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piece3 剛士の家族
諦めない
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***
自室に戻った剛士は、腰を据えて、大量のスマートフォンの通知に向き合う。
最初に確認したのは、バスケ部の監督からのメッセージだった。
今日のことは、生活指導の谷や、副キャプテンの健斗から報告を受けているだろう。
小さく息を吸い、剛士はメッセージを読む。
『明日10時から面談』
たったひと言だった。
しかし、監督の意図の最低限は、理解できた。
明日のバスケ部の練習は、12時からだ。
わざわざ面談を2時間前にするのは、剛士と部員たちを会わせないためだろう。
それが配慮か罰かまでは、わからないが――
剛士も、簡潔に返信をした。
「はい。すみませんでした」
どんな処罰になるかはわからない。
キャプテンの任を解かれてしまうかも知れない。
最悪の場合、部活動禁止令が出されてしまうかも知れない。
しかし、どんな結果であろうと、真摯に受け止めよう。
監督の決めたことに従おう。
剛士は、そう考えた。
剛士が次に確認した通知は、高木からの着信、それからメッセージだった。
今日の夕方に会う約束を反故にし、連絡すらしなかったのだ。
さぞ心配させてしまっただろう。
剛士は、高木のメッセージの文面を確認する。
メッセージは2通、届いていた。
1通めは、約束の時間を30分過ぎた頃。
『お疲れ。まだ部活終わってないか?』
そして2通めは夕方、自分が眠ってしまっていた頃。
『大丈夫か? 連絡待ってるからな』
それ以降は、メッセージも着信も無かった。
剛士を、じっと待ってくれているのだろう。
咎めるでも、過度な心配でもない。
剛士の状態を、慮ろうとする文面だった。
電話を掛け直す気力は、湧かなかった。
剛士は考えながら、メッセージ文を作る。
まず謝罪の言葉を綴り、簡潔に自分が起こしてしまった事態を説明した。
高木からは、すぐに返信があった。
『連絡ありがとな。大丈夫か? 少しは気持ち、落ち着いたか?』
剛士もすぐに、メッセージを返す。
「はい。大丈夫です」
『明日、監督との面談の後、話せないか?』
剛士は高木からの言葉を見つめ、少しの間、逡巡する。
兄から貰った痛烈な指摘が、頭をよぎった。
『頼ればいいじゃん。お前には、心配してくれる人が、沢山いるんだから』
『1人で戦うなんて、ちんけなプライド、さっさと捨てちまえ』
そうだ。いまは、つまらない意地を張っている場合ではない。
あのとき、現場にいた高木とエリカには、頼らねばならない。
力を貸して貰わなければ。
悠里の心を救う、手掛かりを掴むために。
剛士は、胸の重い痛みを堪えて、返信した。
「はい。お願いします」
そうして剛士は、明日の昼過ぎに、高木とエリカの2人と会う約束をした。
メッセージの通知は、まだまだ沢山ある。
その殆どが、バスケ部のメンバーだ。
詳細を説明するわけにはいかないが、1人ひとりに謝りたい気持ちはあった。
剛士は、受信時間の早いメッセージから、順番に返信していく。
一番迷惑をかけ、心配させてしまったであろう、副キャプテンの健斗。
彼からのメッセージは、今日の練習報告を含む、事務的なものだった。
まるで、いつも通りの文面。
本当は一番、何があったかを追及し、責める立場にあるのに。
健斗はひと言も、剛士の行為について触れていなかった。
「迷惑かけてごめん」
剛士は、短い文章を送る。
健斗から、すぐに返信があった。
『うん。また明日な』
剛士は、ぎゅっとスマートフォンを握り締めた。
また明日。
その言葉を言って貰えるのが、どれほど有り難く、嬉しいことなのかを思い知る。
健斗への感謝と申し訳なさが、ないまぜになった。
もう、仲間を悲しませることは、絶対にしたくない。
心から思った。
剛士は、最新のメッセージ通知を確認する。
拓真からだった。
『やっほーゴウ! デート、楽しかった? 報告待ってるぞー』
ズキリ、と鋭く胸が痛む。
デート。
その筈だった。
悠里と2人、笑って、手を繋いで。
幸せな時間を過ごす筈だった。
もう少しで、彼女との未来に、手が届く筈だったのに……
『次にみんなで会うときは、悠里はもう、俺の彼女だから』
教室で、自分が拓真に言った言葉を思い返し、憤りすら覚える。
そうやって、自分が能天気に笑っていた頃。
悠里は、カンナやユタカたちに取り囲まれ、激しい暴力と辱めに晒されていたのだ。
「拓真……」
心の震えに突き動かされるままに、親友の名を呼ぶ。
助けて欲しい。
そう思った。
本当なら、こんな話を拓真にしたくない。
何より、悠里の気持ちを思うと、辛い。
彼女はきっと、友だちに知られたくはないだろう。
けれど悠里も自分も、このまま1人でいては、駄目になる。
自分たちは、1人で耐えたり戦ったりするのではなく、親友に頼らなくては。
たくさんのメッセージや着信の通知のなか、やはり彼女の痕跡は無い。
彼女はいま、どうしているだろう。
家にいる? ちゃんと眠れている? ご飯は食べた?
