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暴君
05
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店が終わり、午前4時。
真幸の欠伸はデカい。
「しまりがねぇな」
とあるマンションの横のコインパーキングに車を停めながら、楼依が言った。
「昼は学校、夜はバイト、帰って宿題、……寝たのが遅いねん」
「だったら寝とけば良かっただろ?」
欠伸で出た涙を拭く真幸を見ながら、ヨゾラが言った。
「ここまで巻き込んどいて仲間外れは嫌やろ。寂しいやんけ」
「素直だな」
「まぁ、いろいろ見とかんと。知らへんかったら俺も何も出来ひん」
車はきっちり停る。
「兄さん、結局神代さんのとこにお世話になるのか?」
シートベルトを外しながら、ルシカが聞いた。
「ゴネられたらしい。まぁ、そこまで素直になれたんだ、良いんじゃね?先輩も満更じゃねぇみたいだし」
と、楼依が答えた時だった。
いきなり車の天井がドンと大きな音がした。
ルシカやヨゾラ、真幸は驚いて小さく声を上げるが、楼依は舌打ちした。
「しつけぇな……」
ボソッと呟く楼依は、とりあえず車から出るな、と言うと車から降りた。
楼依は手を伸ばすと、何かが車の天井から引きづり降ろされた。
その時、ドサッと言う音とぐぇっと声が聞こえた気がする。
ムッとした表情の楼依が、運転席の窓を軽く叩き、人差し指を下に向けた。
運転席の後ろに座っていた真幸が手を伸ばし、運転席の窓を開ける。
「コレ、知ってる奴?」
楼依が下から上に上げたのは、胸倉を掴まれたヒーロだった。
ヒーロは胸倉を掴まれたままだが、ルシカを見ると目が輝いた。
「る、ルシカかっ!?」
ルシカは助手席から、怯えた目でヒーロを見詰めた。
「思った以上に、……美人になったなぁ。ルシフェル様みたいだ」
ヒーロはそう呟くが、ルシカは楼依に目線を向けると小さく首を左右に振った。
「知らねぇって」
楼依が答えた。
「はぁっ!?何でだよっ!ガキの頃、カグヤと良く一緒に遊んだだろっ!?ヒーロだよっ!!」
ヒーロは楼依から何とか離れると、車の窓から上半身を乗り出しかけた。
ルシカはビクッと身体を縮めると、楼依はヒーロの襟首を掴み引っ張った。
「ヒーロ兄ちゃん、て、俺の後ろをついてまわっただろっ!?」
「……お、覚えてない。……ご、ごめんなさい」
ルシカはヒーロのあまりの勢いに怯え、声が震えた。
「ルシカ、俺が居るから落ち着け。じゃねぇと感情が流れて心臓が痛てぇ」
運転席の後ろの窓が開く。
「ヨゾラは見覚えないん?」
「全くねぇ。つーか、俺が産まれたの母さんが幽閉された後だった。外に出たのって、カグ兄が淫魔になった後だし」
「ちゅー事は、兄さんがまだよちよち歩きの頃ちゃうん?一緒に遊んだって。ほんなら、記憶にないんもしゃーない」
そう言うと、真幸は窓を閉めた。
「知らねぇなら仕方ねぇな。さっさと帰れ。俺達はテメェと遊ぶ程暇じゃねぇ」
「俺だって暇じゃねぇんだ」
「さっき泣いて詫びて来ただろうが」
「そうしねぇと逃げれねぇし、カグヤに会えねぇ」
楼依の眉間に皺が寄る。
「しつけぇ野郎は嫌われる」
「つーか、お前は何なんだよ。ニンゲンのクセに」
「俺か?……俺は」
楼依はルシカを見た。
再び運転席後ろの窓が開く。
「兄さんの恋人やろ。胸張ってえぇんやで」
