堕落した淫魔は夢を見る

雪之丞 親実

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  そう言う事なんだろうな、とはほんの少しだけ思っていた。
  昨夜は寝られなかった。
  いつも通り、堕ちるまでイカされるだけで終わった。
  堕ちた後、目が覚めてからは寝れなかった。
  いつもの通り、ベッドに寝かされていただけだった。
   千皇とセックスしたら、この忌々しい魔界の媚薬もどうにかなる、……かも知れない。
  念願の千皇とのセックスが近付いた。
  なのに、気分が乗らない。
  仕方なく抱く、なんて思われて居るのだろうと思うと、切ない。
  こんな状況でも千皇はカグヤを抱くなんてしないのも分かりきっている。
  考えれば考える程、心も身体も切ない。
  もう、誰かにすがろう何て気も起きてないのに。
  ふと、窓の方を見ると、カーテンから光が差し込んで居る。
  カグヤはまだ若干疼いて重い上半身を起こした。
  毎回毎回、身体は綺麗にしてくれている。
  そして、いつも下着とタンクトップとタオルを枕元に置いておいてくれている。
  リビングには千皇が居て、カグヤがシャワーを浴びた後にはキッチンに食事まで用意してくれていた。
  本当に至れり尽くせりで、嬉しくもあり罪悪感もある。
  自分は何もしてあげられていない
  千皇も求めないし、ただ一緒に居るだけだ。
  カグヤは一息吐くと、着替えとタオルを掴んでベッドを降りた。
  ベッドルームの扉を開けると、いつもリビングに居る筈の千皇が居ない。
  何処か行ったのだろうか、と思ったら玄関から人の気配がしてきた。
  
「連絡くれないから来たんじゃんっ!」

  聞き慣れない声がリビングにまで響いた。
  カグヤはタンクトップと下着を着ると、こそっとリビングから廊下を覗いた。
  千皇の背中が見える。
  しかし、千皇に隠れて相手が見えなかった。

「そのうち連絡するって言ってもさ、そのまま連絡する気もなかったんじゃないのっ!?」

  高めの声だが、あからさまに男の子の様だ。  
  
「……静かにしてくれ」
 
  千皇が頭を抱えているのが分かる。
  
「誰か一緒なの!?弾が言ってた」
「だったら弾と居りゃ良いだろ……。お前を満足させるだろうし」

  静かに低い声で、千皇が言った。
  満足……、だいたいその言葉で何の事かはカグヤにも分かった。
  ぎゅっと胸が痛くなる。

「ちーが良いのっ!ねぇ、昨夜はしようと思ったけど弾ともシてないよ?遊びなんだしいーじゃん」

  千皇の頸に伸びた他人の腕が見える。

「本気の奴じゃないとシないなら、僕はちーに本気になれるよ?」
「テメェが本気でも、俺が本気にならない。そんな事分かってるだろうが。それに……」

  千皇が相手を引き離した。

「もう、義理は十分果たした筈だろ……」

  そう千皇は呟いた。
  
「まだ僕が満足してない」
「テメェの満足度は契約には入ってない。テメェにはあっちこっちに相手が居るだろうが」
「ちーは違うのっ!ちーみたいに容赦ない奴、居ないもん」

  昨夜、楼依が言っていた相手だとカグヤは悟った。
  一気に身体の力が抜ける。

「ねぇ、誰か本命が出来たのっ!?」
「さぁな……」
「それでも僕は構わないよ?ちーとの良さは、男は僕だけが知ってるんだろ?」

  自分が言えた義理では無いのは分かっている。
  カグヤはその先をまだ知らないのは、悔しくて、ルシカに対してあったドス黒い感情が、小さく燻り始めた。 

「テメェを満足させようとか一度も思った事もねぇ。契約されてる身分だし、お前があっちこっち手ぇ出そうが知ったこっちゃねぇ」
「なら余計に気も楽だろ?僕はセックス以外求めないし」
「……話だけじゃ済まねぇか」

  千皇の呟きは、珍しく諦めに似ていた。
  カグヤは肩を落としてリビングに戻った。
  ソファーに崩れる様に腰を落とすと、両脚を抱えて蹲った。
  何やらまだ揉めて居る様だが、会話はほとんど頭に入らない。
  しばらくすると、千皇が戻って来た。

「……起きてたのか」

  そう言葉を発する千皇は、バツが悪そうだ。
  カグヤは蹲ったまま何も答えなかった。
  
「悪ぃ……」

  千皇の呟きに、カグヤはピクっと反応した。

「……何の謝罪だよ」

  鼻先で笑いそう呟き返すのが精一杯だった。
  
「あんだけ騒げば嫌でも聞こえる」

  千皇の言葉に、そっちの事かよ、とカグヤは呟いて顔を両膝に埋めた。

「……俺は部屋から出れねぇんだ。……ヤるならどっか外に行ってくれ。……俺の家じゃねぇけど」

  くぐもった声で、カグヤはそう言った。
  もしかしたら、今カグヤが使わせて貰って居る千皇のベッドの上でも、そう言った行為があったかも知れない。
  そう思うと、ドス黒い感情が更に色を濃くする。
  そして、自分が言える立場では無いのも分かって居る分、腹が立つ。
  苛立って、羽が生えて来そうだ。
  千皇の溜息が聞こえる。 