誰にも言えず、ひとりで苦しむ彼女の姿が、目に浮かぶ。
「悠里……ごめんな」
自分はいつ、彼女に面と向かって、謝ることができるだろう。
いつまででも、待つ。
そのときが来るまで、自分にできることは、何だってする。
悠里の綺麗な長い髪、大きな瞳、愛らしい笑顔を思った。
剛士は、拓真にメッセージを送る。
「明日、会って話せる?」
深刻な気配を、察してくれたのだろう。
拓真から、すぐに返事が来た。
『大丈夫だよ』
気になるだろうに、いま電話を掛けてきたりはしない。
親友の暖かい心遣いに深く感謝し、剛士は答える。
「ありがとう。夕方、学校の近くになると思う。また連絡する」
『OK! 待ってる』
深呼吸をし、剛士は自分の胸に言い聞かせた。
明日。
監督と面談して、高木とエリカに会って、拓真に打ち明けて……
ひとつひとつに、丁寧に向き合おう。
悠里を助ける。
このまま終わりになんか、しない。
――諦めない、絶対に。
改めて、強い決意を心に刻みつけた。
自室に戻った剛士は、腰を据えて、大量のスマートフォンの通知に向き合う。
最初に確認したのは、バスケ部の監督からのメッセージだった。
今日のことは、生活指導の谷や、副キャプテンの健斗から報告を受けているだろう。
小さく息を吸い、剛士はメッセージを読む。
『明日10時から面談』
たったひと言だった。
しかし、監督の意図の最低限は、理解できた。
明日のバスケ部の練習は、12時からだ。
わざわざ面談を2時間前にするのは、剛士と部員たちを会わせないためだろう。
それが配慮か罰かまでは、わからないが――
剛士も、簡潔に返信をした。
「はい。すみませんでした」
どんな処罰になるかはわからない。
キャプテンの任を解かれてしまうかも知れない。
最悪の場合、部活動禁止令が出されてしまうかも知れない。
しかし、どんな結果であろうと、真摯に受け止めよう。
監督の決めたことに従おう。
剛士は、そう考えた。
剛士が次に確認した通知は、高木からの着信、それからメッセージだった。
今日の夕方に会う約束を反故にし、連絡すらしなかったのだ。
さぞ心配させてしまっただろう。
剛士は、高木のメッセージの文面を確認する。
メッセージは2通、届いていた。
1通めは、約束の時間を30分過ぎた頃。
『お疲れ。まだ部活終わってないか?』
そして2通めは夕方、自分が眠ってしまっていた頃。
『大丈夫か? 連絡待ってるからな』
それ以降は、メッセージも着信も無かった。
剛士を、じっと待ってくれているのだろう。
咎めるでも、過度な心配でもない。
剛士の状態を、慮ろうとする文面だった。
電話を掛け直す気力は、湧かなかった。
剛士は考えながら、メッセージ文を作る。
まず謝罪の言葉を綴り、簡潔に自分が起こしてしまった事態を説明した。
高木からは、すぐに返信があった。
『連絡ありがとな。大丈夫か? 少しは気持ち、落ち着いたか?』
剛士もすぐに、メッセージを返す。
「はい。大丈夫です」
『明日、監督との面談の後、話せないか?』
剛士は高木からの言葉を見つめ、少しの間、逡巡する。
兄から貰った痛烈な指摘が、頭をよぎった。
『頼ればいいじゃん。お前には、心配してくれる人が、沢山いるんだから』
『1人で戦うなんて、ちんけなプライド、さっさと捨てちまえ』
そうだ。いまは、つまらない意地を張っている場合ではない。
あのとき、現場にいた高木とエリカには、頼らねばならない。
力を貸して貰わなければ。
悠里の心を救う、手掛かりを掴むために。
