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暴君
04
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佐藤は震えていた。
それは、人生で一番震えていた。
まだ、遺書は書きたくない。
店のミーティングルームのソファーにヤンキー君は足を組んで座っていた。
「なぁなぁ、あの壁に貼ってある棒みたいのは何だ?」
ヤンキー君は売り上げ順位表を指さした。
「ああ、あれはこの店の人気を表したグラフで……、一番長い人が人気あって売り上げも……」
楼依のグラフが紙を突き破る勢いで長い。
「ふーん……。あんたは?」
「俺はキャストじゃなくて雑用だから……」
「へー……」
会話が途切れた。
そろそろ、従業員達が来る。
どう乗り切ろうか、ミーティング中はどうしようか、とか頭が一杯だ。
ドアの外から話し声が聞こえる。
何人かが出勤して来たらしい。
「……でさぁ」
と話をしながら、私服の男が三人入って来た。
「佐藤、相変わらず早いなー」
一人が佐藤に気付いて話しかけて来た。
「あー、あははー」
佐藤はとりあえず笑う。
「あれ、そっちは面接?」
ヤンキー君を見て二人目が聞いた。
「あー……、そうそうそうっ!オーナーに話すの忘れちゃっててさ、面倒だから連れて来ちゃった」
「でも、オーナーは今日はちょっと出勤遅くなかったっけ?花金だし、楼依さん以外キャストは同伴が殆どだし」
自分の荷物をロッカーにしまいながら、三人目が言った。
そうだ、金曜日は同伴が殆どだからミーティングもない。
姫様達はそのまま卓に座り、キャストもそのまま仕事に入る。
佐藤はほっと胸を撫で下ろした。
「……めんせつか「あーっ!俺、オーナー待たなきゃだから、オープン準備出来ないかもっ!!」」
ヤンキー君が何かを言おうとしたが、佐藤がそれを遮った。
「佐藤はいつも苦労してるから俺達でやっとくよ」
「そうそう、オーナーの雑用もしてくれてるもんな」
笑いながら男達は言った。
黒服に着替えた男達は、話しながらミーティングルームを出て行った。
「……何だよ、めんせつって」
ヤンキー君は遮られたのが納得行かないのか、口を尖らかせた。
「話がややこしくなっちゃうからさ……」
何とかやり過ごせたと、佐藤は少し安心した。
チラッと時計を見ると、17時を少し過ぎた。
そろそろ楼依が出勤すると思うと、安心も出来ない。
佐藤は腹をくくって、救急箱を用意しといた。
ヤンキー君は大きな欠伸をしている。
人の気も知らないで、と佐藤は溜息を吐いた。
ドアの外から、バタバタとボーイ達の足音が聞こえる。
開店準備で走り回って居る様だ。
出来れば、楼依が何かの理由を付けて休んでくれたら、とは祈る。
しばらくすると、ボーイ達が誰かに挨拶をする声がした。
佐藤の心臓がバクバクと飛び出そうなくらい、早く激しく鼓動を打った。
「はよーございまーす」
とやる気のない声を出しながら、楼依が扉を開けた瞬間だった。
佐藤の目の前に座っていたヤンキー君の姿が消えた。
「……おい、佐藤。……何だ、コイツは」
そう言われて佐藤は楼依の方を見ると、ヤンキー君が楼依に殴り掛かり、楼依はその拳を掴んでいた。
楼依は眉間に皺を寄せながら、ヤンキー君を睨んでいる。
「あああああっ!あ、あのですね……、っ!!」
佐藤は慌てて間に入ろうとした。
「テメェ……、何でルシカの匂いがプンプンすんだよ?」
拳は掴まれたまま、ヤンキー君は楼依を睨みあげると低い声で言った。
ルシカの名前が出たせいか、楼依の目付きがますます鋭くなる。
佐藤は見た事のない楼依の怒りを含んだ目付きに、背筋が凍った。
