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魔族とハーフ
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真っ白な空間。
透明な分厚い壁がある。
両膝を抱えた丸まった白い背中、萎んだ黒い羽、垂れ落ちた黒く細い尻尾。
その背中は悲しげで、寂しげだ。
「今日は、撫でさせてくんねぇの?」
声を掛けると、小さく頷くのが分かった。
「せめて、こっち向いてくんね?」
そう聞くと首を左右に振る。
「……泣いてんの?」
また、首を左右に振る。
多分、泣いている。
それだけは分かる。
手を伸ばしたくても、壁が邪魔をしている。
「俺は……、お前に何をしたら良い?」
黙ったまま動かなくなった。
「辛いなら……、言ってくれよ……」
『……』
ポツリと何かを言った。
「……そんな事言うなって」
『……』
「俺は、お前との約束は守りたい」
ゆっくりと振り向いた顔は、霧がかかった様で良く見えない。
『……ゴメン』
震える涙声が聞こえた。
その瞬間、パッと目が覚めた。
(……また、夢かよ)
見慣れた天井に落胆しながら、楼依は溜息を吐いた。
ここ数日、良く夢に出て来る黒い羽の男の子。
声は分かるが、顔が分からない。
最初は疲れているだけと思って居たのだが、触れる肌は確かに感触があって、お互い何故か全裸ではあるものの、心地は悪くない。
むしろ、気持ち良い。
いつも寂しげで、自分に自信の内容な態度、だけど、頭を撫でると嬉しげに笑う。
表情は分からないが、雰囲気がそう感じさせていた。
夢の中の短い時間でしか逢えないのもまた、非現実的な上に何か掻き立てるものがある。
夢だと分かっていても、何故かほおって置けなかった。
逢えるのは少し楽しみだが、夢の中と言うのがもどかしい。
羽が生えている辺り、本当に夢でありファンタジー思想などは持ち合わせていないのだが。
モヤモヤするのは嫌いだ。
楼依はもう一度溜息を吐くと、身体を起こしベッドから起きた。
シャワーでも浴びてスッキリしようかと、クローゼットからシャツと下着を取り出しベッドルームの戸を開けた。
「今何時だと思ってんだ。そして、せめて下着を履けや、バカ兄貴」
戸を開けるや否や、目の前のリビングのソファーに、ボブショートの艶のある黒髪の細身で楼依と瓜二つの人物が、スマホから目を離し楼依を睨んだ。
楼依はムッとすると、そのまま無言でバスルームへと行った。
10分くらいして、下着を履いて肩にタオルを掛けシャツを片手に戻って来た。
キッチンの冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、リビングの向かいのソファーに座った。
「あのさ、野郎の身体にキスマーク付けまくる女ってどーかと思うんだ」
目の前の人物は呆れながらそう言った。
「別れた方が良いんじゃねぇの?あたし、何か嫌い」
一人称が『あたし』な分、その人物は女らしい。
「付き合ってねぇよ」
「身体の相性ってのが良いのか?」
「好きでヤッてる訳じゃねぇ」
「好きでもねぇ奴が、こんなに長く身体の関係持つかよ。セフレで楼依君が満たされてんなら仕方ねぇけどさ……」
人物は一息着いた。
「……体型維持出来てねぇじゃん。いくら今大学とホスト手伝っているからかも知れねぇけどさ、仕事に支障出るぞ」
「筋トレはしてる」
「もっと肉付けろっての。トータ・イガラシの体型に近いから今の仕事があんだろ?せめて、撮影が始まる前にどうにかしろ」
分かってるよ、と楼依はウンザリ気味に呟くと、ペットボトルのキャップを外した。
それを一気に半分くらい喉に流し込んだ。
「つーかさ、朝帰りってどーなんだよ。女泊めるとか今まで無かったのに。噛み跡まで残されてんし、彼女ヅラでもしてんのかよ……」
「俺でも良く分かんねぇんだよ。いつの間にかヤッてんし、お互い性欲処理でしかねぇだろうが、スッキリしねえし疲れるし」
「あの女はスッキリした顔で帰ったぞ」
「……知るか、んな事」
楼依は肩のタオルを取ると、丸めてテーブルに置いた。
そしてシャツを着る。
「生霊でも取り憑かれてんじゃねぇのか?マリナさんに視て貰えばいーじゃん」
「佐藤と同じ事言ってんじゃねぇよ。霊能とか占いとか胡散臭い。視るなら俺より先輩だろ。あの人の方が生霊多そうだし」
そう言えば、アイリとセフレみたいな関係になってからだ、夢を見るようになったのは。