剛士は、胸の重い痛みを堪えて、返信した。
「はい。お願いします」
そうして剛士は、明日の昼過ぎに、高木とエリカの2人と会う約束をした。
メッセージの通知は、まだまだ沢山ある。
その殆どが、バスケ部のメンバーだ。
詳細を説明するわけにはいかないが、1人ひとりに謝りたい気持ちはあった。
剛士は、受信時間の早いメッセージから、順番に返信していく。
一番迷惑をかけ、心配させてしまったであろう、副キャプテンの健斗。
彼からのメッセージは、今日の練習報告を含む、事務的なものだった。
まるで、いつも通りの文面。
本当は一番、何があったかを追及し、責める立場にあるのに。
健斗はひと言も、剛士の行為について触れていなかった。
「迷惑かけてごめん」
剛士は、短い文章を送る。
健斗から、すぐに返信があった。
『うん。また明日な』
剛士は、ぎゅっとスマートフォンを握り締めた。
また明日。
その言葉を言って貰えるのが、どれほど有り難く、嬉しいことなのかを思い知る。
健斗への感謝と申し訳なさが、ないまぜになった。
もう、仲間を悲しませることは、絶対にしたくない。
心から思った。
剛士は、最新のメッセージ通知を確認する。
拓真からだった。
『やっほーゴウ! デート、楽しかった? 報告待ってるぞー』
ズキリ、と鋭く胸が痛む。
デート。
その筈だった。
悠里と2人、笑って、手を繋いで。
幸せな時間を過ごす筈だった。
もう少しで、彼女との未来に、手が届く筈だったのに……
『次にみんなで会うときは、悠里はもう、俺の彼女だから』
教室で、自分が拓真に言った言葉を思い返し、憤りすら覚える。
そうやって、自分が能天気に笑っていた頃。
悠里は、カンナやユタカたちに取り囲まれ、激しい暴力と辱めに晒されていたのだ。
「拓真……」
心の震えに突き動かされるままに、親友の名を呼ぶ。
助けて欲しい。
そう思った。
本当なら、こんな話を拓真にしたくない。
何より、悠里の気持ちを思うと、辛い。
彼女はきっと、友だちに知られたくはないだろう。
けれど悠里も自分も、このまま1人でいては、駄目になる。
自分たちは、1人で耐えたり戦ったりするのではなく、親友に頼らなくては。
たくさんのメッセージや着信の通知のなか、やはり彼女の痕跡は無い。
彼女はいま、どうしているだろう。
家にいる? ちゃんと眠れている? ご飯は食べた?
誰にも言えず、ひとりで苦しむ彼女の姿が、目に浮かぶ。
「悠里……ごめんな」
自分はいつ、彼女に面と向かって、謝ることができるだろう。
いつまででも、待つ。
そのときが来るまで、自分にできることは、何だってする。
悠里の綺麗な長い髪、大きな瞳、愛らしい笑顔を思った。
剛士は、拓真にメッセージを送る。
「明日、会って話せる?」
深刻な気配を、察してくれたのだろう。
拓真から、すぐに返事が来た。
『大丈夫だよ』
気になるだろうに、いま電話を掛けてきたりはしない。
親友の暖かい心遣いに深く感謝し、剛士は答える。
「ありがとう。夕方、学校の近くになると思う。また連絡する」
『OK! 待ってる』
深呼吸をし、剛士は自分の胸に言い聞かせた。
明日。
監督と面談して、高木とエリカに会って、拓真に打ち明けて……
ひとつひとつに、丁寧に向き合おう。
悠里を助ける。
このまま終わりになんか、しない。
――諦めない、絶対に。
改めて、強い決意を心に刻みつけた。
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