「しかも、表面じゃない。カラダの内側から……」
「ルシカの元客か?」
「馴れ馴れしく呼ぶなよっ!」
「喧嘩売ってんなら買うぞ」
「ここで喧嘩はダメだってっ!」
佐藤は何とか二人の間に入ると、二人を引き剥がした。
「後輩君も、顔に傷でも出来たら接客出来ないでしょっ!?オーナーに叱られる 、俺がっ!」
「俺が負けると思ってんのかよ」
「そうじゃないけど、怪我したらルシカちゃんが……」
「おい、やっぱりコイツがルシカの居場所を知ってんのか?」
「知ってたら悪ぃか」
あー、もうっ!と佐藤は叫ぶ。
「とりあえず、落ち着いてっ!そこに座って下さいっ!」
ヤンキー君の背中を掴み、方向転換させ、ソファーを指さす。
楼依の腕を掴んで引き入れると、勢い良くドアを閉めた。
「ルシカに会わせろ」
ヤンキー君はソファーに座るなり、そう言った。
「断る」
「テメェがルシカを飼ってるんだろーがっ!?」
「人聞き悪ぃ事言うな。ルシカとどんな関係か興味ねぇし、ルシカが俺を選んだんだ。残念だったな」
楼依はふんぞり返る様に向かいに座ると、鼻先で笑った。
「後輩君、この子が探してるのはルシカちゃんのお兄ちゃんなんだって」
何とか落ち着かせようと、佐藤はそう言った。
「それは俺の管轄じゃねぇし」
「ルシカでも良いんだよ」
「でも、って何だよ。用事ねぇならつっかかんな」
「テメェから出るルシカの匂いが気に入らねぇ」
「……まぁ、確かに良い匂いはするよな、アイツ」
「あぁっ!?喧嘩売ってんのかっ!?」
ヤンキー君はテーブルを叩くと身を乗り出した。
「挑発し合わないのっ!とりあえず、俺は佐藤。君、まず名前を名乗りなさいっ!」
「……知らねぇくせに何で連れて来たんだよ」
楼依は呆れながら言った。
「成り行きですっ!」
「……ヒーロ」
ヤンキー君はそう答えた。
「ヒーロー?お前が?」
楼依が小さく笑った。
なんの事か分からないが、ヒーロと名乗ったヤンキー君はムッとした。
「いちいち挑発しないで下さいっ!後輩君も自己紹介っ!」
楼依は嫌そうな顔をした。
佐藤は睨む。
「……姫神」
溜息混じりに楼依は名前を名乗った。
「ひめ?雌かよ」
ヒーロはぷッと笑うと、口に手を当てた。
今度は楼依がムッとする。
「で、ヒーロ君はルシカちゃんとどんな関係?」
「別にいーだろ?」
「良くない。ちゃんと話をしないと会わせて貰えないよ?」
「会わせる気はない」
楼依は横から即答する。
「ガキの頃の幼馴染なんだよ」
「だから?テメェが会いたいのは兄貴の方だろうが」
「カグヤが見つからねぇからルシカに会いたいの」
「何が目的で?」
「話す必要は無いし」
ヒーロはふいっとそっぽを向いた。
平行線な話に、佐藤は頭を抱える。
「テメェこそ、何でそんなにルシカの匂いがすんだよ」
「何だよ、ヤキモチか?」
「ルシカに何をした?」
ミーティングルームの外が騒がしくなって来た。
どうやら開店したらしい。
「楼依さん、指名入りました」
ボーイの一人がドアを開けた。
「あー、誰か付けといて。先輩来るまでちょっと厄介だから」
チラッとボーイの方を見ると楼依はそう言った。
ボーイはドアを閉めた。
「別に。好き同士がする事しかやってねぇよ」
「ルシカ、抱いたのか?」
ヒーロの眉間に皺が寄る。
「テメェにゃ関係ねぇ」
「抱いただけで、そんなに匂いがするかよ」
「知るか」
「だから、喧嘩腰にはならないでって」
最早佐藤は泣きそうだ。
その時、再びミーティングルームが開いた。
「姫神、仕事終わったら残れ」
そう言いながら、千皇が入って来た。
「オーナーぁぁぁあっ!」
佐藤は目を輝かせた。
「次男と末っ子にも伝えろ」
