#秒恋7 それぞれの翌日――壊れた日常を取り戻すために

ReN

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piece8 公園の後

彩奈は本当に、いい子なんです

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彩奈と拓真が、公園から姿を消した後。
残った剛士、高木とエリカの3人は、重苦しい沈黙に包まれていた。


高木が困ったような、悔しそうな声音で呟いた。
「協力……求められそうな雰囲気じゃ、なかったな」

剛士は、小さく微笑んでみせる。
「……彩奈の気持ちを考えれば、仕方ないです。話を聞いてくれただけでも、感謝してます」

きっと彩奈の力は、傷ついた悠里の助けになる。
彼女が悠里の傍に行ってくれるのは、本当にありがたい。

それだけでも、本当に。

改めて剛士は、自分の不甲斐なさと、彩奈の存在の有り難さを噛み締めた。


しかし高木は、納得しきれないのか、固い表情を崩さない。
「でもさ、彼女はお前の友だちでもあるわけだろ。剛士と悠里さんのこと、応援してくれてるんだろ。だったら……」

『剛士に力を貸してくれたっていいじゃないか』

喉まで出かかった言葉を、高木はグッと飲み込む。
剛士の口元に浮かぶ、優しくて悲しい微笑を見ると、その後の言葉を続けることはできなかった。

剛士は、微かな声で言った。
「彩奈は、大事な友だちです。俺にとって。……彩奈も、そう思ってくれていたと思います」


剛士は胸の痛みと共に、ひとつひとつを大切に思い返していた。
この公園で、彩奈としたケンカを。
その後に、フォトアルバムを処分するときにした、彩奈との会話を――


『私さ。今までシバさんのこと、友だちというよりは『悠里の好きな人』って。心のどこかで、一線を引いて接してたと思う』

『さっきは、ケンカになっちゃったけど……でもあれで私、シバさんとホントの友だちになれた気もする』

彩奈と交わしたこの時間は、剛士にとって大切な、大切な思い出だった。


向かいに座る2人に向かい、剛士は、微笑む。
「本当に、いい子なんです。正義感強くて、真っ直ぐで。真っ直ぐ過ぎて、たまに突っ走るけど、いつも友だちのために、全力で戦ってくれる、優しい子なんです」

先程の彩奈の様子や言葉を思い返し、エリカは深く頷いた。
「うん……すごく、わかるよ。あの子は本当に、悠里ちゃんが大好きで、一生懸命なんだよね」


彩奈の痛烈な言葉や態度は、悠里を思う気持ちの裏返し。
悠里を守りたい気持ちの強さ。

エリカは、彩奈の真摯な瞳と声、怒りと、何より彼女の涙の重さを考えた。


剛士は、目を伏せて言う。
「悠里のことを守れる人間だって。彩奈は、俺のことを信用してくれていたと思います。でもその気持ちを、裏切ってしまった。彩奈に拒絶されるのも、仕方ないです」

「剛士……」
彼の悲しい声音に、高木も、かけるべき励ましの言葉が見つからなかった。

剛士は顔を上げ、高木とエリカに向かって微笑んでみせる。
「……大丈夫です。時間かかるとは思いますけど、悠里にも彩奈にも、俺はきちんと償います」

そう言うと、剛士はガラリと声の調子を切り替えた。
「2人とも、話し合いの場に一緒にいてくれて、ありがとうございました。助かりました」


それは、終わりを示す言葉。
今後の明確な線引きを示す言葉だった。

わかってはいながらも、高木は剛士に問いかけた。
「……俺たちに、他に何か、できることはないか?」

剛士は、優しい笑みを少しだけ深めた。
「……何かあったら、また、相談させてください」
「……そうか」

悔しいが、自分たちにできることは、もう何もない。
高木もそれを悟り、口をつぐんだ。


エリカは口をへの字に曲げ、剛士の表情を窺う。
彼女の方は、まだ諦めきれていなかった。

彩奈と悠里の間に、割って入るつもりは、もちろんない。
彩奈の心を、これ以上、逆撫でしてはいけないこともわかっている。

けれど、親友の彩奈には言いづらいことだって、あるかも知れない。
あの日、あの場所にいた私だからこそ、打ち明けやすい苦しみもあるのではないだろうか。

もしできるなら、その微妙な部分を、サポートしてあげたい。
悠里だけでなく、彩奈にも笑顔を取り戻して貰えるように。
自分にできることを、探したい。

もう一度、悠里に会いたい。力になりたい。
このままでは、終われない。
エリカは、そう思った。


しかしいまは、この感情を剛士にぶつけたり、勝手に行動をするべきではない。
彼を困らせるばかりか、新たな揉め事の引き金になってしまう可能性すらある。
落ち着いて。いまは一旦、引き下がるべきだ。


エリカと高木は顔を見合わせ、小さく頷いた。
高木が真剣な目で、剛士に呼びかける。
「剛士……ひとりで思い詰めるなよ。話だけでもいい。いつでも、連絡くれよ」
高木からの寄り添いの言葉に、剛士は微笑んだまま、頷いてみせた。


すっかり、夜が深まっていた。
公園の古い灯りでは、テーブルを挟んで座る互いの顔が、はっきりと見えなくなるほどだ。

「俺たちも、帰りましょう」
剛士の静かな声に従い、2人は後ろ髪をひかれながらも、立ち上がった。


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