良く分からないセックスをした後、必ずでは無いが黒い羽の男の子が夢に現れる。
その日は些か、寝起きがスッキリだ。
「……やっぱり、マリナさんに視て貰うかな」
「まぁ、信じねぇでも一回くらいは良いんじゃねぇの?いつか取り殺される」
「アイリの事じゃねぇよ。ちょっと気になる事があるだけ」
楼依はペットボトルを見詰めた。
羽があるあたり人間ではないし、物の怪とかそう言うのだろうか。
妖怪だ幽霊だとか信じてないのだが、謝罪と泣き顔が気になる。
自分に助けを求めて居るようで、頭を撫でると安心した様に笑う。
顔は分からない。
夢の中で逢ううちに、いつの間にか楼依にも黒い羽の男の子の笑顔が安息になっていた。
それが、今日は泣いていた。
透明な分厚い壁の向こうで、触れる事も出来ずに。
壁を作るのは、やはり拒否したいのだろうか。
透明なのは、それでも助けを求めているのだろうか。
逢えなくなるのは、何となく嫌だ。
ペットボトルを見つめたまま、楼依は溜息を吐くと俯いた。
「……楼依君、気になる人でも出来た?」
「あ?」
人物の問いかけに、楼依は思わず睨み上げた。
「見た事ねぇ顔してる。珍し」
「……人じゃねぇかも」
「はぁ?」
「羽が生えてんの、黒い奴」
「それってさぁ、淫魔だったりして」
ニタっと人物は笑う。
「アイリとセフレってそれしかなくね?」
「……淫魔」
楼依は呟いた。
そう言えば、この前そんな事を言っていた様な。
でも、……。
「いや、……多分男。つーか、雄?」
「あー、インキュバスの方か。とうとう野郎にでも掘られたのか?」
興味津々な笑みを浮かべながら、人物は頬杖を着いた。
「掘られるか、バカ。夢の中で逢うだけ」
ニタニタ笑う人物に呆れながら楼依は言った。
「夢なら夢だろ?気にする事はねぇじゃん」
「そうなんだけどな……」
残っていた水を一気に飲み干した。
ふーん、と人物は呟くと何やら嬉しそうだ。
「どんな子?」
「弱々しいな。自分に自信がねぇっつーか、俺に手を伸ばしてぇんだと思う」
夢の話だと、楼依は答えた。
「可愛い?」
「どーなんだろな。可愛いんじゃね?」
「何だよ、その曖昧なの」
「顔だけ分からねぇんだ。でも、雰囲気で何となく、怒ってるのか笑ってるのか、分かる……」
楼依は思い出したのかふっと笑った気がした。
その表情に、人物は目を丸くした。
人物は、楼依の双子の妹だ。
名前は瑠依。
妹なのだが、Xジェンダーらしい。
「でもさ、羽が生えてて夢の中だけだろ?んなもん、実在するわけじゃねぇし。気にしても意味無くね?」
「そう思う。自分でも馬鹿らしいし。……だけど、感触があるっつーか、体温があるっつーか」
「感覚のある夢だってある」
瑠依の言い方に、楼依はムッとした。
夢なのは十分分かっている。
「……泣いてたんだよ。ゴメンて。気になるだろうが」
「でも、夢じゃない何も出来ねぇ。珍しくロマンティックな話だけどな」
「だから、マリナさんに視て貰おうと思ったんだ」
楼依はムッとしたまま、ペットボトルをテーブルに置くと、ソファーに凭れた。
「夢だろうが……、辛ぇなら助けてやりてぇだろ」
「あら、優しい。そんな奴だったっけ?」
「見え透いた下心がねぇんだ。他の女とは大違い」
瑠依はそんな兄貴を見詰めると、座り直して脚を組んだ。
「……まぁ、羽とかそんなんはイメージ的なものかもな。その子、自信がねぇとか泣いてたりするんだろ?それがイメージとして黒い羽が見えた。漫画やドラマでも女神に見えたとか言うシーンのそれかもな」
「実在するんかよ」
「んな事知るか。夢なんて、楼依君がアイリで疲れて見ただけかもだし。その子を助けたいんじゃなくて、その子自身が楼依君なのかも」
「疲れてはいるけど、違う気がする」
楼依はそう言うと天井を眺めた。
「もし仮に、その子が実在するとしたらどうするんだ?」
探す、と言っても何処を探せば良いか分からない。
夢の中は常に真っ白な空間だ。
それに顔が分からない。
ヒントが無さすぎて、探すのは無理なんだろうが。
「夢が続く限りは探すしかねぇだろ」
「探したら、どうする?」
「……約束があるんだよ」
「どんな?」
約束の内容に楼依は口を噤んだ。
そもそも、約束を交わしたもののその意図は分からない。
«俺を奪って»
夢の中の男の子はそう言って居た。
彼の今ある現状から救い出して欲しいのは、何となく分かる。
じゃあ、その後は?