佐藤の視線は無視しそう言うと、自分のデスクにカバンを置くと、座るなりパソコンを開いた。
千皇を見るヒーロの表情が、見る見る蒼白になって行く。
「な、何なんだよ……、お前ら……」
プルプルと震えた指で千皇をさした。
「何でお前からは、カグヤの匂いがすんだよぉ…… 」
チラッと千皇はパソコン越しからヒーロを見ると、再びパソコンに視線を戻した。
「タバコの補充と、ボトルのチェック」
千皇は静かに言うと、佐藤はビシッと立ち上がった。
そして、足早にミーティングルームを出て行った。
「……とうとう腹括ってヤッちまったっすか?」
佐藤が出た後、楼依は座り直して千皇に聞いた。
「安心しろ、してねぇよ。……で、誰?」
千皇は目線をパソコンに向けると、そう聞き返した。
「兄貴に用があるらしいです」
「ふーん……」
楼依の返答に、千皇は興味無さげに鼻先で返した。
「兄弟達の幼馴染だとか」
「で、………何の用だって?」
カタカタとパソコンを操作しながら千皇は再び聞いて来た。
「んな事より、何だよ……、お前ら。匂いはプンプンするわ……、お前に至ってはカグヤの匂い以外に、魔力が……」
そう言うと慌ててヒーロは自分の口を抑えた。
「兄貴に会わせろ、って。俺は指名入ってんでそろそろ行きますよ」
と、楼依は腰を上げ始めた。
「後で俺も顔を出す。ここに居ろ」
えー、とあからさまな嫌な顔をするも、楼依は再び座り直した。
「何の用事でアイツに会いてぇの?」
千皇はヒーロには目もくれずに聞いた。
「俺達は、アイツらが淫魔だとかファンタジーな生物なのは知ってる」
そう千皇が静かに言うと、ヒーロは口から手を離した。
「何でお前はカグヤの魔力を持ってんだよ……」
「質問は俺がしている」
あくまでも目を合わせない千皇に、ヒーロは舌打ちをした。
「……魔界からカグヤに渡せって預かってるもんがあんだよ」
「……」
「下界に行ったのは知ってんけど、魔界には帰ってねぇから」
「何を渡せって?」
「カグヤに会わせろ」
「……会うだけじゃ済まねぇだろ」
千皇は立ち上がり、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出した。
キャップを開けると、一口飲む。
「まぁ、会ったところでアイツに触れる事が出来ねぇだろうが……」
千皇が小さく笑った気がした。
「あー、先輩のせいで弾くんでしたっけ?魔族とか言うヤツらを」
「人聞きの悪ぃ事言うなよ。俺はアイツが欲しいもんをくれてやっただけだ」
「……弾く?欲しいもん?」
ヒーロの眉間の皺が深くなる。
「何だよ、何の話だよ……」
「さっきから匂いがどーとか言うけど、お前こそ何なんだ」
楼依は腕を組んで、千皇の代わりにヒーロを睨んだ。
「俺は特別鼻が利くんだ。一度嗅いだら覚える」
「犬かよ」
「うるせぇなぁ……。俺はさっきから素直に話してるじゃねぇか……」
「だからって何で話さねぇとならない?」
「フェアじゃねぇじゃん」
「魔族とか言う奴がフェアを求めるなんて、……笑える」
あー言えばこー返す楼依に、ヒーロは顔を真っ赤にする。
「あんまりからかうな、可哀想だ」
「クソっ!何でニンゲン如きに馬鹿にされねぇと……」
「可哀想だから、会わせてやりゃ良いだろ、次男に」
「ぜってぇ、嫌です」
「どーでもいいけど、どっちかに会わせろよっ!!」
ヒーロがテーブルを叩きながら立ち上がった。
やっと千皇がヒーロを見た。
「渡してぇもんあんなら置いて行けばいい。その内渡してやる」
静かに千皇が言った。
「俺は会いたいつってんの」
「断る」
「俺達の正体知ってんなら力づくでも居場所吐かせるぞっ!!」
バサッとヒーロは羽を広げた。
