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万和6(2024)年5月
留学先の台湾の大学院の学生寮にて、皇太子和仁親王は24年と11ヶ月の人生の中で最大の危機を迎えていた。
「マズい...これは非常にまずいぞ...」
彼はスマホ画面を凝視しながら冷や汗をかいている。彼がこれほどまでに慄いているのは画面に映る愛しい恋人からのメッセージであった。
『私とは電話する時間も取れないって言ってたくせにあんな場所に行く時間は取れたんだね。しばらく会いたくないから連絡してこないで』
彼がこうなったのには3ヶ月ほど前に遡る
◇◇◇
万和6(2024)年2月
和仁は留学先の修士論文の作成を行っていた。留学に行く以上、きちんと学位を取得して帰国したいと考えていた和仁は大学院に正規入学しており、かなりハードに勉学に取り組んでいたのだ。
特に論文を執筆し始めるころには寝食の時間も惜しむほどであり、恋人-韓国で芸能活動をしている台湾出身の林淑華-に対しあるメッセージを送っていた。
『ごめん、修士論文の執筆で忙しくてさ...5月位まで電話する時間ないかも...ごめんね』
すぐに返信が返ってきた。
『OK!メチャクチャ寂しいけど我慢するね。論文終わったら教えて!すぐ飛んで帰るから』
『ありがとう。』
◇◇◇
そんなやり取りをしてから3ヶ月。彼は死に物狂いで修士論文を書き上げ、5月に提出し終えたのである。
「あー疲れた...もう何も考えたくねー」
そんな彼の部屋を訪れた者が1人いた。彼の名はエドワード。英国貴族の跡取り息子であり、和仁の学友の1人である。
「おい和仁、ちょうど面白いモンが見れるんだけど一緒に行かね?」
「面白い物?何だよ」
「いいから、それは行ってからのお楽しみだ」
「あ、おい!」
エドワードは和仁の腕を引っ張るとそのまま寮の外へと連れ出した。
連れていかれたのは台北市内のとある屋台。イカ焼きを作って売る屋台なのだがこの屋台は他とは全く異なる特徴があった。
そこでイカ焼きを焼いている女性店員はなんと裸エプロン姿で焼いていたのである。
「お前...!何考えてんだよ!?俺恋人居るんだけど!?」
「まあいいじゃねえか、浮気するわけでもあるまいし。」
「それにこんなとこマスコミに撮られたらどうすんだよ!?」
「別にいいだろ?こういうのが大好物なんだよ大衆って奴は。」
幼い頃から貴族としてダブロイドに面白おかしく記事にされた経験があるエドワードはその辺りかなり達観していた。そんな彼の言葉に和仁も観念し、イカ焼きを頼む事に。
「イカ焼き2つ」
「はいよ」
そう言うと女性店員に代金を渡す和仁とエドワード。
(うわ~…デッカ...)