真幸はそう言うと、また窓を閉めた。
ルシカは顔を赤くしながら、コクコクと何度も頷いた。
「……だ、そうだ」
勝ち誇った様に楼依は鼻先で笑った。
「恋人って何だ?」
「辞書買って自分で調べろ。とにかく、ルシカには会えたんだ。さっさと帰れ」
「ここまで来て帰れるかっ!」
楼依は溜息を吐くと、車のドアを開けスマホを取り出す。
画面を付け操作すると、耳に当てた。
「……緊急事態です。……邪魔が入って。……それでも良いんですけど。……了解です」
楼依は電話を切ると、そのまま運転席に座った。
「少しくらい話させろよ。話せば思い出すかも知んねぇじゃん」
「……断る」
「話すかどうかはルシカの意思だろ?」
ヒーロは仁王立ちのまま、楼依を見下ろした。
楼依はチラッとルシカを見る。
「なぁ、ルシカ。本当に覚えてねぇ?俺の事」
楼依越しに、ヒーロはルシカに話しかけた。
「……ごめんなさい。……まだ、母さんも父さんも生きていた頃は町外れに住んでいた事は覚えているけど、……他は、あんまり……」
ルシカは俯いた。
「俺が遊びに行くとさ、両手広げて着いて来てたんだよ。……あの頃から、可愛くてさ……」
ヒーロがポツリと言うと、楼依はムッとし、車のドアを閉めようとした。
「大人の嫉妬や」
からかうように真幸が後ろから言った。
「嫉妬?」
ヨゾラが真幸に聞いた。
「兄さんが好きでしゃーないから、知らない事を話されていじけとるんや」
「……うるせぇよ。ガキの頃から可愛いのは分かってる事だろうが」
楼依はむくれたままそう言うと、ルシカは心配そうに楼依を見た。
「……怒ってる訳じゃねぇ」
楼依は溜息混じりにルシカの頭を撫でた。
ルシカは嬉しげに笑みを浮かべる。
「ルシカに馴れ馴れしく触るなよっ!」
今度はヒーロがムッとし、楼依に手を伸ばした。
楼依はその手を掴む。
「馴れ馴れしくて何が悪い」
「ニンゲンが簡単に触っていいモンじゃないんだ」
「ルシカはモノじゃねぇよ」
ルシカはオロオロし始めた。
「ルシ兄、はっきり言った方が良いかもよ……。この人、可哀想だけど」
後ろからヨゾラがコソッと言った。
「そやで。曖昧な態度しよったらワンチャンあるとか思われてまう。トドメ刺しよった方が姫神兄さんも安心やろ」
「真幸は楽しんでる」
「当たり前や」
コソコソ話す二人に、ルシカは困った表情を浮かべるも、そっと楼依の手を握った。
「心配してくれてるんだろうけど……「あー、久々の外だーっ!!」」
ルシカがヒーロに告げようとした時だった。
そんな陽気なカグヤの声が聞こえた。
「騒ぐな。ご近所さんに迷惑がかかる」
あからさまな溜息と、千皇はそう言う。
二人は駐車場に近づいて来た。
「だってさー、ずっと家ん中じゃん?キノコ生えるっつーの。たまには散歩くらい……」
その声か匂いか、ヒーロはピクっと反応した。
ゆっくりとカグヤの方に向き直ると、カグヤもヒーロを見た。
「……お前、まさか」
「か、……カグヤだよな?」
カグヤは立ち止まった。
その表情は怯えと怒りが入り交じっている様に見える。
「お前も俺を忘れたのか?」
ヒーロは先程とは大人しく、不安げに聞いた。
「……忘れたくても、忘れられる筈がねぇ」
ボソッと言うカグヤを、チラッと千皇は見た。
「で、何?連れ戻しに来たの?」
「俺は……」
「言っとくけど、俺は帰らねぇからな」
そうカグヤは言うと、千皇の服を掴んだ。
何か様子が変だ。
