堕落した淫魔は夢を見る

雪之丞 親実

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ニンゲン×魔族

04

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   外で待ち合わせなんてドキドキする。
   待ち合わせをした事が無いわけじゃないが、何だか妙に緊張して心が落ち着かない。
   外で待ち合わせして、大好きな特撮ヒーローの映画を見て、軽く昼飯食って、軽く遊ぶ。
   初めてだ。
   会ってすぐホテルとか、相手の部屋で即セックスじゃないパターンは。
  確かにご飯は奢って貰ったりはあったが、目的はセックスだった。
  そして、相手が満足すればそれぞれ帰る。
  今日だって会って即セックスでも構わない。
  でも、二人きりの時間を作ってくれたのは、楼依の提案だ。
   しけこむより先にデートをせい、と言ったのは真幸だ。
   まぁ、相手は千皇だ、セックスは期待出来ないが、それでも何故だかドキドキもするし、ワクワクもする。
  最初の千皇の部屋に居た時には、ゲームセンターに連れて来て貰って、その時にクレーンゲームで取ってくれたぬいぐるみは、今でも自分の部屋のベッドで一緒に寝ている。
  楼依はルシカをあちこちに連れて行ってくれて、正直羨ましかった。
  セックスは何回したか知らないが、帰って来ると幸せそうで。
   楼依と出掛ける時に、着て行く服に悩むルシカの気持ちが分かった。
   持ち物なんてあまりないけど、忘れ物がないか、とか、マンションから出る瞬間まで何度もチェックした。
   それまでもが楽しかった。
   少し不安なのが、千皇はそこまでドキドキとかワクワクとかしてくれているのだろうか。
   面倒臭い、と思っているのではないか?
   多分、楼依が説得してはくれたのだろうけど。
   待っている間は、そんな考えが出て来てもどかしい。
   ワクワク過ぎて、30分くらい早く来てしまった。
  だからか、ソワソワもして何回もスマホで時間を確認してしまう。
  弾や客とではなく、千皇とだ。
  独り善がりの自己満足で終わったとしても、きっと残念な気持ちでさえ、嬉しいと思ってしまう。
  まだ待って居るだけなのに、なんで楽しいとも思ってしまうのだろう。
  早く時間になって、千皇に会いたい。
  客や浅霧組に会いたくない、と被った帽子のつばを少し上げて周りを見ると、チラホラ一人で立って居る女の子や男の子が数人見えた。
  彼等もデートの待ち合わせなんだろうか。
  彼等もドキドキワクワクしているのだろうか。
  彼等はどういうデートをするのだろう。
  彼等は何を想い、愛を育むのだろう。
  ある一人の女性に、ある一人の男性が駆け寄って来た。
  女性は明るい笑顔で男性を迎えた。
  男性は嬉しげに頭を搔くと、女性に手を差し伸べ、女性はその手を取った。
  カグヤは、父と母を思い出した。
  父が仕事から帰ると、母は安堵し笑顔で迎えた。
  父も嬉しそうに、母に笑顔を見せていた。

(あの二匹も、愛し合っているのかな?)

  胸がキュッとなった。
  彼等は手を繋いで、寄り添ってどこかへ行ってしまった。
  
(俺もあんな風になれるのかな?)

  ルシカや楼依が羨ましがるくらいには、なってみたい。
  父だって毎日しつこく嫌な事をされたって、母を見ればそんな事も忘れられる。
  仲の良い父と母を見るのは大好きだった。
  もちろん一人で泣く母も、傷が増える度に痛みで顔をしかめる父も知らないわけではない。
  子供達の前では、無理をしていたのも分かる。
  でも、あの笑顔は偽りではないのも分かっていた。
  
(このまま、誰も邪魔をしてこなかったら、俺も千皇と……)

