堕落した淫魔は夢を見る

雪之丞 親実

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淫魔の三兄弟

01

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  身体中が痛い。
  目が覚めると、魔王の城の離れに寝かされていた。
  離れと言っても立派な建物ではなく、掘っ建て小屋だ。
  下級中の下級の魔族であり、肌の色や身体の大きさなど見た目が魔族っぽくない兄弟が雨風を凌げる住まいがあるだけでも、文句は言えない。
  カグヤは自分の部屋だと確信すると、安心して一息吐いた。

「……目が覚めた?」

  カグヤの視界に、サイドが少し長めのストレートの金髪を耳に掛け、赤く大きな瞳をした青年が覗き込んで来た。
  カグヤと同じで、色白で金髪には似つかない小さな角が生えている。

「グラデュエットが運んで来てくれたんだ。兄さん、……ボロボロで、気を失って居たから」

  カグヤを兄さんと読んだ青年は、弟のルシカだ。
  雌と見間違う程に美人だ。
  グラデュエットは、身体の大きな狼の様な生物である。
  魔王のペットで普段は獰猛だが、何故かカグヤ達兄弟には懐いている。

「ヨゾラは?」

  天井を眺めながら、カグヤは聞いた。

「勉強会……。まだまだ、開花は先だけど……」

  そうか、とカグヤは上半身を起こした。

「ルシカ、……体調悪かったんだろ?」

  心配げにカグヤが聞いた。

「淫紋が出た時、兄さんも体調崩したからね。俺はまだ薄いけど……」

  ルシカはそっと腹を撫でた。
  カグヤもルシカも普段は黒いノースリーブのドレスの様な布を着ている。
  カグヤのあのコスチュームは、言わば仕事の制服だ。
 
「まぁ、俺達は産まれ持っての淫魔じゃねぇからな。身体の負担は大きいし」
「兄さんも無理しないでよ。もう少ししたら、俺が……」
「無理なんかしてねぇよ。交尾は好きでしてんだから、寧ろ天職だ」

  カグヤはにっと笑うと、ルシカの頭を撫でた。
  所謂セックスは好きである。
  その相手の精が淫魔の主な食事でもあるし、性に堕落させるのが仕事なのだ。

「ルシカこそ、無理に淫魔になろうとすんなよ?お前、研修で倒れただろう?」

  以前、カグヤの仕事に着いて行った。
  直に交尾を見る事で、どう言う仕事かを学ばされるのだ。
  その時、あまりの破廉恥にルシカは倒れたのである。
  雄と雌の交尾ならまだしも、雄同士の交尾はやはり嫌悪感もあった。
  しかし、もしルシカが淫魔としての仕事を放棄でもすれば、きっと魔王は自分の傍に置くだろう。
  それこそ、何をされるか分かったものでもない。
  魔王の城にルシカとヨゾラが呼ばれた時も、周囲の雄の目は異常で襲われかけたらしい。
  その時はヨゾラが相手を張り倒してルシカを守った、と後から聞いた。
  カグヤの弟であり、魔王の甥っ子なのでヨゾラは罪に問われなかったが、ヨゾラが居なかったらと思うとゾッとした。
  
「でも、兄さんばかりに負担は掛けられないよ。慣れるまで時間がかかるだけ」

  先程、カグヤが言った通りカグヤ達は産まれ持った淫魔では無い。
  無理矢理淫魔へと、身体を変えられたのだ。
  でも、それが兄弟達の残された生きる道であり、カグヤはたまたまその味を知っただけである。
  気絶させられたのは、魔王とする時にしばしばあるだけで、それ以外は元気にツヤツヤと帰って来るのだった。
  たまに異様な痕が残っていたりもするが、カグヤ本人は気にはしていない様だ。
  数をこなせばこなすほど負担はでかいが、ルシカとヨゾラを養うには多少の無茶も承知の上だ。
  せめて、弟達が管理職にでもなれれば良いのだろうが、周りの生物達は気が済まないだろう。 
  この兄弟は下級のクセに魔王のお気に入り、それだけで批判の嵐だ。
  淫紋が色濃く出てしまえば、通常の食事を取らなくてもある程度は精でお腹は満たされる。
   堕落させてしまえば、その分魔王に貢献出来る。
   一度仕事をしてしまえばきっと割り切れたりするのだろうが、交尾に嫌悪感を持つルシカが割り切れるとは思えない。
  ヨゾラは今後、どう考えて居るのだろう。
  淫魔に関する勉強は、魔族一番に積極的にはしている。
  自分が作られた淫魔である事も理解している。