自分はどうしたいかは考えあぐねている。
「……楼依君?」
深刻な表情で天井を見上げている楼依に、瑠依が呼び掛けた。
「……瑠依」
「何?」
「似顔絵、描けるよな?」
「そこそこは」
「よし、描け」
上から目線の言い草に瑠依はムッとしながらも、タブレットをバッグから出した。
そして、楼依が説明するイメージ通りに描いていく。
顔の輪郭、髪型や色、小さい角に肌の色、特徴を丁寧に描いた。
「なぁ……、肝心の目と鼻が分かんねぇとどうにもならねぇな」
瑠依が描き上げた似顔絵は、楼依の夢の中と似ている。
「それに、金髪で白い肌で黒い角と羽、……淫魔とかそっち系にしたら、なんか違う」
「可愛い尻尾もあった」
「実は天使ちゃんだったりして」
「だから、助けてって?」
「まぁ、見つかったら本当にロマンティックだけどな」
瑠依はそう言うとタブレットから楼依のスマホへ画像を転送した。
楼依はその画像を眺める。
次は逢えるのだろうか。
今日の夢は泣くほど弱っていた。
触れさせたくない程の、辛い事があったのは想像出来る。
でも、ほおってはおけない。
これだけ頻繁に夢の中に逢いに来るくらいだ、何故自分なのかは分からないが、逢えた時は楼依の心も安らいでいたのは事実だった。
その安らぎの理由は分からないが、多分素直に甘えてくれるのが嬉しいのかもしれない。
相手が同性だろうとも、気にならないくらい。
頼られているのが心地良いのか、甘えてくれるのが心地良いのかはまだ分からない。
自分だけなのか、それとも他に誰かいるのか。
他に居たら居たで何か嫌だ。
「……今日は、あたしが客として行くか?店に出る度にアイリの相手、終わってもアイリの相手とか溜まったもんじゃねぇだろ」
瑠依はソファーに背を凭れると、仕方無さげに言った。
透明な分厚い壁がある。
両膝を抱えた丸まった白い背中、萎んだ黒い羽、垂れ落ちた黒く細い尻尾。
その背中は悲しげで、寂しげだ。
「今日は、撫でさせてくんねぇの?」
声を掛けると、小さく頷くのが分かった。
「せめて、こっち向いてくんね?」
そう聞くと首を左右に振る。
「……泣いてんの?」
また、首を左右に振る。
多分、泣いている。
それだけは分かる。
手を伸ばしたくても、壁が邪魔をしている。
「俺は……、お前に何をしたら良い?」
黙ったまま動かなくなった。
「辛いなら……、言ってくれよ……」
『……』
ポツリと何かを言った。
「……そんな事言うなって」
『……』
「俺は、お前との約束は守りたい」
ゆっくりと振り向いた顔は、霧がかかった様で良く見えない。
『……ゴメン』
震える涙声が聞こえた。
その瞬間、パッと目が覚めた。
(……また、夢かよ)
見慣れた天井に落胆しながら、楼依は溜息を吐いた。
ここ数日、良く夢に出て来る黒い羽の男の子。
声は分かるが、顔が分からない。
最初は疲れているだけと思って居たのだが、触れる肌は確かに感触があって、お互い何故か全裸ではあるものの、心地は悪くない。
むしろ、気持ち良い。
いつも寂しげで、自分に自信の内容な態度、だけど、頭を撫でると嬉しげに笑う。
表情は分からないが、雰囲気がそう感じさせていた。
夢の中の短い時間でしか逢えないのもまた、非現実的な上に何か掻き立てるものがある。
夢だと分かっていても、何故かほおって置けなかった。
逢えるのは少し楽しみだが、夢の中と言うのがもどかしい。
羽が生えている辺り、本当に夢でありファンタジー思想などは持ち合わせていないのだが。
モヤモヤするのは嫌いだ。
楼依はもう一度溜息を吐くと、身体を起こしベッドから起きた。
シャワーでも浴びてスッキリしようかと、クローゼットからシャツと下着を取り出しベッドルームの戸を開けた。
「今何時だと思ってんだ。そして、せめて下着を履けや、バカ兄貴」
戸を開けるや否や、目の前のリビングのソファーに、ボブショートの艶のある黒髪の細身で楼依と瓜二つの人物が、スマホから目を離し楼依を睨んだ。
楼依はムッとすると、そのまま無言でバスルームへと行った。
10分くらいして、下着を履いて肩にタオルを掛けシャツを片手に戻って来た。
