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ニンゲンとルシカ
03
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着慣れない女物の下着は締め付けがキツい。
白いシンプルな作りの透けたブラジャー、腰のリボンが可愛いコルセット、レースの白いパンツは小さくて勃って居なくても零れそうだ。
臍の下から見える、子宮を象った淫紋。
コルセットから伸びるガーターベルトに白いフリルの着いた網タイツ。
それがまた似合う。
白を基調とした真っ白なベッドやソファー。
スタッフが後片付けをしている。
ルシカはその部屋の洗面台で、何度もうがいをしていた。
『いやはや、やはりお似合いですな』
背後からいきなり老人が話しかけて来た。
ルシカは振り返る。
『このお姿のまま魔王様の元にお連れしたら、何匹の雄共がルシカ様の虜になりましょうか』
いやらしい老人の視線に、ルシカは横にあったタオルを掴んで身体を隠した。
「な、何の用だよ……」
身体が震え出す。
『心配で様子を見に来ただけの事。……なるほど、口からの摂取とは……、カグヤ様の入れ知恵ですかな』
「取っているんだ、文句はねぇだろ」
『しかし、そろそろ疼くのではございませぬか?精は、身体に挿れてこそ……』
「そんな事しなくたって満たされてる。俺は俺のやり方で満たす」
ふぅ、と老人は溜息を吐いた。
『貴方様は淫魔でございます。獲物を色欲に溺れさせ魂を取るのが仕事。忘れてしまっては困ります。ここ数日、確かに精は取れていますが、魂までは……。これではカグヤ様の負担が増えてしまいますな』
カグヤの名前を出されると何も言えない。
「ルシカさん、次のお客様を入れますけど、良いですかぁ?」
扉の向こうから、スタッフが声を掛けて来た。
「はいっ!お願いしますっ!」
慌ててルシカは答えた。
「とりあえず、邪魔は……」
もう一度、老人に向き直った時、老人はもうそこに居なかった。
ルシカは首を横に振って、気持ちを入れ替えると洗面室を出て、ベッドの脇に座った。
胸に手を当て、深呼吸をした。
今のところ、最後まではされていない。
乳首は弄られるが、抜き合いか素股かフェラチオで済んでいるのは、本番までの料金が莫大な設定にされているからかも知れない。
ここが浅霧組の関係だと知れば、客も大人しくそれに従うだろう。
ルールさえ守れば至って健全だ。
もう一度、深く深呼吸する。
多分、今日はこの客が最後だ。
この仕事を初めて4日。
新人でこのビジュアルだ、指名や予約もそれなりに入るし、その分の手取りも良い。
その日に貰える分ありがたいが、やはり嫌悪感は拭えない。
さっきの様に吐き出す事も少なくない。
ドアがノックされる。
ルシカはまだ戸惑いながらも、返事をする。
扉の開く音がする。
ルシカは頭を下げて、客を待った。
ベッドの前に立ち止まる足が見えた。
「いらっしゃいませ。お待ちしてました」
頭を下げたまま、ルシカがそう言った。
「あー……、初めてなんだけど、こーいうとこ」
その声に、ルシカの身体が固まった。
頭が上げられない。
「……お前」
その声にますます上げられない。
溜息が聞こえる。
ルシカの横に座るとベッドが軋んだ。
そして、ふわっと布団が掛けられた。
「最初から何もする気ねぇよ。大学の飲み会の罰ゲームで来させられたんだ」
ほら、顔上げろ、と言う様に、ルシカの背中をポンポンと軽く叩いた。
ルシカは布団を肩に掛け直すと、頭を上げた。
気まづ過ぎて、顔が見れない。
「何でこんなとこで働いてんだ?」
楼依もこちらを見ようとしない。