「お前、ニンゲンに絆されたのか?」
「お前は助けてくれなかっただろっ!?……それどころか」
「お前だって最後はノリノリだったじゃねぇかっ!?」
「そうしねぇと終わらねぇだろっ!?命令されたか知らねぇけど、友達だったら分かる事じゃねぇか!!」
カグヤはそう叫んだ。
「どう転んだって、俺はこうなってた。でも、……俺が嫌がったって、お前はずっと笑ってた……。お前は他と違うと思ってたのに……」
千皇は深い息を吐いた。
「……渡してぇもん渡して帰れ」
「何だよ、テメェもさっきから……。お前らがカグヤもルシカもかどわかして……」
「どうであれ、コイツら兄弟は俺らニンゲンに手
ぇ伸ばしたんだ。それを掴んだだけ。そもそも、平気でニンゲンをかどわかすテメェ等に、ウダウダ言われる筋合いはねぇ」
千皇はそう言うと鼻先で笑った。
ヒーロは拳を握った。
「……本当にお前らどーした訳?俺らは魔族だろ?何で絆されたんだよ」
「さぁ?セックスが下手過ぎて嫌になったんじゃねぇの?コイツから俺に縋るくらいだし」
カグヤとルシカは同時にビクッとなった。
聞き慣れない言葉に、ヒーロは首を傾げる。
「先輩、コイツにはセックスじゃねぇで交尾って言わねぇと」
車から楼依が声を掛けた。
聞き慣れた言葉に、ヒーロの顔が怒りで真っ赤になる。
「抱いたのか?」
「……どーだろな」
「俺は抱いたぞ。可愛かった」
「ちょ、楼依……、っ!」
ルシカは頬を赤くし、楼依の腕を力強く握った。
「俺は抱いとらへんからな」
「お前まで言うなよ」
「念の為や」
学生二人は後部座席から言った。
「別に淫魔なんだから誰を相手にしようが関係ねぇだろ」
「……確かにそうだけど、お前らは気に入らねぇ」
「その『ら』に、俺は含まれとらへんやろな」
後部座席から真幸が身を乗り出した。
「お前も同類だ」
「何でやっ!?」
「傍に居るからな」
「横暴やんか」
ヨゾラは背後からまぁまぁ、と真幸を羽交い締めにした。
「お前らニンゲンに良いようにされてんなら、連れて帰るっ!!」
ヒーロはそう言うと、ズンズンとカグヤに歩み寄った。
カグヤは咄嗟に千皇の背中に隠れる。
ヒーロが手を伸ばす。
もう少しでカグヤに触れる、その時だった。
「来んなっ!俺はコイツと居るっ!!」
そんな叫び声と共に、雷の様な音が響き、バチバチと火花の様な光が走ると、ヒーロの身体は勢い良く吹っ飛んだ。
その眩しさに、楼依は咄嗟にルシカを抱き寄せ、ヨゾラと真幸は後部座席に顔を引っ込めた。
光が収まると、恐る恐る外を見てみた。
ヒーロは3メートルくらい吹き飛ばされ、地面に倒れていた。
カグヤは千皇の背後に居て、千皇は普通に立っている。
「……やり過ぎじゃね?」
ボソッと千皇が呟いた。
「いや、こんなに吹っ飛んだの初めてっつーか。……魔王様しか弾いた事なくて」
「格とか関係あんの?」
「分からねぇ」
若干プスプスと焦げて倒れているヒーロを見ながら、カグヤと千皇はそんな会話をした。
千皇はカグヤを置いて、ヒーロに近付いた。
そして、軽く蹴ると気を失って居るのを確認する。
楼依の方を向くと、車から降りろと合図を送った。
楼依達は車から降りる。
「あの兄ちゃん、どーするん?」
「ほっておけ。ただ寝てるだけ」
戻って来た千皇がそう答えた。
「この寒空の中、放置かい」
「ニンゲンじゃねぇんだ。死ぬ事はねぇだろ」
「……俺、アンタみたいな大人にはなりたない……」