和仁の視線はエプロンを不自然に押し上げている二つの丘に釘付けとなっていた。
「おい、何チラチラ見てんだよ~」
エドワードがニヤニヤしながら肩を組んでくる。
「うっせ。お、もうそろそろできるみたいだぞ」
からかってくるエドワードに悪態を付いているとイカ焼きが完成間近となっていた。
「完成したよ。熱いうちに食べな」
「ありがとう...美味しいです」
「サンキュー...歯ごたえもあって最高だな!」
店員の恰好はさておき、2人はイカ焼きの美味しさに感嘆する。
「そりゃよかった。またおいでよ」
店員はそう言うと再びイカ焼きを作り始める。2人は満足しながら寮へと戻った。
しかし、この時の2人の様子はパパラッチや周囲にいた客によって撮影・拡散されてしまう。
しかもよりにもよって和仁が店員の胸を凝視していた部分がすっぱ抜かれてしまい日本では『エロの宮』という造語が作られ、海外でも『Hentai Prince』とセンセーショナルな報じられ方をしてしまう。
その日の夜。
和仁はオンライン会議アプリを使い両親である天皇皇后、そして妹の明宮知子内親王と家族会議を開いていた。ただし、実態は家族会議と言う名のお説教タイムである。
和仁の父である天皇が口を開く。
『さて...和仁、何か弁解する事はあるか?』
さらに母の皇后が続く。
『全く...あなたは次代の天皇なのよ?それなのにあんな場所に行くのが良いと思っているの?』
知子はより直球だった。
『恋人がいるのにあんな店行くとかマジでキモいんだけど...ホント最低』
家族からの突き上げに彼は何も言う事が出来なかった。
「何も弁明する事はないよ...そうだね...品位に欠ける行動だったよ...それと知子、お前は辛辣過ぎる。俺はお前のお兄ちゃんだぞ?」
『いやでもマジでクソキモいから。鼻の下伸ばして胸見るとか』
「いや鼻の下は伸ばしてねえよ!?」
『2人とも落ち着きなさい。とにかく、和仁は来月には帰国し皇太子として公務を本格化させる。まあ、これまでにも何度か帰国してもらってはいたがな...それにお妃探しもだ。そういう自覚を持って今後は落ち着いた行動を心がけなさい。良いね?』
兄妹の言い合いに割り込んだ天皇はそう言って和仁を窘める。こうして、家族会議は終了した。
その直後、淑華から一通のメッセージが届いた。
『私とは電話する時間も取れないって言ってたくせにあんな場所に行く時間は取れたんだね。しばらく会いたくないから連絡してこないで』
こうして、冒頭へと至ったのである。
◇◇◇
和仁は寮の自室で頭を抱えていた。
「マズい...一刻も早く謝らなければ...!」
彼は淑華に謝ろうとメッセージを送ったが既読こそ付くが全く返信が来ない。そして、彼の頭の中にとてつもなく突拍子の無い選択肢が浮かび上がる。
「そうだ!韓国に行こう!そうでもなきゃ解決しない!」
そう思った和仁はある場所へと電話を掛けた。
◇◇◇
日本台湾交流協会・台北事務所
台北事務所代表の藤堂昭は一通の電話に出たのだが、その相手に度肝を抜かれた。
『皇太子和仁親王と申します。藤堂代表、本日はあなたにお願いしたいことがございまして』
「はい!?皇太子殿下、それでどの様なご要望でありましょうか?」
『パスポートを用意していただいたいんです!私の人生史上最大の危機なので!』
「それは...もしかして淑華氏との関係でしょうか?」
『何故それを!?』
「昨日娘に記事を見せられまして...」
『なら話が早いですね!なる早でお願いします!』
「しかし発行にはそこそこの日数が...」
『私は皇太子!クラウン・プリンスですよ!?その位融通利かせろや!ウチの爺さんにチクってテメェの出世潰してやっても良いんだぞゴルァッ!』
彼の母方の祖父は外務省の中で強い影響力があった。退官した現在でもその影響力は色あせる事はないとされている。
そんな彼の威光をちらつかされた藤堂は遂に折れてしまい通常2週間かかるパスポートを1日で用意させた。
そんな彼は即座に台北発ソウル行きの便を予約。
護衛1人を伴ってLCCでソウルまで向かったのである。
◇◇◇