「……弟、ちゃんと学校に行かせたくて。父も母も……、居ないし。兄さんだけに負担掛けさせたくなくて……」
「この店、浅霧組が仕切ってるだろ?弾さんに狙われる」
「あの人は……、俺より兄さんを気に入ってるから……」
「そうか?好みには見境ねぇのに。金が必要なら、瑠依が言う様にモデルしてみりゃ良い」
「……でも、俺には無理だよ」
あれから何度も瑠依から誘われていた。
モデルと言う仕事も、調べた。
精を取らないと生きて行けない上に、自分に自信が無い。
華やかで綺麗な仕事など、出来るわけない。
「……俺は、お前に何をすれば良い?オーダー表、持ってるだろ?」
仕事だと、何度も頭に刷り込ませる。
「最初から何もする気ねぇって言っただろ」
「それじゃ仕事になんねぇよ……」
「テキトーに話をするだけでも良いんじゃねぇの?ここ、密室だしバレやしねえ。……それに」
楼依の手がルシカの背中に伸びた。
「震えてる……」
ポソッと楼依が呟いた。
ルシカはギュッと布団を握った。
いくら淫魔とは言え、好きでもない交尾が擬似的なものであっても怖い。
いつまた、襲われるのか、自分が変わって行くのではないのか、と思うと余計に。
楼依には下心がない、それは十分に伝わっている。
「まぁ、罰ゲームって言うのは言い訳で、逃げて来たんだ」
優しくルシカの背中を撫でながら、楼依は言った。
「この前、店で張り合った女……。アレに付き纏われてる。断っても、一緒に居ねぇでも、気が付けばアレとしてんだ。訳わかんねぇし、気持ち良くもねぇ。元から性欲も強くねぇし、いい加減気が狂いそうでさ。罰ゲームにゃ変わりねぇが、こーゆー店に入りゃ、少しは諦めるかと思った」
アイリは確かに危険だ。
ルシカもそう思っていた。
「だから、お前は気にしなくて良い。事情がどうであれ、その気もねぇ奴は抱かねぇよ」
ポンポンとまたルシカの背中を撫でる。
撫でる背中が気持ちいい。
「……お前だって不本意だろ」
見透かされたルシカの心が、ぎゅうっと掴まれた様に痛い。
淫魔が生きて行くには仕方ない事だと、伝えたら楼依はどう思うだろう。
ただ、性欲を煽って精を搾り取ると言う、淫魔の都合だけの性欲処理。
出来れば、自分の身体を使ってなどしたくない。
「……なぁ、頭、撫でてくんね?」
両膝を抱え俯くルシカがポツリと呟いた。
「甘えん坊かよ」
そう言う楼依が笑った気がした。
そして、大きな手がルシカの頭に触れると、優しく撫でた。
温かくて、安心する。
ヨゾラは、夢の雄が同じ夢を見ると言っていた。
同じなら、夢を見ているのだろうか。
他の雌にもこうやって優しく頭を撫でるのだろうか。
「瑠依のデザイン、その下着」
頭を撫でながら、楼依が言った。
ルシカは思わず顔を上げた。
「ひでぇ顔だな。こんな顔で客に接客してたのかよ」
楼依と目が合った。
この前よりは柔らかい表情に、ルシカの顔が熱くなる。
「俺が嫌なのか?」
楼依が聞くと、ルシカは無意識に首を左右に振った。
「辛いか?……この仕事」
ルシカは答えられなかった。
「弟以外、理由があるなら、……俺が通ってやんよ。毎日じゃねぇけど」
「……お前じゃ、仕事にならねぇじゃん。それでカネ貰うとか、意味ねぇよ……」
やっと声が出た。
「良いんじゃねぇの?俺だって逃げて来てる訳だし。そう言う事が目的じゃねぇ客の一人くらい居たっていいだろ」
「……お前は、誰にでも優しいのか?」
「優しかねぇよ。今は自分の都合がお前の都合と合っただけ」
それもそれで何だかモヤっとする。
「お前の方が優しいだろ、きっと」
「俺は、甘えているだけだ」
「そうか?俺は少なくとも、瑠依や弟の為にここまで出来ねぇよ。野郎相手とか特に」
この下界では同性同士は当たり前では無いのか?