「ヨゾラは今日は帰るのか?」
「もう昼過ぎだし、そろそろ帰って来ると思う」

  そうか、とカグヤはベッドを降りようとした。
  地に足を着いて、立ち上がろうとすると、腰に激痛が走った。
  小さく呻くと、再びベッドに腰を降ろす。

「……クソっ。無理矢理突っ込みやがって……」

  魔王との交尾の後も、二体の雄に嬲られた。
  魔王程の大きさでは無いが、カグヤからすれば大き過ぎる。
  最初に気持ち良く解されなかったせいか、痛くて気が紛れなかった。
  途中、意識が飛んで気を失った。

「兄さん、もう少し寝ていなよ。……身体、壊れちゃうよ?」

  心配げにルシカはカグヤを見詰めた。 

「食べる物、用意するね」

  ルシカは立ち上がると、部屋を出た。
  カグヤは再びベッドに寝そべる。
  淫魔なのに、交尾が嫌いなど他の魔族からすれば矛盾している。
  それは産まれた血筋もあるのだろうが、淫魔となる以上は避けて通れない。
  加えてルシカは積極的では無い。
  容姿からか、怯えて暮らしている。
  そんな奴が淫魔としての仕事が出来るわけない。
  出来ればカグヤもさせたくは無いのだが、一番安心な魔王の傍だって安全ではない。
  妹に似た甥っ子を溺愛し過ぎて、専属の愛人にでもされれば下心丸出しの輩からは守れても、魔王自身がルシカに手を出さないとは限らない。
  あの凶器をルシカの身体が貫くなど、考えただけで背筋が凍る。
  ルシカは覚悟をしている様だが、理想と現実は違う。
  ならば本来は気持ちいいもんだと教えるのはどうだろうか。
  カグヤが優しく手解きすれば、ルシカも仕事が出来るのではないだろうか。
  ルシカだって、慣れるまでが兄相手なら安心するだろうし、多少変な相手に当たったとしても対処法を知っていれば、何とでもなる。
   そうと思えば、後でルシカに話してみようと思った。
   部屋がノックされた。
  カグヤは上半身を起こすと、返事をする前にドアが開いた。

「カグ兄、身体は大丈夫?」

  そう言って入って来たのは、金髪の短髪に似つかない小さな二つの角、赤い瞳でカグヤとルシカよりはまだ幼さが残る物の少し背の高い色白の少年、三男のヨゾラだった。

「あー、まだ若干腰が痛いけど、何とかな~」

  カグヤはへらっと笑った。
  
「なぁ、ヨゾラは淫魔になりてぇの?」

  ふとカグヤは聞いてみる。
  ヨゾラは溜息を吐くと、ベッドの傍にある椅子に座った。

「出来るならなりたくないけど、仕方ないでしょ。俺達には選択肢はないんだし、ひたすら無に徹せれば俺は少なくとも割り切れる」

  ヨゾラは末っ子の割には冷静な方だ。
  ただ、手は早い。
  ヨゾラの見てくれも美人だ。
  美人と言うよりは可愛い。
  なので、狙う輩も多いのだが、全て拳で沈めて来た。
  
「それに、俺は俺なりに今こうして勉強してるのはチャンスだから」

  カグヤはヨゾラの言葉に首を傾げる。

「産まれ持った地位とかでも、この世界で罪を犯せば剥奪されたり、別の魔族の力に変えられたりするだろう?……まぁ、俺達は罪を犯した訳じゃないし、カグ兄は交尾好きだから仕方ないんだけど」
「これでも選ぶ権利はある」
「気ぃ失うまでヤられて帰るとか、気が痴れる」
「好きで気ぃ失ったわけじゃねぇもん」
「カグ兄が俺達弟の為に身体張ってくれて居るのは感謝してるんだ。だけど、ルシ兄は不器用だし、不器用だから対応しようとして無茶しそうで心配なんだ。淫紋も出て来たし、開き直れるとは思えない」