皇居・御所
天皇と皇后、知子はテレビを見ていた。3人はにこやかに会話をしていたが、テレビから流れて来た映像に度肝を抜かれる事となる。
『【速報】皇太子さま 韓国を私的訪問』
「「「...は?」」」
3人は呆然としながら画面を見つめていた。画面には大量の韓国警察の警備の元韓国へと降り立った和仁の姿があった。
「何やってんだお前はーーーー!?」
天皇はテレビの前で叫ぶ事しかできなかった。
◇◇◇
『皇太子さま!本日はどういった理由で渡韓をなされたのですか?』
韓国メディアの女性記者が英語で彼に質問をする。それに対し彼もまた英語で答える。
『恋人を悲しませてしまいまして、仲直りをするためにここに来ました。』
『それは例の『Hentai Prince』騒動のことでしょうか?』
『そうです。私はHentaiという汚名をすすぐためにここに来たのです』
完璧な発音である。だが、話している内容が余りにも最低過ぎるが故に非常に残念であった。
そんな彼は韓国政府が用意した公用車でハイグレードのホテルに宿泊し、淑華と再会する為の準備を整えていた。
◇◇◇
ホテルの一室で彼は1人の女性に電話を掛けていた。相手は淑華と同じアイドルグループの日本人メンバーである九条弘子。彼女はグループの他のメンバーの中でも特に淑華と仲の良いメンバーであった。そして和仁の初等科時代の3つ年上の先輩でもある。摂関家出身の彼女は幼少期からの顔なじみでもあった。
「九条さん、この度は淑華との橋渡しをしていただき、誠にありがとうございました。」
『いいんですよ、殿下。私としても悲しそうな淑華ちゃんを見るのは心苦しいので』
「あのー...もしかしてちょっと怒ってます?」
その直後、弘子の口調は今までの淑女然とした雰囲気から一変。物凄く荒々しくなる。
『怒っとるに決まっとろーがこのボケナス!
論文書く言うて連絡してへんのに終わってすぐあの子に連絡せんと寄りにもよって裸エプロンの店行くとか頭おかしいんちゃうん!?
ホンマ腹立つわぁ...ウチの可愛い可愛い淑華ちゃん泣かしよってからに顔面変形するまでどつき回したろかカスが!』
余りの剣幕に和仁もドン引きしてしまう。
「ええ、仰る通りです。どんな手段を使ってでも仲直りするつもりです」
『ホンマ頼むで。あんなポロポロ泣く淑華ちゃんもう見たくないねん...明日アンタんとこのホテルに近い喫茶店に連れ出すからちゃんと仲直りしーや。ほなな』
そう言って電話を切る弘子。和仁は明日に向けた準備を進めるのであった。
◇◇◇
翌日。和仁はホテルの部屋を出て近くのカフェに来ていた。彼はラフな恰好に帽子をかぶり、ダメ押しでサングラスを掛けていたこともあって殆ど気付かれる事無くカフェに入店する事が出来た。
ただし、韓国警察は総力を挙げて目立たない様に彼の警護に当たっており半径1㎞に3重の警備網が敷かれ延べ5000人が動員されていた。
そんなカオスな状況の中で2人の女性が入店する。弘子と淑華である。
2人が到着すると彼は手を挙げて誘導した。席に着くと弘子は韓国語で淑華に話しかける。
『じゃ、私は少し離れた席に移動するから後は2人で話し合ってね』
『うん。』
しかし、和仁は英語と中国語は話せるが韓国語は『アニョハセヨ』と『カムサハムニダ』しか話せないので2人が何を言っているのかは全く分からなかった。
ちなみに弘子は英語と韓国語が、淑華は韓国語と少しの英語、日本語が話せる。
淑華との会話ややり取りは中国語で行っている。
そして弘子が席を立って移動すると和仁は開口一番頭を下げた。
「淑華ごめん!論文を理由に連絡を控えていたのに終わってすぐ君に連絡しなくて!それに友人に連れられたとはいえあんな場所に行ってしまって、君に余計な心配を掛けてしまってごめん!」
そう言って謝罪をする和仁。淑華はそんな彼を見て口を開く。
「ねえ、和仁...私メッチャ辛かったよ...あんな場所行くのもそうだけど何より私に連絡するより先に行くなんて私の事軽く扱っているとしか思えなかった...こんなに好きなのって私だけだったのかなって...」