確かにルシカにも同性の交尾は嫌悪感がある。
雌とはした事もないし、ルシカの中では交尾が神聖なものとは考えられないのかも知れない。
しかし、交尾のみで生きてきた様なカグヤを見て育ち、自分も偽りの心の準備だけで身体を明け渡した訳だ。
同性同士も当たり前の様に考えてしまうのは仕方の無い事なのかも知れない。
「あー、言い方間違えた。女同士は分からん。けど、男同士って色んなリスクがあるんだ。俺なら、余程覚悟と相手に対する気持ちがねぇと、出来ねぇってだけ」
「……弟の友達も、……気持ちが大事って言ってた。俺には、分かんねぇ……」
「そう言えば、最近同じ様な話をした気がする。……先輩と一緒にいた奴が、そんな感情が分からねぇって」
「お前には分かるのか?」
「俺にも分かんねぇよ。本気で付き合った事ねぇんだ。大事な事は分かるけど、大事って思える奴には会ってねぇんだよ、多分」
「兄弟が居るだろ?」
「兄貴や弟なんか抱くのも抱かれるのも嫌だ。妹もお断り。幾らなんでも兄弟はしねぇよ、普通そう言う事」
そうだよな、とルシカは呟いた。
ルシカのハジメテは兄のカグヤだ。
魔王や他の雄じゃなかったのは安心だと言え、やはり兄弟ではする事ではない。
「こう言うとこで働くなんざ、訳ありが多いだろ。好きでする奴も居るだろうけど」
楼依は否定をしている訳では無い。
ルシカが本意でしている事では無いのも解っている。
「……俺からしたら、目のやり場には困る、それ」
ポツリと呟く楼依に、ルシカは顔を真っ赤にした。
「お、お前の妹が作ったんだろ」
身体全部を隠す様に、布団に包まる。
「まぁ、お前が着てるって知ったら喜ぶんじゃねぇの?ずっと、気にしてる」
「瑠依ちゃんには言うな。知り合いに見られるって、すげぇ嫌だし」
「分かってんよ。……俺だって、……」
楼依は途中で言うのを辞めた。
続きの言葉が気になるが、ルシカも聞くのを辞めた。
楼依は一息着くと、頭を搔く。
「瑠依にはもっと普通の作らせる」
「んな事言ったら、お前がこーゆーとこ来たってバレるだろ」
「冷やかされるだけ」
「俺もバレるし。……普段から着てる訳じゃねぇもん」
楼依は腑に落ちないらしい。
むくれている様にも見える。
ルシカはちょっとだけ寄り添ってみた。
「……何もしねぇのも、何か嫌だ」
頭を楼依の肩に乗せる。
「……お前が、……」
夢の雄だったら良いのに、と思った。
楼依の手がルシカの頭を引き寄せた。
安心と共に心臓がドキドキする。
「無理しねぇで良いのに」
「……俺がしたいからしただけ」
「どっちが客だよ」
ルシカは小さく笑った。
心臓がドキドキとチリチリとする。
他の雄にもない安心感がある。
(……やっぱり、似てるな……)
夢の雄と重ねながら、ルシカは一時の安心感に心を預けた。
白いシンプルな作りの透けたブラジャー、腰のリボンが可愛いコルセット、レースの白いパンツは小さくて勃って居なくても零れそうだ。
臍の下から見える、子宮を象った淫紋。
コルセットから伸びるガーターベルトに白いフリルの着いた網タイツ。
それがまた似合う。
白を基調とした真っ白なベッドやソファー。
スタッフが後片付けをしている。
ルシカはその部屋の洗面台で、何度もうがいをしていた。
『いやはや、やはりお似合いですな』
背後からいきなり老人が話しかけて来た。
ルシカは振り返る。
『このお姿のまま魔王様の元にお連れしたら、何匹の雄共がルシカ様の虜になりましょうか』
いやらしい老人の視線に、ルシカは横にあったタオルを掴んで身体を隠した。
「な、何の用だよ……」
身体が震え出す。
『心配で様子を見に来ただけの事。……なるほど、口からの摂取とは……、カグヤ様の入れ知恵ですかな』
「取っているんだ、文句はねぇだろ」
『しかし、そろそろ疼くのではございませぬか?精は、身体に挿れてこそ……』
「そんな事しなくたって満たされてる。俺は俺のやり方で満たす」
ふぅ、と老人は溜息を吐いた。
『貴方様は淫魔でございます。獲物を色欲に溺れさせ魂を取るのが仕事。忘れてしまっては困ります。ここ数日、確かに精は取れていますが、魂までは……。これではカグヤ様の負担が増えてしまいますな』
カグヤの名前を出されると何も言えない。
