14 / 36
Lesson 13 デートしてくれる?
しおりを挟む
「ねぇ、テスト勉強はどんなかんじだったの?」
登校してすぐに私は千波に捕まった。
土曜、日曜のテスト勉強は結局、葵の個人レッスンはなくなってしまった。
仕事だから仕方なかったし、それ以外にもいろいろ問題があった。
だけど、それをどこまで話していいものかどうかというところに。
「おっはよ、大霜」
超ご機嫌な松永の声が教室の扉付近から飛んでくると、反射的に千波も私も振り返った。
いや、クラス全員の視線が私と松永に降り注がれている。
「お……おはよう」
視線が痛すぎて、うまく笑えない。
そんな私の隣で人一倍視線を送ってくる千波に、私は内心ため息でいっぱいになる。
松永がご機嫌なまま席につくと一斉に男子連中に取り囲んだ。
その様をじっと見つめる千波に「またなんかあったのね」とツッコまれ、苦笑いを浮かべるしかなかった。
「カテキョとの反動が松永に行くかんじ?」
相変わらず鋭すぎて、返す言葉も見つからない。
こうなったら、早くHRの時間になって欲しいと切実に思う。
「テスト終わってからでもいい?」
集中できなくなるのが正直な話で。
いや、もうすでにテストに集中なんかできてないけど、それでも悪い点数を取るわけにもいかない。
テストの点数が悪かったら葵にどんな風に思われるかわからないもの。
それを察したらしい千波がにんまりと意地悪く笑って見せた後で
「今日はヒナの家でテスト勉強してもいい?」
と聞いてきた。
『テスト勉強』は間違いなく名目なんだろうけれど、ここでツッコまれるよりは絶対的にいい。
私は大きくうなずいてみせる。
千波は納得したようにそれ以上聞くこともなく、自分の席に戻って行った。
千波に隠し事は本当に難しい。
そもそも、あんなに機嫌よくあいさつなんてしてくる松永が悪い。
そう思って睨みつけるように彼を見る。
視線がぶつかった途端、あっちは満面の笑みをたたえる。
ため息が出そうになるのをこらえ、私は一限目の英語の単語カードをパラパラとめくった。
遠くでざわめきが起きるのが聞こえても知らないフリをした。
ふと口寂しくなる感覚に襲われる。
――チョコ、食べたいなあ。
カバンに目が走る。
実はこっそりとチョコを忍ばせてきたのだ。
そっと忍ばせたチョコに指先が触れた瞬間、バンッと派手な音を立てて机の上に大きな手が現れた。
反射的に上を向くと、そこにはニッコリ満面の笑顔の松永がいた。
「俺、テスト自信あるんだ」
それはよかったと思いながら、私はカバンに入れていた手を戻した。
「今回のテスト。大霜よりひとつでも良い点取れてたらデートしてくれる?」
唐突な申し出に思いっきり口が開いた。
そんな私たちを冷やかすように、男子連中がはやし立てる。
「な……なんでこんな間際でそんな妙なこと言うのよ!」
グイッと松永の腕を引っ張り寄せると、松永は少し顔を離してから極上の笑顔を浮かべて見せる。
「俺、欲張りなの。ご褒美あったほうが解けない問題もできるような気がするんだよな」
「ご褒美って……みんな見てるのに……」
キョロキョロ教室を見回す。
男子の視線も、女子の視線も突き刺さるほどこっちに向いている。
「見せつけてるんだもん」
「は?」
「他の男が寄りつかないように、見せつけてんの」
そういうことは時と場所を選んでほしい。
「なあ、『わかった』って言ってくれよ」
至近距離で思いっきり爽やかな笑顔を振りまかれ、ドキドキしない女子がいたら教えてもらいたい。
この間の自撮りといい、その前の頬にキスといい、顔が近すぎて直視できない。
できればこの状況からすぐにも抜けだしたい。
男子の声はうるさいし、女子の視線は痛いし、松永は諦め悪そうだし。
ふと千波を見る。
呆れたような、面白そうな顔でこっちを見ながら小さく笑っていた。
「『わかった』」
とりあえず心穏やかにテストに向き合いたいから……そういう理由を前面に押し出して、私は松永に返した。
松永は両腕を高らかに上げて「うぃ~っ!」とか言いながら、男子の輪の中に戻って行く。
恐ろしく『単純』で『わかりやすい』リアクションに、クスリと笑いが漏れる。
――こういうわかりやすいリアクションが葵にあればいいのに。
そんなことを思う自分に、単語カードをもてあそんでいた手がとまる。
結局、辿りつくところが葵。
どうやっても考えてしまうのが葵。
いい加減、この呪縛から解き放たれたいのにチョコを貰ってさらにその呪縛が増した気がする。
食べ物って恐ろしい?