そう言うと彼女の目から涙が溢れてしまう。それを見た和仁は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
「そんな事ない!俺は君の事が本当に大好きだ!あんなことしでかした後で説得力はないかもだけどこの気持ちに嘘はない!」
そう言って淑華の手を握る和仁。
「俺は誰よりも君の事を大切に思っている...それなのに...君をこんなに悲しませてしまって...本当にごめん!どうお詫びすれば良いか分からないよ...」
真剣な表情を浮かべる和仁。そんな彼を見た淑華は泣き笑いの表情になる。
「...分かった。仕方ないなぁ。まあ、許してあげる。その代わり、今から台湾に戻るまで私の言う事何でも聞くこと。良い?」
「ああ、それで君の気持ちが晴れるなら構わないよ。」
「じゃあ、これ奢って」
そう言って淑華はこのカフェで評判のパフェを注文した。
「それ位いくつでも奢るよ。」
和仁は笑顔でそう答えた。その様子を弘子は遠くから眺めていた。
◇◇◇
その後、2人はソウル市内でショッピングを楽しんだり、映画を一緒に見て過ごした。最後には夜景の見える丘の上からソウル市内を一望し2人でツーショット写真を撮影して解散。
和仁は翌日台湾へと戻った。
その後、彼は日本に帰国し公務を本格化。その後、淑華と結婚したいと願うようになり宮内庁や政府を相手に話し合い(時々恫喝)を行って説得し彼女は後に皇室史上初の外国出身の皇太子妃として皇室入りすることとなる。
~完~
留学先の台湾の大学院の学生寮にて、皇太子和仁親王は24年と11ヶ月の人生の中で最大の危機を迎えていた。
「マズい...これは非常にまずいぞ...」
彼はスマホ画面を凝視しながら冷や汗をかいている。彼がこれほどまでに慄いているのは画面に映る愛しい恋人からのメッセージであった。
『私とは電話する時間も取れないって言ってたくせにあんな場所に行く時間は取れたんだね。しばらく会いたくないから連絡してこないで』
彼がこうなったのには3ヶ月ほど前に遡る
◇◇◇
万和6(2024)年2月
和仁は留学先の修士論文の作成を行っていた。留学に行く以上、きちんと学位を取得して帰国したいと考えていた和仁は大学院に正規入学しており、かなりハードに勉学に取り組んでいたのだ。
特に論文を執筆し始めるころには寝食の時間も惜しむほどであり、恋人-韓国で芸能活動をしている台湾出身の林淑華-に対しあるメッセージを送っていた。
『ごめん、修士論文の執筆で忙しくてさ...5月位まで電話する時間ないかも...ごめんね』
すぐに返信が返ってきた。
『OK!メチャクチャ寂しいけど我慢するね。論文終わったら教えて!すぐ飛んで帰るから』
『ありがとう。』
◇◇◇
そんなやり取りをしてから3ヶ月。彼は死に物狂いで修士論文を書き上げ、5月に提出し終えたのである。
「あー疲れた...もう何も考えたくねー」
そんな彼の部屋を訪れた者が1人いた。彼の名はエドワード。英国貴族の跡取り息子であり、和仁の学友の1人である。
「おい和仁、ちょうど面白いモンが見れるんだけど一緒に行かね?」
「面白い物?何だよ」
「いいから、それは行ってからのお楽しみだ」
「あ、おい!」
エドワードは和仁の腕を引っ張るとそのまま寮の外へと連れ出した。
連れていかれたのは台北市内のとある屋台。イカ焼きを作って売る屋台なのだがこの屋台は他とは全く異なる特徴があった。
そこでイカ焼きを焼いている女性店員はなんと裸エプロン姿で焼いていたのである。
「お前...!何考えてんだよ!?俺恋人居るんだけど!?」
「まあいいじゃねえか、浮気するわけでもあるまいし。」
「それにこんなとこマスコミに撮られたらどうすんだよ!?」
「別にいいだろ?こういうのが大好物なんだよ大衆って奴は。」
幼い頃から貴族としてダブロイドに面白おかしく記事にされた経験があるエドワードはその辺りかなり達観していた。そんな彼の言葉に和仁も観念し、イカ焼きを頼む事に。
「イカ焼き2つ」
「はいよ」
そう言うと女性店員に代金を渡す和仁とエドワード。
(うわ~…デッカ...)