「ルシカさん、次のお客様を入れますけど、良いですかぁ?」
扉の向こうから、スタッフが声を掛けて来た。
「はいっ!お願いしますっ!」
慌ててルシカは答えた。
「とりあえず、邪魔は……」
もう一度、老人に向き直った時、老人はもうそこに居なかった。
ルシカは首を横に振って、気持ちを入れ替えると洗面室を出て、ベッドの脇に座った。
胸に手を当て、深呼吸をした。
今のところ、最後まではされていない。
乳首は弄られるが、抜き合いか素股かフェラチオで済んでいるのは、本番までの料金が莫大な設定にされているからかも知れない。
ここが浅霧組の関係だと知れば、客も大人しくそれに従うだろう。
ルールさえ守れば至って健全だ。
もう一度、深く深呼吸する。
多分、今日はこの客が最後だ。
この仕事を初めて4日。
新人でこのビジュアルだ、指名や予約もそれなりに入るし、その分の手取りも良い。
その日に貰える分ありがたいが、やはり嫌悪感は拭えない。
さっきの様に吐き出す事も少なくない。
ドアがノックされる。
ルシカはまだ戸惑いながらも、返事をする。
扉の開く音がする。
ルシカは頭を下げて、客を待った。
ベッドの前に立ち止まる足が見えた。
「いらっしゃいませ。お待ちしてました」
頭を下げたまま、ルシカがそう言った。
「あー……、初めてなんだけど、こーいうとこ」
その声に、ルシカの身体が固まった。
頭が上げられない。
「……お前」
その声にますます上げられない。
溜息が聞こえる。
ルシカの横に座るとベッドが軋んだ。
そして、ふわっと布団が掛けられた。
「最初から何もする気ねぇよ。大学の飲み会の罰ゲームで来させられたんだ」
ほら、顔上げろ、と言う様に、ルシカの背中をポンポンと軽く叩いた。
ルシカは布団を肩に掛け直すと、頭を上げた。
気まづ過ぎて、顔が見れない。
「何でこんなとこで働いてんだ?」
楼依もこちらを見ようとしない。
「……弟、ちゃんと学校に行かせたくて。父も母も……、居ないし。兄さんだけに負担掛けさせたくなくて……」
「この店、浅霧組が仕切ってるだろ?弾さんに狙われる」
「あの人は……、俺より兄さんを気に入ってるから……」
「そうか?好みには見境ねぇのに。金が必要なら、瑠依が言う様にモデルしてみりゃ良い」
「……でも、俺には無理だよ」
あれから何度も瑠依から誘われていた。
モデルと言う仕事も、調べた。
精を取らないと生きて行けない上に、自分に自信が無い。
華やかで綺麗な仕事など、出来るわけない。
「……俺は、お前に何をすれば良い?オーダー表、持ってるだろ?」
仕事だと、何度も頭に刷り込ませる。
「最初から何もする気ねぇって言っただろ」
「それじゃ仕事になんねぇよ……」
「テキトーに話をするだけでも良いんじゃねぇの?ここ、密室だしバレやしねえ。……それに」
楼依の手がルシカの背中に伸びた。
「震えてる……」
ポソッと楼依が呟いた。
ルシカはギュッと布団を握った。
いくら淫魔とは言え、好きでもない交尾が擬似的なものであっても怖い。
いつまた、襲われるのか、自分が変わって行くのではないのか、と思うと余計に。
楼依には下心がない、それは十分に伝わっている。
「まぁ、罰ゲームって言うのは言い訳で、逃げて来たんだ」
優しくルシカの背中を撫でながら、楼依は言った。
「この前、店で張り合った女……。アレに付き纏われてる。断っても、一緒に居ねぇでも、気が付けばアレとしてんだ。訳わかんねぇし、気持ち良くもねぇ。元から性欲も強くねぇし、いい加減気が狂いそうでさ。罰ゲームにゃ変わりねぇが、こーゆー店に入りゃ、少しは諦めるかと思った」
アイリは確かに危険だ。
ルシカもそう思っていた。
「だから、お前は気にしなくて良い。事情がどうであれ、その気もねぇ奴は抱かねぇよ」
ポンポンとまたルシカの背中を撫でる。
撫でる背中が気持ちいい。
「……お前だって不本意だろ」
見透かされたルシカの心が、ぎゅうっと掴まれた様に痛い。
淫魔が生きて行くには仕方ない事だと、伝えたら楼依はどう思うだろう。
ただ、性欲を煽って精を搾り取ると言う、淫魔の都合だけの性欲処理。
出来れば、自分の身体を使ってなどしたくない。
「……なぁ、頭、撫でてくんね?」
両膝を抱え俯くルシカがポツリと呟いた。
「甘えん坊かよ」