カグヤ達よりは大きく立派だ。
純粋な魔族か、それとも格上なのだろうか。
「「……ほぉ?」」
二人のニンゲンは、怒れるヒーロを睨むと、不敵な笑顔を見せた。
それは、人生で一番震えていた。
まだ、遺書は書きたくない。
店のミーティングルームのソファーにヤンキー君は足を組んで座っていた。
「なぁなぁ、あの壁に貼ってある棒みたいのは何だ?」
ヤンキー君は売り上げ順位表を指さした。
「ああ、あれはこの店の人気を表したグラフで……、一番長い人が人気あって売り上げも……」
楼依のグラフが紙を突き破る勢いで長い。
「ふーん……。あんたは?」
「俺はキャストじゃなくて雑用だから……」
「へー……」
会話が途切れた。
そろそろ、従業員達が来る。
どう乗り切ろうか、ミーティング中はどうしようか、とか頭が一杯だ。
ドアの外から話し声が聞こえる。
何人かが出勤して来たらしい。
「……でさぁ」
と話をしながら、私服の男が三人入って来た。
「佐藤、相変わらず早いなー」
一人が佐藤に気付いて話しかけて来た。
「あー、あははー」
佐藤はとりあえず笑う。
「あれ、そっちは面接?」
ヤンキー君を見て二人目が聞いた。
「あー……、そうそうそうっ!オーナーに話すの忘れちゃっててさ、面倒だから連れて来ちゃった」
「でも、オーナーは今日はちょっと出勤遅くなかったっけ?花金だし、楼依さん以外キャストは同伴が殆どだし」
自分の荷物をロッカーにしまいながら、三人目が言った。
そうだ、金曜日は同伴が殆どだからミーティングもない。
姫様達はそのまま卓に座り、キャストもそのまま仕事に入る。
佐藤はほっと胸を撫で下ろした。
「……めんせつか「あーっ!俺、オーナー待たなきゃだから、オープン準備出来ないかもっ!!」」
ヤンキー君が何かを言おうとしたが、佐藤がそれを遮った。
「佐藤はいつも苦労してるから俺達でやっとくよ」
「そうそう、オーナーの雑用もしてくれてるもんな」
笑いながら男達は言った。
黒服に着替えた男達は、話しながらミーティングルームを出て行った。
「……何だよ、めんせつって」
ヤンキー君は遮られたのが納得行かないのか、口を尖らかせた。
「話がややこしくなっちゃうからさ……」
何とかやり過ごせたと、佐藤は少し安心した。
チラッと時計を見ると、17時を少し過ぎた。
そろそろ楼依が出勤すると思うと、安心も出来ない。
佐藤は腹をくくって、救急箱を用意しといた。
ヤンキー君は大きな欠伸をしている。
人の気も知らないで、と佐藤は溜息を吐いた。
ドアの外から、バタバタとボーイ達の足音が聞こえる。
開店準備で走り回って居る様だ。
出来れば、楼依が何かの理由を付けて休んでくれたら、とは祈る。
しばらくすると、ボーイ達が誰かに挨拶をする声がした。
佐藤の心臓がバクバクと飛び出そうなくらい、早く激しく鼓動を打った。
「はよーございまーす」
とやる気のない声を出しながら、楼依が扉を開けた瞬間だった。
佐藤の目の前に座っていたヤンキー君の姿が消えた。
「……おい、佐藤。……何だ、コイツは」
そう言われて佐藤は楼依の方を見ると、ヤンキー君が楼依に殴り掛かり、楼依はその拳を掴んでいた。
楼依は眉間に皺を寄せながら、ヤンキー君を睨んでいる。
「あああああっ!あ、あのですね……、っ!!」
佐藤は慌てて間に入ろうとした。
「テメェ……、何でルシカの匂いがプンプンすんだよ?」
拳は掴まれたまま、ヤンキー君は楼依を睨みあげると低い声で言った。
ルシカの名前が出たせいか、楼依の目付きがますます鋭くなる。
佐藤は見た事のない楼依の怒りを含んだ目付きに、背筋が凍った。
「しかも、表面じゃない。カラダの内側から……」
「ルシカの元客か?」