和仁の視線はエプロンを不自然に押し上げている二つの丘に釘付けとなっていた。
「おい、何チラチラ見てんだよ~」
エドワードがニヤニヤしながら肩を組んでくる。
「うっせ。お、もうそろそろできるみたいだぞ」
からかってくるエドワードに悪態を付いているとイカ焼きが完成間近となっていた。
「完成したよ。熱いうちに食べな」
「ありがとう...美味しいです」
「サンキュー...歯ごたえもあって最高だな!」
店員の恰好はさておき、2人はイカ焼きの美味しさに感嘆する。
「そりゃよかった。またおいでよ」
店員はそう言うと再びイカ焼きを作り始める。2人は満足しながら寮へと戻った。
しかし、この時の2人の様子はパパラッチや周囲にいた客によって撮影・拡散されてしまう。
しかもよりにもよって和仁が店員の胸を凝視していた部分がすっぱ抜かれてしまい日本では『エロの宮』という造語が作られ、海外でも『Hentai Prince』とセンセーショナルな報じられ方をしてしまう。
その日の夜。
和仁はオンライン会議アプリを使い両親である天皇皇后、そして妹の明宮知子内親王と家族会議を開いていた。ただし、実態は家族会議と言う名のお説教タイムである。
和仁の父である天皇が口を開く。
『さて...和仁、何か弁解する事はあるか?』
さらに母の皇后が続く。
『全く...あなたは次代の天皇なのよ?それなのにあんな場所に行くのが良いと思っているの?』
知子はより直球だった。
『恋人がいるのにあんな店行くとかマジでキモいんだけど...ホント最低』
家族からの突き上げに彼は何も言う事が出来なかった。
「何も弁明する事はないよ...そうだね...品位に欠ける行動だったよ...それと知子、お前は辛辣過ぎる。俺はお前のお兄ちゃんだぞ?」
『いやでもマジでクソキモいから。鼻の下伸ばして胸見るとか』
「いや鼻の下は伸ばしてねえよ!?」
『2人とも落ち着きなさい。とにかく、和仁は来月には帰国し皇太子として公務を本格化させる。まあ、これまでにも何度か帰国してもらってはいたがな...それにお妃探しもだ。そういう自覚を持って今後は落ち着いた行動を心がけなさい。良いね?』
兄妹の言い合いに割り込んだ天皇はそう言って和仁を窘める。こうして、家族会議は終了した。
その直後、淑華から一通のメッセージが届いた。
『私とは電話する時間も取れないって言ってたくせにあんな場所に行く時間は取れたんだね。しばらく会いたくないから連絡してこないで』
こうして、冒頭へと至ったのである。
◇◇◇
和仁は寮の自室で頭を抱えていた。
「マズい...一刻も早く謝らなければ...!」
彼は淑華に謝ろうとメッセージを送ったが既読こそ付くが全く返信が来ない。そして、彼の頭の中にとてつもなく突拍子の無い選択肢が浮かび上がる。
「そうだ!韓国に行こう!そうでもなきゃ解決しない!」
そう思った和仁はある場所へと電話を掛けた。
◇◇◇
日本台湾交流協会・台北事務所
台北事務所代表の藤堂昭は一通の電話に出たのだが、その相手に度肝を抜かれた。