ボソッと真幸は呟いた。
ヒーロを置いて、一同は駐車場を後にした。
真幸の欠伸はデカい。
「しまりがねぇな」
とあるマンションの横のコインパーキングに車を停めながら、楼依が言った。
「昼は学校、夜はバイト、帰って宿題、……寝たのが遅いねん」
「だったら寝とけば良かっただろ?」
欠伸で出た涙を拭く真幸を見ながら、ヨゾラが言った。
「ここまで巻き込んどいて仲間外れは嫌やろ。寂しいやんけ」
「素直だな」
「まぁ、いろいろ見とかんと。知らへんかったら俺も何も出来ひん」
車はきっちり停る。
「兄さん、結局神代さんのとこにお世話になるのか?」
シートベルトを外しながら、ルシカが聞いた。
「ゴネられたらしい。まぁ、そこまで素直になれたんだ、良いんじゃね?先輩も満更じゃねぇみたいだし」
と、楼依が答えた時だった。
いきなり車の天井がドンと大きな音がした。
ルシカやヨゾラ、真幸は驚いて小さく声を上げるが、楼依は舌打ちした。
「しつけぇな……」
ボソッと呟く楼依は、とりあえず車から出るな、と言うと車から降りた。
楼依は手を伸ばすと、何かが車の天井から引きづり降ろされた。
その時、ドサッと言う音とぐぇっと声が聞こえた気がする。
ムッとした表情の楼依が、運転席の窓を軽く叩き、人差し指を下に向けた。
運転席の後ろに座っていた真幸が手を伸ばし、運転席の窓を開ける。
「コレ、知ってる奴?」
楼依が下から上に上げたのは、胸倉を掴まれたヒーロだった。
ヒーロは胸倉を掴まれたままだが、ルシカを見ると目が輝いた。
「る、ルシカかっ!?」
ルシカは助手席から、怯えた目でヒーロを見詰めた。
「思った以上に、……美人になったなぁ。ルシフェル様みたいだ」
ヒーロはそう呟くが、ルシカは楼依に目線を向けると小さく首を左右に振った。
「知らねぇって」
楼依が答えた。
「はぁっ!?何でだよっ!ガキの頃、カグヤと良く一緒に遊んだだろっ!?ヒーロだよっ!!」
ヒーロは楼依から何とか離れると、車の窓から上半身を乗り出しかけた。
ルシカはビクッと身体を縮めると、楼依はヒーロの襟首を掴み引っ張った。
「ヒーロ兄ちゃん、て、俺の後ろをついてまわっただろっ!?」
「……お、覚えてない。……ご、ごめんなさい」
ルシカはヒーロのあまりの勢いに怯え、声が震えた。
「ルシカ、俺が居るから落ち着け。じゃねぇと感情が流れて心臓が痛てぇ」
運転席の後ろの窓が開く。
「ヨゾラは見覚えないん?」
「全くねぇ。つーか、俺が産まれたの母さんが幽閉された後だった。外に出たのって、カグ兄が淫魔になった後だし」
「ちゅー事は、兄さんがまだよちよち歩きの頃ちゃうん?一緒に遊んだって。ほんなら、記憶にないんもしゃーない」
そう言うと、真幸は窓を閉めた。
「知らねぇなら仕方ねぇな。さっさと帰れ。俺達はテメェと遊ぶ程暇じゃねぇ」
「俺だって暇じゃねぇんだ」
「さっき泣いて詫びて来ただろうが」
「そうしねぇと逃げれねぇし、カグヤに会えねぇ」
楼依の眉間に皺が寄る。
「しつけぇ野郎は嫌われる」
「つーか、お前は何なんだよ。ニンゲンのクセに」
「俺か?……俺は」
楼依はルシカを見た。
再び運転席後ろの窓が開く。
「兄さんの恋人やろ。胸張ってえぇんやで」
真幸はそう言うと、また窓を閉めた。
ルシカは顔を赤くしながら、コクコクと何度も頷いた。
「……だ、そうだ」
勝ち誇った様に楼依は鼻先で笑った。
「恋人って何だ?」