キッチンの冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すと、リビングの向かいのソファーに座った。
「あのさ、野郎の身体にキスマーク付けまくる女ってどーかと思うんだ」
目の前の人物は呆れながらそう言った。
「別れた方が良いんじゃねぇの?あたし、何か嫌い」
一人称が『あたし』な分、その人物は女らしい。
「付き合ってねぇよ」
「身体の相性ってのが良いのか?」
「好きでヤッてる訳じゃねぇ」
「好きでもねぇ奴が、こんなに長く身体の関係持つかよ。セフレで楼依君が満たされてんなら仕方ねぇけどさ……」
人物は一息着いた。
「……体型維持出来てねぇじゃん。いくら今大学とホスト手伝っているからかも知れねぇけどさ、仕事に支障出るぞ」
「筋トレはしてる」
「もっと肉付けろっての。トータ・イガラシの体型に近いから今の仕事があんだろ?せめて、撮影が始まる前にどうにかしろ」
分かってるよ、と楼依はウンザリ気味に呟くと、ペットボトルのキャップを外した。
それを一気に半分くらい喉に流し込んだ。
「つーかさ、朝帰りってどーなんだよ。女泊めるとか今まで無かったのに。噛み跡まで残されてんし、彼女ヅラでもしてんのかよ……」
「俺でも良く分かんねぇんだよ。いつの間にかヤッてんし、お互い性欲処理でしかねぇだろうが、スッキリしねえし疲れるし」
「あの女はスッキリした顔で帰ったぞ」
「……知るか、んな事」
楼依は肩のタオルを取ると、丸めてテーブルに置いた。
そしてシャツを着る。
「生霊でも取り憑かれてんじゃねぇのか?マリナさんに視て貰えばいーじゃん」
「佐藤と同じ事言ってんじゃねぇよ。霊能とか占いとか胡散臭い。視るなら俺より先輩だろ。あの人の方が生霊多そうだし」
そう言えば、アイリとセフレみたいな関係になってからだ、夢を見るようになったのは。
良く分からないセックスをした後、必ずでは無いが黒い羽の男の子が夢に現れる。
その日は些か、寝起きがスッキリだ。
「……やっぱり、マリナさんに視て貰うかな」
「まぁ、信じねぇでも一回くらいは良いんじゃねぇの?いつか取り殺される」
「アイリの事じゃねぇよ。ちょっと気になる事があるだけ」
楼依はペットボトルを見詰めた。
羽があるあたり人間ではないし、物の怪とかそう言うのだろうか。
妖怪だ幽霊だとか信じてないのだが、謝罪と泣き顔が気になる。
自分に助けを求めて居るようで、頭を撫でると安心した様に笑う。
顔は分からない。
夢の中で逢ううちに、いつの間にか楼依にも黒い羽の男の子の笑顔が安息になっていた。
それが、今日は泣いていた。
透明な分厚い壁の向こうで、触れる事も出来ずに。
壁を作るのは、やはり拒否したいのだろうか。
透明なのは、それでも助けを求めているのだろうか。
逢えなくなるのは、何となく嫌だ。
ペットボトルを見つめたまま、楼依は溜息を吐くと俯いた。
「……楼依君、気になる人でも出来た?」
「あ?」
人物の問いかけに、楼依は思わず睨み上げた。
「見た事ねぇ顔してる。珍し」
「……人じゃねぇかも」
「はぁ?」
「羽が生えてんの、黒い奴」
「それってさぁ、淫魔だったりして」
ニタっと人物は笑う。
「アイリとセフレってそれしかなくね?」
「……淫魔」
楼依は呟いた。
そう言えば、この前そんな事を言っていた様な。
でも、……。
「いや、……多分男。つーか、雄?」
「あー、インキュバスの方か。とうとう野郎にでも掘られたのか?」
興味津々な笑みを浮かべながら、人物は頬杖を着いた。
「掘られるか、バカ。夢の中で逢うだけ」
ニタニタ笑う人物に呆れながら楼依は言った。
「夢なら夢だろ?気にする事はねぇじゃん」
「そうなんだけどな……」
残っていた水を一気に飲み干した。
ふーん、と人物は呟くと何やら嬉しそうだ。
「どんな子?」
「弱々しいな。自分に自信がねぇっつーか、俺に手を伸ばしてぇんだと思う」
夢の話だと、楼依は答えた。
「可愛い?」
「どーなんだろな。可愛いんじゃね?」
「何だよ、その曖昧なの」