いや、あの渡し方が問題なのだ。
『チョコは『恋』に効くんだよ』
そう言って笑った葵の顔がチョコを食べるたびに甦った。
あれ以来、チョコが手放せない。
今日だって持ってきている。
食べたいと思うのは……『快感』というものに触れたいからなのだろうか?
あの日のことがグルグル回って……考えるたびに胸がキュッとなる。
――ダメだ!
そう思って顔をパチパチと叩き、単語カードにもう一度目を落とす。
チャイムの音を耳にしながら小さくため息を吐く。
「デート……」
松永と。
テストの点数がひとつでも松永のほうが良ければデート。
安易だったかと思いつつも、松永が自分よりも良い点が取れるほど成績がよかったかと首を傾げつつも、仮にそうなったとして、デートすることになったとして、葵は許してくれるだろうか?
――っていうか、そもそも葵の許しなんていらないじゃん!
だけどやっぱり葵が気になって、頭の隅でそんなことをぼんやりと思ってしまっていた。
登校してすぐに私は千波に捕まった。
土曜、日曜のテスト勉強は結局、葵の個人レッスンはなくなってしまった。
仕事だから仕方なかったし、それ以外にもいろいろ問題があった。
だけど、それをどこまで話していいものかどうかというところに。
「おっはよ、大霜」
超ご機嫌な松永の声が教室の扉付近から飛んでくると、反射的に千波も私も振り返った。
いや、クラス全員の視線が私と松永に降り注がれている。
「お……おはよう」
視線が痛すぎて、うまく笑えない。
そんな私の隣で人一倍視線を送ってくる千波に、私は内心ため息でいっぱいになる。
松永がご機嫌なまま席につくと一斉に男子連中に取り囲んだ。
その様をじっと見つめる千波に「またなんかあったのね」とツッコまれ、苦笑いを浮かべるしかなかった。
「カテキョとの反動が松永に行くかんじ?」
相変わらず鋭すぎて、返す言葉も見つからない。
こうなったら、早くHRの時間になって欲しいと切実に思う。
「テスト終わってからでもいい?」
集中できなくなるのが正直な話で。
いや、もうすでにテストに集中なんかできてないけど、それでも悪い点数を取るわけにもいかない。
テストの点数が悪かったら葵にどんな風に思われるかわからないもの。
それを察したらしい千波がにんまりと意地悪く笑って見せた後で
「今日はヒナの家でテスト勉強してもいい?」
と聞いてきた。
『テスト勉強』は間違いなく名目なんだろうけれど、ここでツッコまれるよりは絶対的にいい。
私は大きくうなずいてみせる。
千波は納得したようにそれ以上聞くこともなく、自分の席に戻って行った。
千波に隠し事は本当に難しい。
そもそも、あんなに機嫌よくあいさつなんてしてくる松永が悪い。
そう思って睨みつけるように彼を見る。
視線がぶつかった途端、あっちは満面の笑みをたたえる。
ため息が出そうになるのをこらえ、私は一限目の英語の単語カードをパラパラとめくった。
遠くでざわめきが起きるのが聞こえても知らないフリをした。
ふと口寂しくなる感覚に襲われる。
――チョコ、食べたいなあ。
カバンに目が走る。
実はこっそりとチョコを忍ばせてきたのだ。
そっと忍ばせたチョコに指先が触れた瞬間、バンッと派手な音を立てて机の上に大きな手が現れた。
反射的に上を向くと、そこにはニッコリ満面の笑顔の松永がいた。
「俺、テスト自信あるんだ」
それはよかったと思いながら、私はカバンに入れていた手を戻した。
「今回のテスト。大霜よりひとつでも良い点取れてたらデートしてくれる?」
唐突な申し出に思いっきり口が開いた。
そんな私たちを冷やかすように、男子連中がはやし立てる。
「な……なんでこんな間際でそんな妙なこと言うのよ!」