「辞書買って自分で調べろ。とにかく、ルシカには会えたんだ。さっさと帰れ」
「ここまで来て帰れるかっ!」
楼依は溜息を吐くと、車のドアを開けスマホを取り出す。
画面を付け操作すると、耳に当てた。
「……緊急事態です。……邪魔が入って。……それでも良いんですけど。……了解です」
楼依は電話を切ると、そのまま運転席に座った。
「少しくらい話させろよ。話せば思い出すかも知んねぇじゃん」
「……断る」
「話すかどうかはルシカの意思だろ?」
ヒーロは仁王立ちのまま、楼依を見下ろした。
楼依はチラッとルシカを見る。
「なぁ、ルシカ。本当に覚えてねぇ?俺の事」
楼依越しに、ヒーロはルシカに話しかけた。
「……ごめんなさい。……まだ、母さんも父さんも生きていた頃は町外れに住んでいた事は覚えているけど、……他は、あんまり……」
ルシカは俯いた。
「俺が遊びに行くとさ、両手広げて着いて来てたんだよ。……あの頃から、可愛くてさ……」
ヒーロがポツリと言うと、楼依はムッとし、車のドアを閉めようとした。
「大人の嫉妬や」
からかうように真幸が後ろから言った。
「嫉妬?」
ヨゾラが真幸に聞いた。
「兄さんが好きでしゃーないから、知らない事を話されていじけとるんや」
「……うるせぇよ。ガキの頃から可愛いのは分かってる事だろうが」
楼依はむくれたままそう言うと、ルシカは心配そうに楼依を見た。
「……怒ってる訳じゃねぇ」
楼依は溜息混じりにルシカの頭を撫でた。
ルシカは嬉しげに笑みを浮かべる。
「ルシカに馴れ馴れしく触るなよっ!」
今度はヒーロがムッとし、楼依に手を伸ばした。
楼依はその手を掴む。
「馴れ馴れしくて何が悪い」
「ニンゲンが簡単に触っていいモンじゃないんだ」
「ルシカはモノじゃねぇよ」
ルシカはオロオロし始めた。
「ルシ兄、はっきり言った方が良いかもよ……。この人、可哀想だけど」
後ろからヨゾラがコソッと言った。
「そやで。曖昧な態度しよったらワンチャンあるとか思われてまう。トドメ刺しよった方が姫神兄さんも安心やろ」
「真幸は楽しんでる」
「当たり前や」
コソコソ話す二人に、ルシカは困った表情を浮かべるも、そっと楼依の手を握った。
「心配してくれてるんだろうけど……「あー、久々の外だーっ!!」」
ルシカがヒーロに告げようとした時だった。
そんな陽気なカグヤの声が聞こえた。
「騒ぐな。ご近所さんに迷惑がかかる」
あからさまな溜息と、千皇はそう言う。
二人は駐車場に近づいて来た。
「だってさー、ずっと家ん中じゃん?キノコ生えるっつーの。たまには散歩くらい……」
その声か匂いか、ヒーロはピクっと反応した。
ゆっくりとカグヤの方に向き直ると、カグヤもヒーロを見た。
「……お前、まさか」
「か、……カグヤだよな?」
カグヤは立ち止まった。
その表情は怯えと怒りが入り交じっている様に見える。
「お前も俺を忘れたのか?」
ヒーロは先程とは大人しく、不安げに聞いた。
「……忘れたくても、忘れられる筈がねぇ」
ボソッと言うカグヤを、チラッと千皇は見た。
「で、何?連れ戻しに来たの?」
「俺は……」
「言っとくけど、俺は帰らねぇからな」
そうカグヤは言うと、千皇の服を掴んだ。
何か様子が変だ。
「お前、ニンゲンに絆されたのか?」
「お前は助けてくれなかっただろっ!?……それどころか」
「お前だって最後はノリノリだったじゃねぇかっ!?」
