない。そんな魅力が無い村だから選挙もなく常に無投票で村長と議員が決まる。村長は決まって地元の名士・宮本家の長男だ。辺鄙な村だから話題にならないが、このような宮本一族による長期に渡る自治は他に見られない。何かある、何か絡繰りがある。
山田村の公式ホームページは仕方なく開設していているようで情報が極めて少ない。妊娠・出産、入学・転校、結婚、お悔やみなど暮らしに関するものしかない。市町村の魅力をアピールするのに躍起になっている他の自治体のホームページに比べ愛想も素っ気もない。よそ者は来るなということか。その極めつけは役場に観光課、産業課がない。外部からの金を入れようとする気がないのか。
「山田村にある雷山山系は手つかずの自然が残っておる。ぜひとも我が市の観光の目玉にしたいものだ」
酒井市長は呟く。柳生も雷山山系は気になっていた。平成五年(一九九三年)には白神山地と屋久島、平成七年(一九九五年)には白川郷・五箇山の合掌造り集落が世界遺産に登録された。『世界遺産』は悪くない、魅力的な響きだ。自分が〇△県知事の時に登録できるよう仕向けたい。
「しかし、あそこは私有地なんだよな。それもあの堅物の宮本村長のだ。手強い・・・」
酒井市長は溜息を付く。以前から宮本村長に打診しているのだが常に拒否されている。
「雷山を整備して観光産業で儲けようと提案しても、『結構です』と全く受け付けない。ほんと頑固爺!」
酒井市長、あなたのほうが頑固爺、と柳生は心の中で呟いた。
「そろそろ知事のところに戻ります」
と柳生は酒井市長から離れた。大会議室に戻ると財政難に苦しむ自治体の首長たちが合併の話をしていた。どこもここも使い過ぎなんだよ、柳生は冷たい目線を投げかけた。
「私のプレゼンテーションはどうだったかね?」
満面の笑みで柳沢知事は柳生に問うた。スポットライトのせいでテカテカに顔が光っている。強欲でぎろりと光る目と濃い眉が暑苦しい。
「練習の時より明解でした。首長たちも聞き入っていましたよ」
柳生にとって作り笑いをすることは何の苦もなかった。こいつを叩き落さねばならない、油断させておかないと。とにかく今は耐えねば。そのためには〇△県の目玉になるものを作らなければ。雷山山系の自然遺産、悪くない。
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