  それはカグヤも考えて居た。
  不器用で優しいから、一人で抱えそうで心配だ。
  
「だから俺なりにいろいろ調べてるの。あの魔王様の事だ、別の魔族に転身なんてさせないだろうし。それなら、自力で転身するか魔王様を説得出来る方法を考えた方がいい」

  ヨゾラは膝に肘を付いて、頬杖を付いた。
  
「……でも、ルシ兄に淫紋出たから、時間が無い。傷付く前にどうにかしたかったけど……」

  ヨゾラは溜息を吐いた。
  カグヤも溜息を吐いた。

「……天使だろうが悪魔だろうが、……自由に一人だけを愛し抜くのも居るのにな」

  ポツリとヨゾラは呟いた。
  淫魔ではなくとも、性欲が強く誰となりとも交尾をしては、腹違い父親違いの魔族は沢山いる。
  淫魔は食事として、またニンゲンを性欲まみれにして堕落させる仕事として存在しているのだが、ただ単に性欲に素直な輩もいる。
  天界のお偉いさんだって一夫多妻制だ。
  ただ、一握りではあるが魔族にだって一途に愛し合う者だっている。
  今は居ないが、カグヤ達兄弟の両親もそうだ。
  あの魔王の妹だと思えないくらい、ひたむきに健気に父を子供達を愛していた。
  確かに気は強く、魔王の妹という肩書きがなくとも、皆からは一目置かれていた。
   魔王の妹だ、淫魔ではない。

「ヨゾラは今の内にしたい事をすりゃいいよ。ルシカは……、せめて交尾が怖いって思わない様に教えるつもりだし、下界での仕事は変な奴に当たらねぇ様に気を付けるし。……魔王様は、俺が何とか相手すりゃ良いだろ」
「開花したらさ、もしかして考えも変わっちゃうのかな。……普段は交尾に嫌悪感があっても、スイッチが入ったら嫌悪感が無くなるとか」
「分かんねぇ。俺は淫魔になる前に仕込まれたし」

  カグヤ達は、角や羽、尻尾がなければ魔族には見えない。 
  母親が居なくなった途端、周囲の目が変わった。
  殺せ、とも言う輩さえ居た。
  その為、下級の淫魔になる事で生き長らえた。
  魔王は妹の子供を殺すまでは考えなかっただろう。
  下級にする事で守ったのかも知れないが、カグヤとの関係が肉体的であるのなら、単に傍に置いておく手段だったのかも知れない。
  長男のカグヤは先に雄の味を覚えさせて、淫魔の能力を得たのだ。
  カグヤにしても先に自分が率先すれば、弟達にかかる負担も減ると思ってた。
  だから、順を追って淫魔になる前後の変化などカグヤには分からない。
  ルシカが性欲に貪欲になってしまえば、止める必要も無いのだが、今の性格上貪欲になるのはないだろう。

「……やっぱり、魔王様に捧げた方が安心なのかな」

  そう思うも、この間の乱交を思い出すと、安心とは思えなかった。
  カグヤが他を頑張っても、保証も出来ない。
  今もし全てを捨てても、行く場所がない。
  精を搾取する以外は取り柄もないのだから。

「……ルシカの事は、とりあえず俺が何とかするよ。淫魔として目覚めるのは避けらんねぇし」
「でも、直ぐにまた下界に行くんだろう?」
「まぁ、今回は3日分の精は摂ったからな。今日明日はここに居るよ。いいカモも何人か見つかったし、しばらくはソイツらをループすりゃ飯にも困らねぇ」

  カグヤは心配げなヨゾラの頭を撫でると、にっと笑いかけた。
 
  

  

 
      

  

   
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