「そうしねぇと終わらねぇだろっ!?命令されたか知らねぇけど、友達だったら分かる事じゃねぇか!!」
カグヤはそう叫んだ。
「どう転んだって、俺はこうなってた。でも、……俺が嫌がったって、お前はずっと笑ってた……。お前は他と違うと思ってたのに……」
千皇は深い息を吐いた。
「……渡してぇもん渡して帰れ」
「何だよ、テメェもさっきから……。お前らがカグヤもルシカもかどわかして……」
「どうであれ、コイツら兄弟は俺らニンゲンに手
ぇ伸ばしたんだ。それを掴んだだけ。そもそも、平気でニンゲンをかどわかすテメェ等に、ウダウダ言われる筋合いはねぇ」
千皇はそう言うと鼻先で笑った。
ヒーロは拳を握った。
「……本当にお前らどーした訳?俺らは魔族だろ?何で絆されたんだよ」
「さぁ?セックスが下手過ぎて嫌になったんじゃねぇの?コイツから俺に縋るくらいだし」
カグヤとルシカは同時にビクッとなった。
聞き慣れない言葉に、ヒーロは首を傾げる。
「先輩、コイツにはセックスじゃねぇで交尾って言わねぇと」
車から楼依が声を掛けた。
聞き慣れた言葉に、ヒーロの顔が怒りで真っ赤になる。
「抱いたのか?」
「……どーだろな」
「俺は抱いたぞ。可愛かった」
「ちょ、楼依……、っ!」
ルシカは頬を赤くし、楼依の腕を力強く握った。
「俺は抱いとらへんからな」
「お前まで言うなよ」
「念の為や」
学生二人は後部座席から言った。
「別に淫魔なんだから誰を相手にしようが関係ねぇだろ」
「……確かにそうだけど、お前らは気に入らねぇ」
「その『ら』に、俺は含まれとらへんやろな」
後部座席から真幸が身を乗り出した。
「お前も同類だ」
「何でやっ!?」
「傍に居るからな」
「横暴やんか」
ヨゾラは背後からまぁまぁ、と真幸を羽交い締めにした。
「お前らニンゲンに良いようにされてんなら、連れて帰るっ!!」
ヒーロはそう言うと、ズンズンとカグヤに歩み寄った。
カグヤは咄嗟に千皇の背中に隠れる。
ヒーロが手を伸ばす。
もう少しでカグヤに触れる、その時だった。
「来んなっ!俺はコイツと居るっ!!」
そんな叫び声と共に、雷の様な音が響き、バチバチと火花の様な光が走ると、ヒーロの身体は勢い良く吹っ飛んだ。
その眩しさに、楼依は咄嗟にルシカを抱き寄せ、ヨゾラと真幸は後部座席に顔を引っ込めた。
光が収まると、恐る恐る外を見てみた。
ヒーロは3メートルくらい吹き飛ばされ、地面に倒れていた。
カグヤは千皇の背後に居て、千皇は普通に立っている。
「……やり過ぎじゃね?」
ボソッと千皇が呟いた。
「いや、こんなに吹っ飛んだの初めてっつーか。……魔王様しか弾いた事なくて」
「格とか関係あんの?」
「分からねぇ」
若干プスプスと焦げて倒れているヒーロを見ながら、カグヤと千皇はそんな会話をした。
千皇はカグヤを置いて、ヒーロに近付いた。
そして、軽く蹴ると気を失って居るのを確認する。
楼依の方を向くと、車から降りろと合図を送った。
楼依達は車から降りる。
「あの兄ちゃん、どーするん?」
「ほっておけ。ただ寝てるだけ」
戻って来た千皇がそう答えた。
「この寒空の中、放置かい」
「ニンゲンじゃねぇんだ。死ぬ事はねぇだろ」
「……俺、アンタみたいな大人にはなりたない……」
ボソッと真幸は呟いた。
ヒーロを置いて、一同は駐車場を後にした。
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