「……お前は、それで良いのか?」

  質問をする千皇の声が低い。

「……お前は、……酷いよ。……俺が言える立場じゃねぇって、分かってんのに……」

  苛立つ感情を抑える様に、カグヤは膝を強く抱き締めると、自分のその膝に爪を立てた。

「……カグヤ」

  ポソッと名前を呼ばれた。
  カグヤの肩がピクっと揺れる。

「……俺に聞いてどうすんだよ。……お前にも相手にも、立場や事情があるんだろ……」
「お前が気にする事じゃない」
「だったら、自分で決めろ……。何で、俺が……」

  身体を縮める様に、カグヤは強く自分を抱き締めた。

「……そうか」

  低く小さい声が聞こえた。
  部屋が静かになる。
  その時、頭を鷲掴みにされ、無理矢理頭を上げさせられた。
  思わずカグヤの目に映った千皇は、いつにも増して不機嫌に見える。

「は、離せよっ!!」

  カグヤは千皇の手を掴んだ。
  千皇はじっとカグヤを見下して居る。

「相手……、待っているんだろーが」
「そうだな……」

  千皇の手を掴むカグヤの手も力が入る。

「……」
「……」

  2人は動きを止めたまま、カグヤは目線だけ逸らした。

「……行くなよ」

  ポツリとカグヤは消え入りそうな声で呟いた。

「……俺がそう言ってもさ、行かなきゃなんだろ……?」
「……」
「でも、……お前が行っちまったら、……俺、また、……頭の中が真っ黒になっちまう。……俺が、セックスしよーって言っても、してくれないのに、……他とは簡単にするんだ、って、思えば、……思う程」
「……そうか」

  千皇はカグヤから手を離した。
  カグヤが勇気を振り絞って伝えた言葉も、『そうか』の短い一言で終わらされてしまった事が悔しくて、俯いては鼻先で笑ってしまった。

「ちーっ!!いつまで待たせるのっ!?」

  痺れを切らしたのか、リビングに続く廊下をそんな声を上げながら足音が聞こえて来た。
  カグヤはヤバいと、ソファーの背もたれにかかっている千皇の薄手の毛布を掴もうとした。
  それを千皇はカグヤの手を掴んで止めた。

「……俺にだって、選ぶ権利はあるんだ」

  千皇はそう言った。
  足音は近づいて来る。
  千皇はそのままカグヤを引き寄せると、カグヤの顔を上げさせた。
  驚いて見上げると、千皇と目が合う。
  先程の無表情な表情が、和らいだ様にも済まなさそうな表情にも見える。

「ちーっ!!早くしてよっ!」

  怒鳴る様な甲高い声がリビングに響いた時、千皇はカグヤを引き寄せ、そのまま唇を重ねた。
  カグヤは突然の事に目を丸くする。
  
「ち、……ちー?」

  その声に、目先だけをリビングの入口に向けた。
  怒りをあらわにしている翠が立っている。  
  カグヤは千皇の肩を掴むと、引き剥がした。

「お前っ!!見られ……、んっ」

  カグヤはそう言うも、再び唇は塞がれ千皇の舌先がカグヤの舌を捕らえる。
  握られた手が指を絡め合うように握り直し、千皇の肩を掴む手は、ぎゅっと力が入った。
  目を閉じると、先程の千皇の表情が浮かぶ。
  何かを訴える様な、いつもとは違う儚げな表情。
  それを思い浮かべると、このまま受け入れるべきなのかとさえ思ってしまう。
  頭を少し上に向かせられると、歯の裏から上顎をなぞられ、カグヤの舌が千皇の舌を追いかける。
  再び舌を絡め合うと、カグヤの身体に甘い痺れが走った。
  千皇が『今』求めて居るのは自分だと、そう思い聞かせ、カグヤも千皇を求めた。

「ちょっとっ!!ちーってばっ!!」

  恋人同士の様な熱い口付けを交わす二人に、翠は思わず声を上げた。
  そして、千皇の背中に抱き着いて二人を引き剥がした。

「何で僕の前でそんなヤツとキスするのっ!?」

  引き剥がした千皇の背中に抱き着いたまま、翠は千皇を見上げる。
  しかし、カグヤと千皇は手を繋いだまま。
  カグヤは俯いた。

「僕にはキスしてくんないのにっ!!してって言ってもしてくれないのにっ!!」
「……必要がねぇ。……それに」

  そう千皇は答えると、カグヤの顎に手を伸ばした。

「俺がしたくてしたんだ」

  カグヤは千皇を見上げた。
  翠にはしなくて、自分にはすると言う意味が分からないが、何となく嬉しくもあり気恥しい。 
 
「ソイツがカグヤって奴?弾のセフレなら弾のとこに行けよっ!」 
「……お前がそれを言うのかよ」

  千皇は呆れ気味に呟く。

「それとも、僕より気持ちいいの?」
「……かもな」

  そう言うと、千皇は翠を引き剥がした。
 
「……俺も、そろそろケジメをつけるか」

  千皇は屈むと、カグヤと目線の高さを合わせた。
  
「……俺は、行くなって言った」

  カグヤは両膝を抱えると、そう言った。
  千皇はそっとカグヤを抱き締めると、耳元で何かを囁いた。
  カグヤがピクっと少しだけ頭を上げた。
  千皇はカグヤを離すと立ち上がる。
  翠の手首を乱暴に掴むと、リビングを出て行った。
  怒鳴る様に何か言っている翠に構わず、玄関を出る音がする。

(……深く考えるなって、……勝手じゃねぇか)

  両膝に顔を埋める。

(俺とはセックスしねぇのに……、ズルいよな……)

  頭と心がどんどん黒くモヤが掛かる。

(俺は、ここから逃げれねぇのにさ……)

  胸が痛くて苦しくて溺れそうだ。
  寂しくてどうにかなりそうだ。
  黒いモヤがカグヤを支配していきそうで恐怖もある。
  さっきの口付けの意味も、分からない。
  考えるなと言われても、どんどん溢れ出るようにいろんな事が頭を過ぎってしまう。
  羽を広げると、それに籠るように丸まった身体を覆った。

 

  
 

  


  
   

 
  
  

  









    

  
  


   
   
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