『皇太子和仁親王と申します。藤堂代表、本日はあなたにお願いしたいことがございまして』
「はい!?皇太子殿下、それでどの様なご要望でありましょうか?」
『パスポートを用意していただいたいんです!私の人生史上最大の危機なので!』
「それは...もしかして淑華氏との関係でしょうか?」
『何故それを!?』
「昨日娘に記事を見せられまして...」
『なら話が早いですね!なる早でお願いします!』
「しかし発行にはそこそこの日数が...」
『私は皇太子!クラウン・プリンスですよ!?その位融通利かせろや!ウチの爺さんにチクってテメェの出世潰してやっても良いんだぞゴルァッ!』
彼の母方の祖父は外務省の中で強い影響力があった。退官した現在でもその影響力は色あせる事はないとされている。
そんな彼の威光をちらつかされた藤堂は遂に折れてしまい通常2週間かかるパスポートを1日で用意させた。
そんな彼は即座に台北発ソウル行きの便を予約。
護衛1人を伴ってLCCでソウルまで向かったのである。
◇◇◇
皇居・御所
天皇と皇后、知子はテレビを見ていた。3人はにこやかに会話をしていたが、テレビから流れて来た映像に度肝を抜かれる事となる。
『【速報】皇太子さま 韓国を私的訪問』
「「「...は?」」」
3人は呆然としながら画面を見つめていた。画面には大量の韓国警察の警備の元韓国へと降り立った和仁の姿があった。
「何やってんだお前はーーーー!?」
天皇はテレビの前で叫ぶ事しかできなかった。
◇◇◇
『皇太子さま!本日はどういった理由で渡韓をなされたのですか?』
韓国メディアの女性記者が英語で彼に質問をする。それに対し彼もまた英語で答える。
『恋人を悲しませてしまいまして、仲直りをするためにここに来ました。』
『それは例の『Hentai Prince』騒動のことでしょうか?』
『そうです。私はHentaiという汚名をすすぐためにここに来たのです』
完璧な発音である。だが、話している内容が余りにも最低過ぎるが故に非常に残念であった。
そんな彼は韓国政府が用意した公用車でハイグレードのホテルに宿泊し、淑華と再会する為の準備を整えていた。
◇◇◇
ホテルの一室で彼は1人の女性に電話を掛けていた。相手は淑華と同じアイドルグループの日本人メンバーである九条弘子。彼女はグループの他のメンバーの中でも特に淑華と仲の良いメンバーであった。そして和仁の初等科時代の3つ年上の先輩でもある。摂関家出身の彼女は幼少期からの顔なじみでもあった。
「九条さん、この度は淑華との橋渡しをしていただき、誠にありがとうございました。」
『いいんですよ、殿下。私としても悲しそうな淑華ちゃんを見るのは心苦しいので』
「あのー...もしかしてちょっと怒ってます?」
その直後、弘子の口調は今までの淑女然とした雰囲気から一変。物凄く荒々しくなる。
『怒っとるに決まっとろーがこのボケナス!
論文書く言うて連絡してへんのに終わってすぐあの子に連絡せんと寄りにもよって裸エプロンの店行くとか頭おかしいんちゃうん!?