グイッと松永の腕を引っ張り寄せると、松永は少し顔を離してから極上の笑顔を浮かべて見せる。
「俺、欲張りなの。ご褒美あったほうが解けない問題もできるような気がするんだよな」
「ご褒美って……みんな見てるのに……」
キョロキョロ教室を見回す。
男子の視線も、女子の視線も突き刺さるほどこっちに向いている。
「見せつけてるんだもん」
「は?」
「他の男が寄りつかないように、見せつけてんの」
そういうことは時と場所を選んでほしい。
「なあ、『わかった』って言ってくれよ」
至近距離で思いっきり爽やかな笑顔を振りまかれ、ドキドキしない女子がいたら教えてもらいたい。
この間の自撮りといい、その前の頬にキスといい、顔が近すぎて直視できない。
できればこの状況からすぐにも抜けだしたい。
男子の声はうるさいし、女子の視線は痛いし、松永は諦め悪そうだし。
ふと千波を見る。
呆れたような、面白そうな顔でこっちを見ながら小さく笑っていた。
「『わかった』」
とりあえず心穏やかにテストに向き合いたいから……そういう理由を前面に押し出して、私は松永に返した。
松永は両腕を高らかに上げて「うぃ~っ!」とか言いながら、男子の輪の中に戻って行く。
恐ろしく『単純』で『わかりやすい』リアクションに、クスリと笑いが漏れる。
――こういうわかりやすいリアクションが葵にあればいいのに。
そんなことを思う自分に、単語カードをもてあそんでいた手がとまる。
結局、辿りつくところが葵。
どうやっても考えてしまうのが葵。
いい加減、この呪縛から解き放たれたいのにチョコを貰ってさらにその呪縛が増した気がする。
食べ物って恐ろしい?
いや、あの渡し方が問題なのだ。
『チョコは『恋』に効くんだよ』
そう言って笑った葵の顔がチョコを食べるたびに甦った。
あれ以来、チョコが手放せない。
今日だって持ってきている。
食べたいと思うのは……『快感』というものに触れたいからなのだろうか?
あの日のことがグルグル回って……考えるたびに胸がキュッとなる。
――ダメだ!
そう思って顔をパチパチと叩き、単語カードにもう一度目を落とす。
チャイムの音を耳にしながら小さくため息を吐く。
「デート……」
松永と。
テストの点数がひとつでも松永のほうが良ければデート。
安易だったかと思いつつも、松永が自分よりも良い点が取れるほど成績がよかったかと首を傾げつつも、仮にそうなったとして、デートすることになったとして、葵は許してくれるだろうか?
――っていうか、そもそも葵の許しなんていらないじゃん!
だけどやっぱり葵が気になって、頭の隅でそんなことをぼんやりと思ってしまっていた。
2
あなたにおすすめの小説
【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!
奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。
ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。
ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
幼馴染みのメッセージに打ち間違い返信したらとんでもないことに
家紋武範
恋愛
となりに住む、幼馴染みの夕夏のことが好きだが、その思いを伝えられずにいた。
ある日、夕夏のメッセージに返信しようとしたら、間違ってとんでもない言葉を送ってしまったのだった。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる