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淫魔と感情
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バイトは休んだ。
唐島の母親は夜勤、父親は単身赴任中で夕飯は適当に作って食べた。
一応の感謝を込めて、母親の朝ご飯分も用意した。
兄弟は居ない、一人っ子だ。
唐島が風呂に入っている間に、宿題をしている。
でも、頭に入らない。
ヨゾラの見舞いに行くと、富岡からメッセージはあった。
既読だけで、返信はしていない。
明日学校へ行けば、向こうから話しかけて来るかも知れない。
気にはなるが、今はどう対応すれば良いか分からない。
エルドラが言った事は、真幸への挑発だと分かっている。
分かって居るのだが、単純なヨゾラだ。
追い込まれたら何をしでかすか分からない。
それに、下がらない熱は淫魔になる兆候の可能性もある。
でも、自分にはそれを止める術を知らない。
物語の世界なら、ヨゾラが想う誰かがそれを止めるのだろうけど、それが自分だとは思えない。
いづれは学校で顔を合わせるだろう。
その時、自分の横には唐島が居て、ヨゾラの横には常磐が居るのだろうか。
(……意外とお似合いやんけ)
真幸は小さいテーブルに教科書やノートを広げたまま、床に寝そべった。
(努力って、何をしたらえぇんやろ。……好きんなる努力か、友達に戻る努力か……)
友達には戻れない気がする。
好きになる努力と言われても、何をするべきなのか。
思い切ってセックスでもすれば良いのか。
でも、突っ込まれる側は何となく嫌だ。
女と違うし、売りをして居た時はなるべく処女は避けた。
そもそも唐島はハジメテではないのだろうか。
それならいっそう唐島に任せてマグロにでもなれば、負担は軽減されるのだろうか。
考えがまとまらない。
そう言えば、風呂で解していたとヨゾラは言っていた。
一瞬、風呂で解すヨゾラを想像してしまった。
お湯に濡れる白い肌。
自分の中に指を入れる行動。
小さく息を吐く、恥ずかしげな表情。
(……何想像しとんのや)
真幸は頭を誤魔化す様に横に寝返りを打った。
(気持ち良くなかった言うとったやないか)
真幸は大きく息を吐いた。
が、下半身がモゾモゾする。
(……マジかい。想像で元気になるやなんて、……アホやな)
真幸は何とか落ち着かせようと、頭の中で素数を数え始める。
しかし、素数を数えれば数える程意識が強くなる。
(……しゃーない。迅人が戻る前にトイレで流すか……)
そう思い、上半身を起こした時、部屋のドアが開いた。
真幸は咄嗟に下半身を隠す様に座り直した。
そのうち治まるだろう。
「……さっきより進んでないじゃん」
そう言いながら、唐島が真幸の前に座った。
ほんのりと香るボディソープの匂い、まだ濡れている短めのちょっと茶色い髪の毛。
「……ちゃんと乾かさんかい。風邪引くやろ」
教科書に目を向けながら、真幸はボソッと言った。
「優しいなんて、珍し」
首に掛けていたタオルで髪の毛を拭きながら、唐島は小さく笑みを浮かべた。
そう言えば、ヨゾラも髪の毛を乾かさないで部屋に戻る。
最初はドライヤーを使い切らなくて困ったが、使い方を教えても使わないから、結果文句を言いながらも真幸がヨゾラの髪の毛を乾かしてやっていた。
ヨゾラいつもヘラヘラ笑って、あんがとなーとお礼を言う。
悪い気はしなかった。
屈託のない笑顔は、少なくとも真幸は嫌いでは無い。
「……乾かしたる。ドライヤー、持って来」
相変わらず、教科書に目を向けたまま真幸はそう言った。
「今まで、そんな事言わなかったのに」
少し困惑しながら唐島は呟いた。
「濡れたままがえぇなら、別に何も言わん」
ヨゾラに出逢うまでは唐島宅には世話になっていた。
でも、ここまで気を遣う事も気が付く事もなかった。
唐島に押し倒されたのだって、よく良く考えれば世話になっていた分断る権利は無かったのだが、信頼のおける親友と思っていただけにショックのが大きかったのかもしれない。
もし、押し倒すなんて事はせず、ちゃんとした告白からだったら、まだマシだっただろう。
「……せっかくだから、してもらおうかな」
唐島は立ち上がると、部屋を出て行った。
真幸は一息着くと、自分の下半身が治まりつつある事に安心した。
真幸のスマホの通知音が鳴る。
画面の通知を見ると、常磐からだった。
通知の文字だけを読むと、真幸の眉間に皺が寄った。
『唐島がスーパーで恋人宣言したって噂になってるよー』
ご丁寧にハートの絵文字も着いているみたいだ。
スーパーに居たのは数時間前だ。
誰か、学校の奴が見ていたのだろうか。
明日の学校が憂鬱だ。
もし、ヨゾラの熱が下がって、登校したらどんな顔をするだろう。
周りが固められて行くようで、面倒臭い。
否定してもまた、冷やかされるのは目に見えている。
自分にその気があるなら構わないが、そうでは無い。
全てが面倒臭い。
廊下から足音が聞こえる。
「持ってきたよ」
そう言いながら、唐島は部屋に入って来た。
真幸の傍に座ると、ドライヤーをコンセントに刺す。
そして、ドライヤーを真幸に渡し、後ろを向いた。
唐島の首に掛かるタオルを取ると、真幸と同じ肌の色をした項が見えた。
ちょっとだけ、じっと見詰めた。
が、一息着くと唐島の髪の毛にドライヤーを当て始めた。
タオルで拭きながら温風を当て、ある程度乾いたらタオルを横に置き、唐島の髪の毛に直に触った。
ヨゾラと違い、毛が太くて少しごわついている。
ふと、手が止まった。
(……比べてまう辺り、分かりきっとるやんか)
そう思うと、再び手を動かし始めた。
毛の細いサラサラで、眩しいくらいの金色が少し懐かしく思えてしまう。
乾かし終わるとスイッチを切ってドライヤーをテーブルに置いた。
「……終わったで」
そう言うと、ドライヤーのコンセントを抜いた。
「……ありがとう」
背中を向けたまま、唐島が呟いた。
「……浅霧にも、……してた?」
次いで、そう呟く。
「くだらん事言うなや」
ウンザリ気味に真幸も呟いた。
「今まで、そんな事気付かなかったじゃん」
「せやからって、いちいち比べるな」
「俺は真幸が好きだって知ってるだろ?」
「あー……」
真幸は頭をガシガシと掻き毟った。
「俺がヨゾラを好きや言わせたいんか?言うてどーなるん?」
「男相手は無理だって言ってただろっ」
「アイツは下心があらへんて言うたやんか」
「浅霧はだろっ!?……でも、真幸は違うじゃん」
「俺が何時ヨゾラに下心見せたん?」
「浅霧にカッコよくみられたいって。それって下心じゃん……」
唐島は背中を丸め、肩を落とした。
真幸は大きな溜息を吐く。
「……文字も分からへん様な奴やったんや。ほっとけへんやろ」
「文字すら分からない様な奴が、何で高校に通えるんだよ……。わざわざ、物珍しい設定にしてさ……」
「……せやからっ」
簡単に説明出来る物では無い。
それより、何を言っても聞きもしないだろう。
聞きもしないなら、何を言っても同じだ。
「……あー、もー。……分かったわ。迅人の気が済むようにしたらえぇやろ……」
どうでも良くなった。
愛情がなくても、一緒に居る事は出来る。
口付けやセックスだってそうだし、むしろ今までしてきた訳で。
セックスは好きな人同士でやる事、なんて豪語していたなんて滑稽ではあるが。
少なくとも、真幸が我慢すれば済む話だ。
唐島のヨゾラへの勘違いも減るし、我慢なんて今まで散々して来たんだ。
好きにはなれないだろうけど。
「……俺の気の済む様に、って……」
「言葉のまんまや。付き合ってるって噂にもなっとるらしいし、否定すんな言うなら否定もせん」
「好きって言ってって言ったら?」
「んな虚しい言葉でえぇなら、何度でも言うたる。俺が本心にしろ、虚無にしろ信じへんやろうし」
「……今から、既成事実作ろうとしても?」
「お前の気が済むなら……、仕方あらへん。雰囲気出せ言うなら、頑張ってみるけど」
そう言いながら、真幸は唐島の背後から抱き締めてみようと手を伸ばす。
その時、テーブルの隅に置いてあった唐島のスマホの着信が鳴った。
真幸の手が止まる。
着信は、御手洗からだ。
留守電に切り替わったのか、着信が鳴り止む。
と思ったら、また今度は富岡から掛かって来た。
唐島はそれをまた無視した。
また、着信が止まった。
再び鳴り出した。
今度は御手洗からだ。
唐島はまた無視をした。
「……出た方がえぇやろ」
「邪魔されたくないし」
唐島はスマホを取ると、電源を落とそうとする。
「電源切っても気になって集中出来へん」
それとなく、雰囲気を壊さない様に真幸は言うと、背後から唐島のスマホを取り上げた。
半分は助かったと安堵する。
そして、通話を押すと唐島に渡す。
『もっしもぉ~しっ!!』
スマホから御手洗の声が聞こえた。
スピーカーにしているわけじゃないのだが、部屋に響く。
唐島は溜息を吐くと、仕方なさげにスマホを耳に当てた。
「……何?」
そう呟く声は、寂しさと苛立ちが混ざっている。
「……ちょっと待って」
唐島はスマホを耳から離すと、自分のスマホをスピーカーにして真幸に渡した。
真幸はそれを受け取った。
「……何や」
『やーっと捕まったぁーっ!!お前、無視するからさー』
スマホから聞こえる御手洗の声が、安堵したのが分かる。
「……悪かったわ」
『でな……、浅霧んとこ行って来たんだわ……』
御手洗はスピーカーにされているのに気付いていないのだろうが、それでも遠慮気味に話始めた。
『熱、相当、辛そうだった』
「……そうかぃ」
『……そんでな、……なんだろぉなぁ。……ヤバいんだ、俺達』
真幸は眉間に皺を寄せた。
『俺達どっちか一人で行ってたらさ……、十中八九襲ってた、浅霧の事……』
「……は?」
眉間の皺が深くなった。
『色気っつーか、……ヤバかった。おっぱいデカいのが好きな俺らがそう思うくらい。お兄さんも美人だけど、何か違くてさ……』
「せやかて何で俺に言うん?関係あらへんやんか」
『……そっか。……そうだよな。……あー、ゴメンな。そんじゃ、また学校でっ!』
御手洗は明るくそう言うと、通話を切った。
真幸はスマホを唐島に渡す。
熱が本当なのかは分かった。
嘘では無いことには安心出来た。
だが、ドが付く程のノーマルで、巨乳の女の子好きの二人が、ヨゾラを襲って居たかもしれない。
もし、どちらかが一人で行けば、襲われてもヨゾラは笑って受け入れたかも知れない。
もし、常磐だったら……、そう思うとゾッとする。
この熱は、やはり淫紋が関係しているのだろうか。
もし、発散させるのがヨゾラがちゃんと選んだ相手なら良い。
……だけど。
「……真幸」
唐島が自分を呼ぶ声で、現実に引き戻された。
「….…すまん。今日はもう寝るわ……」
真幸はそうボソッと言うと、テーブルの上の教科書をカバンに仕舞った。
唐島の母親は夜勤、父親は単身赴任中で夕飯は適当に作って食べた。
一応の感謝を込めて、母親の朝ご飯分も用意した。
兄弟は居ない、一人っ子だ。
唐島が風呂に入っている間に、宿題をしている。
でも、頭に入らない。
ヨゾラの見舞いに行くと、富岡からメッセージはあった。
既読だけで、返信はしていない。
明日学校へ行けば、向こうから話しかけて来るかも知れない。
気にはなるが、今はどう対応すれば良いか分からない。
エルドラが言った事は、真幸への挑発だと分かっている。
分かって居るのだが、単純なヨゾラだ。
追い込まれたら何をしでかすか分からない。
それに、下がらない熱は淫魔になる兆候の可能性もある。
でも、自分にはそれを止める術を知らない。
物語の世界なら、ヨゾラが想う誰かがそれを止めるのだろうけど、それが自分だとは思えない。
いづれは学校で顔を合わせるだろう。
その時、自分の横には唐島が居て、ヨゾラの横には常磐が居るのだろうか。
(……意外とお似合いやんけ)
真幸は小さいテーブルに教科書やノートを広げたまま、床に寝そべった。
(努力って、何をしたらえぇんやろ。……好きんなる努力か、友達に戻る努力か……)
友達には戻れない気がする。
好きになる努力と言われても、何をするべきなのか。
思い切ってセックスでもすれば良いのか。
でも、突っ込まれる側は何となく嫌だ。
女と違うし、売りをして居た時はなるべく処女は避けた。
そもそも唐島はハジメテではないのだろうか。
それならいっそう唐島に任せてマグロにでもなれば、負担は軽減されるのだろうか。
考えがまとまらない。
そう言えば、風呂で解していたとヨゾラは言っていた。
一瞬、風呂で解すヨゾラを想像してしまった。
お湯に濡れる白い肌。
自分の中に指を入れる行動。
小さく息を吐く、恥ずかしげな表情。
(……何想像しとんのや)
真幸は頭を誤魔化す様に横に寝返りを打った。
(気持ち良くなかった言うとったやないか)
真幸は大きく息を吐いた。
が、下半身がモゾモゾする。
(……マジかい。想像で元気になるやなんて、……アホやな)
真幸は何とか落ち着かせようと、頭の中で素数を数え始める。
しかし、素数を数えれば数える程意識が強くなる。
(……しゃーない。迅人が戻る前にトイレで流すか……)
そう思い、上半身を起こした時、部屋のドアが開いた。
真幸は咄嗟に下半身を隠す様に座り直した。
そのうち治まるだろう。
「……さっきより進んでないじゃん」
そう言いながら、唐島が真幸の前に座った。
ほんのりと香るボディソープの匂い、まだ濡れている短めのちょっと茶色い髪の毛。
「……ちゃんと乾かさんかい。風邪引くやろ」
教科書に目を向けながら、真幸はボソッと言った。
「優しいなんて、珍し」
首に掛けていたタオルで髪の毛を拭きながら、唐島は小さく笑みを浮かべた。
そう言えば、ヨゾラも髪の毛を乾かさないで部屋に戻る。
最初はドライヤーを使い切らなくて困ったが、使い方を教えても使わないから、結果文句を言いながらも真幸がヨゾラの髪の毛を乾かしてやっていた。
ヨゾラいつもヘラヘラ笑って、あんがとなーとお礼を言う。
悪い気はしなかった。
屈託のない笑顔は、少なくとも真幸は嫌いでは無い。
「……乾かしたる。ドライヤー、持って来」
相変わらず、教科書に目を向けたまま真幸はそう言った。
「今まで、そんな事言わなかったのに」
少し困惑しながら唐島は呟いた。
「濡れたままがえぇなら、別に何も言わん」
ヨゾラに出逢うまでは唐島宅には世話になっていた。
でも、ここまで気を遣う事も気が付く事もなかった。
唐島に押し倒されたのだって、よく良く考えれば世話になっていた分断る権利は無かったのだが、信頼のおける親友と思っていただけにショックのが大きかったのかもしれない。
もし、押し倒すなんて事はせず、ちゃんとした告白からだったら、まだマシだっただろう。
「……せっかくだから、してもらおうかな」
唐島は立ち上がると、部屋を出て行った。
真幸は一息着くと、自分の下半身が治まりつつある事に安心した。
真幸のスマホの通知音が鳴る。
画面の通知を見ると、常磐からだった。
通知の文字だけを読むと、真幸の眉間に皺が寄った。
『唐島がスーパーで恋人宣言したって噂になってるよー』
ご丁寧にハートの絵文字も着いているみたいだ。
スーパーに居たのは数時間前だ。
誰か、学校の奴が見ていたのだろうか。
明日の学校が憂鬱だ。
もし、ヨゾラの熱が下がって、登校したらどんな顔をするだろう。
周りが固められて行くようで、面倒臭い。
否定してもまた、冷やかされるのは目に見えている。
自分にその気があるなら構わないが、そうでは無い。
全てが面倒臭い。
廊下から足音が聞こえる。
「持ってきたよ」
そう言いながら、唐島は部屋に入って来た。
真幸の傍に座ると、ドライヤーをコンセントに刺す。
そして、ドライヤーを真幸に渡し、後ろを向いた。
唐島の首に掛かるタオルを取ると、真幸と同じ肌の色をした項が見えた。
ちょっとだけ、じっと見詰めた。
が、一息着くと唐島の髪の毛にドライヤーを当て始めた。
タオルで拭きながら温風を当て、ある程度乾いたらタオルを横に置き、唐島の髪の毛に直に触った。
ヨゾラと違い、毛が太くて少しごわついている。
ふと、手が止まった。
(……比べてまう辺り、分かりきっとるやんか)
そう思うと、再び手を動かし始めた。
毛の細いサラサラで、眩しいくらいの金色が少し懐かしく思えてしまう。
乾かし終わるとスイッチを切ってドライヤーをテーブルに置いた。
「……終わったで」
そう言うと、ドライヤーのコンセントを抜いた。
「……ありがとう」
背中を向けたまま、唐島が呟いた。
「……浅霧にも、……してた?」
次いで、そう呟く。
「くだらん事言うなや」
ウンザリ気味に真幸も呟いた。
「今まで、そんな事気付かなかったじゃん」
「せやからって、いちいち比べるな」
「俺は真幸が好きだって知ってるだろ?」
「あー……」
真幸は頭をガシガシと掻き毟った。
「俺がヨゾラを好きや言わせたいんか?言うてどーなるん?」
「男相手は無理だって言ってただろっ」
「アイツは下心があらへんて言うたやんか」
「浅霧はだろっ!?……でも、真幸は違うじゃん」
「俺が何時ヨゾラに下心見せたん?」
「浅霧にカッコよくみられたいって。それって下心じゃん……」
唐島は背中を丸め、肩を落とした。
真幸は大きな溜息を吐く。
「……文字も分からへん様な奴やったんや。ほっとけへんやろ」
「文字すら分からない様な奴が、何で高校に通えるんだよ……。わざわざ、物珍しい設定にしてさ……」
「……せやからっ」
簡単に説明出来る物では無い。
それより、何を言っても聞きもしないだろう。
聞きもしないなら、何を言っても同じだ。
「……あー、もー。……分かったわ。迅人の気が済むようにしたらえぇやろ……」
どうでも良くなった。
愛情がなくても、一緒に居る事は出来る。
口付けやセックスだってそうだし、むしろ今までしてきた訳で。
セックスは好きな人同士でやる事、なんて豪語していたなんて滑稽ではあるが。
少なくとも、真幸が我慢すれば済む話だ。
唐島のヨゾラへの勘違いも減るし、我慢なんて今まで散々して来たんだ。
好きにはなれないだろうけど。
「……俺の気の済む様に、って……」
「言葉のまんまや。付き合ってるって噂にもなっとるらしいし、否定すんな言うなら否定もせん」
「好きって言ってって言ったら?」
「んな虚しい言葉でえぇなら、何度でも言うたる。俺が本心にしろ、虚無にしろ信じへんやろうし」
「……今から、既成事実作ろうとしても?」
「お前の気が済むなら……、仕方あらへん。雰囲気出せ言うなら、頑張ってみるけど」
そう言いながら、真幸は唐島の背後から抱き締めてみようと手を伸ばす。
その時、テーブルの隅に置いてあった唐島のスマホの着信が鳴った。
真幸の手が止まる。
着信は、御手洗からだ。
留守電に切り替わったのか、着信が鳴り止む。
と思ったら、また今度は富岡から掛かって来た。
唐島はそれをまた無視した。
また、着信が止まった。
再び鳴り出した。
今度は御手洗からだ。
唐島はまた無視をした。
「……出た方がえぇやろ」
「邪魔されたくないし」
唐島はスマホを取ると、電源を落とそうとする。
「電源切っても気になって集中出来へん」
それとなく、雰囲気を壊さない様に真幸は言うと、背後から唐島のスマホを取り上げた。
半分は助かったと安堵する。
そして、通話を押すと唐島に渡す。
『もっしもぉ~しっ!!』
スマホから御手洗の声が聞こえた。
スピーカーにしているわけじゃないのだが、部屋に響く。
唐島は溜息を吐くと、仕方なさげにスマホを耳に当てた。
「……何?」
そう呟く声は、寂しさと苛立ちが混ざっている。
「……ちょっと待って」
唐島はスマホを耳から離すと、自分のスマホをスピーカーにして真幸に渡した。
真幸はそれを受け取った。
「……何や」
『やーっと捕まったぁーっ!!お前、無視するからさー』
スマホから聞こえる御手洗の声が、安堵したのが分かる。
「……悪かったわ」
『でな……、浅霧んとこ行って来たんだわ……』
御手洗はスピーカーにされているのに気付いていないのだろうが、それでも遠慮気味に話始めた。
『熱、相当、辛そうだった』
「……そうかぃ」
『……そんでな、……なんだろぉなぁ。……ヤバいんだ、俺達』
真幸は眉間に皺を寄せた。
『俺達どっちか一人で行ってたらさ……、十中八九襲ってた、浅霧の事……』
「……は?」
眉間の皺が深くなった。
『色気っつーか、……ヤバかった。おっぱいデカいのが好きな俺らがそう思うくらい。お兄さんも美人だけど、何か違くてさ……』
「せやかて何で俺に言うん?関係あらへんやんか」
『……そっか。……そうだよな。……あー、ゴメンな。そんじゃ、また学校でっ!』
御手洗は明るくそう言うと、通話を切った。
真幸はスマホを唐島に渡す。
熱が本当なのかは分かった。
嘘では無いことには安心出来た。
だが、ドが付く程のノーマルで、巨乳の女の子好きの二人が、ヨゾラを襲って居たかもしれない。
もし、どちらかが一人で行けば、襲われてもヨゾラは笑って受け入れたかも知れない。
もし、常磐だったら……、そう思うとゾッとする。
この熱は、やはり淫紋が関係しているのだろうか。
もし、発散させるのがヨゾラがちゃんと選んだ相手なら良い。
……だけど。
「……真幸」
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