ホンマ腹立つわぁ...ウチの可愛い可愛い淑華ちゃん泣かしよってからに顔面変形するまでどつき回したろかカスが!』
余りの剣幕に和仁もドン引きしてしまう。
「ええ、仰る通りです。どんな手段を使ってでも仲直りするつもりです」
『ホンマ頼むで。あんなポロポロ泣く淑華ちゃんもう見たくないねん...明日アンタんとこのホテルに近い喫茶店に連れ出すからちゃんと仲直りしーや。ほなな』
そう言って電話を切る弘子。和仁は明日に向けた準備を進めるのであった。
◇◇◇
翌日。和仁はホテルの部屋を出て近くのカフェに来ていた。彼はラフな恰好に帽子をかぶり、ダメ押しでサングラスを掛けていたこともあって殆ど気付かれる事無くカフェに入店する事が出来た。
ただし、韓国警察は総力を挙げて目立たない様に彼の警護に当たっており半径1㎞に3重の警備網が敷かれ延べ5000人が動員されていた。
そんなカオスな状況の中で2人の女性が入店する。弘子と淑華である。
2人が到着すると彼は手を挙げて誘導した。席に着くと弘子は韓国語で淑華に話しかける。
『じゃ、私は少し離れた席に移動するから後は2人で話し合ってね』
『うん。』
しかし、和仁は英語と中国語は話せるが韓国語は『アニョハセヨ』と『カムサハムニダ』しか話せないので2人が何を言っているのかは全く分からなかった。
ちなみに弘子は英語と韓国語が、淑華は韓国語と少しの英語、日本語が話せる。
淑華との会話ややり取りは中国語で行っている。
そして弘子が席を立って移動すると和仁は開口一番頭を下げた。
「淑華ごめん!論文を理由に連絡を控えていたのに終わってすぐ君に連絡しなくて!それに友人に連れられたとはいえあんな場所に行ってしまって、君に余計な心配を掛けてしまってごめん!」
そう言って謝罪をする和仁。淑華はそんな彼を見て口を開く。
「ねえ、和仁...私メッチャ辛かったよ...あんな場所行くのもそうだけど何より私に連絡するより先に行くなんて私の事軽く扱っているとしか思えなかった...こんなに好きなのって私だけだったのかなって...」
そう言うと彼女の目から涙が溢れてしまう。それを見た和仁は胸が締め付けられるような感覚に襲われた。
「そんな事ない!俺は君の事が本当に大好きだ!あんなことしでかした後で説得力はないかもだけどこの気持ちに嘘はない!」
そう言って淑華の手を握る和仁。
「俺は誰よりも君の事を大切に思っている...それなのに...君をこんなに悲しませてしまって...本当にごめん!どうお詫びすれば良いか分からないよ...」
真剣な表情を浮かべる和仁。そんな彼を見た淑華は泣き笑いの表情になる。
「...分かった。仕方ないなぁ。まあ、許してあげる。その代わり、今から台湾に戻るまで私の言う事何でも聞くこと。良い?」
「ああ、それで君の気持ちが晴れるなら構わないよ。」
「じゃあ、これ奢って」
そう言って淑華はこのカフェで評判のパフェを注文した。
「それ位いくつでも奢るよ。」
和仁は笑顔でそう答えた。その様子を弘子は遠くから眺めていた。
◇◇◇
その後、2人はソウル市内でショッピングを楽しんだり、映画を一緒に見て過ごした。最後には夜景の見える丘の上からソウル市内を一望し2人でツーショット写真を撮影して解散。
和仁は翌日台湾へと戻った。
その後、彼は日本に帰国し公務を本格化。その後、淑華と結婚したいと願うようになり宮内庁や政府を相手に話し合い(時々恫喝)を行って説得し彼女は後に皇室史上初の外国出身の皇太子妃として皇室入りすることとなる。
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田吾作さま、感想ありがとうございます!
台湾問題については全く考えていませんでした...実は台湾出身のKPOPアイドルでメチャクチャ可愛い子がいてしかもお上品さも兼ね備えていたので「皇室にいそうだよな~」と言うのでその方が元ネタです。
台湾事務所はWikipediaで見つけた物をそのまま引用しました。
実は構想中の妄想で「海外訪問中の主人公(皇族)が訪問先で紛争に巻き込まれる」というのを考えてみたのでコワモテっぷりを発揮する機会を設けてみようかなと思います!
ちなみに外国出身の皇太子妃ということで国内では物議を醸しましたが当の本人は「前例がないなら作れば良い」の一点張りで突っ切りました。相手の女性も元々異国の地で芸能活動、それもアイドル大国である韓国でトップレベルの人気を誇るに至る努力家なので持ち前の継続力と努力を惜しまない姿勢で日本語や皇室に関する知識を吸収し国民からも受け入れられたという後日談があります。
確かに現実世界と比べるとかなり平和な方だと思います!
和仁と言う名前については十七条の憲法の第1条「和を以て貴しと為す」から命名しました!
楽しんでいただけたようで何よりです!