そう言う楼依が笑った気がした。
そして、大きな手がルシカの頭に触れると、優しく撫でた。
温かくて、安心する。
ヨゾラは、夢の雄が同じ夢を見ると言っていた。
同じなら、夢を見ているのだろうか。
他の雌にもこうやって優しく頭を撫でるのだろうか。
「瑠依のデザイン、その下着」
頭を撫でながら、楼依が言った。
ルシカは思わず顔を上げた。
「ひでぇ顔だな。こんな顔で客に接客してたのかよ」
楼依と目が合った。
この前よりは柔らかい表情に、ルシカの顔が熱くなる。
「俺が嫌なのか?」
楼依が聞くと、ルシカは無意識に首を左右に振った。
「辛いか?……この仕事」
ルシカは答えられなかった。
「弟以外、理由があるなら、……俺が通ってやんよ。毎日じゃねぇけど」
「……お前じゃ、仕事にならねぇじゃん。それでカネ貰うとか、意味ねぇよ……」
やっと声が出た。
「良いんじゃねぇの?俺だって逃げて来てる訳だし。そう言う事が目的じゃねぇ客の一人くらい居たっていいだろ」
「……お前は、誰にでも優しいのか?」
「優しかねぇよ。今は自分の都合がお前の都合と合っただけ」
それもそれで何だかモヤっとする。
「お前の方が優しいだろ、きっと」
「俺は、甘えているだけだ」
「そうか?俺は少なくとも、瑠依や弟の為にここまで出来ねぇよ。野郎相手とか特に」
この下界では同性同士は当たり前では無いのか?
確かにルシカにも同性の交尾は嫌悪感がある。
雌とはした事もないし、ルシカの中では交尾が神聖なものとは考えられないのかも知れない。
しかし、交尾のみで生きてきた様なカグヤを見て育ち、自分も偽りの心の準備だけで身体を明け渡した訳だ。
同性同士も当たり前の様に考えてしまうのは仕方の無い事なのかも知れない。
「あー、言い方間違えた。女同士は分からん。けど、男同士って色んなリスクがあるんだ。俺なら、余程覚悟と相手に対する気持ちがねぇと、出来ねぇってだけ」
「……弟の友達も、……気持ちが大事って言ってた。俺には、分かんねぇ……」
「そう言えば、最近同じ様な話をした気がする。……先輩と一緒にいた奴が、そんな感情が分からねぇって」
「お前には分かるのか?」
「俺にも分かんねぇよ。本気で付き合った事ねぇんだ。大事な事は分かるけど、大事って思える奴には会ってねぇんだよ、多分」
「兄弟が居るだろ?」
「兄貴や弟なんか抱くのも抱かれるのも嫌だ。妹もお断り。幾らなんでも兄弟はしねぇよ、普通そう言う事」
そうだよな、とルシカは呟いた。
ルシカのハジメテは兄のカグヤだ。
魔王や他の雄じゃなかったのは安心だと言え、やはり兄弟ではする事ではない。
「こう言うとこで働くなんざ、訳ありが多いだろ。好きでする奴も居るだろうけど」
楼依は否定をしている訳では無い。
ルシカが本意でしている事では無いのも解っている。
「……俺からしたら、目のやり場には困る、それ」
ポツリと呟く楼依に、ルシカは顔を真っ赤にした。
「お、お前の妹が作ったんだろ」
身体全部を隠す様に、布団に包まる。
「まぁ、お前が着てるって知ったら喜ぶんじゃねぇの?ずっと、気にしてる」
「瑠依ちゃんには言うな。知り合いに見られるって、すげぇ嫌だし」
「分かってんよ。……俺だって、……」
楼依は途中で言うのを辞めた。
続きの言葉が気になるが、ルシカも聞くのを辞めた。
楼依は一息着くと、頭を搔く。
「瑠依にはもっと普通の作らせる」
「んな事言ったら、お前がこーゆーとこ来たってバレるだろ」
「冷やかされるだけ」
「俺もバレるし。……普段から着てる訳じゃねぇもん」
楼依は腑に落ちないらしい。
むくれている様にも見える。
ルシカはちょっとだけ寄り添ってみた。
「……何もしねぇのも、何か嫌だ」
頭を楼依の肩に乗せる。
「……お前が、……」
夢の雄だったら良いのに、と思った。
楼依の手がルシカの頭を引き寄せた。
安心と共に心臓がドキドキする。
「無理しねぇで良いのに」
「……俺がしたいからしただけ」
「どっちが客だよ」
ルシカは小さく笑った。
心臓がドキドキとチリチリとする。
他の雄にもない安心感がある。
(……やっぱり、似てるな……)
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