「馴れ馴れしく呼ぶなよっ!」
「喧嘩売ってんなら買うぞ」
「ここで喧嘩はダメだってっ!」
佐藤は何とか二人の間に入ると、二人を引き剥がした。
「後輩君も、顔に傷でも出来たら接客出来ないでしょっ!?オーナーに叱られる 、俺がっ!」
「俺が負けると思ってんのかよ」
「そうじゃないけど、怪我したらルシカちゃんが……」
「おい、やっぱりコイツがルシカの居場所を知ってんのか?」
「知ってたら悪ぃか」
あー、もうっ!と佐藤は叫ぶ。
「とりあえず、落ち着いてっ!そこに座って下さいっ!」
ヤンキー君の背中を掴み、方向転換させ、ソファーを指さす。
楼依の腕を掴んで引き入れると、勢い良くドアを閉めた。
「ルシカに会わせろ」
ヤンキー君はソファーに座るなり、そう言った。
「断る」
「テメェがルシカを飼ってるんだろーがっ!?」
「人聞き悪ぃ事言うな。ルシカとどんな関係か興味ねぇし、ルシカが俺を選んだんだ。残念だったな」
楼依はふんぞり返る様に向かいに座ると、鼻先で笑った。
「後輩君、この子が探してるのはルシカちゃんのお兄ちゃんなんだって」
何とか落ち着かせようと、佐藤はそう言った。
「それは俺の管轄じゃねぇし」
「ルシカでも良いんだよ」
「でも、って何だよ。用事ねぇならつっかかんな」
「テメェから出るルシカの匂いが気に入らねぇ」
「……まぁ、確かに良い匂いはするよな、アイツ」
「あぁっ!?喧嘩売ってんのかっ!?」
ヤンキー君はテーブルを叩くと身を乗り出した。
「挑発し合わないのっ!とりあえず、俺は佐藤。君、まず名前を名乗りなさいっ!」
「……知らねぇくせに何で連れて来たんだよ」
楼依は呆れながら言った。
「成り行きですっ!」
「……ヒーロ」
ヤンキー君はそう答えた。
「ヒーロー?お前が?」
楼依が小さく笑った。
なんの事か分からないが、ヒーロと名乗ったヤンキー君はムッとした。
「いちいち挑発しないで下さいっ!後輩君も自己紹介っ!」
楼依は嫌そうな顔をした。
佐藤は睨む。
「……姫神」
溜息混じりに楼依は名前を名乗った。
「ひめ?雌かよ」
ヒーロはぷッと笑うと、口に手を当てた。
今度は楼依がムッとする。
「で、ヒーロ君はルシカちゃんとどんな関係?」
「別にいーだろ?」
「良くない。ちゃんと話をしないと会わせて貰えないよ?」
「会わせる気はない」
楼依は横から即答する。
「ガキの頃の幼馴染なんだよ」
「だから?テメェが会いたいのは兄貴の方だろうが」
「カグヤが見つからねぇからルシカに会いたいの」
「何が目的で?」
「話す必要は無いし」
ヒーロはふいっとそっぽを向いた。
平行線な話に、佐藤は頭を抱える。
「テメェこそ、何でそんなにルシカの匂いがすんだよ」
「何だよ、ヤキモチか?」
「ルシカに何をした?」
ミーティングルームの外が騒がしくなって来た。
どうやら開店したらしい。
「楼依さん、指名入りました」
ボーイの一人がドアを開けた。
「あー、誰か付けといて。先輩来るまでちょっと厄介だから」
チラッとボーイの方を見ると楼依はそう言った。
ボーイはドアを閉めた。
「別に。好き同士がする事しかやってねぇよ」
「ルシカ、抱いたのか?」
ヒーロの眉間に皺が寄る。
「テメェにゃ関係ねぇ」
「抱いただけで、そんなに匂いがするかよ」
「知るか」
「だから、喧嘩腰にはならないでって」
最早佐藤は泣きそうだ。
その時、再びミーティングルームが開いた。
「姫神、仕事終わったら残れ」
そう言いながら、千皇が入って来た。
「オーナーぁぁぁあっ!」
佐藤は目を輝かせた。
「次男と末っ子にも伝えろ」
佐藤の視線は無視しそう言うと、自分のデスクにカバンを置くと、座るなりパソコンを開いた。