  父と母の様にお互いを想いあって生きていける。
  きっと、ルシカやヨゾラの幸せにも繋がるはずだ。
  千皇が来たら何を話そう。
  千皇から電話やメッセージは相変わらずないが、カグヤがメッセージを送ると、変なスタンプを送ってくれるくらいには、進展があった。
  何もしてくれないよりは、全然幸せで嬉しい。
  カグヤも実際、どうすればいいか分からないし、ただ寂しい時やくだらないが面白かった事の報告や写真を何気なく送る。
  眉をしかめて『くだらねぇ』と言いたげな表情を浮かべてるのが容易に想像出来てしまい、クスッと一人で笑ってしまう。
  そんな小さい事が楽しいと思ってしまう。
  寂しい気持ちも、少し和らぐ。
  スマホに目を落とす。
  メッセージはない。
  千皇はどんな格好で来るんだろう。
  ちょっとオシャレなスエットか、黒のスーツだ。
  何度か外に出た事はあったが、その時はセックスしたいが強くて良く覚えていない。
  きっとカッコイイんだろうな、……と思う。
  待ち合わせ時間まで、まだある。
  一分一秒が長く感じてもどかしい。
  ふと、目の前にお年寄りが杖を着いて横切った。
  その瞬間、お年寄りはつまづいて転びかけた。

「危ねっ!」

  カグヤは思わず声を上げて、お年寄りの腕を掴んで転ぶのを止めた。
  
「……すみませんのぅ。ちと目が悪くて……」

  お年寄りはカグヤに支えられながら、ずり落ちたメガネを直した。

「気を付けろよ?助けてくれねぇヤツもいるんだし」

  カグヤはお年寄りから手を離した。

「君は優しいねぇ。こんな年寄りに気をつかってくれるなんて」

「……優しかねぇよ。たまたま目に入っただけだし」

「本当にありがとう」

  年寄りは杖を脇に抱え、両手でカグヤの右手を握った。

「まだまだ長生きはしたいからの……。では……」

  年寄りは手を離すと、軽く頭を下げた。
  そして、人混みの中消えて行った。
  カグヤは右手を見詰めた。
  ただのお年寄りを助けただけなのだが、モヤッとする。
  それに加え、理由が分からない不安が押し寄せてくる。
  早く千皇に会って安心したい。
  カグヤはスマホの画面を見た。
  時間まではまだまだまだ時間がある。
  楽しい時の時間はあっという間に過ぎるのに、不安になると時間が遅く過ぎる気がするのがもどかしい。
  早く来て、と催促するのも悪いと気が引ける。
  
