NPCのストーカーの件について

草薙翼

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釣り人

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翌朝、俺はグリモワールから釣り人へとジョブチェンジをした気持ちで魚釣りに出かけた。

今度こそレア魚を狙うぞ!と釣竿を振り落とした。

ポチャンと落ちて、しばらく待つと引っかかった。
この手の重さからして、大きめの魚だと読んだ!

ガチャをするように祈りながら魚を引き上げた。

すると、釣り餌のパンカスに食らいついていたものが見えた。

「………タイヤ?」

なんてベタなんだ、こんなところにゴミを置くなよな。
そう思っていたら、糸がプツンと切れてタイヤは落ちた。

タイヤはまぎらわしいから回収して、気を取り直して再び竿を振った。
少し遠くまで飛んで、昨日とは違う魚を期待する。

しばらく待っていたら、ツンツンと浮きが動いた。
そして下に沈んで、リールを巻いて引き上げる。

今度こそ来い!SSRの古代魚!!

俺の目の前に現れたのはSSRであった筈のタイヤだった。

どんだけタイヤを不法投棄してるんだよ!拾うけどさ!

魚を釣りに来た筈なのに、いつの間にかゴミを集めに来たみたいに見える。
このタイヤ、SSRの乗り物のバイクの部品だよね。
あのバイク、見た目はかっこいいけど手に入るのは難しいんだよな。

ゲームの一周年記念イベントでしか手に入らないプレミアアイテムなんだ。
しかもランキング一位の人だけとは、ガチ勢しか手が届かない。
俺は恋愛要素にガチだったからバイクはいらなかった。

バイクがあってもレイチェルちゃんが褒めてくれるわけじゃないし…

そう思うと何だか虚しく感じるなぁ…タイヤの事は後にして今は魚を釣ろう。
もっといい釣り餌がいいだろうけど、課金アイテムを買う金がない。

川を覗き込むと、小さな小魚が群れで泳いでいるのが見えた。
こうなったら手掴みで魚を捕まえた方が簡単なんじゃないかと思い始めていた。

ズボンの裾を上げて、川の中に入ると冷たくて悶える。

魚が驚いて逃げないようにゆっくりと進みながら狙いを定める。
下を見てみると、魚の影があって一気に手を突っ込んだ

魚は俺の手の中で暴れて逃げようとしていた。

「こらっ、逃げるなって!!」

魚はつるつると滑って、俺の手から抜け出した。
優雅に動いている魚をただ眺める事しか出来なかった。

何度か試してみて、川の中にダイブしてしまったりしながらも二匹捕獲した。
魚釣りの方が簡単だなと思わなくもないが、俺が暴れたせいで魚は周りに居なくなってしまった。

二匹か、失敗出来ないな…これで勝負するしかない。
一日を無駄にしてしまったからな、ここで取り戻さないと…

レイチェルちゃんはモテるし、並の料理じゃ満足しないと思う。
何を作ろうかな、まずは魚の臭みを取るために半日塩水に付ける。
ここの川の魚の臭みの取り方は現実世界とは違う。
ちゃんと下処理をしないと、本当に臭いんだ…グリモワールが住んでいる腐った川の魚だからな。

全身びしょ濡れのまま歩いていたら、森に住むグリモワール達が鼻を押さえたり内緒話をしたりする。

あれ?そんなに臭い?家に入る前に身体を軽く洗っとこう。
俺の家の後ろにも川が流れていて、そこの水は腐っていないから飲み水や身体を洗ったりしている。

川の水を掬って顔を洗いながら洗濯もする。

いつもは影ゼロが覗いてきたりして、ギャーギャー騒いでたっけな。
今ではそんな警戒する事も何もなくて、良かった筈なんだけどな。

なんで鬱陶しかった奴がいなくなっただけでこんな気持ちになるんだろう。

新しい服に着替えて家の中に入ってから、魚の下処理をする。
中のものを取り出して、衣を剥がして塩を塗った。
このまま半日待ってから調理を始める、塩が腐るのを防いでくれるからそのまま放置しても大丈夫。

その間にソースを作れば短時間で料理が出来て、レイチェルちゃんに渡せる。
今度は炭にならないようにしないとな、こんな新鮮な魚で失敗するわけないよな!

そう思って鼻歌混じりで料理を作った、このイベントで大事なのはランキングじゃなく、いかに愛情を込められるかだ。
俺は愛情たっぷり、誰にも負けないからな!

そして、朝になるまで寝相でベッドから転がり落ちるまで寝ていた。
ふと目を覚ますと、視界が真っ逆さまに見えた。

ぼんやりとしているが、俺の目の前に人影がいた。

「んん?…誰だ?」

「ひっ…!!」

俺の声に驚いたのか明らかに行動が挙動不審だ。
本当に何をしようとしてんのかと思ったら、その人物の手には魚が握られていた。

あの手に持っている魚って俺が釣った魚じゃないのか!?

慌てて立ち上がって、その人物の肩を掴むと俺と同じような地味めな顔の男だった。

ドアも窓も閉めた筈なのに、いったい何処からか入ってきたんだ?
師匠は勝手に入るが、師匠だからな…ピッキングが得意なのかもしれない。

でもコイツは一切許可してないんだから勝手に入るなよ!

「おいっ、なんで勝手に入ってくるんだよ!それ俺の魚だろ!?」

「う、うるさい!お前が悪いんだろ!こうしてやる!」

男は意味の分からない事を言っていて、魚を床に叩きつけた。
それだけならまだしも、魚を踏んでぐちゃぐちゃにしていた。
酷い事を目の前でされて、唖然としていたらもう一匹の魚も掴まれた。

「やめろ!」と止める前に、男はぐちゃぐちゃになった魚の上にその魚を落として踏みつけていた。

俺の、食材……なんでこんな事を…

そう思っていたら男は俺を見ていい気味だと笑っていた。

まさか、あの敵意と殺意…コイツからだったのか…見るからにグリモワール出身の男だろうけど、仲間の筈なのにこんな…

ゼロが俺に敵意を向けていると思っていた、直接本人には言ってないが悪い事してしまったな。

でも、なんでこんな事、俺はコイツなんて知らない。
男は「これでイベントに参加出来ないな」と言っていた。

イベントという事はまさか恋愛イベントの事?
もしかしてコイツも恋愛イベントの参加者か?
そういえば師匠もそんな事を言っていた事を思い出す。

「何が目的だ?」

「お前なんかがレイチェルさんにプレゼントを渡せるなんて思うなよ!」

「…レイチェルちゃん?」

「馴れ馴れしくちゃん付けするな!俺のレイチェルさんだ!」

お前だってレイチェルちゃんに馴れ馴れしいじゃねぇか!

お互い睨み合って、男は鼻で笑って「これでレイチェルさんは俺のものだ!」と言って俺の家から出て行った。

そうか、ライバルだったのか…それは知らなかった。
俺は魚を掻き集めて家の裏庭に出て、一度地面に置いた。
シャベルがないから、棒で地面をほじくって穴を作る。
そこに魚をそっと置いて、土をかぶせて手を合わせた。

美味しく食べてあげられなくてごめんな、また魚に生まれ変わったら今度こそ美味しい料理にして食べるからな。

魚を盗んだのもアイツかな、確証はないがそう思ってしまうのは仕方ない。

レイチェルちゃんが好きなら正々堂々とすればいいのに、こんな卑怯な事しなくても…
レイチェルちゃんが卑怯な男を好きになるわけないだろ。
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