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piece9 何にもうまくできないの
何か、事情があるのかも
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身体中から、涙が溢れてくるようだった。
悠里は身を震わせ、嗚咽を洩らす。
「お母さん……私、何にも上手くできないの」
「悠里」
ぎゅうっと、力いっぱい母が抱きしめてくれる。
そうされると、ますます涙が収まらなくなった。
「悠里。大丈夫、大丈夫よ。貴女は本当に、よくがんばってる」
髪を、背中をさすってくれる母の手に力なくもたれかかり、悠里はただただ、泣きじゃくった。
彩奈にも、力いっぱい抱きしめて貰って。
エリカにも、優しく抱きしめて貰って。
たくさん、たくさん、泣いた。
それなのにいま、またお母さんの胸で、泣いている。
こんなに泣いたのに。
どうして、まだ涙は枯れてくれないんだろう――
家族の前で、明るく振る舞うことさえできない。
母に心配をかけてしまうとわかっていても、悠里の涙は止まらない。
そんな自分が、嫌で、悲しくて堪らなかった。
もう、誤魔化す余地はない。
何かあったのだと、母に悟られただろう。
それでも母は、無理に問い正したりはしなかった。
悠里を抱きしめ、ずっと頭を撫でてくれた。
***
「お母さん……」
涙も少しだけ落ち着き、悠里は小さく照れ笑いを零す。
「……ごめんね」
母は微笑みながら、首を横に振ってくれた。
そうして悠里に、優しい声で問いかける。
「悠里。何か、あった?」
「……うん」
悠里は、苦笑混じりに答えた。
「お母さん……人付き合いって、難しいね」
悠里の零した僅かな言葉で、母は何となく、察しただろう。
しかし、『誰と、何があったのか』を、追及しようとはしなかった。
ただ母は、うん、と穏やかに頷いてくれた。
その空気感に誘われ、悠里は静かに、自分の気持ちを覗き込む。
「私ね……いままで過ごした時間とか、思い出とか。一緒に、がんばってきたこととか」
悠里はポツリと、呟いた。
「急に……私を全部、否定された気がしたの……」
「……そう」
母はまた、穏やかな相槌を打つ。
そして暫くの間、優しく悠里の頭を撫でた。
「……どうして、お相手が急に、そうしたのか……悠里は、わかる?」
悠里はゆっくりと、首を横に振る。
「……わからない」
「……そう」
母は悠里の髪を撫でながら、何か考えを巡らせているようだった。
悠里はおとなしく、母の次の声を待つ。
「……もしかしたら、お相手にも何か、事情があるのかもね」
「……え?」
母の言葉に、悠里は眼を瞬かせる。
悠里と目が合うと母はまた、包み込むような暖かい笑顔を向けてくれた。
「だって、悠里がこんなに悲しいのは。お相手が、普段はそんなことをする人ではないからよね?」
悠里は身を震わせ、嗚咽を洩らす。
「お母さん……私、何にも上手くできないの」
「悠里」
ぎゅうっと、力いっぱい母が抱きしめてくれる。
そうされると、ますます涙が収まらなくなった。
「悠里。大丈夫、大丈夫よ。貴女は本当に、よくがんばってる」
髪を、背中をさすってくれる母の手に力なくもたれかかり、悠里はただただ、泣きじゃくった。
彩奈にも、力いっぱい抱きしめて貰って。
エリカにも、優しく抱きしめて貰って。
たくさん、たくさん、泣いた。
それなのにいま、またお母さんの胸で、泣いている。
こんなに泣いたのに。
どうして、まだ涙は枯れてくれないんだろう――
家族の前で、明るく振る舞うことさえできない。
母に心配をかけてしまうとわかっていても、悠里の涙は止まらない。
そんな自分が、嫌で、悲しくて堪らなかった。
もう、誤魔化す余地はない。
何かあったのだと、母に悟られただろう。
それでも母は、無理に問い正したりはしなかった。
悠里を抱きしめ、ずっと頭を撫でてくれた。
***
「お母さん……」
涙も少しだけ落ち着き、悠里は小さく照れ笑いを零す。
「……ごめんね」
母は微笑みながら、首を横に振ってくれた。
そうして悠里に、優しい声で問いかける。
「悠里。何か、あった?」
「……うん」
悠里は、苦笑混じりに答えた。
「お母さん……人付き合いって、難しいね」
悠里の零した僅かな言葉で、母は何となく、察しただろう。
しかし、『誰と、何があったのか』を、追及しようとはしなかった。
ただ母は、うん、と穏やかに頷いてくれた。
その空気感に誘われ、悠里は静かに、自分の気持ちを覗き込む。
「私ね……いままで過ごした時間とか、思い出とか。一緒に、がんばってきたこととか」
悠里はポツリと、呟いた。
「急に……私を全部、否定された気がしたの……」
「……そう」
母はまた、穏やかな相槌を打つ。
そして暫くの間、優しく悠里の頭を撫でた。
「……どうして、お相手が急に、そうしたのか……悠里は、わかる?」
悠里はゆっくりと、首を横に振る。
「……わからない」
「……そう」
母は悠里の髪を撫でながら、何か考えを巡らせているようだった。
悠里はおとなしく、母の次の声を待つ。
「……もしかしたら、お相手にも何か、事情があるのかもね」
「……え?」
母の言葉に、悠里は眼を瞬かせる。
悠里と目が合うと母はまた、包み込むような暖かい笑顔を向けてくれた。
「だって、悠里がこんなに悲しいのは。お相手が、普段はそんなことをする人ではないからよね?」
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