「カグヤ?」

  声を掛けられて顔を上げると、そこにはヒーロが立っていた。

「やっぱりカグヤだ」

  ヒーロは嬉しげに笑顔を見せると、両手を広げて抱きつこうとした。
  が、吹っ飛ばされた記憶が蘇ったのか、慌てて両手を下ろして一歩後ずさった。

「こんな人混みでなんだ?あの胸糞ニンゲンじゃ足りねぇで、他のニンゲンから精を取る仕事か?」

  ヒーロはそう聞いて来た。
  カグヤはムッとする。

「違ぇよ。今日は千皇とでーとってヤツだ」

「でーと?なんだそりゃ??」

  ヒーロは腕を組むと首を傾げた。

「好きなとこにお出かけして、お互いを知る行為らしい」

「そんな事して何になんだよ?」

「分かんねぇけど、楽しいらしい。ルシカがいつも満たされて帰って来るくらいだからな」

  ルシカが満たされる相手は楼依だと分かると、ヒーロは舌打ちした。

「相手の好みが分かれば、相手を喜ばせる事も出来るだろ」

「俺もルシカとでーとすれば、ルシカは喜ぶのかっ!?」

  舌打ちはしたが、そう聞くとヒーロの瞳は輝きを増した。

「ルシカには楼依君が居るから無理だろ。残念だったな」

「スタンプもそろそろ貯まるし、チャンスはある


  それでも楼依が同伴なのだろうとは思わないのだろうな、とカグヤは思った。
  でも、お陰で少しは不安は薄れた気がする。

「そー言えばよ、ジルバのジジィが脱走したらしいぞ」

  思い出したかのようにヒーロはそう漏らすと、カグヤは目を丸くした。

「ま、噂話だけどよ」

「そ、それで、魔王様は……」

「放置してるみてぇだな。もとから騒ぎ立てるお方じゃなかったから、内心分からねぇけど」

  老人の狙いはヨゾラだろうけど、胸騒ぎがする。
  ヨゾラのハジメテは真幸が奪った。
  報復とかしないと良いが。

「あとなんかあった気がすんだよなぁ...…。なんだったっけかな?」  
  
  ヒーロは腕を組んだまま目を閉じて思い出そうとしている。
  数回小さく唸り声を上げたが、結局は思い出せなかった。

「……お前、肝心な時に使えねぇな」

「仕方ねぇだろ。アレやれだ、これを取ってこいだと俺様をこき使いやがって。ちったァ休ませろっての」

  ヒーロはしゃがみ込んでため息を吐いた。
  エルドラやブレンダからこき使われているのだ、疲れるのも仕方ないだろうけど。

「普段の行いっつーのが悪かったんだ。仕方ねぇだろ」

「俺は魔族の仕事をしてただけだ。仕方なくはねぇよ。……それより」

  ヒーロはカグヤを見上げた。

「さっきカグヤが助けたジジィ……、相当弱いが魔力を感じた」

「……は?」

「弱すぎて、俺の勘違いかもしんねぇけどさ。……お前、弾かなかったし」

  カグヤはゾッとした。
  この前から右手には違和感があった。
  もし、魔族を弾く力が無くなっていたら、魔界に連れ戻され、今まで以上に魔族の慰み者にされる。
   それに、千皇の魂の一部を貰って得た力だ。
   千皇に守られている感じは、嫌ではなかったのに。
  不安よりも、一気に恐怖が吹き溢れてきた。
  変な汗が背筋を流れ、呼吸すら止まりそうだ。
  今更連れ戻されたくはない。
  一度、ヒーロに触れてみようかとも過ぎったが、もし吹き飛ばさなかったら、カグヤに襲いかかるかもしれない。
  そう思うと、試す勇気は出なかった。
  自分が求めたいのは、千皇だけだ。
  だから、再び汚されたくはない。

「俺も疲れて感知が鈍ってるだろうなぁー。佐藤んとこ行って一眠りするかぁー」

  ヒーロは腕を上に伸ばして、背中を伸ばした。
  その時、ほんの少しだけ、ヒーロの指先がカグヤの右手に触れた。
  カグヤは咄嗟に手を引っ込めて、左手を重ねて胸元に当てた。
  ビリッともバチっともしない。
  ヒーロは気付いて居ないようだ。  
  全身が震え、呼吸が乱れる。

「……カグヤ?」

  カグヤの異変に気付いたのか、ヒーロは顔を上げた。
  
「お、……俺。待ち合わせの場所、間違えたみたいだ。い、……行かねぇと」

  カグヤはどもりながらそう言うと、その場を走り去った。
  様子がおかしいと追って来たらどうしよう、と思うと心臓がさらにドキドキする。
  気配を消す魔術はあるだろうが、やり方が分からない。
  怖くて苦しい。
  走って駅の人気のないエスカレーターの下のスペースに、身を隠した。
  誰からも気付かれない様に身体を丸め込ませ、なるべく陰へ奥へと隠れた。
  魔族を弾く、それはカグヤにしてみれば最大の防御になっていた。
  ルシカやヨゾラは同じで血筋のせいか、はたまた半分でも天界の血が流れているせいか、気持ちのせいかは分からないが、弾く事はなかった。
   さっきのは、かする程度に触れただけだからなのか、ヒーロを弾かなかった。
  電気が走る感触とかも、全くなかった。
  もし、この場に他の魔族が紛れていたら、カグヤに気付けばきっと酷い事をさせられる。
  怖くて仕方がない。
  寒気も収まらないし、変な汗も止まらない。
  
(千皇……、千皇……)

  自分の身体を抱き締めながら、心で名前を呼ぶ。
  その時、カグヤのスマホが鳴った。
   音が鳴り響くのに驚き、着信名を確認せずに音を消そうとしたが、手が震えて出てしまった。

『……お前まだ家出てねぇの?』

  千皇の声だ。
  意図せずに、涙が溢れる。

『おい……、何とか言えよ...…』

  面倒臭げな口調だ。
  が、涙が止まらない。

「千皇……、怖い……。助けて……」
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