「顔だけ分からねぇんだ。でも、雰囲気で何となく、怒ってるのか笑ってるのか、分かる……」
楼依は思い出したのかふっと笑った気がした。
その表情に、人物は目を丸くした。
人物は、楼依の双子の妹だ。
名前は瑠依。
妹なのだが、Xジェンダーらしい。
「でもさ、羽が生えてて夢の中だけだろ?んなもん、実在するわけじゃねぇし。気にしても意味無くね?」
「そう思う。自分でも馬鹿らしいし。……だけど、感触があるっつーか、体温があるっつーか」
「感覚のある夢だってある」
瑠依の言い方に、楼依はムッとした。
夢なのは十分分かっている。
「……泣いてたんだよ。ゴメンて。気になるだろうが」
「でも、夢じゃない何も出来ねぇ。珍しくロマンティックな話だけどな」
「だから、マリナさんに視て貰おうと思ったんだ」
楼依はムッとしたまま、ペットボトルをテーブルに置くと、ソファーに凭れた。
「夢だろうが……、辛ぇなら助けてやりてぇだろ」
「あら、優しい。そんな奴だったっけ?」
「見え透いた下心がねぇんだ。他の女とは大違い」
瑠依はそんな兄貴を見詰めると、座り直して脚を組んだ。
「……まぁ、羽とかそんなんはイメージ的なものかもな。その子、自信がねぇとか泣いてたりするんだろ?それがイメージとして黒い羽が見えた。漫画やドラマでも女神に見えたとか言うシーンのそれかもな」
「実在するんかよ」
「んな事知るか。夢なんて、楼依君がアイリで疲れて見ただけかもだし。その子を助けたいんじゃなくて、その子自身が楼依君なのかも」
「疲れてはいるけど、違う気がする」
楼依はそう言うと天井を眺めた。
「もし仮に、その子が実在するとしたらどうするんだ?」
探す、と言っても何処を探せば良いか分からない。
夢の中は常に真っ白な空間だ。
それに顔が分からない。
ヒントが無さすぎて、探すのは無理なんだろうが。
「夢が続く限りは探すしかねぇだろ」
「探したら、どうする?」
「……約束があるんだよ」
「どんな?」
約束の内容に楼依は口を噤んだ。
そもそも、約束を交わしたもののその意図は分からない。
«俺を奪って»
夢の中の男の子はそう言って居た。
彼の今ある現状から救い出して欲しいのは、何となく分かる。
じゃあ、その後は?
自分はどうしたいかは考えあぐねている。
「……楼依君?」
深刻な表情で天井を見上げている楼依に、瑠依が呼び掛けた。
「……瑠依」
「何?」
「似顔絵、描けるよな?」
「そこそこは」
「よし、描け」
上から目線の言い草に瑠依はムッとしながらも、タブレットをバッグから出した。
そして、楼依が説明するイメージ通りに描いていく。
顔の輪郭、髪型や色、小さい角に肌の色、特徴を丁寧に描いた。
「なぁ……、肝心の目と鼻が分かんねぇとどうにもならねぇな」
瑠依が描き上げた似顔絵は、楼依の夢の中と似ている。
「それに、金髪で白い肌で黒い角と羽、……淫魔とかそっち系にしたら、なんか違う」
「可愛い尻尾もあった」
「実は天使ちゃんだったりして」
「だから、助けてって?」
「まぁ、見つかったら本当にロマンティックだけどな」
瑠依はそう言うとタブレットから楼依のスマホへ画像を転送した。
楼依はその画像を眺める。
次は逢えるのだろうか。
今日の夢は泣くほど弱っていた。
触れさせたくない程の、辛い事があったのは想像出来る。
でも、ほおってはおけない。
これだけ頻繁に夢の中に逢いに来るくらいだ、何故自分なのかは分からないが、逢えた時は楼依の心も安らいでいたのは事実だった。
その安らぎの理由は分からないが、多分素直に甘えてくれるのが嬉しいのかもしれない。
相手が同性だろうとも、気にならないくらい。
頼られているのが心地良いのか、甘えてくれるのが心地良いのかはまだ分からない。
自分だけなのか、それとも他に誰かいるのか。
他に居たら居たで何か嫌だ。
「……今日は、あたしが客として行くか?店に出る度にアイリの相手、終わってもアイリの相手とか溜まったもんじゃねぇだろ」
瑠依はソファーに背を凭れると、仕方無さげに言った。
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