千皇を見るヒーロの表情が、見る見る蒼白になって行く。
「な、何なんだよ……、お前ら……」
プルプルと震えた指で千皇をさした。
「何でお前からは、カグヤの匂いがすんだよぉ…… 」
チラッと千皇はパソコン越しからヒーロを見ると、再びパソコンに視線を戻した。
「タバコの補充と、ボトルのチェック」
千皇は静かに言うと、佐藤はビシッと立ち上がった。
そして、足早にミーティングルームを出て行った。
「……とうとう腹括ってヤッちまったっすか?」
佐藤が出た後、楼依は座り直して千皇に聞いた。
「安心しろ、してねぇよ。……で、誰?」
千皇は目線をパソコンに向けると、そう聞き返した。
「兄貴に用があるらしいです」
「ふーん……」
楼依の返答に、千皇は興味無さげに鼻先で返した。
「兄弟達の幼馴染だとか」
「で、………何の用だって?」
カタカタとパソコンを操作しながら千皇は再び聞いて来た。
「んな事より、何だよ……、お前ら。匂いはプンプンするわ……、お前に至ってはカグヤの匂い以外に、魔力が……」
そう言うと慌ててヒーロは自分の口を抑えた。
「兄貴に会わせろ、って。俺は指名入ってんでそろそろ行きますよ」
と、楼依は腰を上げ始めた。
「後で俺も顔を出す。ここに居ろ」
えー、とあからさまな嫌な顔をするも、楼依は再び座り直した。
「何の用事でアイツに会いてぇの?」
千皇はヒーロには目もくれずに聞いた。
「俺達は、アイツらが淫魔だとかファンタジーな生物なのは知ってる」
そう千皇が静かに言うと、ヒーロは口から手を離した。
「何でお前はカグヤの魔力を持ってんだよ……」
「質問は俺がしている」
あくまでも目を合わせない千皇に、ヒーロは舌打ちをした。
「……魔界からカグヤに渡せって預かってるもんがあんだよ」
「……」
「下界に行ったのは知ってんけど、魔界には帰ってねぇから」
「何を渡せって?」
「カグヤに会わせろ」
「……会うだけじゃ済まねぇだろ」
千皇は立ち上がり、冷蔵庫から水のペットボトルを取り出した。
キャップを開けると、一口飲む。
「まぁ、会ったところでアイツに触れる事が出来ねぇだろうが……」
千皇が小さく笑った気がした。
「あー、先輩のせいで弾くんでしたっけ?魔族とか言うヤツらを」
「人聞きの悪ぃ事言うなよ。俺はアイツが欲しいもんをくれてやっただけだ」
「……弾く?欲しいもん?」
ヒーロの眉間の皺が深くなる。
「何だよ、何の話だよ……」
「さっきから匂いがどーとか言うけど、お前こそ何なんだ」
楼依は腕を組んで、千皇の代わりにヒーロを睨んだ。
「俺は特別鼻が利くんだ。一度嗅いだら覚える」
「犬かよ」
「うるせぇなぁ……。俺はさっきから素直に話してるじゃねぇか……」
「だからって何で話さねぇとならない?」
「フェアじゃねぇじゃん」
「魔族とか言う奴がフェアを求めるなんて、……笑える」
あー言えばこー返す楼依に、ヒーロは顔を真っ赤にする。
「あんまりからかうな、可哀想だ」
「クソっ!何でニンゲン如きに馬鹿にされねぇと……」
「可哀想だから、会わせてやりゃ良いだろ、次男に」
「ぜってぇ、嫌です」
「どーでもいいけど、どっちかに会わせろよっ!!」
ヒーロがテーブルを叩きながら立ち上がった。
やっと千皇がヒーロを見た。
「渡してぇもんあんなら置いて行けばいい。その内渡してやる」
静かに千皇が言った。
「俺は会いたいつってんの」
「断る」
「俺達の正体知ってんなら力づくでも居場所吐かせるぞっ!!」
バサッとヒーロは羽を広げた。
カグヤ達よりは大きく立派だ。
純粋な魔族か、それとも格上なのだろうか。
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